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同人戦記φ(・_・ 桜美林大学漫画ゲーム研究会

パソコンノベルゲーム、マンガを創作する同人サークル

桜を散らせる雨の如く 【律氏】

2010年02月11日 | 短編小説
 
 ――雨が桜を穿つ。それは、花を散らせる悪童のよう。夢幻の終わりを告げる、小鳥のさえずりか朝日のようだ。

「不思議な縁だな」

「宗次様と、わたしですか? そうですね」

 湯佐は宗次のうなずきを見て、微笑んだ。婉曲したくちびるは、湯佐の元来の優しさを形どり、口端の震えは、人の弱さを示していた。近すぎて、壊してしまうことを知っている人の弱さである。湯佐は宗次と同じ時を過ごすことによって、少しづつ人になっていた。
 元々、湯佐は人ではなかった。千曲川の紅孤という妖怪である。八ヶ岳より川を下る人間を取って喰らう、という化け物であった。それが今では、可憐に咲く百合の花のように、白い着物に身を窶した美女であった。

「それがしは、松代藩五代目藩主真田信安公の命により、水害の原因調査に参った屋田倉宗次という者である。そなたが、紅孤か?」

 あっという間だった。一目見た瞬間、湯佐は自らが妖怪であることを忘れ、宗次は自分が妖怪退治に出張ったことを忘れていた。恋慕という、断ち切れぬ絆が、二人を縛ってしまったのだ。そして、二人は愛し合い、あっという間に一年が経ってしまった。

「それがしは、最初、あなたを討伐しようとしていた」

「ええ。知っていましたよ。水害の調査だなんて、見え透いた嘘ですもの。ただでさえ、宗次様は嘘がお下手なのに」

 童女のように、からからと笑う湯佐を見て、宗次は胸が痛んだ。顔には出さないように、取り繕った笑顔を嵌めていたが、さすがに湯佐の眼は誤魔化せなかった。

「なにか隠しごとですか?」

「……いや。なんでもない」

「なんでも言ってくださいまし、わたしは宗次様のためになら、なんだってできます」

「……うん。あのな。実は、先日、久々に親元に帰省した折、縁談が持ち上がっていたのだ。若年寄竹丸様の御推挙で、家名にかかわるゆえ、こちらからは断れぬので、困っている。まぁ、きっと、それがしをこれ以上、あなたに近づかせないようにする画策だろうが……」

「……それは……それは良いことではございませんか」

「いいや、良くない! それがしは、俺はあなたと、湯佐とずっと一緒にいたいのだ」

 毅然と言い放った宗次をよそに、湯佐はその実直な目から逃れた。顔をそむけて、面白味のない砂利を数えるように見つめている。何かを思案し、同時に決意しているようでもあった。

「湯佐?」

「宗次様。御提案がございます」

「ん?」

「わたくしも宗次様と一緒にいたい。一つ芝居を打ってみてはいかがでしょう?」

「芝居?」

「はい。わたしは、今から近くの村を襲います。そこで、宗次様はわたしを成敗しようとして、返り討ちになるのです。もちろん、すべては芝居ですが」

「なるほど。死んだ人間の縁談は無効だ。さすがは湯佐、機転がきくな」

 目を見開いた宗次は、嬉しそうに口角を上げる。湯佐はにこりと微笑んで、一言付け加えた。

「しかし、いくら芝居でも、宗次様がわたしに何もしないのでは疑われてしまうやもしれませぬ。一度だけ、斬りかかってください。その時は首をぶすりと斬ってくださいまし。わたしは、それだけでは死にませんし、傷もすぐに癒えます」

「あ、いや、湯佐。それは……」

「わたしの血の痕が残ったほうが良いのでございます。斬り落とす勢いでやってくださいまし。御遠慮は無用です。良いですね?」

 宗次は湯佐に刀傷を負わせるなど嫌だったが、湯佐の物言わさぬ迫力と、本来紅孤は刀では殺せないことを思い出し、うんと頷いた。

 
 1743年、寛保三年。戌の満水と呼ばれた大水害から一年、ある朝、千曲川より北に行った今町という村に、狐の鳴き声のような雷鳴と赤い雨が降った。

「おお、お武家さま! なんと、千曲川の紅孤を一太刀で倒してしまうとは、ややお見事でございます。これでこの村も救われます。水害も止むでしょう。早速、藩主様に早馬を」

 宗次は刀を落とした。そして、自分がしてしまったことの愚かさに、顔を歪めた。

「――宗次様」

「湯佐? 湯佐なのか」

「はい」

「どういうことだ!? 話しが違うではないか。死なぬ、と」

「ふふ。宗次様は、本当に誠実な人。わたしの嘘も見抜けぬなんて」

「まさか、斬られて死ぬと分かっていたのか?」

「人に近づきすぎた妖怪の末路です」

「……湯佐」

「さぁ、お別れでございます。お家に帰れば、英雄でしょう。ああ、宗次様を幸せに出来て、湯佐は満足でございます……――」

 桜が散った。血の雨に驚かされたのだろう。その花弁は、宗次の肩にちょこんと乗った。まるで、湯佐が手を置いたような温かみを宗次は感じた。

「――俺は、湯佐、お前といられるだけで幸せだったのだ」

 膝を屈した宗次は、紅孤の死体の前で、往来を気にせずいつまでも喚き泣いた。

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 試験的二千字小説です。

 少し長いでしょうか。申し訳ございません。千字では、収まらなかったです。

 明るいモノを心がけたのですが、悲恋に……。

 んー、これ、明るいかな?

