DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake85.珠玉

2019年11月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【珠玉】


星の丘に上る道。


石玉を売る店があった。


店のテーブルには様々な彩りの小玉が転がっていた。


白きつねが店先の椅子に腰をかけ小玉を磨いている。


これらは各々が傷みの玉なのだと教えてくれた。


小玉を幾つかもらい星降る丘を上る。


星明かりの下


玉はその傷に微かな光をたくわえるという。




flake85 『珠玉』


flake84.幻夜

2019年11月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【幻夜】


ある夜。


木星の彼方で旅人と出会った。


木星の炎に言葉をくべるのですよ、


と彼は言葉を記した紙の束に火を付けた。


紙束は灰になり宙に舞いやがて星を取り巻く霧になる。


わたしたちは霧になる命なのだと、


彼はわたしの手を取る。


灰になり霧になるこの一夜を


繰り返し。


繰り返し。


わたしたちは。




flake84 『幻夜』



flake83.星図

2019年10月30日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星図】


寝台の上に星図の描かれた地図を広げる。


夜の生き物たちの鳴き声を聞きながら


古びた紙の上に光る星をなぞった。


最果ての星で出会った楽士が作った歌が耳の奥で鳴る。


忘れたことのない歌。


今は星を渡る海にいるのだと


もう歌は作らないのだと


あれから一度だけ届いた手紙にはそう書かれていた。




flake83『星図』





flake82.面影

2019年10月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【面影】


太陽の落ちる方角へと進むと川があった。


向こう岸に「面影」が見えますよ


と教えてくれたのは川を往き来する鷺だった。


対岸は霞のようですと言うと、


鷺は一声二声笑い鳴き空に飛び去った。


あの岸に微かにぼんやりと見えるのは


霞ではなく。


瞬きの間に現れ消えるものたちの、


儚い「面影」なのか。




flake82『面影』

flake81.崖淵

2019年10月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【崖淵】


崖の多い星だった。


ある切り立った崖淵に立った時、


下に空が見えた。


底に空が見えるのはなぜ。


向こう側の崖で同じように下を見ている旅人がいた。


幻を歩きすぎましたからね、


と彼は言う。


しゃがみ込み天を仰いだのは幾度目か。


虚空の星と知ったのは幾度目か。


夢幻の狭間はこんなにも崖淵だ。




flake81『崖淵』







flake80.異世界

2019年10月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【異世界】


霧の中なのか雲の中なのか景色も道も見えない。


何かとすれ違うが人なのか動物なのか草葉なのかさえ分からない。


「…いせかいへ繋がりますよ」


霧の向こうで声がした。


ここが何処か何処かへ繋がるのか、


声は真実なのか、


分からない。


そのまま分からないまま。


晴れない靄に抱かれたままなのだ。



flake80『異世界』




flake79.リスの夢

2019年10月14日 | 星玉帳-Star Flakes-
【リスの夢】


森の奥深く棲むリスは歌を唄う。


森の風に聞いてほしくて歌い続ける。


がいくら歌っても歌は瞬く間にどこかへ流れ行方知れずになってしまう。


この頃リスは思う声が出なくなった。


そして夢を見るようになった。


風になり戻らぬ歌と吹く夢だ。


今宵もリスは夢をみる。


歌う代わりに夢を見る。



flake79 『リスの夢』


flake78.十三夜

2019年10月10日 | 星玉帳-Star Flakes-
【十三夜】


月明かりの海岸を歩いていると


陸に上がった魚に出会った。


魚は尾びれを砂の上に広げた紙にこすりつけていた。


絵を描いているのだという。


紙は黒一色に塗られていた。


長く憧れていた夜の水平線を描こうと、


と魚は十三夜の月に絵をかざす。


憧れも未完のままと嘆く魚に月色の粉が降る。




#78『十三夜』



flake77.楽園

2019年10月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【楽園】


星の港から今夜出港するのは楽園往きの船だ。


「持ち込める荷物は一つだけです軽量の物を」乗組員が叫ぶ。


乗客の列に見覚えのある人がいた。


彼はこちらに気づいたのか笑顔で手を振り船に乗り込む。


彼が持って往くものは何なのだろう。


去った港に懐かしい香りが残る。


船が消えてもそれは強く。




flake77『楽園』


flake76.手紙鳥

2019年10月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【手紙鳥】


風の強い日。


空を見上げると小さな鳥影が見えた。


大きく小さく弧を描きながら飛んでいる。


あれは天に手紙を運ぶ鳥ですよ風に乗って宙を昇り手紙の待ち人に届けるのですよ、


とすれ違った、地の手紙配達人が教えてくれた。


ああきっとあの鳥なのだ。


風の強い日に消える手紙があるのは。




flake76『手紙鳥』




flake75.時雨

2019年10月03日 | 星玉帳-Star Flakes-
【時雨】


雨は降っては止み降っては止みを繰り返していた。


この星に辿り着いて幾月流れただろう。


振り返り数えるたび数は違う。


まだらな冷雨は過ぎゆくものたちを追いかけてはまた逃げてゆく。


ただ濡れた体の置き場を探すこと出来るなら。


やがて星の果てにも降る雨を


愛しく抱くことができるだろうか。



flake75『時雨』


flake74.深夜航路

2019年09月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【深夜航路】


夜の海を往く船はまるで月に吸い込まれていくようだった。


実際吸い込まれたのかもしれなかった。


深夜航路の船上に過ぎるのは自身のかなしみと誰かが落としたかなしみと。


それらを海に映しては溺愛の術を思う。


夜空を愛で続けるには海はあまりに暗く。


愛でもない海で溺れそうになるのだった。




flake74『深夜航路』


flake73.暮色

2019年09月17日 | 星玉帳-Star Flakes-
【暮色】


海沿い通りに「暮色屋」はあった。


夕暮色に染めた布を売っているのだ。


様々な色があった。


染め上がりの色は日によってとても違うのですよ、


と店主は幾枚か布を広げてくれた。


あの星の道で見た夕暮れの色を見つけた。


首に巻き窓に掛けよう。


世界は暮色に染まり遠い星の歌を思い出すだろうから。




flake73『暮色』




flake72.風の鐘

2019年09月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【風の鐘】


夜の風に乗って聞こえてくるのは鐘の音だ。


大きく小さく星の空気を震わせる。


土星の人と過ごした夜


あの鐘は鳴り止まなかった。


嵐は夜明けまで続いた。


不協和音のようにわたしたちは絡み夜が終わり鐘も終わり私たちの和音も散った。


この星に響く不協の鐘はただ吹く風だけが覚えていることだ。




flake72『風の鐘』



flake71.祈

2019年09月07日 | 星玉帳-Star Flakes-
【祈】


床下にある階段を下りると小部屋があった。


光の届かない場所


祈りの部屋だ。


星へ往く船を見送ったばかりだった。


過ごした日々を忘れようとすることは床下の闇に墜ちてゆくようなものですよと


あの船乗りは言っていた。


手探りでキャンドルに火を点し跪く。


祈りと闇がこの小さな灯火に包まれるよう。




flake71『祈』