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同人戦記φ(・_・ 桜美林大学漫画ゲーム研究会

パソコンノベルゲーム、マンガを創作する同人サークル

ハチミツホットミルク 【律氏】

2010年11月26日 | 短編小説
 
 
窓を開けると、夜の風が頬に当たる。それは遠慮無しに前髪の間を悠々と踊っていく。さすがに冬、少し肌寒い。そして、少し気持ちいいのかもしれない。
 一年がもうすぐ終わる。思い出すだけで微笑みがこぼれた。我ながら驚いたが一切楽しい事しか覚えていないのだ。結局、嫌な思い出はさっさとどこかへ出かけてしまう。その背中を見ると、あんなに嫌だったのが、なぜか名残惜しい気もする。
「お星様。いっぱい」
 少女は言った。私の隣りに寄り添い窓辺から星の数を数えていた。
「それなぁに?」
 少女が指差すのは、私が手に持ったオレンジ色のカップだった。
 湯気が月夜に輝き、また、世界を淡く溶かしている。とても暖かそうで、惹き込まれてしまう。少女もそうだったようだ。身を乗り出して、上目遣いに私に訊く。
「ホットミルクにハチミツを入れたものだよ」
「おいしいの?」
「ああ、とても。寒くて縮こまった心を温めてくれる」
 私が言うと、少女は目を輝かせた。
「私にもちょうだい」
「どうぞ」
 少女はカップを受け取って、息を吹きかけながらすする。
「おいしい」
「そうかい」
 笑顔は私の目の前にあった。見ていると、頬が緩くなる。これもハチミツホットミルクの効果だろうか。甘くて美味しいものは、優しいのだ。
「寒いね。でも、あったかい」
「そうだな」
 それから、私たちは満天の星空を見上げ続けた。

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 小説ではないですね。ストーリーがないので。

 とりあえず、冬ってなんだろう、と思いまして。


 実は再入院してます。十一月辺りから。

 もうそろそろ退院ですが。


 どうせだったら小児病棟に行きたいと不満を洩らしてみたり。耳鼻咽頭科で入院すれば、小児病棟が近かったのに。
 それにしても、NHKのマインちゃん可愛いね^^
 そのまま素直に育って欲しいものだ。

冬のイメージ [律氏]

2010年11月21日 | 短編小説
その日、白い雪が降った。商店街も、公園も、駅前の広場も示し合わしたようにひっそりと静まりかえり、ひしめき合うのは敷き詰められた白い雪だけ。
校庭もそうだった。
「海底にいるみたいだ」
誰もいない。それが海の底を思わせた。沈められた数多の難破船はこんな光景を目の当たりにしたのだろうか。暗くて、孤独な、闇の中で。
「そうね」
振り向くと、ポケットに両手を突っ込んだ少女が校舎を背に立っていた。首に巻かれた水色のマフラーは彼女の物静かな表情をとらえているようで。その霜焼け気味の頬はどこかせつない。
「こんな場所になんのようさ。朝っぱらから」
彼女は答えるまで一拍間を置いた。そして、誰に向けるでもなく口を開く。
「私、明日、引っ越すの」「…知ってる」
彼女は一度ちらりと見ると、元に戻って続けた。
「あと何年、何十年経っても覚えてるかしら」
眼前に広がる色のない海。何もない、誰もいない校庭。
「私は…、私はきっと覚えてる」
彼女の顔には決意と不安。それから、僅かな希望が一面の雪に照り返っている。
 足跡もない雪。きっと忘れないだろう。この日のことは。その横顔と共に。


~~~~~~~~~~

寒いなぁ

本当は恋愛模様を強く書きたかった今作。1000字て足りるはずもなく。

次回作に期待

寒い空気の中、缶コーヒーを飲む幸せ【二足歩行】

2010年11月20日 | 短編小説
寒いねって鼻を赤くしながら首をマフラーに埋める君。
少しばかり不恰好なそれは、3日前彼女の誕生日に渡した手編みのプレゼント。
こうやって使ってもらうと、嬉しいような、恥ずかしいような。
そんな僕の視線に気づいてニコッと微笑む君。
でもすごいなぁ、私も編み物挑戦してみようかなって。
そのあたたかさを分けてくれるかのように腕を組んでくる。
……着込んでる所為かちょっと歩きにくい……とか、緊張してる? とか、野暮なことは言わない。
それだけで、いつもより、あったかくなれたから。


……………………。
………………。
…………。

「――って言うシチュエーションに憧れるんだけど」
「……あんた、編み物できたっけ?」
「う……、それは……」
「ほら、馬鹿なこと言ってないで早く行くわよ。……寒いんだから」

――――そう言って。
ぶっきらぼうに差し出された手には、去年プレゼントした青い手袋。
……もちろん手編みじゃないけど。

「……何見てんのよ」

照れたような視線に、手を差し出して応える。
ぎゅっと握ったそこからは、手袋と、彼女のあたたかさが、じんわりと伝わってきた。

「……あったかいな」
「……そうね」

――――白い息が朝日に溶けていく、いつもの通学路。





***************



と、言うわけで1000文字いかないよ小説……短編でした?
