丁度、一年前の今の頃である。
医学部志望だった長男はセンター試験の後、某国立大学医学部前期試験に臨んだ。
しかし、こちらは御縁をいただけなかった。
後期試験を受けるため三月初旬、母子で向った早春の宮崎県。空港から宮崎市内までのヤシの木と
海の煌めきは九州育ちの私でも異国のようで随分遠くまで来たもんだ、と思うに十分であった。
宮崎空港には遠方より来る受験生案内のため赤い揃いのジャンパーを着て案内板を胸に掲げた
学生さんがあちらこちらに立っていらっしゃった。右も左も分からない者にとって嬉しい計らい。
地方もいいもんだなぁと思った。大学の下見にタクシーを拾い運転手さんとお話をした。
「東国原知事さんを地元の方は応援していらっしゃったんですか?」
「あの人は国政に心が既に向いてましたもんね。ここらの人はそれで離れてしまいましたもんね」
「僕は明日試験を受けるんですが宮崎の良いところは何だと思われますか?」
「・・・なんでしょかね~あはは。私達がお聞きしたいくらいです。」
「新幹線も高速道路も来なかったですもんね。陸の孤島ですわ」
「ほらほら~あれが巨人軍の練習グランドですよ。そうそう泊るところがほらあのホテルですよ」
宮崎は既に色とりどりの春の花が陽光を浴びキラキラと輝いていたが吹く風はまだ冷たかった。
大学の下見をし今晩止まるホテルを訪ねた。小奇麗なホテルであった。
部屋に入るや否や息子はテーブルに参考書を広げ勉強し出した。この機に及んでもやり残しが
あるのか、邪魔してはならないと私はロビーで夕飯までを読書をして過ごした。
夕飯の時間になり食堂に連れ出した。バイキングであった。ホテルには他にも受験生が宿泊
しておりどの子も神妙な面持ちであった。
「あいつ、頭良さそう・・」と呟く息子に何と答えて良いやら「うむ。貴男の方が賢そうだけどなぁ~」
「ぷっ」「だってそうなんだもん」「それに宮崎って何だか御縁がありそうな気がするし。」
「・・・・・」「受かるよ。うん、受かる受かる」「笑」「汗」
根拠のないはったりをきかせる母を呆れたように笑っていた。海の見えるテーブルで向かい合って
食べたあの日の夕食、息子の未来があまりに不確かで怖かった。
部屋に戻り温泉につかり早々に休ませてもらった。息子は相も変わらずガッツリ机に向かっていた。
朝になった。朝食の時間がもったいないと云うので私一人で済ませた。
面接があるのでスーツを着た息子とタクシーで受験会場に向かった。会場はまだ開いていなかった。
会場の正面にはヒポクラテスさんの像があった。その側に東屋があった。
息子は東屋の椅子に座るとリュックの中の参考書をテーブルに広げた。この寒い中またまたガッツリと
勉強を始めた。もはや試験開始に向けて気持ちを整えるべきではないかと思ったが言えなかった。
取敢えず此処よりましな場所が無いかと探したら待合教室が開いていたのでそこに行こうと誘った。
寒さは応えたのか素直に移ってくれた。その待合室でも先ほどの再現である。ガッツリ勉強をし始めた。
辺りを見回してもそんな受験生はいなかった。静かにこれからの時を待つ人ばかりに見えた。
開場時間になり広げた参考書をしまい「行ってくる」と云い一人で部屋を出て行った。
きっぱりと迷いのない表情をしていたと思う。その後、保護者向けに大学生活のノウハウを学生さんが
説明して下さった。御縁があれば役立つ話であるが御縁が無ければそれきりの話になるのだなぁと
複雑であった。たっぷりと時間があったので隣の大学付属病院を見て歩いた。もしももしも御縁が
あればお世話になるのだと。途中迷子になりかけたが待合教室にちゃんと戻ると睡魔に襲われた。
うとうとし始めたら程なく息子が戻ってきた。スッキリとした顔であった。後は神のみぞ知ること、
この日の夜は私の実家で眠るだけ眠った息子であった。
あの日から早や一年、男の子の音信不通はすっかり慣れた。
明日あたりメールを送ってみようか。「進級出来たの?」
