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きゅうりの彫刻家_160420

2016年04月20日 | 創作帳
きゅうりの彫刻家がいました。




きゅうりの彫刻家は
きゅうりを彫って
彫刻を作るのです。




きゅうりの彫刻家は
きゅうりを彫ることだけに
心をくだいています。




なので、おおかたの記憶や思い出は

きゅうりの彫刻家の頭の中では、定かではありません。





いつから自分は、
きゅうりの彫刻を始めたのか

昨日なのか、何百年も前からなのか
そして、何本の作品を完成させたのか、
そんなこんなの記憶はいつもかすみのように

ぼんやりとしていて、まったくはっきりしていません。


きゅうりの彫刻家が
愛するひとの影ばかり
きゅうりに刻み始めたのも
いつからのことなのでしょう。




愛するひとがきゅうりの彫刻家のそばからいなくなって
どれだけの時が経つのでしょう。




数時間なのか、数百年なのか、

きゅうりの彫刻家にとって

時を流れゆく記憶も思い出も

大したことではありません。


きゅうりを掘り刻み形にするときの、
息詰まる一瞬一瞬の緊張と、

次に来る天国のような安堵に比べれば、
思い出などまるっきり大したことではないのです。


きゅうりの彫刻家の作る彫刻が、
どのような形をしていて、どのような出来具合なのか、
誰も知らないし、誰も見たことはありません。




きゅうりの彫刻家は
出来上がった作品はすぐさま
ぽりぽり食べてしまいますから。


昨夜完成した「しんじつの愛」というタイトルのきゅうりの彫刻は、
塩もマヨネーズもつけず、そのまま丸かじりしました。



数秒でなくなりました。

苦みと酸味が強くてほのかに甘みのある「しんじつの愛」だったそうです。
















「きゅうりの彫刻家」fin.














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