「行政法講義ノート〔第7版〕への前口上」(2019年5月26日0時0分0秒付)においても注意事項を記しておきましたが、少しばかり補充をしておきます。
現在、多くの大学の法学部(とくに法律学科)においては、少なくとも行政作用法総論を扱う科目、例えば「行政法1」というような名称の科目を2年生から履修できるでしょう。
あるいは、法学部でも法律学科以外の学科、法学部以外の学部、例えば経済学部では3年生以上の科目とされているかもしれません。その場合には1年間で行政作用法総論、行政組織法(総論)、行政救済法を学ぶことになるはずです。
いずれにしても、行政法を学び始める前に、憲法、民法(総則など)、刑法(総論)を学び、基礎を習得しておくべきである、と考えられているのです。
行政法を「法律基礎科目」と位置づけている教科書もあります※。しかし、これは、おそらく現在の司法試験で行政法が必修科目の一つとなっているためであって、実際には応用科目として位置づけられるべきです。実際に、行政法は、司法試験の必修科目のうちで唯一、いわゆる六法に含まれていません。そればかりか、行政法は旧司法試験時代に選択科目の一つとされた時期が長く、選択科目から外されたことすらありました。
※原田大樹『例解行政法』(2013年、東京大学出版会)xiv頁。但し、同じ頁をよく読んでください。
応用科目と記したのは、行政法を学んでいると、憲法、民法、刑法、民事訴訟法などに関する知識が必要なことも少なくないからです。例えば、行政作用法総論で学ぶ「法律による行政の原理」や「行政裁量」は憲法と深い関係があります。「法律による行政の原理」は法治主義の一環でもあるため、立憲主義とも関係があります。憲法学でも扱う租税法律主義は「法律による行政の原理」が最も厳格に適用される例でもあるのです。また、とくに「行政裁量」について言いうるのですが、行政作用法総論と憲法の人権論は硬貨の裏表のような関係にあると言えます)。「行政行為」や「行政契約」は民法の総則に登場する法律行為の応用とも言えます。「行政調査」に至っては刑事訴訟法と関係する部分も含まれています。また、行政救済法は民事訴訟法の応用です。
しかし、2年生の段階で刑事訴訟法や民事訴訟法を履修できるという法学部はほとんどないでしょう。どうすればよいのでしょうか。
あれこれと手当たり次第に勉強しても身につく訳ではないので、まずは憲法、民法および刑法の復習をしておきましょう。具体的には、次のようになります。
憲法:人権論を一通り学んでおくのが理想的です。行政作用法総論を学んでいると、憲法の判例とされる判決の多くも登場します。先に記したように、行政作用法総論と人権論は硬貨の裏表のような関係にあります。人権論を理解していないと、「行政裁量」、「行政立法」など多くの部分について理解できないかもしれません。
ただ、法学部の1年生で履修できる憲法の科目で何を学ぶかは、大学によって異なります。1年生で人権論を学び、2年生で統治機構を学ぶという科目構成になっているほうがよいのですが、逆になっている場合には2年生で人権論と行政作用法総論とを同時並行で学ぶことになります(憲法学の教科書で自習する必要もあります)。そうならざるをえないので、人権論を扱う科目を履修しないということだけは避けてください。
民法:最低限として、総則を一通り学び終えていることが必要でしょう。歴史的な経緯もあって、行政法の理論の多くは民法の理論の応用として生まれています。とくに「行政行為」は法律行為の応用であり、時には法律行為そのものという部分も登場します。法律行為に限らず、人(自然人および法人)、物、時間(時効など)という要素は、民法であれ行政法であれ、非常に大事な事柄です。
また、債権総論も或る程度は学んでおくことが望ましいとも言えます。ただ、これは2年生以上で学ぶことでしょうから、同時並行ということになります。
刑法:やはり、総則、つまり、いわゆる刑法総論を学び終えていることが必要です。もっとも、刑法各論を学び終えている必要はないと考えてかまいません。
このように記すと「前もってやっておかなければならないことが多いのか」と慨嘆される方もおられるかもしれません。しかし、裏技のようなものがない訳ではありません。行政法で学んだことを、憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法などの学習に生かすのです。邪道とも言えますし、方法を誤ると危険ですが、有効な手段であると言えます。
ちなみに、私は、1年生で憲法の人権論や民法総則の科目を履修しましたが、3年生で行政作用法総論の科目を履修し、1冊の基本書を徹底的に読み潰したことで、民法総則のうちの法律行為を理解することができました。当時(1990年頃)は、行政作用法総論の科目が3年生に、行政救済法の科目が4年生に配当されていました。
なお、法学部(法律学科)の学生であれば、3年生以上で民事訴訟法および刑事訴訟法の科目を履修することになります。行政法でも行政救済法の科目は3年生以上に配当されているところが多いでしょう。同時並行、または民事訴訟法および刑事訴訟法を先行して履修するとよいでしょう。
最後に。「行政法講義ノート〔第7版〕への前口上」に記したように、この講義ノートでは、法学部以外の学部の学生、さらには法律学に全く触れてこなかったという方も利用されることを念頭に置いています。