ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

第6回 行政立法その1:行政立法の定義、法規命令

2020年05月05日 00時02分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.行政立法とは

 憲法第41条には、国会が「国の唯一の立法機関である」と定められている。ここにいう立法は実質的意味の立法を意味するものとされているから、原則として、実質的意義の立法(権)は立法機関たる議会(国会)によって担われるべきものと考えられる。

 しかし、現実の問題として、全ての事項について詳細にわたって立法機関が実質的意義の立法(権)を行使することは不可能である。そこで、法律を執行するための細則などを行政機関が定める必要が出てくる。また、法律は、或る事項についての要件の決定などを行政に委任することが多くなっている。そこで、行政権が実質的意味の立法権を行使することになる。

 憲法第73条第6号も、内閣による実質的意味の立法の行使(政令の制定)を認める。但し、実質的意味の立法ということで、国民の権利や自由などに直接の影響を与えることが予定されることになるため、一定の要件を必要とする。

 それでは、何故、行政立法が必要とされるのであろうか。ここで、よく指摘される点に私自身が考えていることを交えて掲げておく。いずれも深く結びついている。

 第一に、福祉国家理念の実現のため、行政需要の拡大と、迅速な対応の必要性が生じたことである。

 第二に、科学技術などの発展と、それに対する専門技術的知識の必要性が高まったことである。

 第三に、法律の改正には時間がかかり、事態の推移などに迅速に対応しにくいが、行政立法の場合は、法律の改正ほど時間がかからないので、より的確な対応を速くとりうることである。

 第四に、現実に見られる一般的な傾向として、専門技術などについては国会(議員)より行政(職員)のほうが熟達している、という事実を否定することはできないであろう。このためもあって、法律で詳細な規制基準を設けることが難しくなっている。仮に法律に盛り込むとすると、今度は法律の規定がわかりにくいものになりかねない。

 勿論、行政立法の有用性を認めるとしても、日本国憲法が三権分立主義を採用する限り、行政立法は例外的な存在である。また、行政立法は国民主権の原理に照らしても例外的な存在と言わざるをえず、むやみな拡大は望ましくない。行政立法の問題点としては、さしあたり、次の点を指摘しうる。

 まず、行政立法については、国会が行政に対して行う統制(コントロール)を働きにくくするという点を指摘しうる。

 もっとも、それならば法律や条例はどうなのかという問題もある。現実には、法律や条例の大部分が行政の担当部局の職員により、案として作成されているからである。最近でこそ少なくなったが、オール与党化が指摘された地方議会の議員には、議会の役割が執行機関(地方公共団体の長以下の機関)による予算を成立させることこそ議会の役割であると公言する者が多かった。これでは大日本帝国憲法下において天皇の翼賛機関とされた帝国議会と変わりがなく、まともな議会活動を期待できないし、行政の独走などを許すだけである。

 次に、法律の改正と異なり、行政立法の改正は国民の目に触れにくい。とくに、行政規則とされるものがそうであり、行政権の裁量による新設・改正・廃止が実質的に我々の生活に影響を及ぼす可能性がある。

 そして、現在の裁判制度においては、たとえ行政立法が憲法や法律に違反しているとしても、行政立法自体の違憲性や違法性を争う手段がない。何か具体的な事件が発生しなければ、行政立法の違憲性や違法性を問うことができないのである。これでは、仮に行政立法が憲法や法律に違反しているとしても、その状態が放置され、固定化されることになるのである。

 

 2.行政立法の種類

 従来の学説は、行政立法を二つに大別していた。これについては、全く性質の違う手段を一つにしているということで批判がありうるが、ここでは便宜上、従来通りに説明をする。

 法規命令:これは委任命令執行命令とに分かれる。名称のとおり、私人の権利や自由などに直接の影響を及ぼすことが予定されている。

 行政規則:これは私人の権利や自由などに直接の影響を及ぼさないとされるものである。基本的に行政内部における一般的・抽象的規範である。

 

