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新ドラキュラ 悪魔の儀式

2007年01月21日 03時23分54秒 | 映画・DVD・テレビ番組
新ドラキュラ 悪魔の儀式

原題:The Satanic Rites Of Dracula
1973年英(ハマー・プロ)

監督:Alan Gibson
脚本:Don Hougton
音楽:John Cacavas
出演:MICHAEL COLES as Murray、PETER CUSHING as Van Helsing、WILLIAM FRANKLYN as Torrence、JOANNA LUMLEY as Jessica、CHRISTOPHER LEE as Count Dracula

販売元:WHDジャパン(ttp://whd.dip.jp/ 最初のhは抜いてます) 1,500円(税込)

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多分、遥か昔に見たことがあったと思っていたのだが、今回、久々に見て、丸っきり記憶になかったことがわかった。小さい頃、怪奇映画が大好きだった僕は、ハマー・プロの作品、特にドラキュラ関係は全て見たと思っていたのだが。当時はレンタルビデオもなく、情報誌や新聞、伝聞を頼りに上映している映画館を探して見ていたが、どうやらこの作品は見逃していたようだ。不覚だ。

ハマー・プロのドラキュラ映画の一作目、「吸血鬼ドラキュラ」は傑作と言い切っていい映画だろう。ホラー、怪奇映画というよりは、古典的アクション映画であり、テンポよく最後まで飽きさせずに見せてくれる。

今回のこの映画は、「吸血鬼ドラキュラ」で、ヴァン・ヘルシング教授をピーター・カッシング、ドラキュラ伯爵をクリストファー・リーという配役でタッグを組んだ二人の、揃っての出演が最後となるドラキュラ映画である。

この二人は全てのハマー・プロ製のドラキュラ映画で出演していると思われがちだが、ハマー・プロが製作したドラキュラ映画全九作のうち、四作しか競演していない。それだけ、一作目の強烈な印象と、二人が役に嵌っていたという証拠だろう。

最初からいきなりヨーロッパの雰囲気が画面中に広がる。そして、期待する不安感。恐怖感。音楽の良さも相乗効果を確実に演出している。この雰囲気は、昔関西のUHF局であるサンテレビが昼にやっていた映画劇場を思い出す。サンテレビの昼の映画劇場はよくホラー系の映画も放映されていて、幼い頃、学校から帰るとワクワクして見ていたことを思い出した。

「吸血鬼ドラキュラ」もそうであったが、今作もテンポが良い。これで、ダレずに、飽きずに映画に夢中になれるのである。そして、見せたいものを重点的に映す或いは示唆する画面(カット)。余計なものは描写しない。これにより、観客は重要なものを忘れずに、物語を咀嚼出来るのである。上手い構成であり、また編集の良さが映画を決めるという見本のようである。

物語の構成は、単純明快な勧善懲悪の構図となっている。善はヴァン・ヘルシング教授であり、悪はドラキュラ伯爵である。情報部の部長という登場人物は、途中裏切るのではないかという予想を立て易い立ち位置ではあるが、善に協力するものとして、最後まで(劇中での)人生を全うする。

余計なものを省き、何を見せたいのかを十分に吟味し、テンポよく、素晴らしい役者を配する、このような単純なことを行うだけで、映画は見違えたように面白くなるのだろう。

この映画も、ホラー、怪奇映画というよりは、アクション映画の様である。しかし、現在のように人間がアクションをして見せるというタイプではなく、物語と構成がアクションしているのである。

物語の展開も単純だ。ある屋敷で悪魔崇拝の儀式が行われている。そこに潜入した情報部員が命を懸けて持ち帰った情報は、政府高官や有名著名な人物も絡んでいた。情報部のトップである大臣もその内の一人である。このままではもみ消されると踏んだ情報部の部長は、ロニー・ジェームス・ディオに似た(歌が上手いかは不明)マレー警部を呼び、部下の凄腕トレンス(外見は不倫を熱望している中年親父で、最後は間抜けだった)と共に調査に当たらせる。そして、ロニー・ジェームス・ディオに似た(シークレットブーツも履いている)マレー警部は、この調査にあたって、ヴァン・ヘルシング教授に協力を依頼するのであった。

ピーター・カッシングとクリストファー・リーの存在感は、どう表現してもこの言葉に落ち着くだろう。使い古された言葉だが、素晴らしい、この一言である。

特にクリストファー・リーのドラキュラ伯爵は、「吸血鬼ドラキュラ」でのドラキュラ伯爵と比較して見て欲しい。「吸血鬼ドラキュラ」でのドラキュラ伯爵は、野心に溢れている。自分の野心の為に、元気一杯なのである。この映画でのドラキュラ伯爵は、どことなく疲れている。くたびれていると言った方が当たっているのかもしれない。覇気が感じられないのである。その理由は本編で、ライバルであるヴァン・ヘルシング教授に語らせているのだが、こういう演出も憎いものである。こうすることによって、ドラキュラ伯爵を変に雄弁にすることなく、心情を観客に理解させるのだ。喋り過ぎて映画的に自滅することはないのである。

