イリアーデの言霊

  ★心に浮かぶ想いのピースのひとかけら★

黒龍王(3) 木偶の操り糸を断ち切れ!愚かな冴紗よ

2007年11月05日 23時44分17秒 | 小説

 冴紗を戦乱と獣欲から守るために預けたのをこれ幸いと、その後、羅剛『神官は王に愛される』の「Ⅲ それぞれの想い」で“言うてみぃ!いっそ、冴紗を放しとうはないと、はっきりとな!さぞや愉快であったろうな。俺の血へどを吐くような狂いぶりは、…どうだ、見ていて笑えたであろう!幾度俺は乞うた?一時預けただけであると、返してくれるのならば、俺は地べたに這いつくばってもかまわぬ、王位さえいらぬと、そこまで言うたはずだぞ”とあることからも最長老を首魁とする大神殿の神官どもは冴紗を返すつもりなど毛頭なく最初から《聖虹使》という名の飾り人形にすえる魂胆だったのは明白です。『神官は王を狂わせる』の「Ⅱ 大神殿での冴紗」にもありますが“戦乱に巻き込まぬためと、いっとき預けただけのつもりであったのに、大神殿は冴紗を返さず、宰相や重臣どもも、『政(まつりごと)と宗教は交わってはなりませぬ。世の乱れのもとでございます』となどと屁理屈を並べ、けして羅剛を大神殿に近づけさせなかった。いま思えば、それは羅剛の激しすぎる冴紗への執着をそらす方便であったようだが、――自分が国法を守らねば、生真面目な冴紗がつらい想いをする。そう思い、言いなりになってきた。”…そんな羅剛の苦しみを、最長老を首魁とする大神殿の神官どもに木偶人形にされた現実に未だに悟らぬ自分の愚かさを気づき、木偶の操り糸を断ち切って欲しい。

 神官どもの木偶人形に堕落した冴紗は《聖虹使》となるべき我が身に神が定められたと思い込んでしまい、大神殿という名の牢獄に幽閉されている事実に気づかず、羅剛の愛は平気で裏切り民の信心は裏切れぬとほざきます。本心は《聖虹使》ごときになりたくないのに『神官は王を狂わせる』で身の安全を取り計らってくれた羅剛によって預けられただけとは知らぬ冴紗“神官として迎えられた”と思い込まされ、それなのに他の神官どもと同じ頭からすっぽり被る黒の神官服を求めても却下され、修行もさせずにいれば生真面目な冴紗のことだから心苦しくなるだろうと“何かお仕事をさせて下さい”と言い出すだろうと待ち構えていた大神殿の最長老を首魁とする神官どもの罠に嵌まり“《聖虹使》としての使命と虹霓教の教え”と称して洗脳された冴紗は大神殿に幽閉されたばかりの15歳の時から《聖虹使》の猿芝居を無理強いされました!最長老どもはほくそ笑むどころか上手くいきすぎて笑いが止まらなかったでしょう!!最大の犠牲者は夫王・羅剛です。

 『神官は王に愛される』羅剛が神殿行きを命じた真意と恋心に気づこうともしないで冴紗は自分がこんなに愛しているのに同性で羅剛は王妃を娶らねばならないから逃避を図り、王の許可がなくてはなれぬのを無許可の事後承諾で《聖虹使》になって大神殿の奥に籠り2度と羅剛には逢うまいとします。勝手に美優良王女を王妃に迎えただろうと冴紗が妄想に浸るけれど羅剛冴紗以外の人間を愛するはずもない彼の心を知らずに旧来の《聖虹使》となるための去勢手術を決行しようとしますが、永均を締め上げて白状させ駆けつけた羅剛に阻止されて未遂に終わり王宮に無事に攫われます。ラストで羅剛の狂恋の暴走に観念した永均と重臣どもはこれ以上冴紗と引き裂こうとする愚挙はやめ、主君の恋の成就と婚姻を認めて竜騎士団を引き連れた永均は羅剛の求婚に随行しました。が…最長老に二役をせよと命じられて羅剛の求婚を受け入れた木偶の本性丸出しでは、冴紗木偶の操り糸を断ち切り人間となって羅剛との真の愛の成就と幸福に至るのは無理かもね。