 3.法規命令

 (1)定義など

 法規命令とは、行政機関が制定する、行政と私人との権利義務関係に関する一般的規律のことである。名称のとおり、狭義の「法規」としての性質を有する。内閣が発する政令(憲法第73条第6号、内閣法第11条)、内閣府令(内閣府設置法第7条第3項)、各国務大臣が発する省令(国家行政組織法第12条第1項)が法規命令に該当する。

 法律の留保の原則によると、狭義の「法規」を作りうるのは、国民の代表機関である議会によって定立される法律(狭義の法律)のみである。法規命令は、この原則に対する例外をなすのであるから、この原則を可能な限り貫徹するためには、行政機関が単独で実質的な意味における立法の権限を行使することを許してはならない。従って、狭義の法律とは異なり、法律の委任がなければ、国民に義務を課し、または権利を制約する規定を設けることはできない(憲法第73条第6号、内閣法第11条、内閣府設置法第7条第4項、国家行政組織法第12条第3項を参照)。

 日本国憲法の下において、法規命令は、委任命令と執行命令とに区別される。なお、大日本帝国憲法第9条は、法律の委任を受けることなく天皇(行政)が発する独立命令も認めていたが、日本国憲法において独立命令を認める余地はない。

 委任命令とは、法律の委任により、新たに私人の権利・義務を創設するなど、私人の権利や自由などに直接的・具体的な影響を与えるもので、実体的な条文を定める。学説は、実体性に着目して、個別的かつ具体的な授権規定の必要性を主張する。

 これに対し、執行命令とは、上位の法令の執行を目的とし、上位の法令において定められている私人の権利や義務を詳細に説明する命令、または、私人の権利や義務を実現するための手続に関する命令をいう。執行命令については一般的な授権で足りるとされる(新たな権利義務の設定を伴わないためである)。

 (2)法律による委任の問題点

 委任命令については、法律における授権規定の性質が問題とされる。抽象的・包括的な委任では、法律に何らの要件をも定めないことと同じであり、行政が実質的な意味の立法権を自由に行使することを許容することになりかねないためである。

 私が、個別的かつ具体的な委任の例として、よく講義で委任命令の例として利用するのが、所得税法第27条第1項と所得税法施行令第63条である。まず、所得税法第27条第1項の規定をみよう。

 「事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。」

 この規定は、事業所得とされる所得についての詳細な定義を政令としての施行令に委任する旨を示すが、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業」と具体的な例を自ら示している。これにより、施行令に委任されるべき事柄は明確であり、範囲も限定されることとなる。「その他の事業で政令で定めるもの」が、法律に例示された事業から遠くかけ離れたようなものであったり、そもそも事業とは言えないものであったりすることは許されない。そこで所得税法施行令第63条をみよう。次のような規定である。

 「法第27条(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。

 一 農業

 二 林業及び狩猟業

 三 漁業及び水産養殖業

 四 鉱業(土石採取業を含む。)

 五 建設業

 六 製造業

 七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)

 八 金融業及び保険業

 九 不動産業

 十 運輸通信業(倉庫業を含む。)

 十一 医療保険業、著述業その他のサービス業

 十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業」

 基本的に、法律第27条第1項の例示に即しつつ、より詳細に事業の内容を示していることがわかる。施行令第63条第2号は第1号(法律に示された例)に近いものであるし、施行令のほうの第3号にある水産養殖業は、当然、漁業に結びつく。第11号および第12号は少々具体性を欠くが、事業とされるものの範囲が広範であり、時代の変遷とともに拡大することからして、やむをえないものである。また、施行令第63条柱書きでは不動産の貸付業、船舶の貸付業および航空機の貸付業が除外されているが、これらは所得税法第26条において不動産所得とされていることによる。租税法に求められる要請が基因となっているのかもしれないが、所得税法施行令第63条は、委任立法として望ましい形に仕上がっている例と評価することもできるであろう。

