goo blog サービス終了のお知らせ 

DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake55.雨音

2019年06月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雨音】


長く続く雨だった。


机に向かい手紙を


と便箋を広げペンをとる。





雨音に聞き入り進まない。


この星の雨音は時の流れを消す。


遠い星の人と別れて幾時か


この雨に出会って幾時か


時の流れは音に紛れ分からなくなってしまった。


ただこの音に包まれて


届くあてのない幾通もの手紙の事を思うのだ。



flake55『雨音』






flake54.水の惑星

2019年06月06日 | 星玉帳-Star Flakes-
【水の惑星】


海風の吹く丘の見晴らし台で


よく魚と出会った。


肩を並べてベンチに座ると


魚は水の惑星にある海の話をしてくれた。


懐かしそうに楽しそうに


少しやり切れなさそうに。


何度同じ話を聞いても飽きることはなく


その話は行ったことのない星を見せてくれた。


魚に会えなくなった今も。


あの海は。




flake54『水の惑星』


flake53.透明

2019年06月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【透明】


手を伸ばし触れようとしても


そこに感触はない。


青の惑星で空気と水を分け合った


土星の人は形を無くし


光も影もない透明になってしまった。


遠い日


わたしたちには形が在り


体を重ね合うことができた。


その事実も記憶も


まるで波のように高く低く


現れては消え去る幻覚で


今は透明だけが手元に残った。



flake53『透明』







flake52.夢室

2019年05月27日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢室】


宿の床下には夢を見る室があった。


そこで長い夢を見ていた。


どのくらいの時を経てか目を覚ました。


いや目を覚ましたことなど確かな事ではない。


不確かな空間の中で


夢の多くは記憶に刻まれ


刻まれた途端


不規則に薄れていった。


記憶は刻々薄れてゆくのに


室では時空のない思い出だけが育つ。




flake52『夢室』





flake51.草原

2019年05月23日 | 星玉帳-Star Flakes-
【草原】


草原の星では日々編み物をした。


編み上がったものは何重にも首や体に巻き


厳しい雨風をしのいだ。


一つの季節が終われば


雨風の強さも向きも感触も変わる。


編んだ物の質感や形も変わり


そこで過ごした記憶の濃淡も変わる。


星を去る時それらは全て燃やすのだ。


灰は風に乗り草原に降るだろう。



flake51『草原』





flake50.白濁星

2019年05月14日 | 星玉帳-Star Flakes-
【白濁星】


明け方の霧は音もなく過ぎた夜を沈めてゆく。


ただ霧の底を見つめれば


一夜の幻も容易く水の一粒になるでしょう、


と霧の森に棲む白栗鼠は言う。


そうして標ない、霧かかる道の果てを、


彼は示す。


音のないこの森に深く身を任せることは


永遠の白濁なのですよ、


と飛び交う霧の粒を体に浴びながら。




flake50『白濁星』




flake49.空

2019年05月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【空】


青の星で過ごした時は


空を見る時間が殆どだった。


青の絵の具師と共に空の青を見ては


色味を写す仕事をしていたのだ。


今ではあの星で見た景色や出会った人の記憶は


一面の青になってしまった。


時を経るにつれ青の濃さは増し


目の前には幾度も


あの星の絵の具師が愛でた空が広がるのだった。



flake49『空』




flake48.夢夜

2019年05月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢夜】


夜が続く星で


夜の道を往き


宿に着いた。


ベッドに横たわると


すぐに夢を見た。


夜が長いと夢も長い。


夢の中で出会った鳥が


広げた羽でわたしを包み


鳴いた。


わたしも泣いた。


夢から覚めることは恐怖に違いなかった。


夜が終わりになっても


わたしたちは泣き声のことを


覚えていられるだろうか。



flake48『夢夜』




flake47.幻影屋

2019年05月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【幻影屋】


その小さな看板には「幻影屋」と書かれていた。


溜まりすぎた幻はここに持ってくるのだ。


幻を取り置きする方法は店主から教わった。


春を過ごした彼の星では幻をよく見た。


ここでは幻を色とりどりの淡い影に変えてくれる。


店主は言う。


此の時も彼の時もこの場も彼の場もまた過ぎる影になるのだと。




flake47『幻影屋』




flake46.星狐

2019年05月01日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星狐】


丘を上る途中


「旗」を作る星狐のすみかあった。


丘に咲く草花で布を織り


落ちた木枝で棒を作って


それらを旗にするのだ。


星狐は入り口の隙間から


宙を往く星船を見上げては


別れたものたちのことを思い


旗を作り続けた。


仕上がった旗は穴の入り口に立てておく。


船に乗った彼らがせめて気づくように。




flake46『星狐』


flake45.手紙箱

2019年04月24日 | 星玉帳-Star Flakes-
【手紙箱】


春の星を発ったのはどのくらい前だったか。


幾時も船に乗り長い道を歩き


ようよう宿に辿り着いた。


僅かな灯りの点る薄暗い部屋に通されると


すぐにペンをとり手紙を書いた。


この星の手紙箱に投函するために。


箱に落ちた手紙は


地下の氷室で永久に凍ってしまう。


ゆく当てのない手紙は全てここに。




flake45『手紙箱』





flake44.霞空

2019年04月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【霞空】


霞の中


道に迷い瞬きを繰り返しては空を見て地を見て耳を澄ませた。


あの微かな鳴声はどこから聞こえてくるのか。


どの道を往くべきなのか分かっていたはずだと


記憶を辿ってはそれは記憶違いだったと知る。


鳥影が空を旋回する。


霞の空を祝うように。


ああ、あれは鳴声ではなく鳥の歌だったのだ。




flake44『霞空』



flake43.隧道

2019年04月10日 | 星玉帳-Star Flakes-
【隧道】


星の花季、


隧道の入り口で待ち合わせをした。


隧道を抜ける強風が吹き荒ぶ場所だった。


長く待ってみたが待ち人は来なかった。


山の斜面に咲いていた花々は風と共に散った。


隧道の往来人は言う。


花片を飲み込んだこの隧道を往くとよい、


風が哀しい記憶をただ一枚の花片にすることがあるのだと。




flake43『隧道』



flake42.夢遊詩人

2019年04月06日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢遊詩人】


その星の門をくぐれば


夢の続きが見つかるという。


荒れた野ばかりの星だった。


ここは荒野の夢遊だけを選んだ詩人が辿り着ける場所なのですよ、


と星の門番が言う。


夢に続きがあるならば


久遠の夢遊は容易いことなのだ。


人は去り花も木もなく時さえ消えた野は


夢遊詩人の終の寝床となるだろう。



flake42『夢遊詩人』




flake41.線描

2019年03月28日 | 星玉帳-Star Flakes-
【線描】


夜空には数え切れないほどの線が浮かび


絡まりながら漆黒のカンバスに軌跡を描き続けていた。


過ぎ去った多くの旅人が描いた線だと


の放浪者は教えてくれた。


自ら描き放った線は空のどこか


己にしか分からない場に浮かぶという。


空を見上げ軌跡を描き求めるのは


旅往く者の性であり哀しみなのだと。




flake41『線描』