私は妻を殺した――――。
京都の冬はどうしてこうにも身に染みるのだろう。二条から流れた高瀬川が白い息を上げている。それを見ると、骨の髄まで凍てつかせてしまったようで怖い。なので、時折、かじかんだ手を開いては閉じ閉じては開いてとしているのだ。
が、どうしても慣れない。京の冬は本当に慣れない。
「ほんに寒いのう」
「今日、明日が寒さの峠でしょう。春になれば桜が陽気を運んできます。そうしたら、花見でもしましょうか」
「花見か。なら、酒は似蔵にでも用意させようかの」
と、連れはおどけて豪奢な笑いを浮かべている。その高らかな笑い声に京に来たばかりの若衆はびくついた。なにせ夕闇空だ。どこから「天誅」という声が聞こえるか分からない。
しかし私も笑ってしまった。連れの馬鹿笑いに乗せられたわけではない。この私が来年の春を待ち望んでいるというその愚かさに自嘲したのだ。
私に明日など無い。
(雪よ。今すぐ私もお前のもとへ行こう。約束したものな)
その時。
連れが懐から拳銃を取り出して、振り返る。私はそれを掌で遮った。
「皆を連れて、先へ行ってください。後から追い付きます」
「……分かった。おまんがそう言うなら。おまんらっ、わしについてくるじゃき」
とあっさり行ってしまった。残されたのは私と、彼だけ。まだ蕾もない桜の木がただ唯一の立会人だ。
彼は迷いのない瞳と、直立している刀の切っ先を私の胸に向けた。
私は刀の柄に手をかける。
「義兄上、脱藩の罪によりお手打ちの令が下されました。お家再建のためです。お許しを」
「雄一郎君、私はまだ倒れるわけにはいかないんだよ」
この一言が彼の自制していた枷を蹴り崩した。
「……何を、何を身勝手な! 姉上を殺しておいて!」
走りながらの斬り込み。浅いところで振られたので避けるまでもない。私は鯉口を切り、刀身を引き出した。抜き打ち斬、一閃――彼の刀を路傍の砂利まで吹き飛ばした。
鋼もさぞや寒かろうとすぐに鞘に納めて。茫然と立ち尽くす彼に、私は背を向けた。
「京の冬は寒い。お早く帰んなさい」
一歩踏み出した時、彼の涙声が耳朶に触れる。
「あ、姉上の遺書が見つかりました。かんざしをしまってあった籐の引き出しの奥です。おそらく、自決する前に」
私は立ち止まる。
「それには――『わたくしはあなたの邪魔にならないよう先に行ってお待ちしております。きっと余計なことを、とあなたは怒るでしょうね。でも、わたくし、あなたの足手纏いだけは嫌なのです。だから。最後に一つだけわがままを。生涯の伴侶はわたくしだけと、あなたが最後に愛したのはわたくしだけと、そう誓っていただけたのなら』――と。……義兄上、私はあなたを怨みます。姉上はあなたに殺されたのです。いつか、強くなって、あなたよりも数倍強くなって、きっとあなたを殺します!」
私は足を踏み出す。
京の冬は寒い。身に纏わりつくような空気が嫌になる。それでも、足を踏み出さなければいけない。妻の雪と約束したことだ。この国にうららかな春を、と。そのためならば私は鬼にもなろう。明日を見ず、死に生きよう。この京都で。彼女を愛した記憶だけを携えて。
さて、もうすぐだ。夜が来る。そして夜明けだ。
不意に聞こえたのは小鳥のさえずり。それが雪の笑い声に思えて、私は虚ろな笑顔を月の高瀬川に浮かべた。
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今度、小説の企画をするようで。
幕末っていいよね。大正時代もいいけど。
あ、獣耳だっけ。猫耳だよね。分かります。
新入生たくさん入ってくれるといいな。
とりとめが無いけど、それでは。
あと、小説の感想いただけると嬉しいな、なんて思ったりして。あ、すみません。みなさんお忙しいですよね。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