 行政法学、さらには憲法学において問題とされるのは、国家公務員法第102条第1項である。同項は、国家公務員に対し、選挙権の行使を除いて人事院規則14-7に定められる「政治的行為」を禁止している。これは、法律そのものが、禁止すべき「政治的行為」の性質について全く例示をしないまま、具体的な中身を人事院規則に委任していることを意味する。選挙権の行使は憲法第15条により保障される基本的人権であるから、これを「政治的行為」から除外するのは当然であり、除外したところで何が「政治的行為」であるかを法律そのものから了知しうる訳ではない。そもそも「政治的行為」はあまりに漠然としている概念であるから、国家公務員法第102条第1項については、法律の授権が包括的にすぎる、白紙委任であるとして、批判も強い。しかも、同項に違反した場合には同第110条第1項第19号という罰則が適用されうるので、一般的・包括的な委任では罪刑法定主義を逸脱することになりかねないのである。

 白紙委任の代表例として、刑法第94条がある(現在に至るまで適用例はない)。これは中立命令違反罪を規定するものであるが、犯罪の構成要件が完全に「局外中立に関する命令」に委任されており、法律は刑罰のみを明らかにしている。

 国家公務員法第102条第1項については、裁判でも合憲性が問題とされた。しかし、判例は合憲としている。次の二つの判決を紹介しておこう。

 ●最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁(猿払事件)

 事案:郵政事務官であったX(被告人)は、昭和42年1月8日告示の衆議院議員総選挙に際して、勤務時間外に自らの支持する政党が公認した候補者の選挙用ポスターを掲示した、などとして起訴された。一審判決(旭川地判昭和43年3月25日下刑集10巻3号293頁)および二審判決(札幌高判昭和44年6月24日判時560号30頁)はXを無罪としたが、最高裁判所大法廷は両判決を破棄し、Xを有罪(罰金刑)とした。

 判旨:「政治的行為の定めを人事院規則に委任する国公法102条1項が、公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を具体的に定めることを委任するものであることは、同条項の合理的な解釈により理解しうるところである。そして、そのような政治的行為」は「公務員組織の内部秩序を維持する見地から課される懲戒処分を根拠づけるに足りるものであるとともに、国民全体の共同利益を擁護する見地から科される刑罰を根拠づける違法性を帯びるものであ」り、同項が「同法82条による懲戒処分及び同法110条1項19号による刑罰の対象となる政治的行為の定めを一様に委任するものであるからといって、そのことの故に、憲法の許容する委任の限度を超えることになるものではない」。

 ●最二小判平成24年12月7日刑集66巻12号1722頁

 事案:厚生労働省事務官であったX(被告人)は、勤務時間外である休日に、自らが支持する政党の機関紙を世田谷区内の警視庁職員住宅に投函して配布した。これが国家公務員法に違反するとして起訴された。一審判決(東京地判平成20年9月19日刑集66巻12号1926頁)、二審判決(東京高判平成22年5月13日判タ1351号123頁)のいずれもXを有罪(罰金刑)とした。最高裁判所第二小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:国家公務員法第102条第1項にいう「政治的行為」とは「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当である。そして、その委任に基づいて定められた本規則も、このような同項の委任の範囲内において、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる行為の類型を規定したものと解すべきである。同項が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって、憲法上禁止される白紙委任に当たらないことは明らかである」。 

 (3)法規命令の違法性

 委任する法律の側ではなく、委任を受けた側(法規命令)の違法性が問題となることがある。以下、若干の例を概観しておく。

 ●最大判昭和46年1月20日民集25巻1号1頁(Ⅰ―47)

 事案:農地法第80条(当時)は、国が強制買収で取得した農地について農林大臣が農地としての性格が認められないとして相当と認めた場合に旧所有者又はその一般承継人に売り払わなければならないと規定していた。法律の規定では対象の土地について限定を加えていなかったが、農地法施行令旧第16条は「公用、公共用又は国民生活の安定上必要な施設の用に供する緊急の必要があり、且つ、そのように供されることが確実な土地等」に限定していた。

