泰西古典絵画紀行

オランダ絵画・古地図・天文学史の記事,旅行記等を紹介します.
無断で記事を転載される方がありますが,必ずご一報下さい.

仮想展覧会「天界の詩」(1)西洋編

2022-08-02 19:39:52 | 天球儀と西洋古星図

2013.9~  かに座のカニはアラテア図像ではcrabで見上げた星空通りの正像であったが,1515年のデューラーの史上初の一枚刷り天球図あたりからlobsterも描かれるようになったようだ.このころには天球儀の普及により,天球を外からのいわゆる神の視点で認識することが多くなり,彼の天球図も鏡像で描かれている.1532年のホンターの天球図はデューラーに負うところが多いが,向きは正像で描かれている.その後,天球図・星座図も鏡像で描かれることが一般化し,鏡像でlobsterが描かれる方が流行ったようだが,ブラウの天球儀の一部にはcrabが鏡像で描かれているものもある.バイエルはグロティウスのアラテア図像に基づき正像でcrabを描いたが,この流れはフラムスティード~ボーデに受け継がれた.

 

番号 画像  資料名  分類   製作者 製作時期   備考
 1    天文詩  書籍・木版  ヒュギーヌス著 デ・ブラヴィス(ヴェニス)版  1482/1488  第三版(1485年のラトドルト図版の二版)・星座図集
 2    宇宙形状誌  書籍・木版  アピアヌス原著 フリシウス編  1524/1540  ラテン語13版・回転盤図版
 3    プトレマイオス全集より,ホンターの天球図  書籍・木版  シュレッケンフックス編  1541/1551(星図は1532年)  南・北天球図
 4    現象と予測(付・天文詩)  書籍・木版  アラトゥス及びヒュギーヌス著 (ケルン)版  1569  星座図と惑星図集
5-1  アストロロジア(天文)  銅版画  フローリス原画 コールト制作  1565  学芸(自由7科)の寓意より(7/7)
5-2 ジオメトリア(地理/幾何) 銅版画 フローリス原画 コールト制作 1565 学芸(自由7科)の寓意より(7/7)
6-1・2 アストロロジア・ジオメトリア 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 c1590 学芸(自由7科)の寓意より(7/8)
7-1    四大気質より多血質  銅版画  ヘームスケルク原画 ミューラー制作  1566  神話・惑星図(2/4)
7-2   四大気質より黄胆汁質 銅版画 ヘームスケルク原画 ミューラー制作 1566 神話・惑星図(2/4)
7-3   四大気質より粘液質 銅版画 ヘームスケルク原画 ミューラー制作 1566 神話・惑星図(2/4)
7-4   四大気質より胆汁質 銅版画 ヘームスケルク原画 ミューラー制作 1566 神話・惑星図(2/4)
8-1   四大気質より多血質 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作  1583  神話・惑星図(4/4)
8-2 四大気質より黄胆汁質 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 1583 神話・惑星図(4/4)
8-3   四大気質より粘液質 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 1583 神話・惑星図(4/4)
8-4   四大気質より胆汁質 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 1583 神話・惑星図(4/4)
9 四大元素の寓意 油彩 アドリア-ン・ファン・スタルベント 1620s 寓意画
 10-1~7    七大惑星  銅版画  ヘームスケルク原画 ミューラー制作  c1568  神話・惑星図(6/7)
11-1~5   七大惑星 銅版画 ウィーリクス原画 1579  神話・惑星図(5/7)
12-1~8    七大惑星  銅版画  デ・フォス原画 サデラー制作  1585  神話・惑星図(8/8)

13-1

黎明(Aurora)  銅版画  バレンツ原画・サデラー制作  1582 日の四相図(4/4)

13-2

昼(Meridies) 銅版画 バレンツ原画・サデラー制作 1582 日の四相図(4/4)

13-3

夕暮れ(Vespera) 銅版画 バレンツ原画・サデラー制作 1582 日の四相図(4/4)

