ことばを鍛え、思考を磨く 

長野市の小さな「私塾」発信。要約力、思考力、説明力など「学ぶ力」を伸ばすことを目指しています。

究極の1教科入試

2006年03月16日 | 学習一般
数学1教科だけで5時間...。
東工大理学部が今秋からユニークな入試を実施するとのニュースがあった。
センター試験の結果は参考にせず、面接も行わないという。

午前と午後に2時間半ずつの制限時間を設け、それぞれ2問程度を出題。
ものごとを深く考え、じっくり課題に取り組む能力が落ちているとの見方から、公式や知識を問う難問ではなく考える力や解き方が重要な問題を出すそうだ。

こういう極端な制度については、それだけでトータルな学力が測れるのかとか、採点方法に公平性が確保できるのかとか、とかくマイナス面ばかりをあげつらう声が多くなりがちだ。
しかし、粘り強く考える力や解く過程の大切さを日頃から訴えている私としては、東工大の英断を高く評価したい。
注目する理由は2つある。

1つはよく練られた優れた入試問題が出題される可能性が高いこと。
「考える力や解き方が重要な問題」ということは、ただ単に計算が複雑だったり奇抜な発想が必要だったりという問題は出ないのではないか。
オーソドックスながら論理的な思考力や説明力(含・証明力)が問われる良問が期待される。

レベルは違うのだろうが、話題になった東大の「円周率が3.05以上であることを証明せよ」や東京理科大(違ったかな?)の「背理法とはどのような証明法であるか説明せよ」などを思い出す。
長野県トップクラスの長野高校でも、昨年の自己推薦入試で平行四辺形の定義を述べさせ、さらにその定理の1つを証明させる問題があった。
いずれも奇をてらった問題ではなく、どれだけ深い学習をしているかが問われる良問だと思う。
東工大が5月頃に発表するという想定問題と解答例が楽しみだ。

2つ目は数学の天才的な人物を発掘できる可能性が高いことである。
バランスのよい学力や一般常識も大事だが、今までの日本の教育はその面ばかりを追い求めすぎてきたのではないか。
義務教育の段階ならともかく、最高学府ではそんなことに捕らわれず、ある意味破天荒な人材を受け入れ、突出した能力をさらに伸ばす教育も必要ではないか。
と言っても「一芸入試」のようなキワモノには疑問を感じるが...。

先にも触れた長野県高校入試の自己推薦型入試(前期選抜)は、今年で3年目を迎えた。
試験の内容は高校により様々で、面接だけ、面接と作文、面接と小論文のところがある。
「小論文」の中味も実に多彩だ。
文章や資料を元に意見を書かせる基本形だけでなく、上位校ではそれに加えて数学、英語、あるいは理科、社会などそれぞれについて、ふつうのテスト形式で長目の記述式問題が出されている。
質、量ともかなり本格的だ。

私はこの自己推薦型入試が導入されたとき、これで暗記型の受験勉強が少しは改善されるのでは?...と大いに期待していた。
面接だけのところはともかく、特に小論文を採用しているところでは、ふだんの成績などには現れにくい力も積極的に評価してくれるものと思っていた。
ところがこの3年間を見る限り、若干の例外はあるが、結局は日頃の成績がいい生徒が合格しているように思う。
しかも、どちらかというとある教科に突出した学力を持つ子より、トータルなバランスの取れた生徒が受かっているようだ。
つまり、後期の一般選抜でも受かるであろう子が、早めに受かっているにすぎないのだ。
これでは前期選抜の意味がないのではないか。

長野県では前期選抜について様々な意見が交わされている。
特に多いのは「合格の基準がわかりにくい」という声だ。
でも、私はこの制度はそれでいいと思っている。
後期選抜のように試験の点数が良かった順に受かる、あるいはこれまでの学校推薦のように、日頃の成績が良かったり部活動や生徒会活動で顕著な活躍をした子が受かる...という「わかりやすい」制度では前期選抜の存在意義はない。

むしろ前期選抜ならではの観点をもっと強く打ち出すべきではないか。
1教科でも90点以上なら合格とか、試験官と議論をして勝ったら合格とか、そんな観点をアピールする高校があってもいいのではなかろうか。
高校入試の段階ではいささか冒険的に過ぎるのかも知れないが...。

東工大の試みが全国の大学入試、高校入試に波紋を投じ、制度や問題の見直しが広がることを期待したい。

(追記)中学入試でも、全国的に有名な学校は、やはりそれなりの問題を出す。知識の暗記や公式丸覚えだけでは、到底太刀打ちできない。そう言えば、あの灘中は入試教科に社会がないという話を聞いて調べたら、灘高の入試にもなくて驚いた(数・英・国・理)。覚えればいいという勉強に対する無言のアンチテーゼであろう。


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