 Xらが所有する土地は、いずれも1947(昭和22)年12月2日に自作農創設特別措置法第3条に基づく買収処分を受け、国が所有することとなった。これらの土地は現在の稲沢市における都市計画および土地区画整理事業の対象となり、仮換地処分などを受けて農地から宅地などに転用され、さらに第三者への売渡処分の対象となった。Xらは売渡処分の取消などを求めて出訴した。一審判決(名古屋地判昭和41年11月29日民集25巻1号13頁)はXらの請求を一部却下、一部棄却し、二審判決(名古屋高判昭和42年3月16日民集25巻1号21頁)もXらの控訴を棄却した。最高裁判所大法廷は、事件の一部を名古屋地方裁判所に差し戻した。

 判旨:農地法施行令旧第16条第4号が「買収農地のうち法80条1項の認定の対象となるべき土地を買収後新たに生じた公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実なものに制限していることは、その規定上明らかである。その趣旨は、買収の目的を重視し、その目的に優先する公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実な場合にかぎり売り払うべきこととしたものと考えられる。同項は、その規定の体裁からみて、売払いの対象を定める基準を政令に委任しているものと解されるが、委任の範囲にはおのずから限度があり、明らかに法が売払いの対象として予定しているものを除外することは、前記法80条に基づく売払制度の趣旨に照らし、許されないところであるといわなければならない。中略)農地買収の目的に優先する公用等の目的に供する緊急の必要があり、かつ、その用に供されることが確実であるという場合ではなくても、当該買収農地自体、社会的、経済的にみて、すでにその農地としての現況を将来にわたつて維持すべき意義を失い、近く農地以外のものとすることを相当とするもの(法7条1項4号参照)として、買収の目的である自作農の創設等の目的に供しないことを相当とする状況にあるといいうるものが生ずるであろうことは、当然に予測されるところであり、法80条は、もとよりこのような買収農地についても旧所有者への売払いを義務付けているものと解されなければならないのである。したがつて、同条の認定をすることができる場合につき、令16条が、自創法3条による買収農地については令16条4号の場合にかぎることとし、それ以外の前記のような場合につき法80条の認定をすることができないとしたことは、法の委任の範囲を越えた無効のものというのほかはない。」

 ●最一小判平成2年2月1日民集44巻2号369頁

 事案:スペイン内戦(1936〜1939年)の研究者であるXは、グラナダでサーベル2本を購入し、Y(東京都教育委員会)に登録を申請したが、Yは申請を拒否する処分を行った。これを不服として、Xは申請拒否処分の取消を請求する訴訟を提起した。

 当時の銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)第14条は、銃砲刀剣類のうちで美術品や骨董品としての価値があるものについては、文化庁長官への登録によって所持できる旨を定めていた。これを受けて、銃砲刀剣類登録規則第3条第2項が「登録審査委員は、鑑定にあたつては、次条の鑑定の基準に従つて公正に行なわなければならない」と定めるのであるが、同規則第4条第2項は刀剣類の鑑定の対象を日本刀に限定している。外国刀剣はいかなる物であっても登録の対象とならないため、その是非が争われた。一審判決(東京地判昭和62年4月20日行集39巻7・8号832頁)はXの請求を棄却し、二審判決(東京高判昭和63年8月17日行集39巻7・8号826頁)もXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、次のように述べてXの上告を棄却した。