13-4

夜(Nox) 銅版画 バレンツ原画・サデラー制作 1582 日の四相図(4/4)
13-5 夕暮れ(Vespera) 銅版画 フェルヘークト原画・パンデレン制作 1600-30 日の四相図(1/4)
14-1 東風(Oriens) 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 c.1580 4つの風(1/4)
14-2 西風(Occidens) 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 c.1580 4つの風(2/4)
14-3 南風(Meridies) 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 c.1580 4つの風(3/4)
14-4 北風(Septentrio) 銅版画 デ・フォス原画 サデラー制作 c.1580 4つの風(4/4)
15-1   黄金の林檎を求めてアトラスの代わりに天を背負うヘラクレス 銅版画 フローリス原画 コールト制作 1563 ヘラクレスの12の功業(7/10)
15-2   ネメアの獅子を退治するヘラクレス 銅版画 フローリス原画 コールト制作 1563 ヘラクレスの12の功業(7/10)
15-3 レルナのヒュドラとカルキノスを退治するヘラクレス 銅版画 フローリス原画 コールト制作 1563 ヘラクレスの12の功業(7/10)
16   パエトーンと暴走する太陽の戦車 銅版画 ホルツィウス原画 c.1588 変身物語(11/52)
17 両宇宙誌(大宇宙と,人・小宇宙の歴史) 書籍・銅版画 ロバート・フラッド著 1617・21・24 初版・宇宙概念図
18 アラテア・天空の兆し 書籍・銅版画 グロティウス著 デ・ヘイン画 1600/1621  第二版・星座図集
 19-1  ウラノメトリア(バイエル星図)  書籍・銅版画  バイエル  1603/1639  第三板・星座図集
 19-2  ウラノメトリア(バイエル星図)  書籍・銅版画  バイエル  1603/1661  第 板・星座図集
20-1 ハルモニア・マクロコスミアより1 プトレマイオス宇宙像 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-2 ハルモニア・マクロコスミアより8 アラテア宇宙像 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-3   22 キリスト教星図・第一面(秋分点)  銅版画  セラリウス  1660  天球図集より
20-4   23 キリスト教星図・第二面(春分点) 銅版画 セラリウス 1660  天球図集より
20-5 24 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-6   25 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-7   26 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61(1703) 天球図集より
20-8   27 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-9   28 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
20-10 29 書籍・銅版画 セラリウス 1660/61 天球図集より
21-1 天球図 銅版画 デ・ウィット 1665/1675 天球図
21-2 天球図 銅版画 デ・ウィット/コフェンス・モルティエ再版 1721 天球図
22-1 パルディー天球図 銅版画 パルディー 1674/1693 星座図集(6/6)
23-1~6  パルディー天球図  銅版画  ワイゲル縮小版  c1725  星座図集(6/6)
24 バッカー星図 銅版画 バッカー c1684/c1750 第四版・天球投射図
25-1    ウラノグラフィア(ヘベリウス星図)  書籍・銅版画  ヘベリウス  1690  星座図集
 26-1    フラムスティード天球図譜  書籍・銅版画   フラムスティード   1729  初版・星図集
26-2    フラムスティード天球図譜  書籍・銅版画  フラムスティード フォルタン版  1776/1798  仏三版・星図集
26-3   Vorstellung der Gestirne (ボーデの小星図) 書籍・銅版画 フラムスティード ボーデ版 1782 独初版・星図集
27-1 天球図 書籍・銅版画 ドッペルマイヤー 1730  
27-2 天球図 書籍・銅版画 ドッペルマイヤー 1730  
27-3 星図 書籍・銅版画 ドッペルマイヤー 1730  
28-1 ウラノグラフィア(ボーデ星図) 書籍・銅版画 ボーデ 1801 アトラス
28-2 ウラノグラフィア(ボーデ星図) 書籍・銅版画 ボーデ 1801 天球図Ⅱ
28-3 ウラノグラフィア(ボーデ星図) 書籍・銅版画 ボーデ 1801 星座図Ⅻ
 29    天文早見盤  回転盤・銅版画  フォークト  1680-90年頃  天球図・回転盤
 30 新天文早見盤 回転盤・銅版画 ファーガソン 1757 天球図・回転盤
 31-1    天球儀  球儀

