図録では,次が風景画だが展示総数が38点と多く,静物画を先行前置させているが,これも充実している.静物画には,花卉画(一部に昆虫),食卓画として果物・魚介・肉類や食器(銀器・ガラス器・陶磁器など),game painting(狩の獲物)などがある.多くの場合,ヴァニタスVanitas(生の儚さ・快楽の空しさの象徴)の意味を持つが,とくに,髑髏(Memento mori:死を想えの象徴)・蝋燭やパイプ・時計・貝殻やシャボン玉・楽器・花や果物(とくにしおれたり腐りかけたり)などはそれを暗示し,この一部を集めて仕上げた静物画も多い.
ここでは花卉画が3点,食卓画7点,獲物画2点,これらの作風の違いが分かるだろうか.キーワードは,構図・色彩・コントラスト・緻密さであろう.
△ヤン・ブリューゲルI世の工房「ガラス花瓶の花」1610/25年 意外と小品で,銅版に描かれている.初期の花卉画の典型.各種の花は同時には咲かないので,画面上にレイアウトした虚構である.繊細な描き方がヤンのようだが,工房作とされることについては,花の配置やモデリング,花と花との隙間の埋め方に弱さが残るためかもしれない. |
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◎アブラハム・ミフノン(またはアーブラハム・ミニョン)「果物とワイングラス」1663/4年頃 ミフノンはカルヴァン主義の家に生まれたため移住したフランクフルトで洗礼を受けたが,ユトレヒトでヤン・デ・ヘームに三角形に配された構図やライティングを学び,師がアントワープに移住する際に工房を受け継いだ由.より賑やかで緻密な画風はヘームを超え当代随一と考えられた. 本作も小品だが水準以上の精緻さで,彼の食卓画のお約束どおり,昆虫が配されている.それによって果物は傷んでいくという教訓を暗示しているともいう. 別の壁にある「死んだ家禽のある静物」1663/4年頃 もやはり精緻だがコントラストは低い. |
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画像無し | ピーテル・デ・リング「果物とベルクマイヤー杯のある静物」1658年頃 ヤン・デ・ヘームに学んだライデンの画家で,本作は前掲のミニョンよりコントラストが高いので見栄えがするが,精緻さには欠ける. |
△ハルメン・ルーディング「苺を盛った陶器皿とレーマー杯のある静物」1665年 ライデンの画家だが,よく知らない.デ・リングの前掲作よりもさらにコントラストは高いが,精緻さも兼ね備えていてうまい.蔦と苺はこんなものかな. 後述のヤン・デ・ヘームの作品同様,皮を剥きかけのレモンが登場しているが,これは見た目と違って味はすっぱいという暗喩をもつ. |
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コルネリス・デ・ヘーム「庭に置かれた野菜と果物」1658年 |
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画像無し | 〇コルネリス・デ・ヘーム「二羽の雀がいる豪奢な静物」1657年 前掲作とは近い年代で明るさの差が目立つのは,屋内外の設定の差か?黄変したニスが残るために色調に差が出ている可能性もあろう.前掲作と静物の質感や出来に大きな違いはないが,こちろのほうが雰囲気があり,作品的にも面白い.熟した果物や交尾する雀で暗示する快楽は,鏡に映されることで道徳的警告を与えているそうだ.図録によれば,鏡が視覚,縦笛が聴覚,花が嗅覚,果物が味覚,雀の交尾が触覚を表しているとのこと. |
画像無し | ヤーコプ・ファン・エス「調理台の魚」1635/40年 輪郭線が太く好きな描き方ではない.87X219cmと極端に横長の画面は目線の低さとともに,食堂の暖炉の上などに飾られていたものと思わせる.図録でも,魚卸組合の公館用の注文か,「断食の際に好まれた魚の描写」から修道院の台所か食堂に飾られていた可能性を指摘している. |
〇ヤン・デ・ヘーム「果物・パイ・杯のある静物」1651年 ヤン・デ・ヘームは父がアントワープ出身で,自身はユトレヒトでレンブラントと同年に生まれ,花卉画は同地でアンブロシウス・ボスハールトI世の技法をファン・デル・アストに学び,20代でアントワープに移り,ダニール・セーヘルスの華やかな作風も取り込んで,色彩のグラデーション,明るさと明晰さが磨かれ静物画家として大成した(還暦目前の1665年から17年間ユトレヒトで一時的に工房を構えた後アントワープで没).これはアントワープ時代の作品. ヘームはやはりうまい.ただし,左の銀器は類型的で写真では線の硬さが気になっていたが,実物ではそれほどでもなかった.上部が円錐状のベルクマイヤー杯と樽状のレーマー杯が共に登場するが,それらも含めて全体が三角形に近い構成となっている.食べ残したものを描く食卓画においては,ヴァニタスよりは華麗さ,残すという贅沢さが前面に出ている. よくあることだが,画布は裏打ちの布に貼られていて,左右の額の縁との間に画布の端が見えていた. |
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〇ペトルス・ウィルベーク「ヴァニタス」1650年頃 銀器の質感はヘームより明らかに上.髑髏の歯も本物のようだ.これは最大の賛辞であろう.ただし,花は今ひとつ.中央の蔦が絡まる長いグラスはみえにくいが,レンブラントの「放蕩息子に扮した自画像」に出てくるものと同じ. このアントワープの画家についても知らなかった. |
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画像無し | ヤン・ウェーニクス「死んだ野兎と鳥のある静物」1681年 ヤン・バプテストの子で貴族趣味の需要に応えて獲物画をよく描いた.銃身の木目に目が留まっただけ. |
△ヤーコプ・ファン・ワルスカッペレ「石の花瓶の花と果物」1677年 彼はアムステルダムの花の画家で,柔らかい花弁が美しい. |
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画像無し | ・ラヘル・ライス「ガラスの花瓶の花」1698年 史上最高の花の女流画家とされる彼女もアムステルダムの出でファン・アールストに学び18世紀にかけて創作を続けた.本作は17世紀末の作品で,師に似てやや硬めのタッチで華麗な緻密さがあるという.黄変したニスが残っているため.色味が正確ではなくてやや鑑賞の妨げになるが,画面上部の糸トンボに目が留まった. アムステルダムの花の画家は遅咲きである.フランドルの静物画のほうがコントラストが高いようだ. |
オランダの宗教画のような気がします。
花卉画のなかには実際に宗教画の小品や生態を暗示する器物を中央に置いてその回りを花の輪(ガーランド)で囲んだ作品もあります.西美にもコルネリス・スフートとダニール・セーヘルスの「花環の中の聖母子」はこのような作品ですね.
今回も、楽しみです。ご紹介してくださってありがとうございます♪
はじめまして。
mixiの書き込みを拝見して、こちらのサイトに寄らせていただきました。
一点一点の紹介、凄いですね。
遡ってじっくり読ませていただきました。
FacebookのVermeerページにリンクを紹介させていただきました。
もしよろしければ、ご覧いただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
FacebookにもVermeerページがあるのですね.
そろそろ登録しようかな.
ご紹介ありがとうございました.