 判旨:「銃砲刀剣類登録規則の趣旨は、どのような刀剣類を我が国において文化財的価値を有するものとして登録の対象とするのが相当であるかの判断には、専門技術的な検討を必要とすることから、登録に際しては、専門的知識経験を有する登録審査委員の鑑定に基づくことを要するものとするとともに、その鑑定の基準を設定すること自体も専門技術的な領域に属するものとしてこれを規則に委任したものというべきであり、したがって、規則においていかなる鑑定の基準を定めるかについては、法の委任の趣旨を逸脱しない範囲内において、所管行政庁に専門技術的な観点からの一定の裁量権が認められているものと解するのが相当である」。また、「刀剣類の文化財的価値に着目してその登録の途を開いている前記法の趣旨を勘案すると、いかなる刀剣類が美術品として価値があり、その登録を認めるべきかを決する場合にも、その刀剣類が我が国において有する文化財的価値に対する考慮を欠かすことはできないものというべきであ」り、「規則が文化財的価値のある刀剣類の鑑定基準として、前記のとおり美術品として文化財的価値を有する日本刀に限る旨を定め、この基準に合致するもののみを我が国において前記の価値を有するものとして登録の対象にすべきものとしたことは、法一四条一項の趣旨に沿う合理性を有する鑑定基準を定めたものというべきであるから、これをもって法の委任の趣旨を逸脱する無効のものということはできない」。

 なお、角田裁判官および大堀裁判官による反対意見が付されている。趣旨は、銃砲刀剣類登録規則第4条第2項が銃砲刀剣類所持等取締法第14条第5項による委任の限度を超えて違法無効であり、従ってXに対する申請拒否処分も違法である、というものである。

 ●最三小判平成3年7月9日民集45巻6号1049頁(Ⅰ―48)

 事案:当時の監獄法第50条は、在監者への接見の制限について「命令」(法務省令)で定めるとしており、監獄法施行規則第120条は14歳未満の者が在監者と接見することを許さないとする規定であった。この施行規則第120条が法律の委任の限界を超えるか否かが争点となった事件である。

 Xは東京拘置所に未決勾留されている者であり、義理の姪(10歳)との面会の許可を二度にわたって東京拘置所長に申請したが、いずれも不許可とされた。そこで、Xは、精神的苦痛を被ったとして国に対する国家賠償請求訴訟を提起した。一審判決(東京地判昭和61年9月25日行集37巻9号1122頁)はXの請求を一部認容した。X、国の双方が控訴したが、二審判決(東京高判昭和62年11月25日行集38巻11号1650頁)は国の控訴を棄却し、Xによる附帯控訴の一部を棄却した。最高裁判所第三小法廷は、Xの請求を全面的に認めた。

 判旨:「被勾留者には一般市民としての自由が保障されるので、法45条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、(ア)逃亡又は罪証隠滅のおそれが生ずる場合にはこれを防止するために必要かつ合理的な範囲において右の接見に制限を加えることができ、また、(イ)これを許すと監獄内の規律又は秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性が認められる場合には、右の障害発生の防止のために必要な限度で右の接見に合理的な制限を加えることができる、としているにすぎないと解される。この理は、被勾留者との接見を求める者が幼年者であっても異なるところはない」。監獄法第50条は「命令(法務省令)をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めているが、もとより命令によって右の許可基準そのものを変更することは許されない」。しかし、施行規則第120条は「原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないこととする一方で、規則124条がその例外として限られた場合に監獄の長の裁量によりこれを許すこととしていることが明らかである。しかし、これらの規定は、たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない」のであり、「無効のものというほかはない」。

 ●最一小判平成14年1月31日民集56巻1号246頁

 事案:児童扶養手当法第4条第1項は、児童扶養手当の支給要件を次のように定めている。

 「都道府県知事、市長(特別区の区長を含む。以下同じ。)及び福祉事務所(社会福祉法(昭和26年法律第45号)に定める福祉に関する事務所をいう。以下同じ。)を管理する町村長(以下「都道府県知事等」という。)は、次の各号のいずれかに該当する児童の母がその児童を監護するとき、又は母がないか若しくは母が監護をしない場合において、当該児童の母以外の者がその児童を養育する(その児童と同居して、これを監護し、かつ、その生計を維持することをいう。以下同じ。)ときは、その母又はその養育者に対し、児童扶養手当(以下「手当」という。)を支給する。

