予め予約していたカウンセリングのため大阪へ向かうべく車を走らせていました。予約電話の時、出た女性の案内では夫婦だけでいいとのこと・・『本人は行かなくていいですか?』そう尋ねる私に対し『お父さんとお母さんだけでいいですよ。』正直、大丈夫なんかな?と思いつつも無料相談なので、まぁいいか。という気持ちで妻と向かっていました。時間は夕方18時の予約。その日の阪神高速道路は思うほか順調に流れていた。『少し時間がありそうやし実家のお母さんとこ寄って行くか?』長女の拒食で精神的に疲れている妻に言ったのです。大阪には妻の実家があり、そのカウンセラーの場所とは近く少しの時間なら寄れる距離でもありました。『いや・・今日はええわ。カウンセラーのとこ行こ。』ふさぎがちな声で答える妻に『わかった』と言うのがやとでした。新御堂に入り服部緑地駅が右手・・左手に大手ハンバーガーチェーン店の看板が見えたので『18時の相談やし腹ごしらえでもしようか・・』そう言い車を路肩から店の駐車場へと入らせ店内へ。久しぶりのファーストフード店でした。注文をし席につくと『なんかハンバーガーって久しぶり・・』少し笑顔になった妻を見てホッとするのも束の間『今日・・行くとこ大丈夫なんやろうか・・』独り言のように呟く妻・・それは私も同じ思いでした。拒食症は心の病・・内科的治療は栄養剤の点滴のみ・・それも本人は強く拒否し病院へ行こうとしない・・医師も教科書に書いたような事しか言わず、むしろ【厄介者扱い】するような表情を露骨に出す始末・・大きな病院の精神科医は死と閉鎖病棟で脅すような問診・・閉鎖病棟って私達も見たこともなく想像でしかない特別の隔離病棟・・娘をそんな処へ入れたくない・・どこへ行っても治る見通しすらつかなかった私達でした。このカウンセラーのホームページに書いてある通りなら・・そう思って相談に来ていたのです。そのカウンセラーは大学卒業後、精神科心療内科医師とし大学病院で勤務、リストカット・摂食障害の患者に多数関わり渡米・・米国でそれら精神障害の治療を勉強し帰国・・数冊の書籍・マスコミ記事もありましたが内容は患者本人と家族の関わりから治療するというもの。『そろそろ行こうか』店を出て駅前の駐車場に車を停め地図を片手に現地へ・・服部緑地・・地下鉄御堂筋線『緑地公園駅』周辺はマンションが多く立ち並び環境も良く大阪では『住』の人気スポットでもあります。地下鉄御堂筋線は新大阪・梅田・本町・難波・天王寺と大阪のビジネス・繁華街を1本で通るアクセスの良さが売り物。昭和45年 大阪万博で新大阪から更に北の千里中央まで線路が伸び、千里ニュータウンとの融合もあって街は発展の一途でした。今では落ち着きもあって治安も良く人気の街で定着。その緑地公園駅から徒歩5分程の、とあるマンションに、そのカウンセラーの事務所?があったのです。『え?マンションなん?クリニックをイメージしてた。』そのマンションの景観は昭和そのもので決して新しいとは言えず今では当たり前のオートロックすらありません。妻はイメージとは全く違ったせいか『大丈夫なん?ま・・外観より中身がよかったらええねんけど』妻の言葉の通り私達は常に医師やカウンセラー任せで私達の長女への・・これまでの関わり方に原因があるとは全く理解していなかったのです。マンションのエントランスに入り少し奥にエレベータと階段がありました。『2階やし・・階段で行こうか』待つことが嫌いな私は、そのまま階段を上がり2階の手前の部屋のドアを見ました。古びたドアの中央に小さく『Y心理療法センター』とあり予約の方はそのまま、お入りください。と書いてある。『ここ?』・・・妻の声をよそにドアを開けると、そこはマンションを少し改良しているだけの造り・・玄関には何足かの履物があり先客がいるようだ・・廊下の向こうに待合室がありソファに書棚・・室内にはクラッシク音楽が流れている。受付らしいところに呼び鈴があったので・・”チン”軽く押すと扉の向こうから女性が出てきて『予約相談をお願いした者ですけど。』少し不安気に伝えると『本日18時の○○様でしょうか・・では少しお待ちください。』そう言われ夫婦でソファへ腰掛けました。書棚に目をやると『食べる心食べない心』等いくつか拒食関連の書物があり著者を見ると、ここのカウンセラー自身の本であった。手に取り読もうとした途端『お待たせいたしました。私が当センターのFと申します。どうぞこちらへ』その眼鏡をかけた中年の男性は静かな口調で妻と私に声をかけてきた・・別室に誘導され部屋に入るとテーブルに椅子4脚 テーブルの上にはパンフにパソコンが置いてあった。椅子にこしかけ挨拶もそこそこに済ませたあと『拒食症は必ず治ります。』その強い自信に満ちた表情から出た言葉に私も妻も一瞬でしたが表情が穏やかに、そして心の闇にスーッと光が入りこむような気持ちになったのです。
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