今、この場所から・・・

いつか素晴らしい世界になって、誰でもが望む旅を楽しめる、そんな世の中になりますように祈りつづけます。

残酷な歳月 34 (小説)

2015-12-30 15:26:02 | 小説、残酷な歳月(31話~42話)


残酷な歳月
(三十四)

村人たちが出来る事、それはお互いを助け合いのルールで、生き抜く事が大切で、その為のそれぞれの意識や団結した気持ち、人の輪のゆがみが起きる事が、一番怖い事なのだと!

パサンの、真正直な生き方、黙々と歩く、物言わぬ姿で、ジュノに伝えようとしているのかも知れない。

その後、ジュノは、パサンのすすめもあり、ただ、アマダブラムにより近づける場に向けて歩いて行った。

それは、医者としての自分を意識せずに、前へ進む事が、旅行者としての勤めなのかもしれないと思いながら・・・

加奈子と何度も写真で観た風景!
『アマダブラム』が今、眼の前に、聳え立つ!

その美しい姿と永遠の光に、包まれた暖かさを感じて、ジュノは、ただ、涙が流れた!
そして、タンポチェの僧院の高僧の祈りの中で語り、伝えてくれた言葉。

ジュノが聞いたあの言葉を改めて、この場所でジュノは心の奥深く刻み祈った。
加奈子への詫びる思いと、恋しさがつのる!

後悔の思いがいつまで、『アマダブラム』に触れていたい!

ジュノはその場にたたずみ、去りがたい感情で祈り、冷たい風に身をおきながら、この美しい風景を、加奈子は、いつか、きっと観る事が出来るような、強い想いと願いを持った。

ふと、ジュノは加奈子が生きていると思えて、不思議なほど、ジュノの心が穏やかになり、確信を持った、加奈子に又逢える!

加奈子に逢わなくてはと思う気持ちが、加奈子の生と死の動揺などみじんもない、確信となって、ただ、加奈子に逢いたい!
加奈子が恋しかった!

とにかく、東京に帰ろうと、ジュノは決心して、立ち上がった。

美しき人は確信する
君は今私に命を
たとえようのない力
気づかない心が
約束の場所で
ヒマラヤの嶺がおしえる
後悔の心を
今物言わぬ自然の力が
生きる道しるべを奏でて
君へたどり着く想い

ネパールから帰国しても、ジュノは大学病院へ、外科医としては復帰しなかった。

むしろ今のジュノは外科医よりも、「心療内科医」として医師をつづけて行きたいと思うようになっていた。

だが、ジュノの精神的な心のよりどころである、「ヒマラヤ杉医院」では今のジュノがすべてをつぎ込む事が出来ない、たくさんの問題や事情があった。

東京に戻ったジュノは、加奈子が死んだと言う、マークの一方的な連絡をジュノは信じていなかった、だから、今、加奈子に逢わなくてはいけないと思う!

けれど、長い間、仕事から離れていたジュノは、とにかく、なすべき事が多く、忙しく時間が過ぎて行く!そのなかでジュノは
『加奈子の死は絶対にないと確信していた』

確かに、加奈子に対して、ジュノはひどい仕打ちをしてきたが、ジュノの我儘を加奈子は、いつだって許してくれる事に慣れすぎていたジュノの身勝手さが、今、悔やまれるけれど、加奈子が死ぬ事など、ジュノは一度も考え事もなかった。
ジュノには絶対にありえない事だった!

お互い、言葉にこそ出してはいないが、ジュノと加奈子の間に子供がいても、不思議ではない!

自然な男女としての関係だったから、加奈子の生んだ、息子は、たとえ、現実にはジュノとの血縁関係がない事であっても、ジュノと加奈子の愛すべき子供として、今は、ジュノの中では受け入れていた。

だが、今、加奈子への連絡が取れない事が、ジュノには理解出来ない、生来の持つ我儘な性格なのだろうか?

加奈子の一番身近な存在である、加奈子の母が今、何処に住んでいるのかも知らなかったが、ジュノはなぜか、不安に囚われることはなかった。

だが、不思議と、加奈子は生きている!と、確信しているジュノだった、その強い思いは、やはり、優れた人間性と意志の強さが確信を持たせていた。

ジュノが、加奈子に対して、ひどい仕打ちをした事で、加奈子は姿を隠して、ジュノを困らせていると思いたいのだろうか?

そんなふうにしか、考えられない、ジュノの身勝手で、ジュノの隠された、幼稚さから来る、ジュノ自身も気づいていない、そんな思いがあった。

りつ子の死は、外科医としての認識で、受け入れられても、加奈子の死は、マークの電話連絡だけだったから確かめようがないし、ジュノは確かめる必要がないとさえ思っていた。


  つづく


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この小説は2008年頃、書いたものです。

わたしが元気だった頃、3回、ネパールへ山旅をして、経験し感じた事など、織り交ぜての小説ですが、ごぞんじの事と思いますが、今年4月にネパールで大地震が起き、たいへんな被害を受けて、カトマンズだけでなく、多くの村が壊滅状態で、今も復興が進んではいないようです。

私が山旅をした頃とは違った環境かもしれませんが、書いた頃の想いのままに連載をつづけさせていただきます。

これから、ネパールは冬の季節、寒さの中でテントも足りない状態のようです。
ネパールへの復興を願い、≪しゃくなげの花プロジェクト≫を立ち上げて、これからもネパールを応援していくそうです。

どうしても、気になってしまい、何度もお願いしていますが・・・

近藤謙司さんのブログをお読み頂いて
再び、ネパールへの関心を持っていただくと嬉しいのですが。

近藤さんのブログ、アドレスです。

http://blog.goo.ne.jp/kenken8848





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