 一 父母が婚姻を解消した児童

 二 父が死亡した児童

 三 父が政令で定める程度の障害の状態にある児童

 四 父の生死が明らかでない児童

 五 その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの」

 この第5号を受けて児童扶養手当法施行令第1条の2が定められるが、その第3号は「母が婚姻(婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある場合を含む。)によらないで懐胎した児童(父から認知された児童を除く。)」と定められていた。すなわち、子が父から認知されなければ、母は児童扶養手当を受給するが、子が父から認知されると児童扶養手当を受給できないこととなる。

 X(原告・被控訴人・上告人)は、A(子)が同施行令第1条の2第3号に定められる児童に該当するとして児童扶養手当を受給していた。しかし、B(父)がAを認知したため、Y(県知事。被告・控訴人・被上告人)は、同号括弧書きに該当するとしてXの受給資格を喪失させる処分を行った。そこで、Xは同号括弧書きが憲法第14条に違反するなどとして処分の取消を求めた。一審判決(奈良地判平成6年9月28日行集46巻10・11号1021頁)はXの請求を認容したが、Yが控訴し、二審判決(大阪高判平成7年11月21日行集46巻10・11号1008頁)はXの請求を棄却した。

 判旨:最高裁判所第一小法廷は次のように述べて二審判決を破棄し、Xの請求を認容した(反対意見がある)。

 ①児童扶養手当法は「父と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを目的としている(法1条)が、父と生計を同じくしていない児童すべてを児童扶養手当の支給対象児童とする旨を規定することなく、その4条1項1号ないし4号において一定の類型の児童を掲げて支給対象児童とし、同項5号で『その他前各号に準ずる状態にある児童で政令で定めるもの』を支給対象児童としている。同号による委任の範囲については、その文言はもとより、法の趣旨や目的、さらには、同項が一定の類型の児童を支給対象児童として掲げた趣旨や支給対象児童とされた者との均衡等をも考慮して解釈すべきである」。

 ②児童扶養手当法「4条1項各号で規定する類型の児童は、生別母子世帯の児童に限定されておらず、1条の目的規定等に照らして、世帯の生計維持者としての父による現実の扶養を期待することができないと考えられる児童、すなわち、児童の母と婚姻関係にあるような父が存在しない状態、あるいは児童の扶養の観点からこれと同視することができる状態にある児童を支給対象児童として類型化しているものと解することができる。母が婚姻によらずに懐胎、出産した婚姻外懐胎児童は、世帯の生計維持者としての父がいない児童であり、父による現実の扶養を期待することができない類型の児童に当たり、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において婚姻外懐胎児童を法4条1項1号ないし4号に準ずる児童としていることは、法の委任の趣旨に合致するところである。一方で、施行令1条の2第3号は、本件括弧書を設けて、父から認知された婚姻外懐胎児童を支給対象児童から除外することとしている。確かに、婚姻外懐胎児童が父から認知されることによって、法律上の父が存在する状態になるのであるが、法4条1項1号ないし4号が法律上の父の存否のみによって支給対象児童の類型化をする趣旨でないことは明らかであるし、認知によって当然に母との婚姻関係が形成されるなどして世帯の生計維持者としての父が存在する状態になるわけでもない。また、父から認知されれば通常父による現実の扶養を期待することができるともいえない。したがって、婚姻外懐胎児童が認知により法律上の父がいる状態になったとしても、依然として法4条1項1号ないし4号に準ずる状態が続いているものというべきである。そうすると、施行令1条の2第3号が本件括弧書を除いた本文において、法4条1項1号ないし4号に準ずる状態にある婚姻外懐胎児童を支給対象児童としながら、本件括弧書により父から認知された婚姻外懐胎児童を除外することは、法の趣旨、目的に照らし両者の間の均衡を欠き、法の委任の趣旨に反するものといわざるを得ない」。

