さくらの枝を折る――何の気概なしに言ってみた言葉だが、その痛みを知る彼女の心を折るのには十分すぎるくらいであった。
「こわいこと言うのはやめて」
ひどく小さな吐息が耳元にかかる。肩に乗せた『サクラの妖精』は、思わずといった調子でぶるりと震えた。「そんなにこわかった?」と疑問符。
彼女は、答える代りに「むう」と唸ったのち、そっぽを向く。
どうにもご機嫌斜めだ……。
ふと気付いた。頬の力み。どうやら僕は口元の笑みを消し忘れたらしい。
急いで顔を撫でつける。が、時すでに遅し。
「ごめんよ。つい、会話の流れで」
必死の陳謝も、耳を貸してくれないので取り付くしまが無い。彼女は顔すら合わせてくれなかった。
レンズの端に映った、その桃色のほっぺたは春待ちの蕾のように小さく膨らむ。許してくれなさそうだ。
(困った)
その時。
「――満開だッ」
角を曲がると、その全貌が見えた。
見上げると、そこには何本もの桜が。
僕らは今、桜並木の下にいた。
「ほんと……きれい」
彼女は怒っていたことも忘れ(所詮その程度の怒りだったのだろう)、ぼおっと恍惚に首を伸ばしたまま、その咲き乱れた桜の木を仰ぐ。
次第に晴れていく彼女の顔を見て「桜は偉大だ」と、ため息をつく。
……僕がどんなことを言っても機嫌が直らないくせに。
はぁ、と再びため息。
生協で買った本を紐ときながら、僕は学而館の端にかかった日の光にかかとを向け、明々館横にある桜並木の坂を踏みならした。
肩に乗った彼女は、僕の歩調に合わせて口笛を吹く。
(まぁ、とにかく機嫌が直ってなによりだ)
――不意に吹きぬける風。
塵ぼこりが舞い、僕はまぶたを閉ざす。
風の音が消え、目を開けた。
「大丈夫かい?」
飛ばされてないだろうか、という疑念は無きにしも非ず。が、結局杞憂だろう。
どんな時も、彼女はちょこんと座っているのだ。さして大きくはない僕の肩に。
しかし――滑稽である――頭の上に桜の花びらを乗せた『サクラの妖精』の図は。
我慢しきれず吹き出しそうになった。くっと身をよじった瞬間、
「くくくっ」
と、先に笑われた。
「なんだい?」
腹を抱えた彼女は、僕のメガネの縁を指す。そこには、桜の花びらが。
「お互い様だよ」
僕は自分の頭の上を指差し、目配せをする。
彼女は怪訝な顔になり、両手で頭の上を探る。と、花びらを掴んだ。片手でそれをつかみ、しげしげと見つめる。
そして唐突に僕の顔を覗いた。
「似た者どうしね」
そう言って、彼女は白い歯をこぼして微笑むのであった。
春は再び風を吹かす、桜はその花びらを散らせて言う――「今年もよろしく」と。
----------------------------------------
さくらといえば木下か、真宮司。
でも僕はやっぱり、丹下さんだな、と独り言。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
「雪が溶けたら春になる」らしいので、もうひと雪こないかなと空を見上げています。
四月の雪、というのもまた乙ですね。
そういえば、長嶋さん優勝おめでとうございます。連敗という時期があったにもかかわらず、挫折せずに頑張りぬくというのは、素晴らしいの一言です。僕もその精神を物書きとして培っていければ、などと浅学非才ながら考えております。
それでは。
「こわいこと言うのはやめて」
ひどく小さな吐息が耳元にかかる。肩に乗せた『サクラの妖精』は、思わずといった調子でぶるりと震えた。「そんなにこわかった?」と疑問符。
彼女は、答える代りに「むう」と唸ったのち、そっぽを向く。
どうにもご機嫌斜めだ……。
ふと気付いた。頬の力み。どうやら僕は口元の笑みを消し忘れたらしい。
急いで顔を撫でつける。が、時すでに遅し。
「ごめんよ。つい、会話の流れで」
必死の陳謝も、耳を貸してくれないので取り付くしまが無い。彼女は顔すら合わせてくれなかった。
レンズの端に映った、その桃色のほっぺたは春待ちの蕾のように小さく膨らむ。許してくれなさそうだ。
(困った)
その時。
「――満開だッ」
角を曲がると、その全貌が見えた。
見上げると、そこには何本もの桜が。
僕らは今、桜並木の下にいた。
「ほんと……きれい」
彼女は怒っていたことも忘れ(所詮その程度の怒りだったのだろう)、ぼおっと恍惚に首を伸ばしたまま、その咲き乱れた桜の木を仰ぐ。
次第に晴れていく彼女の顔を見て「桜は偉大だ」と、ため息をつく。
……僕がどんなことを言っても機嫌が直らないくせに。
はぁ、と再びため息。
生協で買った本を紐ときながら、僕は学而館の端にかかった日の光にかかとを向け、明々館横にある桜並木の坂を踏みならした。
肩に乗った彼女は、僕の歩調に合わせて口笛を吹く。
(まぁ、とにかく機嫌が直ってなによりだ)
――不意に吹きぬける風。
塵ぼこりが舞い、僕はまぶたを閉ざす。
風の音が消え、目を開けた。
「大丈夫かい?」
飛ばされてないだろうか、という疑念は無きにしも非ず。が、結局杞憂だろう。
どんな時も、彼女はちょこんと座っているのだ。さして大きくはない僕の肩に。
しかし――滑稽である――頭の上に桜の花びらを乗せた『サクラの妖精』の図は。
我慢しきれず吹き出しそうになった。くっと身をよじった瞬間、
「くくくっ」
と、先に笑われた。
「なんだい?」
腹を抱えた彼女は、僕のメガネの縁を指す。そこには、桜の花びらが。
「お互い様だよ」
僕は自分の頭の上を指差し、目配せをする。
彼女は怪訝な顔になり、両手で頭の上を探る。と、花びらを掴んだ。片手でそれをつかみ、しげしげと見つめる。
そして唐突に僕の顔を覗いた。
「似た者どうしね」
そう言って、彼女は白い歯をこぼして微笑むのであった。
春は再び風を吹かす、桜はその花びらを散らせて言う――「今年もよろしく」と。
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さくらといえば木下か、真宮司。
でも僕はやっぱり、丹下さんだな、と独り言。
皆様、いかがお過ごしでしょうか。
「雪が溶けたら春になる」らしいので、もうひと雪こないかなと空を見上げています。
四月の雪、というのもまた乙ですね。
そういえば、長嶋さん優勝おめでとうございます。連敗という時期があったにもかかわらず、挫折せずに頑張りぬくというのは、素晴らしいの一言です。僕もその精神を物書きとして培っていければ、などと浅学非才ながら考えております。
それでは。
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