……律氏を見習ってたまにあげようかしら。

まぁとにかくマフラーって良いですよね。
冬は大好き。



一服。

日本って凄いねww 【律氏】

2010年11月03日 | 短編小説
 霧雨の芽吹く空気。混じる匂いは郷愁か、邪悪か。尾瀬の道に残された祠の前に立つ少女は目を閉じ、長柄を肩に担ぐ。蛍火が彼女の目蓋を照らし出し、村雲が月を遮る。光が一瞬消えた。
 少女は目を開き、薙刀の刃を翻す。
 月光が沼地を照らし出し、少女は薙刀を再び担いだ。
 足元の、暗闇の水に彼女の顔が浮かんだ。感情を無くしたような青の表情。ぼんやりとしているのは下弦の月。
「どうか安らかに」
 少女は一言残し、その場を後にした。

 茶屋には客は四人しかいなかった。少なくとも人間は。
「すみません。見ての通りでして」
 見ての通りとは、万客万来の店。普通の人間にはそう見えるのだろう。少女は、立ったままで構わないと答えた。客の応対をしてきた娘は、笑顔のまま腰を曲げる。そして、茶を取りに奥へ戻ろうとする。
 通せんぼをしたのは、三つの木机を占領していた一団だった。浪人党だろうか、八人いたがその全員が笠で顔を隠していた。腰には脇差と刀の二本差し。しかし、着衣は襤褸切れも同然だ。
「おい、足をかけておいて、謝りもなしか」
「……す、すみません」
 娘は浪人党の不躾な言いがかりに圧倒され、恐怖していた。そばにいた客はこぞって駄賃を置き、去っていく。
「おい、お前達、足をかけたのは貴様らの方だろ」
 未だ残っていた一人の侍が歯向かった。その瞬間、せせら笑っていたその一団は沈黙し、刀に手をかける。侍も戦いを覚悟したのか、半身を取り柄を取る。
 浪人党の先頭が刀を抜き放った。侍も抜き、一閃。それの脇を斬る。
 だが、血飛沫が出ない。
「な、何者」
 にやりと嫌味に笑い、慄いた侍を袈裟に斬る。侍は目をひん剥いたまま、土に落ちた。
「おい、おやじ、金を出せ。それから、お前ももらうぜ。おい、誰か連れてけ」
 へいと返事をした一団の一人の男は奉公していた娘の手を掴む。
「……いや、いやあああああ」
 叫び声が響いたと同時、娘は手を離される。娘が、えっ、と見上げると男は真っ二つに割れ、音も無く転げ。その向こうにいたのは、あの薙刀の少女だった。
「私の視界に入ったのが、お前達の天命の尽きだよ」
「なんだ、このアマ」
 六人、少女は刀を振り回す大男達の間を疾風の如く駆け、刃にかける。しかし誰一人として血は出ない。六人目を蹴り飛ばし、最後の一人に飛び掛る。が、僅かに刀身を逸らし、薙刀の間合いに入り込み少女を蹴り飛ばす。
 少女は夕闇の外へと弾き出され、飛び起きる。何事も無かったように薙刀を構えた。
「そうか、貴様、『鬼』だな」
 浪人党の最後の一人の男が刀を片手で振りながら、少女の前に立つ。
「お前は亡霊か」
「ご名答。鬼の刃じゃ、俺たちが斬られるのも分かる」
 男は駆け出し、無流の刀を振るう。少女はその刀を弾き飛ばし、斬ろうと迫った直後、男に間合いに入り込まれ襟首を掴まれる。豪腕で真上に投げられ、投げた男は脇差を取り出した。 斬られる。
 その瞬間、少女の目は赤く染まり、空は闇に覆われる。
 ばたり。倒れたのは男だった。脇差が乾いた音を立て転がった。
「安らかに」
 少女は一言呟くと、薙刀を担ぎなおし、道に足を踏み出す。
「あの、ありがとうございました。……またいつか、いつか、いらして下さい」
 茶屋の娘は我に返ったばかりの足取りで、少女に見送りの言葉をかける。腰を曲げ、板についたお辞儀と共に。
 少女は振り返りもせず、しかしその足取りはどことなく軽かった。





 ニコニコ見てたら、日本鬼子ってなんか擬人化されてました。日本って凄いね^^

 まぁ、モチーフはそれなんですが、文化祭どうでしたか。台風が来て大変でしたね。

 僕は病院があって、なかなか手伝いにも行けなかったんですが。
 
 それから、書き終わって思ったんですが、少女お茶飲んでないよ。のど渇いてないかな。飲ませればよかった。でも、千字には間に合わそうと思ったし、書く時間が一時間も無かったから。でも、またどこかに茶店あるよ。たぶん。

 あ、誰か、日本鬼子書く予定ありますか?