 なお、この判決を受け、児童扶養手当法施行令第1条の2第3号の括弧書きの部分は削除された。

 ●最大判平成21年11月18日民集63巻9号2033頁(Ⅰ−49)

 事案:高知県安芸郡東洋町に居住する原告ら(このうちのX5が公務員としての農業委員会委員であった)は、地方自治法第80条第1項に基づき、同町選挙管理委員会に対し、同町議会議員のAについて解職請求を行った。原告らは、この解職請求に係る署名簿を2008(平成20)年4月14日に同町選挙管理委員会に提出し、17日に受理されたが、5月2日、署名簿にある全員の署名を無効とする旨の決定を行った。原告らは異議を申し立てたが、同町選挙管理委員会は異議申立てを棄却したため、出訴した。一審判決(高知地判平成20年12月5日民集63巻9号2117頁)は原告らの請求を棄却したため、地方自治法第80条第4項(第74条の2第5項および第8項を準用する)により、最高裁判所へ上告した。

 問題とされたのは、地方自治法第85条第1項が公職選挙法第89条第1項を準用し、これを受ける形で当時の地方自治法施行令第115条・第113条・第108条第2項・第109条が公職選挙法第89条第1項を準用することによって、農業委員会委員が(公職候補者となることができる場合と否とを問わずに)在職中に議会議員の解職請求代表者となれない旨を定めていたことである。

 最高裁判所大法廷は、一審判決判決を破棄し、次のように述べて同町選挙管理委員会による異議申立棄却決定を取り消した(藤田宙靖裁判官の補足意見、涌井紀夫裁判官補足意見、宮川光治裁判官および櫻井龍子裁判官の補足意見、堀籠幸男裁判官、古田佑紀裁判官および竹内行夫裁判官の反対意見、ならびに竹内行夫裁判官の追加反対意見がある)。

 判旨:地方自治法は「議員の解職請求について、解職の請求と解職の投票という二つの段階に区分して規定しているところ、同法85条1項は、公選法中の普通地方公共団体の選挙に関する規定(以下「選挙関係規定」という。)を地自法80条3項による解職の投票に準用する旨定めているのであるから、その準用がされるのも、請求手続とは区分された投票手続についてであると解され」、地方自治法第85条第1項は「専ら解職の投票に関する規定であり、これに基づき政令で定めることができるのもその範囲に限られるものであって、解職の請求についてまで政令で規定することを許容するものということはできない」。しかし、前記の地方自治法施行令の各規定は、地方自治法第85条第1項に基づいて公職選挙法第89条第1項本文を「議員の解職請求代表者の資格について準用し、公務員について解職請求代表者となることを禁止して」おり、これは地方自治法第85条第1項に「基づく政令の定めとして許される範囲を超えたものであって、その資格制限が請求手続にまで及ぼされる限りで無効と解するのが相当である」。

 なお、この判決は、最二小判昭和29年5月28日民集8巻5号1014頁を変更したものである。

 ●最二小判平成25年1月11日民集67巻1号1頁(Ⅰ−50)

 事案:2006(平成18)年に薬事法が改正され、これを受けて2009(平成21)年に薬事法施行規則(厚生労働省令)が改正された。改正後の薬事法施行規則第15条の4第1項第1号、同第159条の14、同第159条の15第1項第1号、第159条の16第1号、第159条の17第1号および同第2号は、薬局開設者または店舗販売業者が第一種医薬品および第二種医薬品を販売・授与する際に有資格者の対面により行わなければならず、郵便などによる販売・授与を行ってはならない旨を定めていた。これに対し、医薬品販売会社のX1社、インターネットサイト運営会社のX2社は、上記の薬事法施行規則各規定が薬事法の委任の範囲を超えるものであり、インターネット販売に対して過大な規制を定めるから憲法第22条第1項に違反する、などと主張して提訴した。一審判決(東京地判平成22年3月30日判時2096号9頁)はX1社およびX2社の請求を一部却下、一部棄却したが、二審判決(東京高判平成24年4月26日判タ1381号105頁)はX1社およびX2社の請求を一部認容した。Y(国)は上告したが、最高裁判所第二小法廷は上告を棄却した。

