森中定治ブログ「次世代に贈る社会」

人間のこと,社会のこと,未来のこと,いろいろと考えたことを書きます

プルトニウム,超ウラン元素の消滅技術

2012-10-01 09:59:10 | 原発・エネルギー

2012.8.12に締め切られたエネルギー・環境会議へのパブコメ「未来のエネルギーをどうするか」について,原発/エネルギー,環境,経済に関するMLの方から,提案公開のご要望をいただきました.

以下に,一部補足,抜粋して公開いたします.

パブコメ提案(補足・抜粋)

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原子炉として熔融塩炉のもつ大きな意味を,殆ど誰も知りません.

使用済み核燃料は,六ヶ所村の再処理施設に2860トン,全国の各原発の貯蔵プールに合計14170トン,併せて17030トンあります(東京新聞2012年3月9日朝刊,原発と使用済み核燃料の貯蔵量).現在は,再処理によってこれらの使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出してリユースし,一方残った高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にして地下に埋める(地層処理)というのが政府の方針です.

原発の燃料はたった数パーセント燃やしただけで使い終わります.燃え残りのウランやプルトニウムを回収しあらためて燃料を作り直しても,また数パーセント燃やしただけで使い終わります.危険な作業を何度でも繰り返さなければなりません.効率が非常に悪いことは一般人でも直感的に分かります.でもこうするしか,プルトニウムについて全世界に公開できる公正な対処法がないから,やむを得ないのでしょう 

そのうえ,NUMOがいくら金を積んでも地層処理を引き受ける市町村はなく,この方針は,結局は破綻するでしょう.日本学術会議も,10万年もかかる核のゴミの地層処理は方針転換が必要であり,一から考え直せと6月上旬に提起(東京新聞2012年6月18日朝刊)し,8月末には原子力委員会に対して報告書をまとめる予定です(2012.9.11に日本学術会議は,地層処理を白紙に戻せという提案を日本政府に出しました).

どうにもなりませんね.何か画期的な方法はないのでしょうか.

ウラン燃料は重量比で,燃料であるウラン235が(3-)5%,無用のウラン238が(97-)95%です.それを燃やすと,ウラン235の燃え残りが1%,ウラン235が連鎖反応によって消滅し核変換された様々の元素(核廃棄物)が4%,ウラン238から生まれたプルトニウムが1%,残り94%がウラン238となります.ウラン238は連鎖反応をしないので,一部が中性子を吸収してプルトニウムに核変換する以外,殆どそのまま残ります.現在の方針では,核廃棄物のなかから燃料用としてプルトニウムを取り出すことになっていますが,プルトニウムを燃やす「もんじゅ」が現在までの長い研究の経緯において,全くうまく行っていない現状を考えると,不可能のように思えます.

しかし,だからといってプルトニウムの混じった核廃棄物を地下に埋めるというのも,現代人の富の謳歌によって生まれたゴミを未来の世代に押しつけ,我々の本来の責任を果たしたことにならないし,また深く考えてもいないと思います.プルトニウムを未来に残すのは,核戦争の芽を未来に残すことです.それでよいのでしょうか.

ウランにフッ素をくっつけてフッ化体にするとウランはガスとなり,連鎖反応によって生まれた様々の元素(核廃棄物)と分離します.すると,核廃棄物の95%を占めるウランが単一金属として分離されます.ウランの他にも一部ガスとなりますが,沸点が異なるので,それらも分離できます.分離されたウランはそのほとんどがウラン238であり,放射性ゆえ注意は必要ですが核弾頭にはなりません.しかも自然界に存在する物質です.残り5%,プルトニウムと連鎖反応によって核変換した種々の元素の混合物を,そっくり熔融塩炉に入れ消滅させます.分離されたウランを地上で保管すれば,地層処理は無用になるでしょう.

今まで,燃料としてプルトニウムを取り出すことばかり考えていたため,こういったアイディアは生まれませんでした.しかし,未来の人々に対してどうすれば責任を果たせるか?その最も有効な方法は?というふうに,現代人の私益のためではなく未来の世代の利益に目的を変え,さらに熔融塩炉を用いることと組み合わせれば,いろいろなアイディアが出てきます.

こんなアイディアは固体燃料を用いる軽水炉では絶対に出てきません.大量のウランが不均一に混じるガチガチに固まった燃えカスから,壊す必要のない安全な元素を分離して取り除くことが実際上できないのです.

液体燃料であればこそ,これが可能です.燃えカスを個体ではなく液体で扱う故に,放射性のない安全な元素や放射性があっても半減期が短い元素を分離して取り除くことが可能です.それらを取り除いて量を減らし,残りの消滅させるべき元素に高速中性子を充ててさらに核変換させ,核変換した安全な元素をさらに取り除くという作業の繰り返しです.地道で,精密かつ辛抱強くなければできない仕事ですが,核弾頭のプルトニウム,超ウラン元素をこの世から消滅させるには,現状これしかないのです.

プルトニウムは自然界にありません.人間が原子炉で中性子を充て造り出した人工元素です.元に戻す,つまりそれを自然界にある元素に戻すには,やはり原子炉で中性子を充てる必要があります.まるでマッチ・ポンプ,全くの徒労であり,人間は一体何をしているのか?!愚かさを感じざるを得ませんが,それでもこの技術がなければ,核兵器の廃絶は実質的に不可能です.

実用性の高い技術ですが,完成してはおらずまだ研究が必要です.ポジション・トークを半分に抑えた真の平和利用を望む原子工学者が必要です.「もんじゅ」の代わりに,こちらに予算が付けば研究は加速されるでしょう.既に産み出された核弾頭の消滅と核廃棄物の消滅のための技術です.こんなバカげた元素を今後も産み出す軽水炉は真っ先に止める必要があります.しかし熔融塩炉は,オバマ大統領のプラハでの演説「核なき世界」の通り,核兵器の廃絶を机上の空論から現実問題へと移行させ得る今必要な技術でしょう.

新刊「プルトニウム消滅!」を読んで,考えて頂ければ幸いです.

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コメント (5)
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