 

秋のイメージ 【律氏】

2010年10月07日 | 短編小説
 ぼんやりとしたイワシ雲を見上げ、川原横、土手の草はらの匂いを嗅いだ。
 まだ若い薄を撫ぜた風は、背を草の敷布に投げ出した俺を蹴飛ばし、昨日の雨で三割り増しに増水した北上川の流れに乗ってどこまでも行く。
 あの風が目指す下流には広大な自由の地が広がっているのだろうか……。
 俺はため息をついた。
「こんなとこにいたのね。ずいぶん探したわっ」
 寝転んだ俺と青空の間ににゅっと横入りしてきたのはむっとした顔だった。
「別にいいだろ。俺がどこにいたって」
 無表情というのは意識的だ。それは篠原由紀の唇のぴくつきをさらに強める。恐いと思わないのは幼馴染の慣れだろう。というより、篠原由紀は年齢のわりに童顔で、本人は怒っていると思っていても、周りは微笑ましいと口元が緩む。
「学校抜け出して、どこにいても、じゃないわよっ。ほら、これ、公民のプリント」
「げっ、いらねえよ」
「なんでよ。せっかく持ってきたのに。たまには宿題やりなさい!」
 鼻をくすぐられたと思ったら、篠原由紀の栗毛のツインテールだった。突然吹いた風の仕業だ。そして気付いたら、篠原由紀の息がかかる距離にその顔があった。瞳の薄茶色が透き通って、そこに俺の阿呆面が浮かび上がっている。
 一瞬の時が止まり、草の音が素早く通り過ぎる。
「おい、どうしたんだよ」
「ば、ばか! なんでもないわよ」
 我に返ったように、ぱっと離れてそっぽを向いた篠原由紀は頬が赤い。
 また風が吹いた。ツインテールがなびき、それを片手で押さえて目を細めている。それはどこか秋の風景画のようだった。涼しい空気の中に取り込まれているようだった。綺麗だった。
「そろそろ秋も中頃だな」
 覚えず口をついた。
「え、まぁそうね」
 突き出した唇がアヒルのよう。やたらと子供に見える。
 俺はため息とも、苦笑ともとれない息をついて、
「……んじゃもう一眠り」
 と、腕を首の下で組んで枕にする。草の匂いを大きく吸い込み欠伸をした俺に怒鳴り声が飛んでくる。俺にとっては、スズ虫の声ほどでしかないが。
「ばかぁ! この、なまけものぉ!」
 そして、また一陣の風が吹きすさび、切なさや、優しさの物語とともに、残り少ないカレンダーを捲っていく。


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 いつの間にか秋ですね。

 季節の中で秋が一番好きです。空気感が切なくて。


 あともう少しで一年も終わるんですね^^

 今年は色々ありました。たぶん、来年も色々あります。楽しいことも、嬉しいことも、そうでないことも。

 あと少しのこの季節、この一年をのんびりできたらいいなぁ。


 ところで、ざくろってサクラ大戦っぽいと感じるのは僕だけかな? 結構、おもしろそうですね。着物少女っていいなあ。

 荒川二期や、それまちも期待! シャフト頑張れ! 

 しかし、今季はそんなにアニメを見れない……orz

しばらくでした。律氏です【律氏】

2010年07月19日 | 短編小説
今日は空が青い。雲一つ見えないいい天気だ。もしかしたら、夏が近付きつつあるのかもしれない。「兄さん、いつまで寝てるの」カーテンのない窓に妹の声が反響して耳朶をぶつ。「うるさいなぁ、起きてるよ」とその声は下の階には届かず、ぶつぶつとうるさい。「もう行くよぅ」うるさい。「父さんももう外に出てるよぅ」三年前死んだ母さんの墓参り。憂鬱だ。嫌だ。行きたくない。見たくない、母さんの墓なんか。「早く行かないと置いていかれるわよ」部屋の内側からの声だった。ビンと鳴る耳鳴りの中に声だけが薄く残っていた。「……母さん」懐かしかった。ただそれだけで空耳を母さんだと決めつけた。寂しかったのだ。目を閉じると、とりとめのない想い出が脳内にほとばしりやがて失速していく。僕はまぶたに受ける日差しとさっきの声にせき立てられるように足を床に立てた。



お久しぶりです。律氏です。皆さまいかがお過ごしでしょうか?
僕は入院患者です。
相模原病院に入院して早一ヶ月が経ちます。その前は淵野辺総合病院に厄介になっていました。
屋根から飛び降りた外傷が原因かと思いきや、脳の病気だということでいやはやびっくり。
症状は最近になって回復してまいりました。言語障害や視覚障害などはもう出ていません。

少し遅くなりましたが、謝らねばならないことがあります。

けると先輩、ゲームを借りたままで申し訳ありません。必ず返しに参りますのでもうしばらくお待ち下さい。

小説制作チーム、連絡をせずにすみませんでした。何分にもケータイも使えない状況でしたので。

サークル関係者の皆さま、律氏は退院のめどがついておらず、もうしばらくサークルを空けると思います。顔を出せず申し訳ございません。

夢魔※閲覧注意です【末吉】

2010年06月02日 | 短編小説
※以下の内容には一部グロテスクな表現が含まれますが、反道徳的行為を促すものではありません。


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 ……なんだか、嫌な夢を見た気がする。水でも浴びたように、全身が汗でびっしょりと濡れていた。ふと、隣を見やる。
 目が合った。
 とろんとした茶色の双眸。シーツの上を這う長い黒髪。月子だ。ただ、その殆どはなかった。
 首だけの月子が笑っていた。
 跳ね起きる。その勢いで、月子の生首が転がり落ちた。鈍い音を立てて、カーペットに沈む月子。
 乱れた髪の隙間から、月子が俺を見上げる。その淀んだまなこを覗き込んで、思い出す。思い出してしまう。
 足元がぐにゃりと歪んだ。何かの悪い夢じゃないか……俺が月子を殺すなんて、そんな……。割れそうに痛む頭を抱え、床に崩れ落ちた。また、目が合う。月子が見ている。訴えるような視線で俺を……。

 月子。月子。月子。月子を呼ぶ、自分の声が聞こえた。大分眠っていた気分だ。月子、月子、月子。霞みがかった意識の中、俺の口は月子の名前を繰り返す。
「なぁに、もう」
 甘い月子の声と、日差しがふりかかる。身を起こすと、布団を手にした月子が微笑んだ。「おはよう」おはよう。「どんな夢を見てたの?」覚えてないんだ。「私の名前、呼んでいたわ」やめよう、この話は……。
 月子が窓を開けた。軽やかな風を受けて月子のエプロンが躍る。ほのかなケチャップの香りに、思い出したように腹が鳴った。
 テーブルを囲んで、月子と2人で遅い朝食をとる。庭の木を切ってほしいと月子が言った。俺は黙って頷いて、ナポリタンをフォークに絡める。少し味が濃いが、美味い。
 腹が満たされると、睡魔が襲ってきた。ゆるゆると瞼がおりてゆく。月子には悪いが、木を切るのは明日にしよう。ごめん、と布団の中で、届くはずのない謝罪をした……。

 赤く染まった天井を背に、月子がいた。力なく揺れた腕。その手には斧が握られている。ああ、そうだ、木を切らなければいけなかったのだ。
「……起きちゃった」
 甘ったるい声で呟いた月子の手から、斧を奪う。抵抗はなかった。そのまま、一線に凪ぎ払う。「木を切ってほしいの」ああ、聞いたよ……。「あれがあると、洗濯物が乾かなくて」ああ……。「ナポリタン、おいしかった?」おいしかったよ……。「そう……」なあ、月子、お前。
 床に生えた月子の首が笑った。やがて月子の瞳が濁る。帳の中に、月子が溶けてゆく。
 手から斧の柄が離れる。どっと疲れた。のろのろと布団に潜り込む。もう何も考えたくない。眠ろう……。全て夢になる……目が覚めた時には、きっと…………。
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かーなーり遅くなりましたが、千字小説になります。
これでぴったり千字ですっ! いやーだいぶ足掻きましたとも!
