ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

南阿蘇鉄道の全線復旧には1年以上の時間が必要  さらなる問題は財源

2016年04月27日 14時09分37秒 | 社会・経済

 これまで、災害により休止、さらに廃止に至った鉄道路線は数多く存在します。たとえば、現在、JR北海道の日高本線は、2015年1月の高波による被害のため、鵡川~様似が休止になっています。それだけでなく、JR東日本の岩泉線は2010年7月末日の土砂崩れによって休止された後、2014年4月に廃止されました。また、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた鉄道路線のうち、気仙沼線の柳津~気仙沼、および大船渡線の気仙沼~盛は、鉄道路線としての復旧が断念され、BRT化される方向に進むことでしょう。九州では、2005年9月の台風14号により、宮崎県の高千穂鉄道が全面運休となり、結局は2008年に全線廃止となりました。

 さて、今月14日夜と16日未明に震度7が観測された熊本県の大地震ですが、鉄道網にも甚大な被害をもたらしました。九州新幹線の脱線が大きく取り上げられていますが、私は豊肥本線や南阿蘇鉄道高森線の状況を気にしていました。南阿蘇村での甚大な被災により、復旧はかなり遅れるのではないかと考えていたからです。

 そのようなところに、昨日(4月26日)付で熊本日日新聞社が「全線復旧に1年以上 南阿蘇鉄道」(https://kumanichi.com/news/local/main/20160426021.xhtml)として報じた記事が目に留まりました。豊肥本線との接続駅にして起点の立野駅の付近で撮影された写真が、あまりに痛々しさを感じさせたからです。

 被害がいかなるものであるかについては、上記記事に書かれています。土砂崩れの他、トンネルの壁がはがれた、第一白川橋梁と立野橋梁で線路の歪みが見つかった、などです。

 比較的に被害が少なかったのは、終点の高森駅から中松駅までの区間で、こちらであれば約3週間ほどの時間があれば復旧できるとのことです。しかし、他の鉄道路線との接続はありません。

 一方、立野駅から中松駅までの区間ですが、第一白川橋梁を補修するだけで30億円、同橋梁を架け替えるならば50億円と見積もられています。他にも被害がある訳ですから、いったい何億円がかかるのかという話になります。そして、問題はどこから財源を調達し、確保するかになります。

 南阿蘇鉄道は第三セクターで、発行株式総数の過半数を南阿蘇村が保有し、3割強を高森町が保有しています。一方、熊本県の出資はないようです。1980年代に第一次地方交通線に指定された国鉄高森線を引き受け、運行を続けてきました。第一次地方交通線は、営業キロが30キロメートル以下であり、かつ、旅客輸送密度が2,000人未満である路線(盲腸線)とされましたので、利用客数は当時でもかなり少なかった訳です。現在はどうなのでしょうか。同社の公式サイトには乗降客数などに関するデータが掲載されておりませんが、国土交通省鉄道局監修の『数字でみる鉄道2013』(一般財団法人運輸政策研究機構発行)68頁によりますと、平成23年度については次のようになっています。

 輸送人員:248,000人

 輸送密度:507人(一日当たり)

 営業収益:93,211,000円

 営業費用:116,512,000円

 損益:およそ680,000円の赤字

 資本金:1億円

 ちなみに、同じ熊本県にある熊本電気鉄道の輸送密度は1,791人、くま川鉄道のそれは1,125人、肥薩おれんじ鉄道のそれは834人です。南阿蘇鉄道の輸送密度は、熊本県内を通る私鉄(第三セクターを含む)では最も低くなっています(そればかりでなく、九州地方の私鉄で最も低い数値です)。

 数字だけで全てを判断してはなりませんが、かなり厳しいものと評価できないでしょうか。南阿蘇鉄道の社長でもある高森町長は、南阿蘇鉄道が同地域の生活と観光の両面で必要な路線である旨を述べていますが、義援金などで財源をどこまで調達できるのか、など、問題は山積しています。

 起点で接続する豊肥本線も、本日(4月27日)、肥後大津駅から豊後竹田駅までの区間で運転見合わせとなっています。宮地駅から豊後竹田駅までは代行バスが走っていますが、肥後大津駅から宮地駅まではどうなのでしょうか(なお、明日、豊後荻駅から豊後竹田駅までの運転を再開するとのことです)。さらに、立野駅から赤水駅までの区間(有名なスイッチバックがある区間)でも土砂崩れが発生しており、運転再開の目途は立っていません。


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2 コメント

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おひさしぶりです (白蛾)
2016-04-29 11:37:42
 最近の三重県のローカル線についてのコメントです。
 近鉄内部八王子線は四日市あすなろう鉄道として再出発しました。新型冷房車も投入され、初年度は黒字見通しのようです。
 三月二十六日にJR名松線が六年半ぶりに全線復旧しました。地元紙によると、利用者は一日平均300人で運休前よりも三倍以上の増加だと報じています。復旧までには紆余曲折がありましたが、行政や地元の人たちの並々ならぬ熱意の賜物だと思います。
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こちらこそ、お久しゅうございます。 (川崎高津公法研究室長)
2016-04-30 21:51:53
 四日市あすなろう鉄道といえば、近鉄時代の内部線+八王子線時代にこのブログでも取り上げ、実際に乗りに行きましたが、黒字見通しの上に新型冷房車の投入とは、うれしい話です。
 また、名松線の家城から伊勢奥津までの復旧も、このブログでは取り上げなかったのですが少々驚いた話です。現在、東日本大震災、高波、熊本地震など、様々な理由で営業を休止している鉄道路線があります。それぞれの地域の事情がありますからひとまとめには出来ませんが、各地にとっての参考例にはなるのではないでしょうか。
 ただ、今後が大事です。結局のところ、残すか否かは地域の選択に委ねられているためです。
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