医学部志望だった長男はセンター試験の後、某国立大学医学部前期試験に臨んだ。
しかし、こちらは御縁をいただけなかった。
後期試験を受けるため三月初旬、母子で向った早春の宮崎県。空港から宮崎市内までのヤシの木と
海の煌めきは九州育ちの私でも異国のようで随分遠くまで来たもんだ、と思うに十分であった。
宮崎空港には遠方より来る受験生案内のため赤い揃いのジャンパーを着て案内板を胸に掲げた
学生さんがあちらこちらに立っていらっしゃった。右も左も分からない者にとって嬉しい計らい。
地方もいいもんだなぁと思った。大学の下見にタクシーを拾い運転手さんとお話をした。
「東国原知事さんを地元の方は応援していらっしゃったんですか?」
「あの人は国政に心が既に向いてましたもんね。ここらの人はそれで離れてしまいましたもんね」
「僕は明日試験を受けるんですが宮崎の良いところは何だと思われますか?」
「・・・なんでしょかね~あはは。私達がお聞きしたいくらいです。」
「新幹線も高速道路も来なかったですもんね。陸の孤島ですわ」
「ほらほら~あれが巨人軍の練習グランドですよ。そうそう泊るところがほらあのホテルですよ」
宮崎は既に色とりどりの春の花が陽光を浴びキラキラと輝いていたが吹く風はまだ冷たかった。
大学の下見をし今晩止まるホテルを訪ねた。小奇麗なホテルであった。
部屋に入るや否や息子はテーブルに参考書を広げ勉強し出した。この機に及んでもやり残しが
あるのか、邪魔してはならないと私はロビーで夕飯までを読書をして過ごした。
夕飯の時間になり食堂に連れ出した。バイキングであった。ホテルには他にも受験生が宿泊
しておりどの子も神妙な面持ちであった。
「あいつ、頭良さそう・・」と呟く息子に何と答えて良いやら「うむ。貴男の方が賢そうだけどなぁ~」
「ぷっ」「だってそうなんだもん」「それに宮崎って何だか御縁がありそうな気がするし。」
「・・・・・」「受かるよ。うん、受かる受かる」「笑」「汗」
根拠のないはったりをきかせる母を呆れたように笑っていた。海の見えるテーブルで向かい合って
食べたあの日の夕食、息子の未来があまりに不確かで怖かった。
部屋に戻り温泉につかり早々に休ませてもらった。息子は相も変わらずガッツリ机に向かっていた。
朝になった。朝食の時間がもったいないと云うので私一人で済ませた。
面接があるのでスーツを着た息子とタクシーで受験会場に向かった。会場はまだ開いていなかった。
会場の正面にはヒポクラテスさんの像があった。その側に東屋があった。
息子は東屋の椅子に座るとリュックの中の参考書をテーブルに広げた。この寒い中またまたガッツリと
勉強を始めた。もはや試験開始に向けて気持ちを整えるべきではないかと思ったが言えなかった。
取敢えず此処よりましな場所が無いかと探したら待合教室が開いていたのでそこに行こうと誘った。
寒さは応えたのか素直に移ってくれた。その待合室でも先ほどの再現である。ガッツリ勉強をし始めた。
辺りを見回してもそんな受験生はいなかった。静かにこれからの時を待つ人ばかりに見えた。
開場時間になり広げた参考書をしまい「行ってくる」と云い一人で部屋を出て行った。
きっぱりと迷いのない表情をしていたと思う。その後、保護者向けに大学生活のノウハウを学生さんが
説明して下さった。御縁があれば役立つ話であるが御縁が無ければそれきりの話になるのだなぁと
複雑であった。たっぷりと時間があったので隣の大学付属病院を見て歩いた。もしももしも御縁が
あればお世話になるのだと。途中迷子になりかけたが待合教室にちゃんと戻ると睡魔に襲われた。
うとうとし始めたら程なく息子が戻ってきた。スッキリとした顔であった。後は神のみぞ知ること、
この日の夜は私の実家で眠るだけ眠った息子であった。
あの日から早や一年、男の子の音信不通はすっかり慣れた。
明日あたりメールを送ってみようか。「進級出来たの?」