字数制限ってなかなかマゾいですね、楽しかったです。
でも満足のいくものができたかと言われると……黙して逃げます。
内容暗くてすみませんでした、次はMMQな小説にチャレンジしますん><
タイトルをつけるのが苦手だなあと思う末吉でしたー。

ジャスミンの病室 【律氏】

2010年05月28日 | 短編小説
 私は死にました。

 長い暗闇をジャスミンの匂いに誘われて導かれるまま、けれども歩みを止めたら真っ黒いわたあめのような暗闇に巻かれ自分の足の存在さえ分からなくなる気がして。だから、足を止めないのはきっと自分の意思。私はそこに行きたいのだと思う。
「清正……さん……」
 辿りついたそこは、私の臨終一分前だった。
 ジャスミンの香る真白な病室に白いカーテンがはためき、もう医者の姿も見えない。隣でパイプ椅子に座り涙を流しているのは夫の清正さん。死相で真っ青になっている私を見て、涙を堪え切れなかったのかもしれない。
「なんだい、茉莉?」
 平静を装っているのに、声が震えているのはなんだか清正さんらしくない。私の知っている彼は涙なんか人前で見せるような弱い人じゃなかった。弱いというより、素直じゃなかった清正さんは。
「……私に……あなたの言葉を下さい……一言でいいの……お願い」
 私はここで記憶を失った。もうちょっと生きていられれば、彼の言葉を聞けたかもしれないのに残念だ。
 でも、彼は気を失った私に動転して何も言ってくれなかったのだろう。素直じゃない清正さんはきっとそうだ。
「茉莉……? ――ま、茉莉ッ。茉莉茉莉……」
 垂れた細いニンジンのような腕を必死に握り返す清正さんは、嗚咽しながら泣いた。結局、私の確実な死を医者から宣告されていた彼はただ泣くことしかできなかったのかもしれない。
 私は清正さんに背を向けた。ここにいても私にかけてくれる彼の声は聞けないとわかったからだ。おそらく、私は彼が最後にかけてくれたであろうその一言が聞きたかったのだ。
 暗闇がそこまで来ていた。
「な、なあ、茉莉。聴いているか? ――好きだ。俺は、俺はずっとお前が好きだ。お前が動かなくなったって構わない。好きなんだ。だから、最後のお願いだ」
 私は振り返る。嗚咽を堪えた彼の真っ赤な目は私を見ていた。
「一生、これから先の一生、お前を好きでいさせてくれ。――茉莉、愛しているよ」
 涙が頬に流れた。そして、暗闇に吸い込まれる。私は暗闇に溶けようとしていた。
 最後の本当に最後の力を振り絞る。腕を伸ばして清正さんの頭にしがみつき、すうっと唇を寄せて、彼の前髪を掻き分けて口づけを、
「私も愛しているわ、清正さ――」
 暗闇の中で最後に見た彼は、ジャスミンが香るその白い部屋で悲しげな笑顔を浮かべて「愛してる」と、そう唇を語らせてくれた。

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 最近、サークルに顔を出さず申し訳ないです。
 怪我をしてしまって当分は行けないかと。
 何も得なかった出来事でしたが、人間は飛べないということは理解できました。
 それでは。

いろんなジャンルを書いてみよう ~BL風味~ 【律氏】

2010年04月29日 | 短編小説
『エアン』

「どこ行ってたんだよ!」
 怒鳴りながら、俺はエアンのうなじを抱いた。薄い朝靄が彼を包んでいる。冷たい。
 うつむいた彼の肩に押し開かれた、アパートの軋んだ扉は、ぎぎぎと音を立てながら閉まる。淡い暗闇に飲み込まれた。
「……ごめん」
「心配、したんだぞ」
「ごめん」
 突き放し、顔を見る。と彼の瞳は背の低い靴箱を映しながら、濡れていた。
「エアン」
 そっと頬を撫でる。冷たい。
「僕、もう……時間がないんだ」
「え?」
「お別れ」
 嘲るように吐かれた言葉は巡って彼自身を傷つける。彼はむせた。
「そんな、馬鹿なこと。……せっかく、せっかく二人でここまで逃げてきたんだぞ」
「そうだね。逃げてきたのに」
「……エアン」
 掠れた彼の叫び声は悲しいくらいに小さくて。それは、きっと葛藤の表れ。
 ――俺だって別れたくないんだぜ。
 ただ、その一言が、砂利を押し込んだように苦い喉の奥に引っ掛かって出てこない。無理やり出そうとすると、膿んだ傷口に触れるようで、痛い。言わなきゃいけないのに。言わなきゃいけないのに。
 どうして出てこない。どうしても、言えない。
「王宮を逃げ出して、君と出会って、今まで色んなことがあった。僕は君から色んなことを教えてもらった。楽しかった。自分の身分を忘れるほどに。自分の運命を呪うほどに。だからこそ向き合わなきゃいけないって。負けちゃいけないって」
「エアン」
 淡々と語るしぐさが似合わない。
「君が僕に手を差し伸べてくれたから。今なら僕は弱い人間を助けられる、優しい王になれる。そんな気がするんだ」
 やわらかく揺らいだベージュのカーテンをすり抜けて、朝日が迫るほどに清々しい笑顔。それは決意の表情。凛として精悍な、高貴な顔立ち。
 ――でも、気付いていたか。お前、頬が引きつっていたんだぞ。まつ毛が濡れていたんだぞ。俺にはとても辛そうに見えたんだぞ。
 なぁ、エアン。

 あれから数年。