 ホンディウス デ・ロッシ版

 1615  20cm
31-2 地球儀の舟形図 銅版画

ホンディウス デ・ロッシ版

1613 20cm用
32-1 天球儀 球儀

アインマルト

1705

30cm

32-2 天球儀・地球儀の舟形図 銅版画

アインマルト

1705

25cm用24図セット

 33    天球儀  球儀  ファルク  1700/1750  39cm
 34   天球儀 球儀  デノ 18世紀後半  29cm
35-1    天球儀  球儀  ドッペルマイヤー イェーニッヒ版  1728/c1790  32cm
35-2    地球儀  球儀  ドッペルマイヤー イェーニッヒ版  1728/c1790  32cm
35-3 天球儀・地球儀の部分図 銅版画 ドッペルマイヤー 1730 20cm用
36 天球儀の舟形図 銅版画 スピリンクス 1610 11.5cm用
37 天球儀・地球儀の舟形図 銅版画 ハブレクト/ワイゲル c1675 20cm用
 38-1  天球儀・地球儀の舟形図  銅版画  コロネリ  1693  5.5cm用
38-2 天球儀・地球儀の舟形図 銅版画 コロネリ 1693 5.5cm用
 39-1~26   天球儀の舟形図 銅版画 コロネリ 1693 112cm用24+2枚フルセット
 39-27    天球儀の舟形図~おおくま座  銅版画  コロネリ  1698(複製?)  112cm用2/48+2
40   天球儀の舟形図 銅版画 ビオン 1700 24cm用
41    天球儀の舟形図  銅版画

 ゾイッター

 c1710  12cm用
42    リング型日時計  観測器具  不明  18世紀  真鍮製10cm
43    フランス製球形日時計  観測器具  不明  c1700  象牙製4.9cm
44  

 オランダ製卓上反射望遠鏡

 観測器具  ファン・デル・ビルト  1770-90  真鍮製
             

 

 

 

 如何でしょうか.このテーマの続編は東洋編,おもに和物です.


「宇宙と芸術」展 森美術館

2016-08-05 22:32:36 | 天球儀と西洋古星図

アマゾンで頼んでいた同展の図録が届きました.
予想通り,なかなか面白い和洋の天文関係資料が展示されるようで,稀覯書を除けば私が「こんな展示をやってみたい」と思うところを衝いています.

 和(東洋)では,まず「星曼荼羅」4点,鎌倉時代の円形も南北朝の方形も含まれています.江戸時代とされる方形のものでは蟹と牡牛が入れ替わっていますが,誤写で伝承されたものでしょう,ときどき見かけますね.展示替えされるので,全部見るのには4回行かなければなりません.そのほかも展示替えが多いので「作品の展示替えについて」で確認していかないと後悔します.また,須弥山図は「世界大相図」のみですが,からくり儀衛門の「須弥山儀」が出品されます.龍谷大学の所蔵品が多いですね.
 次に天球図ですが,中国の「淳祐(蘇州)天文図」(拓本)と渋川春海の「天文分野之図」「天文成象」,司馬江漢の天球図(これは持っていない)は定番といったところです.
ほかには,五島プラネタリウム旧蔵品でしょうか,18世紀清朝の銅製天球儀(重いのでしょうか?)和製渾天儀もあり,これに国友一貫斎の反射望遠鏡などが加わります.

 西洋では,天球図は主に千葉市立郷土博物館所蔵のセラリウス「ハルモニア・マクロコスミア」の第二板から3葉などで,天球儀はやはり同館所蔵のドッペルマイヤーによるものでした.同館のコレクションではアピアヌスの「天文学教科書」が最も稀覯でこれに天球図があるし、ほかに17-19世紀の有名な星座図集も所蔵されているので,それらも一緒に展示していただけるとよかったのですが....そういえば,デューラーの天球図は以前西美の展覧会でドレスデン美術館の所蔵品が展示されていましたね.
 天文機器では16-17世紀の渾天儀2種,アストロラーベやリング・サンダイヤルなどは,日本では見る機会が少ないでしょう.ほかには,19世紀のアダムスの反射望遠鏡などもあります.
 むしろレオナルドのアトランティコ手稿が目玉なのですが,16~17世紀の天文学の稀覯書の初版本も多く,ガリレオの「星界の報告」初版刊本やその改訂版の手稿,コペルニクスの「天球の回転について」,ケプラーの「新天文学」,ニュートンの「プリンキピア」などが展示されています.

 そうそう,この展覧会は4部構成ですが,ここまでご紹介したのは第一部だけです.このほかに近現代の展示物がたくさんあるようですが,守備範囲外なので会場でご覧ください.


東西のvolvelle(1)-古・星座早見盤(i) the New Astronomical Instrument, by James Ferguson, 1757

2011-12-31 15:33:01 | 天球儀と西洋古星図


45 x 31.5cm (17¾ x 12 3/8in.)

