intoxicated life

『戦うやだもん』がお送りする、画日記とエッセイの広場。最近はライブレビュー中心です。

IZMOIZM

2010-05-03 | traveling
これまで日本全国を鉄道で回ってきたが、山陰地方だけはまともに足を踏み入れたことがなかった。せっかくの連休というわけで、かねてより参拝を祈願していた出雲大社に行くことにした。

往路は空路。11時発・JAL1665便出雲行きである。当初はサンライズ出雲を使う予定だったが、満席のため飛行機に切り替えた。『JAL崩壊』(文春新書)を読了したばかりということもあり、新ターミナル完成後初めて第一ターミナルへと向かった。

JALの自動チェックイン機に予約番号を打ち込むと、画面には「近くの係員を呼んで」との旨。女性社員に掛け合うと、非常口座席でもよろしいですか云々。引っかかった原因がそれなのかは教えてくれない。やっとチケットを受けとるも、名前が間違っている。印字する名前をわざわざローマ字からカタカナにする(KENICHI→ケニチ)からこういうことになる…。

搭乗口付近のテレビから「JAL路線削減」のニュースが流れるを横目に、機内へと向かう。離陸前、「この度は、数ある航空会社の中からワンワールドグループ・JAL日本航空をお選び云々」とのアナウンスが入る。羽田―出雲間の定期便はJALしかないじゃん、と心のなかでツッコミつつ、平均年齢35歳と思しきパーサーと満席の乗客とともに山陰を目指す。

12:45、定刻より10分遅れで出雲空港に到着。バスターミナルには各方面への直通バスが待っていた。縁結びパーフェクトチケット(¥3000)なるフリーパスを片手に、私が乗り込んだのは出雲市駅、地元では「出雲駅」と呼ばれる市の中心街に向かうバスである。隣には出雲大社行きも停車していたが、当然乗らない。意図は言わずもがな(一応後述する)。

瓦屋根の住宅地を抜け、国道に沿って空港バスは走る。まもなく渋滞。このままでは13:20発の列車に間に合わない。と思ったら駅が見えてきた。これなら間に合うか…とバスを降り、駅改札の駅員に駆け寄るも、「20分?もう行っちまったよ」と返される。「大社?13:30にバス出るからー」と親切に教えてくれたが、おっちゃん、そういう問題じゃないんだよ…。

出雲市駅にはニ路線が乗り入れている。JR山陰本線と一畑電車である。この一畑という単語、島根周辺ではしょっちゅう目にする。公式HPによると、一畑グループは一畑軽便鉄道の開業(1912年)を皮切りに、バス、タクシー、汽船、ゴム加工から観光、百貨店にいたるまで多様な事業を展開する、創立100年の老舗企業である。

現在は一畑電気鉄道(株)のもとにホールディング化され、鉄道事業は一畑電車(通称ばたでん)が受け持っている。空港で大社行きのバスに乗らなかったのはこの路線を乗りつぶすためであり、ばたでん駅員の親切をムダにするよりなかった。

次の電車まで、JR改札の駅そば屋「出雲そば黒崎」で待つことにする。コシのある王道のそばに、熱々の海老天を添えた天ざるそば(¥850)。美味。ざるそばが¥650ということを考えると、値段的にも満足である。まだ時間があるので駅ビル「アトネスいずも」を歩く。100円ショップなどでショッピングを楽しむ女子学生たち、なぜかぱっつん髪ばかりだ。

14:15発、長い発車のサイレンをバックに、松江しんじ湖行き列車に乗車。川跡駅で出雲大社行きの列車に乗り換える。一畑電車にはかつて京王線で走っていた5000系車両が現役で活躍しており、そのひとつがこの大社行きの電車だった。丸い扇風機カバーと大きな一枚ドアが、列車の横揺れとともに、靴を脱ぎ捨て座席に膝をつき車窓を眺めていた幼少時の記憶を呼び起こす。窓の外には田園風景が広がっている。

ほどなく出雲大社前駅に到着した。まずは大社駅跡を訪れる。ここは旧国鉄・大社線の終着駅で、貴賓室も設置された立派な建物。JR日光駅にも匹敵する佇まいだった。再び大社駅まで戻り、出雲大社を目指す。

この日は祝日(昭和の日)。軒先にはたくさんの国旗が掲げられていた。大鳥居をくぐり、玉砂利の参道に入ると、右手に千家尊福(せんげたかとみ)の銅像が見える。そのまま5~600m直進し、仮殿で賽銭を投じる。本殿は少し離れたところにあり、こちらは大きなしめ縄の先端に賽銭を投げつけて、藁のあいだにコインを挟ませるのが慣わしのようだ。

併設の宝物殿にも足を運ぶ。展示物以上に興味を惹かれたのは、催事のお知らせに混じって「家族の絆はどうなるの? ~夫婦別姓という選択~」と銘打ったパンフレット。裏面に小さく「作成・神道政治連盟」とある。街角の日章旗しかり、田母神俊雄氏の講演を知らせるポスターしかり、保守王国・島根の面目躍如である。

大社の東側には県立古代出雲歴史博物館がある。常設展示では周辺の遺跡からの出土品などが展示されており、特に荒神谷遺跡の銅鐸がずらっと並べられている図は壮観だった(もし古代に生まれていたらあれをガンガン鳴らしてみたかった)。また特別展として、一畑電車を舞台とする映画「RAILWAYS」公開にあわせた「BATADEN 一畑電車百年ものがたり」が開催中だった。「BATADEN」は映画の原題だそうで、地元住民としてはどこの鉄道だかわからない「RAILWAYS」よりもこちらを使いたかったのが本音のようだ。なお現在、「BATADEN」は商標登録されている模様だ(所有者不明)。

そんなこんなで大社前駅に戻る。16:59発で川跡まで出て、終点の松江しんじ湖まで約1時間。車窓から宍道湖を臨むも、手前に道路があるので感動は半減。宍道湖を霞ヶ浦になぞらえれば、沿線の雰囲気は今はなき鹿島鉄道を思わせる。ただしここは山陰、風がとにかく強い。山並みに建てられた風力発電機の風車がぐるぐる回っている。

松江しんじ湖駅からはバスでJR松江駅へ移動した。繁華街は橋北の東本町、橋南の伊勢宮町のふたつ。前者は京橋川に沿った古風で洒落ており、後者はいわゆる歓楽街。いずれも街の規模と同じくこじんまりとしていた。また商店街は松江駅西側の天神町通り。そこまで寂れた雰囲気はない。身の丈をわきまえたまちづくりが成されている、ということだろう。