 俺は元通りの生活を送っていた。何も変化がないフリーター暮らし。ただ一つ前とは違っていたのは、良くニュースを見るようになったことくらい。とはいえ、三畳一間にテレビを置いてる余裕なんてないから、もっぱら電気屋のショーウィンドーを覗いたり、定食屋のブラウン管を見つけたり。
 ――どこへ行く時も、ずっとあいつの顔を探していた。
「おい、そろそろじゃねえか」
「あ。ホントだ」
 それはバイトの昼休憩だった。先輩達の何気ないやり取りが聞こえてきたのだ。
「何か、始まるんすか?」
「知らねえのか。あのお騒がせ皇子の戴冠式だよ。新聞とか報道でちょくちょくやってただろ」
「うち、新聞とかとってないもんで」 
 へらへらと先輩に向けた愛想笑いを程々にして、俺はテレビの液晶に食い入る。麺が伸び過ぎたカップラーメンなんて、この際忘れることにした。
 書類の山に埋もれた小さなテレビは、まさに新国王の所信表明を映し出していた。
 相変わらず、人見しりの癖が直ってないようで表情が硬い。それでも風貌はどこから見ても立派な国王だ。
 ――俺の知ってるあいつはもう……。
「この度、ニホン王国国王に就きましたエアニス・グレンディンです。まず初めに一言だけ。わたくしを、いえ、僕をエアンと呼んでくれた君。この放送を見てくれていますか? 僕はようやく国王になりました。君から教えてもらったこと、楽しかった思い出、僕は一生忘れません。絶対に忘れません。だから、君も僕のことを『エアン』のことを忘れないでいて下さい――」
 小さな画面の中には馬鹿馬鹿しいほど世間知らずで俺に迷惑しか掛けない、でも一生懸命で一途でいつも微笑みを絶やさない、俺に生きる目標を与えてくれた『エアン』がいた。
「……ああ、忘れねえよ」
 とても近いようでとても遠い隔たりに阻まれて、俺たちは笑顔を交わす。「エアン」という呟きはもう届かなかった。

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 何やってんだろ……。
 色々やることあるのに……。
 まぁ息抜きってことで。

 書いてみたら、BL風味が抜けていた件について。仕方ないよ。このジャンル書いたの初めてだし、何を書けばいいか分からない。誰か萌えポイント、教えてください。
 
 それでは。

初投稿!(後編)【舞夢】

2010年04月27日 | 短編小説
―聞きたい?―
「うん!」
少女の力強い返事を聞き、猫は2~3回顔を洗ってから、あることを告げた。
―その友達に、会いに行ってごらん―
「えっ……」
予想だにしなかった言葉に少女は驚く。
「でっ……でも」
―大丈夫。キミの今の気持ちを考えてみて?―
「う~ん……」
―どんな気持ち?―
しばらく考え込んでから少女は答える。
「さみしい……かな」
―そう、今キミはいつも一緒にいる友達がいなくてひとりぼっち。だから寂しい……だったらキミの友達も、おんなじ気持ちじゃないのかな?―
「……あっ!」
猫の言わんとすることに思い当たり、少女の表情が明るくなる。
―わかったかい?―
「うん、わかった! 仲直りできる気がする!」
言うが早いか、少女は駆け出した。しかし、階段の手前で立ち止まり猫の方に振り返る。
「ネコさん、ありがと! 今度は友達と一緒に遊びに来るね!」
―あぁ、待ってるよ―
それを聞くと少女は、元気良く走り去っていった……。

「とんだ手の込みようですな、若。何時の間に猫に化けられるようになったので?」
少女が去った後、突然狛犬の石像が猫に話しかけた。瞬間煙に包まれ、その姿は犬のような生物へと変わる。
「立ち居振る舞いまで、まるで本物の猫ですな」
「ボクは猫になんて化けてないよ」
しかし声は猫からでなく上から降ってきた。見ると巨大な一本杉の枝の上に男が一人座っていた。
「若、そこに居られたのですか!」
「うん、心に語りかけてただけ。猫だってした方が話しやすいと思って」
男は降りてくると、猫を抱え撫で始める。
「しかし、若も物好きですな。ここら一帯の土地神であられるのに」
「…………」
「正式な御祈念ならまだしも、情けであのような小娘にお心付けをなさるとは……」
「…………」
「大体若は……聞いておりますか?」
狛犬の言葉を無言で聞いていた男だったが、
「……狛、五月蠅い」
「なっ!」
ボソッと文句を言った。
「こっ……この狛が五月蠅いですと!?」
狛は見る見る顔を赤くして、男に説教を始める。
「この神社にお仕えして早600年! 雨の日も風の日もお守りしてきたこの狛を、五月蠅い呼ばわりとは、どういう了見でございますか! 先だって申し上げた通り――」
しかし、男に狛犬の説教は届いていなかった。ただ遠くを見つめ、腕の中の真っ白な猫を撫でながら、あの少女と友達に思いをはせるのだった……。


初投稿!(前編)【舞夢】

2010年04月26日 | 短編小説
「も~いい~か~い……」
少女の声が、寂しく響きわたる。しかし、応える声はない。
「も~いい~か~い……」
また少女は声を出すが、返ってくるのは木々を揺らす風だけだった。
神社の境内には、しゃがみこんで両目を手で覆う、4~5才くらいの少女が一人いるだけだ。そう、彼女は一人でかくれんぼをしていたのだ。