 現存する中では大変珍しい*18世紀半ばに製作された星座早見盤で,planisphere平面天球図にvolvelle回転盤の仕掛けを付けたものです.これに先行して盛んに用いられたのはastrolabeアストロラーベ(ギリシア語でstar finderの意)ですがそちらは星図ではなく,この金属製の複合円盤の使用方法は様々であったようですが,航海時の位置測定用の読み取り尺として,主に垂直に吊り下げて星々に照準を合わせて回転盤を回しその高度を読み取るのが一般的でした.
 volvelleも,天の動きを読んだり,時刻や潮時を知るために作られたいわばアナログコンピュータですが,これが発明されたのも,やはり古代ギリシアまで遡り,その後アラブの学者に伝わりましたが,ヨーロッパの古文書に現るのは13世紀頃です.そして,紙製のものが広く活用されるようになったのは印刷術の発達を待たねばならず,15~16世紀になってでした.後日アピアヌスの「宇宙誌」をご紹介したいと思いますが,これには多数のvolvelleが付いており,de Sacroboscoや, J.Schoener, S. Muensterらもvolvelleを製作しています.ただし,これらは星図ではありません.

 星図ないし天球図は17~18世紀のオランダやドイツで盛んに出版されました**が,携帯用の星座早見盤として利用できるvolvelle付きの星図の嚆矢はN. Voogdioが1680年頃にアムステルダムで製作した星座盤のようです***.

 これは星座の図像を伴って六等星までが描かれた,天球を外から見た鏡像の星図の外周に十二宮と月日が刻まれ,その直径は32cm,その中を水平線を示す細身の楕円環が回転するようになっています.
 その後,英国のJohn Flamsteedが1725年に初めて望遠鏡を用いた北天の星の位置と光度の有名な星表をまとめ,17世紀後半から18世紀は英国が天文学の中心になりました.

 ここで提示するのはスコットランド人のJames Ferguson(1710-1776)によって1757年にロンドンで製作されたもので,やはり銅版で印刷された紙を使用しており,地上から見たままの星図・星座図が描かれ,回転盤は二枚用意され,日付と時間に併せて,上の回転盤に開けられた楕円の窓から,下の回転盤の星図を見るようになっています.星図の直径は18cmで,南緯40°までの三等星以上の星々が描かれていますが,これは星の数としてはアストロラーベよりは多く一般的な天球図よりは少ないですね.

 タイトルの下には,日付,月齢,日月の黄道上の位置,日・月・三等星までの星々の出・南中・没の時間が1756~1805年まで示されるとあります.


 台紙の暦日の目盛環の上に二つの回転盤が付けられ,上の円盤に
は外周に24等分された午前・午後12時間の5分刻みの時刻の目盛りがあり,その内周には月齢を新月・半月・満月で表し,内部には偏心した楕円の窓があり,下の円盤の北天の星図が見えるようになっています.窓の周囲には略語で方位が示され,窓を縦断する0-90-0°の高度目盛の物指があります.他には1756~1780年と1781~1805年に左右振り分けられてその年の1月の新月の平均時刻 の表と,中央に日付の万年暦がDominical letters (年による曜日の規定の表現で日曜日がA~Gで表される)で割り当てられて書かれています. 下の円盤には中央に星図が描かれ,その周囲,上の円盤の外側に,日付と十二宮の日付が刻まれ,最外周に月齢がイラストで1年分描かれています.
 下段には使用方法の説明の終わりにJ. Ferguson delin. の署名,その枠外の下方にPublished Aug. 29.th 1757 according to Act of Parliamentとあります.説明をよく読んでいないので,現時点では台紙の日付環の意味がいまひとつ理解できていません.

 ファーガソンは1757年にそれまで製作販売していたSenexの地球儀・天球儀の原版をBenjamin Martinに売却し, この天文分野で暖めていた新製品を世に問うたようです.これは実際には1742年に製作した星図と一体のAstronomical Rotulaの改良版でした.サイズはまだ大きいですが,都会の自宅から夜空が観望できた時代この程度でも紙なら十分携帯できたのでしょう.


