intoxicated life

『戦うやだもん』がお送りする、画日記とエッセイの広場。最近はライブレビュー中心です。

身辺雑記(1)

2007-05-28 | ライフサイクル
今日から一週間、気まぐれに集中連載します。


そんな折、このニュースが入ってきたわけです。


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>松岡農相:首をつって自殺 議員宿舎で

 28日午後0時18分ごろ、東京都港区の衆院赤坂議員宿舎の自室で松岡利勝農相(62)が倒れているのを迎えに行った秘書官らが見つけ、警察に通報した。首つりによる自殺を図ったもので、救急隊員らが現場で応急処置をした後、午後1時に東京・慶応大病院に運んだが同2時死亡が確認された。松岡農相は自らの事務所の政治資金問題や、官製談合事件が告発された農水省所管の「緑資源機構」の関連団体からの献金問題で野党から追及され、世論からも批判を浴びていた。

(中略)松岡農相は自らの資金管理団体が事務所の光熱水費をめぐる不明朗な処理で世論批判を受け、野党から追及されていた。安倍晋三首相は「法的な責任を果たしている」と擁護していた。しかし、官製談合事件で刑事事件に発展した緑資源機構の関連団体から献金を受けていたことも発覚。自民党内からも辞任を求める声が出ていた。

 松岡農相は衆院熊本3区選出。1990年、衆院選に立候補し初当選。05年に6選を果たし、昨年9月の安倍内閣発足時に農相に就任した。

 農林水産省によると、松岡農相は28日午後1時40分から、国会内で開かれる参院決算委員会に出席する予定で、午前中に東京・霞が関の農水省内で同省幹部と事前の打ち合わせをするはずだったが、姿を見せなかったという。
(毎日新聞 2007年5月28日 13時09分)


今日(28日)の夕刻すぎに『NNN特番 松岡農水相自殺』というタイトルで、日本テレビが単独で放映していたのを見て知ったわけだが、確かにびっくりした。現職閣僚の自殺は初のケースとのこと。遺書も見つかっているという。


これから記す考察も、明日になればもっと調べが進んで陳腐なものになるだろう。ただ、この事件を目の当たりにするにあたって、――同じ画面を見ていた母親から漏れ聞いた話ではあるが――湧き出た理不尽な思いを書き留めておきたい。


批判の矢面に立たされていた彼を、安部首相は「擁護していた」とある。もともと、農林水産業に精通した頭脳とともに、弁舌の巧みさを買われて閣僚入りしたとのことだが、「ナントカ還元水」(この言葉も「不謹慎だ」として使われなくなるだろう)問題に対して答弁する彼の論調は、本来の姿とは程遠かったに違いない。それゆえに、疑惑の追及は死後も続くだろう。


だが、その特番で目を見張るシーンがあった。


それは、農林水産省前から中継した某女性記者のレポートだった。彼女はなんと半ベソで、嗚咽をかみ殺すように話を続けていくのである。なんとか平静を保とうとするのだが、カメラマンも――プロの嗅覚がそうさせたのだろう――潤んだ目元にクローズアップ。必死にレポートを終えた彼女は、カメラのランプが消えたとき、何を思っただろうか。


そもそも、報道記者と政治家との関係は、視聴者が思っている以上に近い。もちろん、メディアという劇場に立てば、それぞれの役を演じなければならない部分もあるのだろう。しかし、記者クラブ主催のゴルフコンペがあったり、食事会があったりと、人間同士の付き合いだってあるのである。それは、昭和天皇の死に際して涙した、皇室担当の記者たちとて同じ心境だったに違いない(『皇室報道の舞台裏』角川oneテーマ21、2002年)。


いわんやこのケースも、である。たとえば会見の際、松岡大臣は全員の記者の名前を暗記したうえで、「今の○○記者の発言についてお答えしますと…」などと受け答えしていたという。じじつ、某女性記者の報告の半分以上は彼の擁護に近いものだった。僕自身、塾の講師をやることにあたって、元保母さんの母親に「子供は名前を覚えてあげるのが一番なのよ」と言われたことを、思い出さずにはいられない。


疑惑に対しては「法律に則った処置をしている」と繰り返し答弁した、強面ながらも気配りのできる人格者。安部首相は特に前者の顔を守りたかったようだが、遺書の文面まで守りきれるだろうか。


「疑惑を晴らしていれば死なずに済んだのに…」という弔辞を背に、不器用な男は棺桶へと向かう。初報の印象だけで書き連ねてきたが、たぶん、本人は喋りたかったんだろうなあ、と邪知をこめて結論づけておきたい。


さて、喋らせなかったのは誰だろうか?



“足を引っぱらずに 手を引っぱって
 探っていくのはもうたくさん
 つないだ手が離れてしまう前に”(『手の中の残り日』)


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※追記。案の定、翌日になってこんな話が出てきている(『朝日新聞』5月29日など)。

『今となっては24日夜、熊本の地元の人が出てきたので会食につきあって欲しいと早くから言われていた会合でゆっくり話したのが最期となってしまった。その時私は松岡大臣に「明日決算行政監視委員会で私が質問するから、国民に心からのお詫びをしたらどうか。法律にのっとっている、法律に基づいてきちんとやっていますと説明しても、国民は理解していない。ここは国民に土下座し、説明責任が果たされていませんでしたと率直に謝った方がいい」と進言したら、力無く「鈴木先生、有難いお話ですが今は黙っていた方がいいと国対からの、上からの指示なのです。それに従うしかないんです」と、弱気な言いぶりだった。私はなお、「これからも何かにつけこの話は続くので、早く国民に正直に説明した方が良いと思うよ」と重ねて話すと、「そこまで言ってくれるのは鈴木先生だけです」と、にっこり微笑んでくれた事を想い出す。』(ムネオ日記


もちろん、ムネオ氏の挿話をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないだろう。だが、少なくともこういう詮索がこれから多分に行われるであろうことは確かである。「(自殺の真意について)全部知っている」と名指しされた、松岡氏の「家内」の受難は続く。