「も~いい~……」
少女の声色が涙混じりに変わる。年端も行かぬ幼女に、孤独は耐えられるはずがない。ついに泣き出しそうになったその時、
―……マ~ダダヨ―
「えっ……?」
いきなり声が聞こえてきた。突然のことに、少女は辺りを見回す。だが周りには誰もいない。不思議に思いながらも、少女はもう一度目を覆い、また言葉を発する。
「も~いい~か~い?」
すると、
―……マ~ダダヨ―
また声が聞こえてきた。少女は嬉しくなってまた声を出す。
「も~いい~か~い?」
―……マ~ダダヨ―
「も~いい~か~い?」
―……マ~ダダヨ―
少女の問いに声は応え続ける。そして、
「も~いい~か~い?」
―……も~いい~よ―
応える声の言葉が変わる。少女は恐る恐る手を退け、また辺りを見回す。
「……あぁ!」
そして少女は、声の主を見つけた。しかしその主は、
「……ネコさん、み~つけた!」
―あ~あ、みつかっちゃった―
真っ白なネコであった。
「うわぁ、ホントにお返事してくれてたの、ネコさんだったの?」
少女は驚きつつ、猫に話しかける。
―そうだよ、ボクだよ―
猫は首を掻きながら応える。
「スゴイ! どうしてしゃべれるの?」
―さぁ? まぁ強いて言えば、キミが応える相手を待っていたから……かな?―
「…………?」
少女は小首を傾げる。
―じゃあ、今度はボクが質問―
猫は少女を真っ直ぐ見た。
―どうして今日は、一人でかくれんぼしてるの?―
「えっ……!」
少女はまたも驚く。
―いつも一緒にいるお友達は今日はいないの?―
「どうして……?」
―知ってるさ。だってここはボクの家だからね。いつもキミたちが遊んでるのを見てたよ―
「そっか……」
少女は納得したが、元気がない。
―ケンカでもしたの?―
「……うん」
少女は小さく頷いた。
―でも悲しんでるってことは、仲直りしたいんだ?―
「…………」
―ボクを見つけた見返りに、良いことを教えてあげようか?―
「………?」
少女が顔をあげる。
―……聞きたい?―
その猫の問いに、
「うん!」
少女は強く頷いた。

名前が欲しい 【律氏】

2010年04月23日 | 短編小説
 名前が欲しい。小さな灯火を揺らめかせて彼女が呟いた。
「ゆかり」
「良い名前ね。もう一度呼んで」
 消毒液のしない病棟。小さなベッドルームを隔離する真っ白なカーテンは、もうすぐ黒の縞が現れる。恐ろしい現実。僕は茫然と立ち尽くした。
「ねぇ」
 という彼女の声ではっと我に返る。ずっと立っていたかのように足が疲れている。不意の焦燥感に背をべっとりと湿らせながら、顔には笑顔を張り付けた。
「ゆかり」
 もうこの名を呼ぶことはないだろう。悲しみより先に後悔が押し寄せた。
「ゆかり」
 彼女は不思議な顔をする。僕の頬に流れる涙を見たのだ。でも彼女には内緒だから顔はねっとりとした笑顔で、唇の先を不気味に緩ませている。
「ゆかり」
 喉の水分が一気に蒸発し、からからに乾いた舌の奥に言葉が詰まる。今まで言いたかったことや、言えなかったことが。
「ゆかり」
 なんで僕を置いて先に逝ってしまうんだい。
 なんで今までの思い出を全て忘れてしまったんだい。
 なんでそんな若い身空で死ななければいけないんだい。
「ゆかり」
 来年の春はどこに行こうか。どこへでもいい。京都の桜を見に行こうか。ノルウェーの山や海を臨もうか。夏はどこがいい? ハワイに行きたがっていただろ。秋は家でゆっくり過ごそう。そうしよう。冬は僕の田舎へ案内するよ。岩手の雪は重いぞ。花巻の方に行けば君の大好きな宮沢賢治の故郷だ。遠野は河童で有名でね。盛岡にはおいしい冷麺がある。
「ゆかり」
 結局、それしか出てこない。
「ゆかり」
 もうやめてくれ。誰か僕の口を塞いでくれ。息のできないように頑丈に塞いでくれ。
「ゆかり」
 死なないでくれ。

 そして、ゆかりは灰になった。喪服に包まれた僕は葬式の黒と白の幕に青ざめた。数日前まで、病室で平気そうにしていたゆかりの姿がありと目蓋の裏に浮かんだのだ。
 もう僕は彼女の名前を呼ぶことすらできなかった。口にしたら二度と呼べなくなってしまいそうで。僕の中にわずかに残る彼女の匂いを吐き出してしまいそうで。
 ご焼香の順番が回ってきた。僕が近付いてきたのを知ると、まだ自分が死んだことを知らない彼女は、遺影の中で人懐っこく名前を欲しがった。

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 長編の小説を書いていたり、シナリオを書いていたりすると、息が詰まる時があります。
 そんな時には掌編や短編の小説を書いて気分転換。何も考えずに書くので、落書きのようなものです。あまりに起承転結が無かったりするので自由詩になったりするのかな。

 新入生がたくさん見学に来てくれているようで、嬉しい限りです。女子も中々多いみたいなので男子諸兄は肩身が狭くなるかもしれませんね。

 

幕末もの、かな。 【律氏】

2010年04月17日 | 短編小説
 私は妻を殺した――――。