 ファーガソンの後に,1780年に製作されたSimeon de Witt (1756–1834)のものは米国最古の星座盤で,Simeon De Witt's Star Mapのリンク先は2010年5月からワシントンのスミソニアン国立博物館で特別展示された"The Cosmos in Miniture:The remarkable Star Map of Simeon de Witt"のサイトで,下の方には日付で早見盤が回転する様子が再現されています.基本はファーガソンのものに似ていますが,ニュージャージーの緯度から見た星空をより小型ながら暗い星々を描き,回転盤の上に1781~1826年までの万年暦を加えています.

*the British LibraryのMap Collection(K.190)とスミソニアン国立博物館にそれぞれ一点保管されています. もちろんこれしか存在しないわけではなく,2003年11月にクリスティーズ・ロンドン(SK)で"extremely rare"として出品され図録の表紙にもなっていたのですが,残念ながらシミやヤケで状態が良くはなく,控えめな評価額£2-3,000に対し£1,800足らずで取引されていました.
 本品は,日本の先達の蒐集家から出たものとのことで日本の書店で購入できたのですが,円盤の窓の物指に修復の後がある以外,紙の状態は大変良く,良く集められたものだと感心しました.以下の星表が一緒になったおまけ付きで,これは"TABLE of the RIGHT ASCENSIONS in TIME and DECLINATIONS(with their ANNUAL VARIATIONS) of Forty-Four PRINCIPAL FIXED STARS, Computed for the 30th of June, 1772, with the Times of their TRANSITS over the MERIDIAN the last Day of each Month, according to Mwan and Civil Time. Also, a TABLE of the ACCELERATION of the FIXED STARS, from One Hour to Thirty-Two Days."と付表から成り,ファーガソンの星座盤の倍ほどの大きさで,1772年とあり,主要な44の恒星の出と入りの時刻とその歳差,1772年の毎月末の子午線通過時刻を,例えば一行目はペガサス座γ星(翼 2等星)について,秒までの単位で記載しています.詳細についてはまだ調査不足ですが,彼の存命中のものなので,当時もともと添付されたのかもしれません.


**
星図の歴史についてはLinda Hall Libraryの企画展"Out of This World"のサイトや下記Kanasの著書が入門書として一般的です.Warnerの著書は古いですが詳しく網羅的です.

***MILLBURNの著書を読んでいないので,不確実です.

[文献]
・N.Kanas,Star Maps:History, Artistry, and Cartography, 2007/9, p.234.
・D.J.Warner,The Sky Explored:Celestial Cartgraphy 1500-1800,1979. p.79
・J.R.MILLBURN, Wheelwright of the Heavens, 1988. pp. 90-1


天球儀と古星図(6)

2011-05-26 22:38:44 | 天球儀と西洋古星図

 16-18世紀に西欧で製作された天球儀などの国内の所蔵先について現在調査している.

天理図書館* 直径42cm ルーヴェン・メルカトール;1551年版 MER** 地球儀1541年版と対
同上  23cm アムステルダム・ブラウ;1602年版(1621年以降の制作と推定) BLA-III2?  地球儀1602年版と対
同上 34cm アムステルダム・ブラウ;1603年版・1600年分点(1621年以降の制作と推定) BLA-I3 地球儀1599年版と対
同上 26.5cm アムステルダム・プランシウス原図・カエリウスP.van den Keere制作;1614年版(1625年分点) 地球儀1614年版と対
同上 20cm ストラスブール・ハブレヒト;1625年分点 地球儀と対
同上 68cm アムステルダム・ブラウ;1640年分点(1630年頃の制作と推定) BLA-V3 地球儀1622年版と対
同上 48cm ローマ・グロイター;1636年分点・同年版 地球儀と対
同上 9cm ベネチア・コロネリ;1697年版 地球儀と対
同上 7cm ロンドン・ヒル;1754年版 地球儀と対
同上 32cm パリ・デノ;1758年版 地球儀と対
同上 30cm ロンドン・アダムズ;1795年 地球儀と対
京都外国語大学付属図書館 直径13.5cm アムステルダム・ブラウ;1606年版(1618/21年の制作と推定) BLA-IV1? 地球儀と対;表面のニス劣化かくすみ
武雄市立蘭学館 直径24cm;高さ34.5cm アムステルダム・ファルク工房;1750年版(1750年以後の制作と推定) VAL-I4 鍋島家が地球儀と共に1844年「天保十五年辰春」輸入;表面のニス劣化かくすみ
松浦史料博物館 直径31.0cm;高さ46.3cm アムステルダム・ファルク;1700年版(1711年頃の制作と推定) VAL-II2 平戸藩松浦家が地球儀と共に輸入(長崎県指定有形文化財);ニスの劣化はやや目立つ程度,一部に紙片の剥脱があるが総じて美品
千葉市立郷土博物館 直径20cm ニュルンベルク・ドッペルマイヤー;1730年版(W.P.イェーニッヒによる1790年代再版) ニスはやや黄変するが美品

