■4■
周りのランナーは皆走っている。
諦めているランナーなど一人もいない。
そんなことから「まだギリギリ完走出来ること」を祈る。
辛さに耐えながら下を向いて走る。
青いミミズが水気を纏いクネクネ暴れている。
今回やたらと多い【巨大青ミミズ】、
正式名称は「シーボルトミミズ」。
越冬のため、山の斜面から谷底に向かって移動しているらしい。
奴らは奴らでランナー達による障害物競争を闘っているのだ・・、
・・・どうでもいいが、結構グロい。
都会の女性ランナー達は、このグロさに耐えられるのだろうか・・
次々と現れる青ミミズに失笑する。
見上げると高架上に鉄道線路が現れる。
しばらくはコンクリートの壁に沿って進むことになる。
この線路沿いは長い。
片方をコンクリートの壁で覆われると音の奥行きが無くなり、
自分の息遣いがよく響く。
疲労による息遣いが荒い・・。
右側を流れる四万十川の前方に沈下橋が確認できる。
「半家(はげ)の沈下橋」到着。
手前のエイドで給水して、橋までの下り坂を歩く。
沈下橋が下に見える位置に立ち止まってポーチに手を伸ばす。
「ふうー」
と、大きく息をついて、
ポーチの中に隠してあった「ゴルフのピン」を取り出す。
春に亡くなった友人の遺品である。
私が以前SNSにUPした「四万十川の菜の花の風景写真」、
友人は遠い異国の地から随分喜んでくれた。
四万十川の風景には「癒し」がある。
美しい川は清く流れ、山は壮大で気高い。
川はゴツゴツとした石の河原に守られ、
河川敷は四季折々に綺麗な花を咲かす・・。
沈下橋はそれらの風景に上手に溶け込んでいる。
ジョギング中に突然倒れた彼を偲び、ピンを青空にかざす。
さあ、半家の沈下橋は往復コース。
業者による写真ポイントでもある。
元気を出して走りだす。
沈下橋の上に風が無い。
そういえばここまでも風が無かった。
遅いペースのせいで沈下橋の上にランナーが少ない。
「お~い」
Uターンポイントで声を掛けてくれたのはTさん。
少し早い定年退職をされたTさんが高そうなカメラをこちらに向けてくれた。
高知市内からのわざわざの応援に頭が下がる。
「マイペースですか~?」
もともと100km完走ランナーのTさん、
「遅い」とは言わない労りに優しさを感じる。
「ありがとうございます!絶不調です!!ハハハ」
時間も怪しいので長居はせずに背を向けて走る。
沈下橋を往復すると「半家の峠」に差し掛かる。
この二つ目の峠は短い割には傾斜がキツい。
当然の如く「歩く」。
「走れ」と言われても歩く。
(走れない・・)
上りは歩いてもキツいはずだが、不思議と脚が進む。
どうやら痛んでいるのは脚の前側のようだ。
下りになる。
やはり傾斜はキツい。
しかも前モモが痛すぎる。
下りきったところに関門所がある。
関門所から声が飛ぶ、
「あれ~?あれ~?いいんですか~?ここでこのタイム」
知り合いボランティアはスポーツ店のキンちゃん。
「ハイハイ、分かってますよ!」
笑いながら通りすぎる。
すぐにエイド。
このエイドは水しかない。
峠を越えた後に水だけだと精神的に堪える・・
歩いたり走ったりになる。
「攣り」はおさまらない。
1km表示が長い。
1kmってこんなにも長いものだろうか・・
山道は日影で走りやすい。
周りのランナーも歩く人が増え始めた。
これはリタイアペースに入っていることを示す。
前を歩くランナーが走り出すと勇気をもらい、
前を走るランナーが歩き出すと心が折れる。
脳が疲れてくると目に入ってくる景色に純粋に反応する。
「頑張ってくださいー!」
耳から入る声に素直に反応して走り出す。
沿道の声援がこんなにもランナーの脚を動かすとは・・
「ありがとうございます」
声に出すと体に力がみなぎり、不思議なエネルギーとなって現れる。
復活。
走る。走れる。攣らない。
61km地点通過。
カヌー館まであと600m。
前を歩いている若いランナーに声を掛ける。
「あと600mですよ~、頑張りましょうー」
若者は「ハイ!」と気力を振り絞り走り出した。
過去の経験から、
「ランナー同志の励まし」が大きな力になることは知っている。
並んで走ると、ちゃんと走力のあるランナーだと確認出来る。
やはりランナーの脚はメンタルで動く。
「先月白川郷のマラソンを完走したんで疲れが残っていたのかも・・」
「それはフルですか?」
「100kmです」
「えー!!先月に100km!?」
当たり前のことでもあるが、
四万十ウルトラに出場するランナーは健脚が多い。
レストステーション、カヌー館に到着。
関門閉鎖10分前・・。
さすがにもう完走は絶望。
次の71kmの関門も無理だろう。
カヌー館ではスタート地点で預けた荷物が受け取れる。
荷物の中から取り出した少し高い栄養ドリンクに最後の力をもらう。
異常に速い早歩きでここに辿り着いた大柄なランナーが、
「スミマセン!ここでもう止めます!」
と大きな声でリタイア宣言をした。
女装コスプレランナーが、
「ボク、ここで終わりにします!」
とボランティアに告げた。
「飛脚―ッ」
こちらに大声で叫んでくれたのはチーム飛脚が誇るイケメンランナー。
美男美女の新婚夫婦、そのさわやかさに少し癒される。
「まだまだ行くでーっ!!」
背中に飛脚を背負っている以上は自分からリタイアなど出来ない。
ゴールでは子供達が両親の完走を信じて待っている。
「あきらめない気持ち」だけはしっかりと伝えたい・・。
荷物を預け、痛む足を動かし、再スタートする。
~つづく~
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