「もしもし アメリカ銀行のジェーンともうしますが、Love先生はご在宅でしょうか。」
「ええ、私ですけど何か…。」
「実はあなたの預金口座に不審な動きがみられるのでちょっとご確認していただきたいのです。」
(なんか妙な電話だなあ、一種の詐欺かも)Love先生は起きたばかりでぐしゃぐしゃの髪の毛をかきあげる。
「Love先生、スーザンブラウンという人物とは何かお引取りでもされていますか?」
(スーザン、スーザン…)何度もつぶやいてはみるもののいっこうに思い当たらない。
「そんな人全然知りませんけど、どうして?」
「それでは最寄のアメリカ銀行にすぐ行らしててください。詳細は銀行員から直接伺っていただくとして数十回に渡って不審な引き落としがおこなわれているのです。」
Love先生、当直明けで もしかしたらまだ悪い夢でもみているのかもしれないと、ねぼけまなこでまわりをみわたすが、1歳になる娘が足にまとわりついてなきじゃくりはじめてハッと我に返る。
急がなくっちゃ、でも何かの間違いかも、と着の身着のまま愛車のベンツに飛び乗る。
Dr.Loveを待っていたのは銀行マンのジョンだった。彼は、年のころ35,6でヒスパニック系の好青年。背はそんなに高くはないが、体は筋肉質でな んともかっこいい感じのハンサムボーイである。手際よくコンピューターで預金口座の動きをさぐってくれ、どうやらオンライン詐欺にあっているらしいことが 徐々に判明してきた。
すぐに預金口座を止め、銀行から夫のピーターに電話をする。彼はマイアミのエアポートにいて今まさに南米のボリビア行きの飛行機に搭 乗寸前だった。彼は米政府派遣の熱帯伝染病の調査に参加するために2ヶ月の予定で昨日うちをでたばかりであった。預金口座を止めたから銀行のカードが使え ないというとジャングルの中に入るからどっちみちカードは使えないという。けっきょく話はしりきれとんぼになってピーターはボリビア行きの飛行機に乗り込 んでいってしまった。
Dr.Loveはなぜかあの銀行マンのジョンのことが気にかかっていた。久しぶりに出会った好青年。年をとってきた証拠かしら、年下の男の子に惹かれる なんて。その次の日もその次の日もDr.Loveはアメリカ銀行に向った。不正の引き落としは数十回に渡り、合計約100万円の詐欺にあっていたことがし だいにわかってきた。
その詐欺の事件の調査に当り本当に親身になって助けてくれたジョンの笑顔にDr.Loveは恋をした。夫がまわりにいないこともその 恋に拍車をかけた。人妻であることも子供がいることも一瞬忘れて空想と妄想の世界にのめりこんでいった。
銀行通い4度目の詐欺の調査のめどもかなりついたある日、Dr.Loveは思い切って
「お子さんいらっしゃるんでしょう?」
と聞いてみた。
「実は私、小 児科の病棟で働いているんで、もしお子さんがいらして健康相談みたいなことあればいつでもおちからになりますから。これは助けていただいたお礼です。」
と 携帯の番号の書かれたメモをさしだした。
ジョンは静かにくびをふる。
「僕独身ですよ。」
ええ~!!独身だって?信じられない。こんな好青年を誰が放ってお くものか。Dr.Loveの心臓は飛び出さんばかりに高鳴っている。ジョンはデスクの引き出しをあけて1枚の写真を取り出した。そしてDr.Loveの目 の前に静かにさしだした。
目の前の写真にはジョンともう一人の若い男が寄り添っていた。ガ~ン!!その瞬間、Dr.Loveのはかない人妻の片思いはみごとに散った。
つづく