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DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake70.瓦斯灯

2019年08月26日 | 星玉帳-Star Flakes-
【瓦斯灯】


道の先に瓦斯灯が見えた。


灯りの下には手紙屋をしているという白猫がいた。


宛先を書いていないことを告げて白猫に手紙の束を渡す。


白猫は頷き手紙をくわえて姿を消した。


古びた契りなのだ。


それはしばしば幻覚となり


夕闇の灯りの下へと導いてゆく。


超えてはならない時空を易々と飛び越えて






flake70『瓦斯灯』




flake69.夕虹

2019年08月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夕虹】


季節終わりの夕刻


惑星の天には虹が架かる。


時間と共に途切れ薄まってゆくその下を歩くと


先に現れては消えるものがある。


何なのだろうあれは。


何時かの記憶によく似ている。


それらが鮮明になる頃


虹はすっかり消え


夜が来る。


そうしてまた夜を抱えるのだ。


消えた夕刻の虹に抱かれるのだ。



flake69『夕虹』





flake68.海音

2019年08月15日 | 星玉帳-Star Flakes-
【海音】


潮騒が聞こえ潮の香りがする。


波模様に揺らぐ光が見える。


けれど海は見えない。


通りがかりに牧場があった。


そこに棲むという羽魚に海の場所を尋ねると、


この星には牧場だけです海は知りません、と言う。


では


わたしは何を聞き何を見ているのか。


わたしは何処にいるのか。


あなたは魚ではないのか。



flake68『海音』



flake67.約束

2019年08月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【約束】


約束をしましょうと鳥が言う。


もうこの岸を飛ぶことはないのでと。


彼の岸で会うことを約束した。


果たすことのない約束は多くあった。


約束は「持つ」ためのものであり


「願い」であることを、岸を眺めるうちに知った。


もしもひと筋


約束の契りがあるならば


遙か岸に私たちの願いの塵は舞うだろうと。



flake67『約束』




flake66.草陰

2019年08月04日 | 星玉帳-Star Flakes-
【草陰】


流れ星を追っていた。


気づくと草原に立っていた。


消えた星の行方に方角を見失い


草の中を歩き続けていると


笛の音が聞こえてきた。


草陰に潜む狐が吹いているのだ。


狐は曲の終わりに


旅のお守りだと


流れた星の一欠片を握らせてくれた。


あなたがいつか訪ねた遠い星の石ですよ


と笛を吹き草を揺らし



flake66『草陰』



flake65.海鳴

2019年07月26日 | 星玉帳-Star Flakes-
【海鳴】


浜で海が鳴るのを聞いていると


沖の廃船に棲む猫が寄ってきた。


猫の背中には青い斑模様があった。


模様は薄らと光を帯びていた。


美しく光る青ですね、と言うと、


猫は頷き、説いてくれた。


この惑星の海鳴は猫の青斑と共鳴するのですよ



時が封じた尊い哀しみの模様と音は共に鳴くのですよ、と。



flake65『海鳴』


flake64.ワルツ

2019年07月23日 | 星玉帳-Star Flakes-
【ワルツ】


星の宿でワルツを集めた。


音を探し拍子をなぞり音階を辿り


一日を終えた。


夜になると


青い惑星の港で別れたままの人のことを考えた。


言葉にしようとペンを取る。


途端に部屋は静まりかえり言葉を失う。


長い夜は繰り返し訪れるものだ。


静寂の先は何処か。


青い星のワルツは聞こえるだろうか。



flake64『ワルツ』



flake63.雨草

2019年07月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雨草】


星の草原で布を織る白狐に出会った。


夏前に刈った雨草の繊維を糸にして


雨季の間、織り続けるのだという。


しっとりとした柔らかな心地の布だ。


胸指足を幾重にも巻くことを勧められた。


それらは元の体温には戻らないと思っていた箇所だった。


雨と草に巻かれることですよ


と彼は囁き鳴くのだ。



6flake3『雨草』





flake62.雲間

2019年07月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雲間】


雲に覆われた道々


言葉を書き留めていると


星船の操縦士に出会った。


船が難破し流れ着いたのだと言う。


傷を巻くためのスカーフを渡すと


スープを分けてくれた。


透き通った青色のスープだった。


往く先を失った者たちの紡ぎ出す在りかは


まるでスープに浮かぶ雲だ。


切れ間が青く突き刺さる。



flake62『雲間』


flake61.船乗り

2019年07月04日 | 星玉帳-Star Flakes-
【船乗り】


星間船の舵をとりながら


船乗りは歌を歌う。


宙の海は荒れている。


激しく揺れる海の上では


去った星や別れた人や置いてきたあれこれや


一瞬で砕かれかき消えてしまう。



永遠などというものに


憧れては失い


刹那の前に幾度もひざまずき


そうして彼は船に乗り歌うのだ。


永遠の旅人であることを歌うのだ。



flake61『船乗り』



flake60.七色香

2019年06月28日 | 星玉帳-Star Flakes-
【七色香】


夢に降る雨の中では


虹が強く香ることがあった。


それは遠い日


彼方の星へ旅立った人の


佇まいと共にあった香りに似ていた。


明け方を失った空洞の空に


虹を探しては


祈りの言葉を埋めようと足がもつれ


夢現に気づくのだ。


やがて雨の夢は


浮遊の郷となり


七色に香る濡れた墓石となるだろうと。



#60『七色香』


@hoshidamastory




flake59.時空の星

2019年06月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【時空の星】


渡る川には銀色に光る欠片が流れていた。


河原の番人に挨拶をすると


教えてくれた。


欠片は時空の流れを纏ったものであり


その一つ一つが重力の断片なのだと。


時に一欠片の重さのために


身は硬直し神経は麻痺し


息が絶えそうになることがある。


川を幾度も渡ることだという。


時空の星を往くには



flake59『時空の星』

@hoshidamastory






flake58.夏至の夜

2019年06月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夏至の夜】


出航する船を見送っていると


風に乗って歌が聞えてきた。


ああ、


あれは懐かしい「夏の歌」だ。


見送り人の誰かがが口ずさんでいるのだ。


船影が沖に消えると歌は止み


やがて港には誰もいなくなった。


星灯りを映す無人の世界が見せるのは


往く人の幻だ。


果てない夢に連なる幻影は強く、儚い。





flake58『夏至の夜』



flake57.弦

2019年06月15日 | 星玉帳-Star Flakes-
【弦】


海の星に雨が降る日。


窓に寄りかかり耳を澄ませていると


雨の音に混じり仄かな旋律が聞こえてくることがある。


波の上に漂う魚が水の弦をつま弾いているのだ。


音は雨をくぐり


窓を、壁を、空気を、


叩き震わせる。


弦が奏でる震えに寄り添えば


魚の見た夢をまたここで見ることが出来るだろう。



flake57『弦』

flake56.雲の道

2019年06月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雲の道】


めったに人の行き交わない雲の道で


腕に包帯を巻いた旅人と出会い


同じ宿を目指した。


旅人はかつて詩人であったという。


あなたにもと包帯を分けてくれ


胸に巻いてくれた。


あれから包帯は何度も傷に巻き直した。


傷を負ったものは永い沈黙の術を持つのだと


雲の道を往くたび詩人の言葉を思う。



flake56『雲の道』