『攪拌』という文字を『かくはん』と教えてくれたのは父であった。その時のことを覚えている。
実家にはあんこの粉が入った市販品が日常に買い置きしてあり、母は度々にお饅頭や牡丹餅を作った。
あんこの袋の裏にはあんこの作り方が載せてあったのだが『攪拌する』という字が私には読めなかった。
父に読み方を訊ねると「かくはんする、よくかき混ぜること」だと教えてくれた。
使ったことも聞いたことも無く難しい言葉だと思った。
二日前のことである。次女が私に「これ何て読むの?」と持って来たプリントに書かれた文字は『攪拌』であった。
「かくはんだよ。よくかき混ぜること。ママもね、この字を父に、つまりおじいちゃんに訊ねた事があるの。」
「ええ!まじで?」と云う次女はほんの少し驚いた。30分もすれば忘れてしまいそうなささやかなサプライズ。
父に教えて貰った言葉には『脚絆』きゃはんとか『素っ頓狂』すっとんきょうなど、他にもある。
几帳面な父はなぐり書きするような人ではなかった。日記帳や便箋に残された文章は漢字をきちんと使い
少し癖のある字で端正に書かれている。
母娘の距離に比べたら父娘の距離の方が遠いだろうか。父はどんなことを考えながら生きたのだろう?
攪拌と云うキーワードで覚醒した父の在りし日。髭剃りの固形石鹸の香り漂う若かりし父に会いたし。
実家にはあんこの粉が入った市販品が日常に買い置きしてあり、母は度々にお饅頭や牡丹餅を作った。
あんこの袋の裏にはあんこの作り方が載せてあったのだが『攪拌する』という字が私には読めなかった。
父に読み方を訊ねると「かくはんする、よくかき混ぜること」だと教えてくれた。
使ったことも聞いたことも無く難しい言葉だと思った。
二日前のことである。次女が私に「これ何て読むの?」と持って来たプリントに書かれた文字は『攪拌』であった。
「かくはんだよ。よくかき混ぜること。ママもね、この字を父に、つまりおじいちゃんに訊ねた事があるの。」
「ええ!まじで?」と云う次女はほんの少し驚いた。30分もすれば忘れてしまいそうなささやかなサプライズ。
父に教えて貰った言葉には『脚絆』きゃはんとか『素っ頓狂』すっとんきょうなど、他にもある。
几帳面な父はなぐり書きするような人ではなかった。日記帳や便箋に残された文章は漢字をきちんと使い
少し癖のある字で端正に書かれている。
母娘の距離に比べたら父娘の距離の方が遠いだろうか。父はどんなことを考えながら生きたのだろう?
攪拌と云うキーワードで覚醒した父の在りし日。髭剃りの固形石鹸の香り漂う若かりし父に会いたし。