推測だが、クリストファー・リーにとっては最後のドラキュラ映画となった今作で、自分の演じるドラキュラ伯爵を永遠の眠りにつかせたかったのではないだろうか。その思いが自然と出てしまったのではないだろうか。

最後の場面、ヴァン・ヘルシング教授の、安堵感とは言えない表情との対比を見て欲しい。ドラキュラ伯爵は、全ての生物を道連れにした死を望み、ヴァン・ヘルシング教授は、勝利したのに不安という恐怖と虚無感を残す。まるで勝者と敗者が逆のようである。この最後の場面が、それまでのクリストファー・リー演じるドラキュラ伯爵の佇まいで納得出来るのである。最後になるかわからないピーター・カッシング演じるヴァン・ヘルシング教授は、不安と空虚感と共に未来を見るしかないのである。偶然だろうが、演じ切るのが難しい部分で、こういう現実の思いが出るというのは、二人の役に対しての同調の成果だろう。

ただ、面白い映画ではあるが、傑作とまでは言い切れない。それは、テンポのよさを前面に出したが故に、大事な伏線を効果的に張れなかったことが挙げられる。テンポよく進める為に単純明快に物語を進行させるのだが、その仇が最後の対決において、重みもなく、あっさりし過ぎという結果を導いてしまった。

最後の場面、ドラキュラ伯爵が苦手とする茨の木の中に突っ込んで行くのも、自殺願望があるというのは提示されているので、無理に納得は出来るのだが、映画として考えた場合、ドラキュラ伯爵の重み、威厳が消えてしまいかねない。これではただのアホ伯爵だ。

この伏線としては一応、ヴァン・ヘルシング教授がドラキュラ伯爵の苦手となるものを教えている場面の中であるのだが、場所としては唐突に出て来たものである。これを、ロニー・ジェームス・ディオに似ているけど彼よりも身長は高いであろう(実は劇中で一番多く【小物だが】吸血鬼を退治している。ヴァン・ヘンルシング教授の二倍のスコアだ。但し、ヴァン・ヘルシング教授は大物を退治している)マレー警部が屋敷に侵入する際にこの場所を発見し、ヴァン・ヘルシング教授に伝えるという場面を作るだけで、ドラキュラ伯爵の評価、威厳も下げないし、ヴァン・ヘルシング教授の頭脳プレイという形を取ることも可能だ。魔人の魔力に対抗しての、人間の知力である。

最後の、映画を決定付けてしまう部分だけに悔やまれる。それまで、十分に面白く堪能させているだけに、余計に最後の詰めの甘さが目立つのである。

苦言を呈してしまったが、それでもこの映画は面白いと言える。予算はあまりなかったと思われるが、アイデア、撮影方法、構成、頭の使い方次第で、このように出来の良い映画を作ることが可能なのである。登場する女性吸血鬼にしても、牙を付けているだけである。しかし、それまでの雰囲気と構成で、禍々しい妖しい恐怖感を醸し出しているのである。

劇中の舞台にしてもそうだ。登場人物の行動範囲はロンドン及びその近郊だけである。こういう場合、スケール(感)が小さくなり、悪い意味でこじんまりとしてしまうのだが、スケール(感)を小さくすることなく、逆にこじんまりとした範囲の中での出来事ということを逆手に取り、全人類滅亡の第一歩を秘密裏に行っているという、じわりとした恐怖を効果的に演出出来ているのである。

何度も書くことだが、この映画はホラー、怪奇映画というよりもアクション映画である。恐怖を感じるという部分では物足りない部分は否めないが、躍動する展開を堪能して欲しい。

出来れば、「吸血鬼ドラキュラ」を最初に見て欲しい。そして、本作を見て欲しい。最初と最後の、魔人と人間の対決を目に焼き付けて欲しい。

今回のDVDの特典映像について。解説・トータル監修の石田一氏は、失礼なことに今まで名前を存じ上げていなかったのだが、宇宙船やスターログ、ファンゴリアに携わっておられたという経歴の持ち主である。宇宙船は創刊号から購入していた僕は、恐らく小さい頃から氏の書かれたものを読んでいたと思う。特典での、ドラキュラを語る氏の表情は、大の大人に対して失礼な言い回しではあるが、小さい子供におもちゃを与えたようなキラキラした輝きを感じた。内容も、マニアに対しても一般の人に対しても両立して提供出来る興味深い内容であり、これは編集した制作側の努力もあったであろう。

そして最後に。マレー警部役の役者を是非注目して見て欲しい。これは、ロニー・ジェームス・ディオがこの後ブラック・サバスに加入することを暗示している証拠だ。違います。


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1 コメント

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有難うございます (鳥啼天駆)
2007-01-21 13:09:41
最大の賛辞に感動しております。
本当に少しでも多くの人にこのドラキュラ映画を観ていただきたいと心から願っております。
(全財産叩いたかいがありました…)
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