 京都の冬はどうしてこうにも身に染みるのだろう。二条から流れた高瀬川が白い息を上げている。それを見ると、骨の髄まで凍てつかせてしまったようで怖い。なので、時折、かじかんだ手を開いては閉じ閉じては開いてとしているのだ。
 が、どうしても慣れない。京の冬は本当に慣れない。
「ほんに寒いのう」
「今日、明日が寒さの峠でしょう。春になれば桜が陽気を運んできます。そうしたら、花見でもしましょうか」
「花見か。なら、酒は似蔵にでも用意させようかの」
 と、連れはおどけて豪奢な笑いを浮かべている。その高らかな笑い声に京に来たばかりの若衆はびくついた。なにせ夕闇空だ。どこから「天誅」という声が聞こえるか分からない。
 しかし私も笑ってしまった。連れの馬鹿笑いに乗せられたわけではない。この私が来年の春を待ち望んでいるというその愚かさに自嘲したのだ。
 私に明日など無い。
(雪よ。今すぐ私もお前のもとへ行こう。約束したものな)
 その時。
 連れが懐から拳銃を取り出して、振り返る。私はそれを掌で遮った。
「皆を連れて、先へ行ってください。後から追い付きます」
「……分かった。おまんがそう言うなら。おまんらっ、わしについてくるじゃき」
 とあっさり行ってしまった。残されたのは私と、彼だけ。まだ蕾もない桜の木がただ唯一の立会人だ。
 彼は迷いのない瞳と、直立している刀の切っ先を私の胸に向けた。
 私は刀の柄に手をかける。
「義兄上、脱藩の罪によりお手打ちの令が下されました。お家再建のためです。お許しを」
「雄一郎君、私はまだ倒れるわけにはいかないんだよ」
 この一言が彼の自制していた枷を蹴り崩した。
「……何を、何を身勝手な! 姉上を殺しておいて!」
 走りながらの斬り込み。浅いところで振られたので避けるまでもない。私は鯉口を切り、刀身を引き出した。抜き打ち斬、一閃――彼の刀を路傍の砂利まで吹き飛ばした。
 鋼もさぞや寒かろうとすぐに鞘に納めて。茫然と立ち尽くす彼に、私は背を向けた。
「京の冬は寒い。お早く帰んなさい」
 一歩踏み出した時、彼の涙声が耳朶に触れる。
「あ、姉上の遺書が見つかりました。かんざしをしまってあった籐の引き出しの奥です。おそらく、自決する前に」
 私は立ち止まる。
「それには――『わたくしはあなたの邪魔にならないよう先に行ってお待ちしております。きっと余計なことを、とあなたは怒るでしょうね。でも、わたくし、あなたの足手纏いだけは嫌なのです。だから。最後に一つだけわがままを。生涯の伴侶はわたくしだけと、あなたが最後に愛したのはわたくしだけと、そう誓っていただけたのなら』――と。……義兄上、私はあなたを怨みます。姉上はあなたに殺されたのです。いつか、強くなって、あなたよりも数倍強くなって、きっとあなたを殺します!」
 私は足を踏み出す。
 京の冬は寒い。身に纏わりつくような空気が嫌になる。それでも、足を踏み出さなければいけない。妻の雪と約束したことだ。この国にうららかな春を、と。そのためならば私は鬼にもなろう。明日を見ず、死に生きよう。この京都で。彼女を愛した記憶だけを携えて。
 さて、もうすぐだ。夜が来る。そして夜明けだ。
 不意に聞こえたのは小鳥のさえずり。それが雪の笑い声に思えて、私は虚ろな笑顔を月の高瀬川に浮かべた。

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今度、小説の企画をするようで。
幕末っていいよね。大正時代もいいけど。
あ、獣耳だっけ。猫耳だよね。分かります。
新入生たくさん入ってくれるといいな。
とりとめが無いけど、それでは。

あと、小説の感想いただけると嬉しいな、なんて思ったりして。あ、すみません。みなさんお忙しいですよね。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

春、雨の地蔵堂【律氏】

2010年04月11日 | 短編小説
 雨だ。
 ぽつり、ぽつりぽつぽつ――――ざぁ――。
 いけない。早足になってきた。
 私は見回して近くに地蔵堂を見つけた。
 小さな屋根の下に5体の地蔵が見世物のように並べられていて、野晒しのそれはどこか遊郭の女どもを思い起こさせる。
(地蔵様になんて罰当たりなことを)
 と自分を言葉でぶつが石に謝るわけにもいかず、気持ちばかり頭を下げて、おずおずとその屋根の下に身を寄せた。
 肩に乗った滴を簡単に手で払い除け、「まったく間が悪い」と悪態づきながら雨垂れから顔を覗かせる――曇天の空は空を喰い尽してまだ物足りないらしい。地上にまで伸ばしてきた腕がこの雨だ。なんて意地汚い。が、自分がそれを責めるわけにもいかない。
(意地汚いのはお互い様だ)
 その時。
「ごめんなさい」
 と女が入ってきた。旅芸者のような着物を着ている。
 小屋の隅には小さなタンポポが群生しており、女はそれをよけて壁際に寄る。
(流れの一座の者だろうか? ここは伊豆にも行ける道だし)
 しばらく黙りこくった後、私は訊いた。
「あなたは何者ですか?」
 とずいぶん不躾に。
 だが、女はにわかに微笑んで答えた。
「旅芸人の踊子です。この次の町で合流するつもりですがこの雨でどこか雨宿りが出来るところを、と見回したらここを見つけて。ところで、あなたは学生さん?」
