私に限らず、マーラーの交響曲第9番が大好きであるという人は多いようです。また、この曲のLPやCDのセットをいくつも持っているという人も少なくないようです。実際、名演と言われるものが多く、或る種の記念の意味をこめて演奏に臨む指揮者もいます。
この曲を生演奏で聴きたいとかねがね思っていましたが、実現しました。ヘルベルト・ブロムシュテット氏指揮のNHK交響楽団です。
時折入れられるヴィオラ独奏が非常に印象的でしたが、どの楽章もよく、私の頭の中でもすぐにフレーズが同期します。演奏に入り込んだという感じでしょうか。ニ長調でありながら重々しい第1楽章、レントラーの調子で時に滑稽に、時に荒々しく響くハ長調の第2楽章、激情のイ短調で穏やかさのニ長調を挟み込んだような第3楽章と続きます。この第3楽章の中間部では第4楽章のフレーズが先行して登場しており、そうかと思うと激しい曲調に戻り、強音で終わります。このあたりはかなり巧みだと感じます。そして、変ニ長調の第4楽章が短い序奏とともに始まります。第1主題を聴いて、すぐに目が潤んできたほどでした。このところ、様々なことがあっただけに、思いが溢れてきてしまい、それを何とか抑えようとしたほどです。第4楽章には特に印象的かつ心を動かされる箇所がいくつかあるのですが、そうした部分も申し分のないものでした。
そして、ヴィオラがG、As、B、Asと弾いて、Sehr langsam und noch zurückhaltendの指示通り、消え入るようにこの曲が終わり、かなり長い余韻がありました。指揮者の腕はなかなか下がらず、消えてしまった音を追いかけているのかのようにも見えます。その後、割れんばかりの拍手が起こり、聴衆が総立ちになりました。それだけ素晴らしかったということでしょう。盛大な拍手はよくあっても、総立ちというのはそうめったにあるものではないのです。
「この曲を知ることができてよかった」と思うことが、私には何度もありました。「当然だろう?」と言われるかもしれませんが、「一生付き合おう」と思える音楽に出会うことは、あまり多くないでしょう。私にとっては、今年コンサートで聴いたものとしてブルックナーの交響曲第7番とマーラーの交響曲第9番をあげることができます。その理由は、実際に聴いて判断していただくしかないでしょう。