京都の冬はどうしてこうにも身に染みるのだろう。二条から流れた高瀬川が白い息を上げている。それを見ると、骨の髄まで凍てつかせてしまったようで怖い。なので、時折、かじかんだ手を開いては閉じ閉じては開いてとしているのだ。
が、どうしても慣れない。京の冬は本当に慣れない。
「ほんに寒いのう」
「今日、明日が寒さの峠でしょう。春になれば桜が陽気を運んできます。そうしたら、花見でもしましょうか」
「花見か。なら、酒は似蔵にでも用意させようかの」
と、連れはおどけて豪奢な笑いを浮かべている。その高らかな笑い声に京に来たばかりの若衆はびくついた。なにせ夕闇空だ。どこから「天誅」という声が聞こえるか分からない。
しかし私も笑ってしまった。連れの馬鹿笑いに乗せられたわけではない。この私が来年の春を待ち望んでいるというその愚かさに自嘲したのだ。
私に明日など無い。
(雪よ。今すぐ私もお前のもとへ行こう。約束したものな)
その時。
連れが懐から拳銃を取り出して、振り返る。私はそれを掌で遮った。
「皆を連れて、先へ行ってください。後から追い付きます」
「……分かった。おまんがそう言うなら。おまんらっ、わしについてくるじゃき」
とあっさり行ってしまった。残されたのは私と、彼だけ。まだ蕾もない桜の木がただ唯一の立会人だ。
彼は迷いのない瞳と、直立している刀の切っ先を私の胸に向けた。
私は刀の柄に手をかける。
「義兄上、脱藩の罪によりお手打ちの令が下されました。お家再建のためです。お許しを」
「雄一郎君、私はまだ倒れるわけにはいかないんだよ」
この一言が彼の自制していた枷を蹴り崩した。
「……何を、何を身勝手な! 姉上を殺しておいて!」
走りながらの斬り込み。浅いところで振られたので避けるまでもない。私は鯉口を切り、刀身を引き出した。抜き打ち斬、一閃――彼の刀を路傍の砂利まで吹き飛ばした。
鋼もさぞや寒かろうとすぐに鞘に納めて。茫然と立ち尽くす彼に、私は背を向けた。
「京の冬は寒い。お早く帰んなさい」
一歩踏み出した時、彼の涙声が耳朶に触れる。
「あ、姉上の遺書が見つかりました。かんざしをしまってあった籐の引き出しの奥です。おそらく、自決する前に」
私は立ち止まる。
「それには――『わたくしはあなたの邪魔にならないよう先に行ってお待ちしております。きっと余計なことを、とあなたは怒るでしょうね。でも、わたくし、あなたの足手纏いだけは嫌なのです。だから。最後に一つだけわがままを。生涯の伴侶はわたくしだけと、あなたが最後に愛したのはわたくしだけと、そう誓っていただけたのなら』――と。……義兄上、私はあなたを怨みます。姉上はあなたに殺されたのです。いつか、強くなって、あなたよりも数倍強くなって、きっとあなたを殺します!」
私は足を踏み出す。
京の冬は寒い。身に纏わりつくような空気が嫌になる。それでも、足を踏み出さなければいけない。妻の雪と約束したことだ。この国にうららかな春を、と。そのためならば私は鬼にもなろう。明日を見ず、死に生きよう。この京都で。彼女を愛した記憶だけを携えて。
さて、もうすぐだ。夜が来る。そして夜明けだ。
不意に聞こえたのは小鳥のさえずり。それが雪の笑い声に思えて、私は虚ろな笑顔を月の高瀬川に浮かべた。
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今度、小説の企画をするようで。
幕末っていいよね。大正時代もいいけど。
あ、獣耳だっけ。猫耳だよね。分かります。
新入生たくさん入ってくれるといいな。
とりとめが無いけど、それでは。
あと、小説の感想いただけると嬉しいな、なんて思ったりして。あ、すみません。みなさんお忙しいですよね。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
幼稚ですが、面白い、面白くないくらいの感想しかできな・・・orz
サーッセン、とにかく律氏くん小説は面白いと思います^^