放課後に残って、誰の者だか決めていた 【律氏】

2010年02月07日 | 短編小説
「トンカチを持った男の人に道端であったら、どうする?」

 照りつく、赤の光線だった。夕日にあおられた、白いカーテンが、教室の一番端の机に、まあるい影を落とす。時計の針だけがチクタクと鳴いていて、砂嵐のような悲鳴は、グラウンドで叫んでいる野球部のマネージャー達の応援の声だと分かった。

「素通りする」

「もしかしたら、その人はトンカチの配り売りをしていたのかも」

「人を殴らない可能性は?」 

 残照はもはや無い。膨らんだ三角の、山の中腹に消えていく太陽は、少しでも欠片を残そうと必死だが、世界は消えていくものに優しくない。きっと、このまま夜になってしまう。そして、ここにいる全員が、夜の帳の中にひっそりと溶けいるのである。だって、教室の蛍光灯は光っていない。眼鏡の上峰さんは、すでに誰一人として認識をしていないのだろう。

「トンカチは人を傷つける道具じゃない」

「何する道具?」

「歪みを直す道具」

 ガタン、と机が押された。傍にあった椅子が軋んで、足が折れたかのように倒れこむ。だが、無機物には意思が無い。表情もないので、痛くは無かったのだろう。いや、痛みはあるのかもしれない。僕たちが、そう思い込んでいるだけで。椅子にも、トンカチにも、痛みはあるのかもしれない。
 皆が一斉に清水晴彦を見る。クラス一のいじめられっ子だった。

「歪みって、お前……」

「そうだよ。誠のことさ」

 誰かが、ひっ、と息を呑んだ。誠は、クラス一のいじめっ子だった。

「話しは戻るけどさ。道にトンカチを持った男の人がいたらどうする?」

「逃げる」

「素通り」

「立ち向かう。でも、一人だったら逃げる」

 下校のチャイムが鳴ると、同時に太陽が消えた。トロイメライではなく、鎮魂歌だったのは、気のせいであろう。

「じゃあ、また明日」

「ばいばい」

「おい、晴彦。お前のだろ。持って帰れよ」

「僕のじゃないよ」

「じゃあ誰のだよ」 

「だから、その男の人の、だろ。世界を叩いて、歪みを直している」

「叩いたって歪みは直らないだろ」

「でも、誠は直ったよ。もう、くだらないことはしない。いや、できないだろうし」

 晴彦はにやりと笑った。そう思ったのは、いつもいじめる時に、誠がにやりと笑っていたからだ。今の晴彦には、誠と重なるところがあった。



 明くる朝、教室の隅にある誠の席には、白い花が置かれていた。

 結局、誰の者だか分からず、置き去りにされた赤く錆びたトンカチと共に。

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 試験的千字小説、第二回目です。

 小説の作法を、きちんと踏襲しているかは、甚だ疑問です。いいえ、不問です。


 次は、明るい小説を書こうかなぁ……  みつを  


試験的千字小説 【律氏】

2010年01月24日 | 短編小説
 血が黒く固まったような腐敗した空に、月がある。

 三日月なのか、尖った唇の端が飴色に輝いている。火星以外の星は顔を出さない。

 顔を横に動かせば、鮮やかな夕焼けの残照を開発途上のビル越しに見えるらしかった。でも、それは無理だろう。悟った。――死ぬのだと。

 剥き出しの鉄筋に遮られた雲に、羽田に向かうのだろう飛行機の明かりを見た。近くで瞬いているように感じた。

「きっとエンジンが錆ついてやがる。墜落するだろうよ」

 俺が笑うと、叫び声が聞こえた。

「もう、口を動かすなよ!」

 加奈子は銃弾が根ざした、俺の脇腹を絶えず圧迫していた。止めどない血流を止めたいらしい。手遅れだと言っても、聞かない。頑固なところは、千和の娘だと納得できる。
 
 俺は笑った。

「笑うなッ!」

「千和にそっくりだ」

 加奈子は血しぶきで汚れた、桃色の肌を強張らせた。それが、ありと出たのは肉付きの良い頬である。走馬灯なのだろうか、加奈子が千和に見えてしまう。

「なんで、母さんのことを……。憎んでたんだろう。母さんは、あんたより、父さんを選んだ。あいつは金しか目にないんだ」

 俺は瞳孔の動きに気がついた。それでも、呼吸は荒くならない。

 最後の時だから、俺はこの娘に笑っていなければいけない。一生分の笑顔を凝縮しなければいけない。

 この時ほど、自分が殺し屋であることを感謝した時はない。笑顔を殺し続けてきたおかげで、一生分の笑顔が一瞬でできるほど僅かになったのだ。良かった。

「加奈子」

 声がかすれてきた。もう、……時間が無い。

「なんだよ」

「お願いがある」

「言ってみれば」

 目頭が赤い加奈子は、十六歳ができる精一杯の強がりを見せた。眉間に皺を寄せて、何かを堪えているようである。千和は垂れ目だが、加奈子はつり目だ。きっと、父親に似たんだな。

 俺は恥ずかしくて、笑った。

「――父さん、と呼んで欲しい」

 白んでいく世界の欠片に、加奈子がいた。驚いているようだった。無理もないのかもしれない。父親が殺し屋だと知ったのだ。今まで、資産家の娘だったのに。

 その日、世界の片隅に、悲鳴が響いた。猫だけが聞いていた、少女の父を呼ぶ声――。

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 一応、小説を書いてみました。

 千字です。暗いです。死んじまえ、です。文下手です。文字書くの嫌いです。

 一三歳以下の少女が好きです。 

 以上。