 と芸人のくせに人慣れしていない様子のうぶな表情を垣間見せた。
 私は少し照れる。
「はい……いえ、今の私は……」
「どうしたのですか?」
「実は逃げ出してきたんです。あそこはなんだか違うような気がして。それで旅にでも出て、何か自分がこれだと思えるものを見つけようかと」
 私は躊躇したが素直に告白する。どうせ行きずりの人だ、と思ったのだ。
「それで見つかったのかしら」
「……いや、まだ」
 すると、女はぱちくりと開いていた目を急に細める。
 私はぞっとした。まるで私の全てがその一瞬で見抜かれた気がしたのだ、過去も未来も全て。ひた隠しにしてきた嘘つきの本性さえも見透かされたようだった。
「どんなことがあっても死んでは駄目よ」
 そう言い残して、小降りになった雨の中に飛び出していった。
 私はその後ろ姿を茫然と眺めていた。それは置いてけぼりにされたような、そんな気分だった。
 それからすぐに晴れ間が見えて、雨が穿った道筋が煌めいても、私は躊躇して足を踏み出せなかった。
 私はあの瞬間に、あの誠実で真理を得た女の目に呪われたのだ。

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 最近、暖かくなってきましたね。もういい加減寒いのは嫌です。
 そろそろサークルも始まりますね。小説やりたい人入ってこないかなぁ。そうしたら、小説の企画を何かしたいのになぁ。三題噺とかやって、みんなで講評したいなぁ。他にも技術向上のために何かしたいなぁ。シナリオもやりたいですなぁ。
 やりたいことが色々出来るよ。だって、休学したから。
 それでは。
 
 
  

さくらの季節ですね 【律氏】

2010年04月03日 | 短編小説
 さくらの枝を折る――何の気概なしに言ってみた言葉だが、その痛みを知る彼女の心を折るのには十分すぎるくらいであった。
「こわいこと言うのはやめて」
 ひどく小さな吐息が耳元にかかる。肩に乗せた『サクラの妖精』は、思わずといった調子でぶるりと震えた。「そんなにこわかった?」と疑問符。
 彼女は、答える代りに「むう」と唸ったのち、そっぽを向く。
 どうにもご機嫌斜めだ……。
 ふと気付いた。頬の力み。どうやら僕は口元の笑みを消し忘れたらしい。
 急いで顔を撫でつける。が、時すでに遅し。
「ごめんよ。つい、会話の流れで」
 必死の陳謝も、耳を貸してくれないので取り付くしまが無い。彼女は顔すら合わせてくれなかった。
 レンズの端に映った、その桃色のほっぺたは春待ちの蕾のように小さく膨らむ。許してくれなさそうだ。
(困った)
 その時。
「――満開だッ」
 角を曲がると、その全貌が見えた。
 見上げると、そこには何本もの桜が。
 僕らは今、桜並木の下にいた。
「ほんと……きれい」
 彼女は怒っていたことも忘れ(所詮その程度の怒りだったのだろう)、ぼおっと恍惚に首を伸ばしたまま、その咲き乱れた桜の木を仰ぐ。
 次第に晴れていく彼女の顔を見て「桜は偉大だ」と、ため息をつく。
 ……僕がどんなことを言っても機嫌が直らないくせに。
 はぁ、と再びため息。
 生協で買った本を紐ときながら、僕は学而館の端にかかった日の光にかかとを向け、明々館横にある桜並木の坂を踏みならした。
 肩に乗った彼女は、僕の歩調に合わせて口笛を吹く。
(まぁ、とにかく機嫌が直ってなによりだ)
 ――不意に吹きぬける風。
 塵ぼこりが舞い、僕はまぶたを閉ざす。
 風の音が消え、目を開けた。
「大丈夫かい?」
 飛ばされてないだろうか、という疑念は無きにしも非ず。が、結局杞憂だろう。
 どんな時も、彼女はちょこんと座っているのだ。さして大きくはない僕の肩に。
 しかし――滑稽である――頭の上に桜の花びらを乗せた『サクラの妖精』の図は。
 我慢しきれず吹き出しそうになった。くっと身をよじった瞬間、
「くくくっ」
 と、先に笑われた。
「なんだい?」
 腹を抱えた彼女は、僕のメガネの縁を指す。そこには、桜の花びらが。
「お互い様だよ」
 僕は自分の頭の上を指差し、目配せをする。
 彼女は怪訝な顔になり、両手で頭の上を探る。と、花びらを掴んだ。片手でそれをつかみ、しげしげと見つめる。
 そして唐突に僕の顔を覗いた。
「似た者どうしね」
 そう言って、彼女は白い歯をこぼして微笑むのであった。 

 春は再び風を吹かす、桜はその花びらを散らせて言う――「今年もよろしく」と。

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 さくらといえば木下か、真宮司。
 でも僕はやっぱり、丹下さんだな、と独り言。

 皆様、いかがお過ごしでしょうか。
 「雪が溶けたら春になる」らしいので、もうひと雪こないかなと空を見上げています。
 四月の雪、というのもまた乙ですね。
 そういえば、長嶋さん優勝おめでとうございます。連敗という時期があったにもかかわらず、挫折せずに頑張りぬくというのは、素晴らしいの一言です。僕もその精神を物書きとして培っていければ、などと浅学非才ながら考えております。

 それでは。