ひたすら、ロボットによる単調な塗装剥離作業を繰り返してきた我々に、ついに現場のゴールが見えて来ていた。
「木田君、このまま終わらせちゃダメなの?」
小礒が面倒臭そうな顔で、私の耳元に大声で話し掛けて来た。
「残念ながら、『2メートルほど残せ』という所長の指示ですから」
「もっと早く見に来いってんだよ…」
ロボットのコントローラーを持ったまま、小礒は呆れたように吐き捨てた。
「まあ、それはそうなんですけどね、そこを何とかお願いしますよ」
私は小磯を宥めると、のんびりとやる様にとだけ、言っておいた。
こういう時に限って、工事は順調に進んで行く。しかも、当初は12Hz(ヘルツ)程度だった剥離スピードは、超高圧ホースを短くする度に上がって行き、今では25ヘツルに迫る勢いだった。
「キーちゃん、今のペースだと、昼過ぎには目標の2メートルまで到達しちゃうよ?」
佐野にそう言われたものの、今更小磯にペースダウンを指示できる状況ではなかった。
「行くところまで行って、あとは待ちましょう」
結局、午後一時半には最後の2メートルを残して剥離作業は終了し、あとはお客さんを待つのみだった。
「ま、長めのコーヒーブレイクってことで」
私は人数分の缶コーヒーを自販機で買って来ると、一人ひとりに手渡した。
「で、お偉方はいつ来るの?」
「もうすぐ、としか聞いていないですね」
全員で土手の日向に腰を下ろし、コーヒーを啜る。
「これで片付けが終わったら打ち上げですねぇ」
私は話題を楽しい方向に向ける。
「キーちゃん、いつあのフィリピンパブに行くんだよ」
佐野が嬉しそうな顔をする。
「最後の敷鉄板の撤去が終わったら、その夜に皆で行きましょう」
「木田さん、俺と小磯さんはどうなっちゃうの?」
ハルは、自分がどういう扱いになるのかが気になるらしい。
「もちろん皆で呑みましょう。だから、最終日は全員で佐野さんと同じ宿に泊まりますからね」
「うぉっしゃー、徹底的に呑んでやる!」
小礒がガッツポーズを入れる。
「なんでも、中々マニアックなお店らしいですよ」
皆で一時間近くもフィリピンパブについて語り合っていると、K建設工事主任の柳が、小走りでやって来た。
「所長が早くロボットを動かせと言っていますので、至急お願いします!」
「ふぅー、なんだかなぁ」
「うー、どっこらせっとぉ…」
「うーい、行くぞぉー」
銘々がだらけた気合で、重くなった体を引きずり上げる。どんな人間でも、一旦緊張感が解けてしまうと、中々元の状態に戻すのが難しい物だ。
「あの、急いでお願い…」
柳が困惑した顔で頼んで来る。
「ハイっ!大丈夫ですよぉ!」
私はわざと明るく気合を入れて、ハスキーのエンジンを掛けに走った。
十分後、全ての機器の安定状態を確認すると、私は水管橋の中に入った。
マンホールからすぐの場所、残り2メートルを剥離する為に、管内ロボットが内壁に沿って回転している。
それを所長の鴻野や、主任の柳、そして六人の作業着を着たM資源公団の人間が観察している。
「どうですか、わざわざ工事を中断してまでお出迎えした、M資源公団の皆さんは?」
私は佐野の耳元で、小声で聞いた。
「ん?なんか今一つ反応が薄いね」
「…マジですか?」
「うん、ほぼ無反応」
「…」
私はとても寂しい気持ちになり、急いでフィリピンパブに行きたいと、管内で思っていた。
「木田君、このまま終わらせちゃダメなの?」
小礒が面倒臭そうな顔で、私の耳元に大声で話し掛けて来た。
「残念ながら、『2メートルほど残せ』という所長の指示ですから」
「もっと早く見に来いってんだよ…」
ロボットのコントローラーを持ったまま、小礒は呆れたように吐き捨てた。
「まあ、それはそうなんですけどね、そこを何とかお願いしますよ」
私は小磯を宥めると、のんびりとやる様にとだけ、言っておいた。
こういう時に限って、工事は順調に進んで行く。しかも、当初は12Hz(ヘルツ)程度だった剥離スピードは、超高圧ホースを短くする度に上がって行き、今では25ヘツルに迫る勢いだった。
「キーちゃん、今のペースだと、昼過ぎには目標の2メートルまで到達しちゃうよ?」
佐野にそう言われたものの、今更小磯にペースダウンを指示できる状況ではなかった。
「行くところまで行って、あとは待ちましょう」
結局、午後一時半には最後の2メートルを残して剥離作業は終了し、あとはお客さんを待つのみだった。
「ま、長めのコーヒーブレイクってことで」
私は人数分の缶コーヒーを自販機で買って来ると、一人ひとりに手渡した。
「で、お偉方はいつ来るの?」
「もうすぐ、としか聞いていないですね」
全員で土手の日向に腰を下ろし、コーヒーを啜る。
「これで片付けが終わったら打ち上げですねぇ」
私は話題を楽しい方向に向ける。
「キーちゃん、いつあのフィリピンパブに行くんだよ」
佐野が嬉しそうな顔をする。
「最後の敷鉄板の撤去が終わったら、その夜に皆で行きましょう」
「木田さん、俺と小磯さんはどうなっちゃうの?」
ハルは、自分がどういう扱いになるのかが気になるらしい。
「もちろん皆で呑みましょう。だから、最終日は全員で佐野さんと同じ宿に泊まりますからね」
「うぉっしゃー、徹底的に呑んでやる!」
小礒がガッツポーズを入れる。
「なんでも、中々マニアックなお店らしいですよ」
皆で一時間近くもフィリピンパブについて語り合っていると、K建設工事主任の柳が、小走りでやって来た。
「所長が早くロボットを動かせと言っていますので、至急お願いします!」
「ふぅー、なんだかなぁ」
「うー、どっこらせっとぉ…」
「うーい、行くぞぉー」
銘々がだらけた気合で、重くなった体を引きずり上げる。どんな人間でも、一旦緊張感が解けてしまうと、中々元の状態に戻すのが難しい物だ。
「あの、急いでお願い…」
柳が困惑した顔で頼んで来る。
「ハイっ!大丈夫ですよぉ!」
私はわざと明るく気合を入れて、ハスキーのエンジンを掛けに走った。
十分後、全ての機器の安定状態を確認すると、私は水管橋の中に入った。
マンホールからすぐの場所、残り2メートルを剥離する為に、管内ロボットが内壁に沿って回転している。
それを所長の鴻野や、主任の柳、そして六人の作業着を着たM資源公団の人間が観察している。
「どうですか、わざわざ工事を中断してまでお出迎えした、M資源公団の皆さんは?」
私は佐野の耳元で、小声で聞いた。
「ん?なんか今一つ反応が薄いね」
「…マジですか?」
「うん、ほぼ無反応」
「…」
私はとても寂しい気持ちになり、急いでフィリピンパブに行きたいと、管内で思っていた。