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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake40.花片

2019年03月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【花片】


彼の星から花を一束持ち帰った。


花は日ごとに花片を落とてはしおれてゆく。


花の種と手紙の束を鞄に詰める終わる頃、


星を訪ねた日々の重さを掬い取るように花は枯れた。


この星の長い日々の真暗に落ちる花風は激しく、


吹き止むことはない。


せめて花片を一掬い


狭間にひらひらと愛しい時をここに。





flake40『花片』



flake39.真白

2019年03月20日 | 星玉帳-Star Flakes-
【真白】


遙かな星に雪の降る日小さな白キツネと出会った。


キツネは足を伸ばし私の手を握った。


握り返すと嬉しそうに尻尾を振る。


暫くの間手を握り合い微笑み合い、別れた。


星を訪ねる度キツネを探していたのだが


出会った場所には雪しか降らず。


あの小さな柔らかい白い手はおそらく


別れを


真白に変えるものだったのだ。





flake39『真白』


flake38.塔の青

2019年03月12日 | 星玉帳-Star Flakes-
【塔の青】


金星塔の壁には青色の顔料で描かれた異国文字が並んでいる。


塔の階段守が言うには、


それらはかつて塔を訪れた星を巡る旅人たちの名だという。


春の星で別れたきりの旅人の名がここに在りはしないかと壁文字をたどる。


あれから季節は幾たび過ぎたか。


春の記憶は青く刻まれたままだというのに。



flake38『塔の青』



flake37.微塵

2019年03月01日 | 星玉帳-Star Flakes-
【微塵】


港の待合椅子に座り猫を撫でた。


星の港に棲みつく猫の毛模様は黒地にまだらの銀色が点々と光り


まるで華やかな星図のようだった。


ほら息を吹いてごらんなさいとその猫は哀切に鳴く。


ふうと息を吹きかけるだけで


ここに在るものは粉々になり宙に散り微塵になるのだと


全ては微塵であるのだからと。




flake37『微塵』



flake36.鈴

2019年02月23日 | 星玉帳-Star Flakes-
【鈴】


いつからだろう。


鈴の音が聞こえるようになったのは。


昨夜からなのかもうずっと長いことどこかで鳴り続けていたのか。


気がつくと音は部屋に入っていた。


誰の鈴なのか誰の鈴でもないのか何のためになぜ。


大方の知らなくてよいことは鈴の音に化けるのですよと


昨夜すれ違った猫の囁きを思い出した。




flake36『鈴』



flake35.砂浜

2019年02月18日 | 星玉帳-Star Flakes-
【砂浜】


砂浜を歩いていると


何時現れたのか足元に砂と同じ色の猫が一匹、


こちらを見上げていた。



やわらかいふわふわの毛に包まれた体。


抱いたと思ったのは一瞬だった。


猫はするりと身をかわし膨大な砂に紛れて見えなくなった。


抱いた猫のやわらかさを夢幻とするならば


それを願うならば


きっとそれはまた




flake35『砂浜』


flake34.魔術

2019年02月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【魔術】


魔術にかかっていると思い当たったのは


21番目の星へ往く船の中だ。


船底から音が聞こえた。


あの音はこの星に来てたびたび耳にしていた。


繰り返す波のような懐かしい子守唄のような。


海の魔術に使う道具を作る音だと


船乗りが教えてくれた。


海が見せるまどろみの中、醒めないままいられるようにと





flake34『魔術』




flake33.夢魔

2019年01月30日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢魔】


探し当てた橋を数歩往くとほろほろとそれは崩れた。


渡れない橋は橋ではなく静かに川に沈めるしかないと知ったのは


夢魔に会ってからだ。


水の絶壁で出会った刹那の叫びは歓喜だったのか絶唱だったのか。


全てを夢にする彼の鳴声の懐かしさに泣くが良い。


川底にため息を落とし続けながら泣くが良い。





flake33『夢魔』





flake32.紙束

2019年01月28日 | 星玉帳-Star Flakes-
【紙束】


紙の束を燃やす。


幾千の言葉が記された紙だったが


彼方の宿に向かうには重すぎた。


紙は湿気を帯びていたせいか


少し燃えてくすぶり煙を上げた。


火をつけ直し紙をくべ続ける。


燃えた言葉は煙となり


煙となった言霊はむせるほど熱く散らばる。


燃やし終えたら灰を集めよう。


惑星の丘に蒔くのだ。





flake32『紙束』




flake31.雪の札

2019年01月24日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雪の札】


雪原の道中


北の星を彷徨う雪の札師に出会った。


見せてほしいと願うと


札師は雪の上に布を広げ幾枚か並べた。


中から一枚の雪札を選ぶ。


描かれた白の絵は何を、何処を、


指すのだろう。


尋ねようとする前に札は凍る。


氷雪の粒はひっきりなしに天から落ちてくる。


白が降り積もるばかりだ。






flake31『雪の札』





flake30.欠片工場

2019年01月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【欠片工場】


雪原の果てに欠片工場があるという。


星の欠片を集め粉々にする工場だ。


欠片の成分によって食用になるものもある。


白湯に食用粉を溶かして飲めばうんとあたたまります、


と旅で出会った欠片星の人は寒がるわたしにご馳走してくれた。


別れ際に握った手の温かさは星の成分のためだろう。





flake30『欠片工場』


flake29.星模様

2019年01月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星模様】


窓のない部屋で壁の星模様をなぞっていた。


壁には砕けた星の欠片が埋め込まれていて


暗い部屋で仄かに光った。


土星の人と別れた時刻を幾度もそこに刻むのだが


そのたびに異なる数列が並ぶ。


別れは完璧に近い業だったのだ。


それを誉むならば


ここに時空を刻むことも灯りになりはしないかと。





flake29『星模様』



flake28.海幻灯

2019年01月18日 | 星玉帳-Star Flakes-
【海幻灯】


どこまで進んでも海の見える星だった。


風は強く波は高く。


高波の中に小さな影が一つ泳いでいた。


あれはもしやいつか冬の惑星で別れたきりの魚ではないか。


荒れた海を往く「それ」は今にも波間に消えそうな頼りない影だった。


一瞬こちらに向かい笑っているように見えたのは海の見せる幻灯なのだろうか。






flake28『海幻灯』



flake27.詩人の淵

2019年01月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【詩人の淵】


星を旅しながら詩人は言葉を埋めていた。


言葉は淵に深く埋めるものだと詩人は思っていた。


淵は行く先々に無数にあった。


が、詩人の言葉ほど不確かですぐに消え去るものはないことを詩人はよく知っていたし


その殆どは埋められるものではなかった。


星の淵ではしばしば詩人の骨を見かける。




flake27『詩人の淵』





flake26.一欠片

2018年12月26日 | 星玉帳-Star Flakes-
【一欠片】


金星の丘で出会った人は長く船旅をしてきたという。


訪ねるたび青と赤と黒の惑星で手に入れた海鉱石の欠片を見せてくれる。


旅のことを尋ねても多くは語らず欠片を丘の野原に並べ始める。


何を失い何を得たかなど語ればひどく儚いことなのだと言い


別れ際に欠片を一つ持たせてくれる。





flake26『一欠片』