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pride and vainglory -澪標のpostmortem(ブリッジ用語です)-

初歩の文書分析と論理学モドキ(メモ)

初秋読書案内 ❶歴史哲学?

2021-09-10 14:28:39 | 雑談
 先日、東洋経済で大崎 明子さんの不思議な記事を読んでいたら、その横の紹介リンクで更に不思議な記事を見つけてしまいました。まあ翻訳者の提灯記事、蝦蟇の油売りの口上とは思いつつ、近くの図書館に有ったのを思い出して、借り出して読んでみました.

English Wikipediaの
Anthropologist Christopher Robert Hallpike reviewed the book and did not find any "serious contribution to knowledge". Hallpike suggested that "...whenever his facts are broadly correct they are not new, and whenever he tries to strike out on his own he often gets things wrong, sometimes seriously". He considered it an infotainment publishing event offering a "wild intellectual ride across the landscape of history, dotted with sensational displays of speculation, and ending with blood-curdling predictions about human destiny.
との評価が妥当なところだとは思いますが、その直下の聊か勇み足な発言をしたくなる気持ちも分からないではありません。
Science journalist Charles C. Mann concluded in The Wall Street Journal, "There's a whiff of dorm-room bull sessions about the author's stimulating but often unsourced assertions."

 私なりの言葉で言えば、適度に挑発的で刺激的。これまでの西欧オリエンテッドの思考の枠組みを少しだけ変えてくれると同時に、西欧世界こそ進化進歩変化の大義王道であることを”再確認(再保証)”してくれる本です。しかしその論拠となるとかなり胡乱。まあ面白い歴史哲学講談です。言い換えれば日本文化スゲー型の教養番組・文化論とは互いに倒立鏡像の位置にあります。

 十五章の”認識の枠組みの変化”について述べた部分から胡乱な例を二つほど挙げます。
 ❶下巻pp101”エンリケ航海王子とヴァスコ・ダ・ガマはアフリカの海岸を探検し、その間、次々に島や港を、掌握した。”
  *エンリケ航海王子はセウタ攻略遠征に参加していますが、アフリカ沿岸探検に遠征した事はありません。著者にはヴァスコ・ダ・ガマの大迂回航路についての知識もないようです。
 ❷これに続く103ページ以降で、地図の記法の変化と世界の認識についての変化について記述し、その例として図36と図37の二つの図を載せています。この二つの図はそれぞれ
 図36:フラマウロの地図
 図37:サルヴィアーティの地図
ですが、参考の為二つほど地図を追加します

A アニアン海峡伝説との関連でも有名(悪名?)の高いメルかトールの北極図(16世紀末)

B カンティーノの世界図(1502年)


 ❶ルネサンス期末期から、空白部部分のある地図が出現したのは事実ですが、15世紀中期以降のポルトガルによるアフリカ沿岸探検地図の伝統に属するもので、16世紀に出現したものではありません。
 ❷空白部のある世界図を挙げるのなら、20年ほど先行するBカンティーノの世界図を挙げるのが筋だと思いますが、この地図だと空白の理由が”未知”ではなく、”政治的危険回避”である可能性も生起します。
 ❸メルカトールの地図だけが例外ではなく、リンスホーテンの「東宝案内記」内の地図など実用目的の地図でも空白を許さない地図はいくらでも挙げられます、
 ❹図36はFraMauroの世界図ですが、著作内では明確な表示がありません。かなりDecencyを欠く行為です。
 更に問題含みなのは、地図の上下が逆な事です。南を上とするイスラーム地図の伝統に沿ったものである事を知らなかったとすれば無知。知っていて注釈もつけずに上下逆にし”1459年のヨーロッパの世界地図(ヨーロッパは左上にある)”とタイトル付けして掲載したのならば、無恥。
 

 いずれにせよEurocentricな政治歴史巷談です。まさかこんなものに騙されるものはいないとおもっていましたら、ピンポイントで直撃された方がいらっしゃいました。!(^^)!

https://www.c.u-tokyo.ac.jp/fas/Dean_speech20210318.pdf
令和 2 年度 教養学部学位記伝達式
"教養学部長式辞(令和 3 年 3 月 18 日)より:東京大学教養学部長 太田 邦史
サピエンス全史で、未知なるものへの探求という人類の欲求について語られています。こ
れに関しては、1492年の新大陸発見後の1525年にサルヴィアーティが書いた世界地図が面
白いです。それ以前の地図は、ヨーロッパ人が知っている欧州大陸などだけが地図に書か
れていますが、サルヴィアーティの地図ではアメリカ大陸のその先は大きな空白になって
います。人類が世界に対して「無知の知」を自覚したということでしょう。哲学・科学の
歴史についても、「無知の知」というのがとても重要な転機になっています。人類の知的
活動については、このような探求を通じた、フィクションのアップデートのサイクルが重
要ですが、それこそが「教養」が生み出すものだと思うのです。"

 ハラリより更に一歩踏み込んだ買弁ぶり、現代の奇観。教養学科の文化人類学・科学史科学哲学の先生方は何を・・・以下Ry!(^^)!

 ※探検地図の歴史:ちくま学芸文庫2019
  1958初版、1986初訳の古い本ですので内容的には聊かoff-dateな部分もありますが、古地図好きの方にはお勧めです。
  訳者の一人増田義郎さんは石田英一郎、泉靖一、中根千枝、増田義郎、大林太良・・・と続く東大教養学部教養学科文化人類学専攻、東大東洋文化研究所の教授の一人です。!(^^)!
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