黒龍王(2) 孤立無援の恋の闇の彼方に

2007年11月05日 23時35分58秒 | 小説
 宗教上の産物である天帝《虹霓神》の聖なる虹色を有する者が国王or王后になれば天帝の祝福と恩寵が与えられるという伝説が根拠の無い作り話に過ぎないにもかかわらず盲信する各国の王家が色素の淡い配偶者を娶り虹色を有する王子or王女を得ようと躍起になっていた呆れた世界だったのは侈才邏(いざいら)の《黒龍王》羅剛の不幸の始まりでした。金髪蒼眼の父王・皚慈(がいじ)と紅髪緑眼の母后・瓏朱(ろうしゅ)との間には必ずや聖なる虹色を有する世継が生まれるに違いないと当事者たちと重臣どもは確信していました。ところが、生を受けたのは黒髪黒瞳の羅剛だったことから、母后は不義を疑われ自害し周囲は愚かにも何の罪もない幼い羅剛を“呪われた魔の子”と侮蔑し、一応は王太子だからとうそ寒い作り笑顔を張り付けていた愚かな家臣どもですが今では冴紗と引き裂いた罪も悔い改め忠誠を捧げています。しかし、他国の国王や民たちは未だに“下賎な黒の魔王”と蔑んでいるのです。それは侈才邏の霊峰・麗煌山に大神殿を構える虹霓教総本山の神官どもとて同類で黒髪黒瞳であるというだけで理由もなく羅剛を侮蔑して、お前らそれでも聖職者か!と怒鳴ってやりたいほどです。

 10年前、羅剛冴紗に対する溺愛ぶりを“もしや、羅剛様は…”羅剛から続くはずの直系の血筋がたたれることを危惧した永均を始めとする宰相や重臣どもは、たかが虹髪虹瞳であるだけで《虹の御子》と呼ばれる冴紗(9歳~15歳)を自分たちすぐさま渡すのが当然と付け上がり羅剛(13歳~15歳)がいつまで経っても大神殿に渡そうとしないのに不満を抱く神官ども結託し、共同謀議により羅剛冴紗は引き裂かれました。永均を筆頭とする王宮の重臣たちと冴紗を《聖虹使》にしたがっている大神殿の神官どもの利害が一致したのです!一夫一婦制である侈才邏の先の国主である父王・皚慈は唯一の嫡子である羅剛の真名《虹に狂う者》と反国王派に利用された羅剛の母方の従弟・伊諒(いりょう)の真名《次代の王の父》を知り神殿という神殿を叩き潰しての虹霓教弾圧を行い、羅剛には宗教的教育を削除して育てました。それゆえに羅剛は“虹色”が何を意味するか知らなかったのです!重臣どもが冴紗羅剛の側から引き離したかった理由は冴紗の真名が《世を統べる者》だったからです!!羅剛冴紗の真の味方は《花の宮》の女官たちだけでした。

 何か冴紗に特別なモノを与えたがっていた羅剛が“虹色の禁色”が何を意味するかを知る前に、そして、神殿側が預かると見せかけて冴紗を囲い込み《聖虹使》としての既成事実を作って時間を経れば羅剛も諦めるだろうと“銀は王妃の色だから駄目ですが、ならば…”と巧みに“虹霓教《聖虹使》の虹色”をそうとは教えずに冴紗にと吹き込み、羅剛にその色を与えさせ更には軍に入隊を許された冴紗が理性の箍(たが)が外れた獣欲に塗れた兵士たちの間に起居させて無事で済むとは思いますまいな、とまたも永均は助言を装い、神殿に自ら引き渡したのだという既成事実と罪悪感を羅剛の心に植え付けたのです。そうすれば、異性である女性を…侈才邏にとって最も利益となる国の王女を正妃に娶り世継を得て安泰だとそればかりを考え、羅剛の狂おしい恋心を見縊っていた永均は重ね重ねも卑劣な策略を仕掛け、己を父のように慕う羅剛を裏切ったのです。