 判旨:「薬事法が医薬品の製造、販売等について各種の規制を設けているのは、医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから、医薬品の安全性を確保し、不良医薬品による国民の生命、健康に対する侵害を防止するためである」から(最二小判平成7年6月23日民集49巻6号1600頁を参照)、「このような規制の具体化に当たっては、医薬品の安全性や有用性に関する厚生労働大臣の医学的ないし薬学的知見に相当程度依拠する必要がある」。また、「憲法22条1項による保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解され」(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁を参照)、「旧薬事法の下では違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売をその事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約するものであることが明らかである」から、「厚生労働大臣が制定した郵便等販売を規制する新施行規則の規定が、これを定める根拠となる新薬事法の趣旨に適合するもの(行政手続法38条1項)であり、その委任の範囲を逸脱したものではないというためには、立法過程における議論をもしんしゃくした上で、新薬事法36条の5及び36条の6を始めとする新薬事法中の諸規定を見て、そこから、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が、上記規制の範囲や程度等に応じて明確に読み取れることを要する」。しかし、上記改正後の「薬事法36条の5及び36条の6は、いずれもその文理上は郵便等販売の規制並びに店舗における販売、授与及び情報提供を対面で行うことを義務付けていないことはもとより、その必要性等について明示的に触れているわけでもなく、医薬品に係る販売又は授与の方法等の制限について定める新薬事法37条1項も、郵便等販売が違法とされていなかったことの明らかな旧薬事法当時から実質的に改正されていない。また、新薬事法の他の規定中にも、店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきであるとか、郵便等販売を規制すべきであるとの趣旨を明確に示すものは存在しない」。従って、上記改正後の「薬事法の授権の趣旨が、第一類医薬品及び第二類医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止する旨の省令の制定までをも委任するものとして、上記規制の範囲や程度等に応じて明確であると解するのは困難であるというべきであ」り、上記の薬事法施行規則各規定は「いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである」。

 (4)法規命令に対する手続的な統制の手段

 上述のような問題点を抱える法規命令であるが、手続面において民主的な統制を加えることにより、実体面にも民主的な色彩を高めることが可能である。その手法としては、現在、次のような例がある。

 第一に、国会による事後承認である。日本においては少ないが、災害対策基本法第109条の例がある。

 第二に、審議会などへの諮問である。電波法第99条の11に義務づけの例がある。なお、審議会などは諮問機関の一種とされるが、手続の点などにおいて問題があり、透明化が必要とされている。現在、中央省庁等改革基本法第30条第4号が、会議や議事録の公開を原則とする旨を規定している。

 第三に、公聴会やパブリック・コメント手続である。国民一般、あるいは利害関係人に意見陳述の機会を与えるもので、独占禁止法第71条、不当表示防止法第5条第1項などに例がある。

 なお、最近ではパブリック・コメント手続がとられることが多くなっており、重要性も増している。これは、まず、政策などの趣旨や省令などの原案を公表し、これに対する国民からの意見を聴取するというものである(インターネットが活用されることになる)。そして、意見を集約した上で結果を公表するというものである。場合によっては、さらに公聴会や討論会を開催することもありうる。

 法規命令を含め、行政立法の制定手続については、行政手続法に盛り込むべきであるという議論があり、検討が重ねられたが見送られたという経緯があった。

 ▲第7版における履歴:2020年5月5日掲載。

 ▲第6版における履歴:2015年9月22日掲載(「第6回 行政立法(法規命令・行政規則)」として。以下同じ)。

              2015年10月21日修正。

                                    2017年10月26日修正。

            2017年12月20日修正。


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