*天理図書館
 開館71周年記念展として平成13年10-11月に図書館展示室で,平成14年5-6月に東京天理教館の天理ギャラリーで,プランシウスとブラウの天球儀が展示されていたらしい.メルカトルの地球儀(ルーヴァン1541年),バイヤー星図Uranometria(初版1603年)も展示されたとある.
 日本では唯一一所に天球儀が複数保管されているところで,この他ニュートン社製の19世紀前半と思われる天球儀が2点所蔵され,計13点らしい.多くは1962年ごろ購入されたらしく,地球儀は言うに及ばず,このほか渾天儀だけで8基も所蔵されている.

**記号はvan der Krogt, Globi Neerlandici, 1993 のカタログによる


・富山天文台のサイトに記述のある福山の誠之館歴史資料室の「天球儀」は,阿部家より寄贈されたものでペリーより贈られたという.経緯からすれば19世紀のアメリカ製か?61×35cm. 「福山城主阿部正弘所縁?の天体運行儀」は太陽系の惑星運行モデル,すなわちオーラリーOrrery

広島経済大学図書館の蔵書
バイアー「星図Uranometria」初版 1603年
コペルニクス「天体の軌道についてDe revolutionibus orbium coelestium」初版 1543年
ケプラー「ルドルフ表Tabulae Rudolphinae」初版 1627年
ガリレイ「世界2大体系についての対話Dialogo sopra i due massimi sistemi del mondo」初版 1632年

・シェークスピアの初版本の所蔵で知られる明星大学図書館にもガリレイの「二大世界体系についての対話」初版 1632年 の他数冊,ケプラーの「新天文学」1609年,コペルニクスの「天体の回転について」1617年アムステルダム版などが所蔵されている.


天球儀と古星図(5)/ニュルンベルク紀行(6-ii)

2011-01-26 21:37:02 | 天球儀と西洋古星図

ゲルマン民族博物館の展示室は天文器材から始まる.展示されていた天球儀は渾天儀(アーミラリarmillary sphere ラテン語でarmillaは腕輪の意)を除くと5台ほど.紙に銅版画を用いたものよりも金属に彫刻したものの方が起源は古い.


Johannes Praetoriusの天球儀と地球儀(左) ニュルンベルク 1566年 真鍮に鍍金 天球儀の星座は左の写真の中央がへびつかい・こと,右にはくちょう座.右の写真の中央がペガサスとアンドロメダ座


左:Michael Caucighデザイン Johann Beckher製作 天球を支えるアトラス リンツ 1726年 真鍮に鍍金 星座は中央に左からふたご・かに・しし座 この左上の奥にはアーミラリも見えますね
右:天球を支えるアトラス ドイツまたはフランス? 17ないし18世紀 星座はおおくま座や,ふたご座からしし座がみえる


天球儀の断片 Erhard Weigel(1625-99) イェナ 35.5cm 1670年頃
 珍しい造りで,紋章を星座に置き換えて浮き彫りにしている.おおくま座の代わりにデンマーク家の「象」(写真左の端),オリオン座の代わりにハプスブルク家の「双頭の鷲」(壁側なので写っていない)が描かれていると"Grove's Dictionay of Art"の天球儀の項に紹介されていた(vol.12 p.812).


Willem Janszoon Blaeu,Amsterdam,1602 彩色銅版による天球儀Inv.No.WI1007
 ブラウ最初期の1602年版の天球儀で,星座の絵は詳細で美しい.色彩はやはり北天側では使用やヤケで分かりにくくなっている.右上の写真で,水平環の表面には再内輪に十二宮,中輪に十二月などが記入されている.


北極のダイヤル(環)には時刻の数字が刻まれている.17世紀初頭の作品なので,こじし座などヘヴェリウスの星座はまだ描かれていない.りょうけん座も同様のはずだが,おおぐま座の後ろ,右上にはかわいい子犬のような猟犬が描かれている.チコ・ブラーエの提唱によるものか再確認を要す.