BCGは唯一、「生きた細菌」を注射する予防接種です。
ですから、副反応も他のワクチンとはちょっと異なります。
とくに、免疫不全症という基礎疾患がある場合は、BCG菌が増殖して「発症」してしまうリスクがあります。
わかりやすく、かつ詳細に解説してくれている記事「小児科診療 UP-to-DATE」から引用・抜粋させていただきます。
※ 下線は私が引きました。
■ BCG 接種による副反応について
(2018年1月17日:ラジオNIKKEI)
東京都立小児総合医療センター 呼吸器科・結核科 医長 宮川 知士
BCG は生きた菌を接種するという点で他のワクチンとは異なっています。接種された BCG 菌は接種部位の皮下において拡散して、リンパを介して腋下やその他のリンパ節を通っていきます。一部は接種した際に針痕の出血があることからも判るように、血管内に入り、血液に混じって全身へと運ばれます。さらには、接種部位に留まっているものもあると思われます。接種された BCG 菌は数年を経てから副反応を認める場合も知られているので、年単位で生存し続けると考えられています。
BCG の副反応は、必ずしも菌を検出することができないので、本当にそれが BCG によるものであったのか、結局判らない場合も結構あります。しかし、これからお話しする副反応は、以前から良く知られているもので、自然に軽快するものから、放置できない重大事象まであります。
代表的な BCG の副反応を頻度が高い順に挙げますと、まず腋下の リンパ節腫脹、以下、接種部位の過剰反応、全身に見られる発疹がこれに続きます。これらは比較的よく見られ、ほとんどが比較的軽症で自然に治癒するため、経過観察で十分なも のが多いとされます。一方、骨関節炎は、外科的介入も含めて長い経過の治療観察を必要とするので、重大な副反応です。更に、免疫不全を有するお子さんにおける全身性の BCG 感染症は、時として命にかかわるものです。
それでは、代表的な副反応について、それぞれ解説します。
【リンパ節腫脹】
接種されたBCG菌は、リンパを経て、まず接種部位の所属リンパ節の腋下リンパ節に到達します。左上腕に接種されるので、左腋下のやや前胸部にかかる位置のリンパ節が腫脹することが多 く、また鎖骨上窩のリンパ節が腫脹することもよくあります。多くは、接種から 4 ヶ月内外で認められるとされますが、それ以降に気付かれる場合もあります。
腫脹したリンパ節の自然経過は、腫れ方の程度によって異なります。
・直径2cm以下の場合:月単位で次第に縮小し、1 年もすると腫れが気にならない位に改善します。
・直径2cmを超える場合:大きさにもよりますが、早くて 1 週間ないし 2 ヶ月位経ってから、内容物が軟らかくなり、表皮が発赤し、更に表皮が赤紫色となる頃には、黄色い乾酪性物質が透けて見え、数日以内に内容物が排出されます。排出された内容を培養すると、約半数の割合で抗酸菌が検出され、更に特殊な PCR 検査を行うことにより、BCG 菌であると同定されます。処置としては、局所の清潔を心がけ、二次感染を防止することで十分です。
【局所の過剰反応】
局所の過剰反応は、BCG 接種の 1 ヶ月頃に見られる正常針痕反応に続発して、接種部位に分厚い黄色い「かさぶた」ができたり、接種部位の周囲に粟粒大の発疹が集簇して発生するものです。 また、接種部位における皮下の硬結や、接種部位周囲にリンパ節様のしこりが見られることもあります。多くは、経過観察によって、数ヶ月の経過で消退しますが、局所の反応が極めて強いと考えられる場合に、最長 2 ヶ月をめどにイソニアジド内服を行うこともありますが、 必ずしも著効しないので、生きた菌による副反応ではないものも含まれると考えられます。
これらの過剰反応や先に述べたリンパ節腫脹は、BCG 接種後、半年以上経過してから気付かれることもあり、ウイルス感染症による発熱や予防接種など、免疫状態を変化させる要因が引き金になっている可能性も考えられます。リンパ節が自壊して採取された検体の培養結果で、 抗酸菌がピラジナミドのみ耐性である場合には、わが国で用いられている東京株の BCG 菌ではないかと疑うことが診断上有効です。
【発疹】
発疹は BCG 接種後 1 ヶ月から 3 ヶ月位の間にみられることが多いようです。BCG によるものでないかと紹介されてくるお子さんが、本当に BCG による発疹かどうかを鑑別するのは結構難しいと思います。第1に、その発疹が BCG 菌そのものによるものなのか、それとも BCG の死菌の成分や、また BCG ワクチンに含まれる菌以外の成分によるものなのかというのも判らない上、乳児においては発疹を伴うウイルス感染症が多いことや、あせもをはじめとする発疹も多いからです。
しかし、発疹が全身性、つまり体幹に加えて四肢にも分布していて、これに加えて接種部位やその周囲の過剰反応が伴っていれば、まずBCGによる発疹を疑います。皮膚症状だけであれば、 まず 1 週間経過観察して、発疹が消退傾向にあれば、そのまま無治療で観察とします。2 か月程度で、ごく軽度の色素沈着を残して消退することが多いようです。
これに対して、発疹が結節性の丘疹として認められる場合には、菌そのものが組織反応の原因であるとして、イソニアジドによる治療を開始します。治療開始後、1~2 週間で明らかな縮小・ 痂皮化が認められることが多いです。なお、顔面特に眼瞼周囲に小丘疹が多発する場合にも初期から治療を開始しています。
【骨炎・関節炎】
骨炎・関節炎は BCG 菌の副反応のうちで最近問題となっているものです。接種後 1 年位してから発生することが多いようです。主に長管骨の骨端に発生することが多く、膝関節や肩関節な どの関節炎を伴いますが、長管骨以外の骨にも発生することがあります。乳幼児が急に歩かなく なったり、関節が腫れているなどの症状を見た場合に、以前は結核性の骨関節炎として外科的掻爬を受けたりすることもあったようですが、BCG 菌が同定可能な PCR 法が可能になって以来、 2000 年頃から BCG 骨関節炎の報告例が増加しました。
発生頻度は、全国調査で年間 10 例未満ですが、抗結核薬による化学療法のほかに掻爬など外科的介入を必要とすることも多いので、見逃してはならない副反応です。関節液や骨の生検で抗酸菌が検出された場合、先に述べたピラジナミド耐性の特性や、最近はインターフェロンγ遊離試験が行えるので、それが陰性であることが判ればBCG菌であるという診断に近づけます。免疫異常がない発症例も多く見られますが、慢性肉芽腫症やインターフェロンγレセプター1 異常症による抗酸菌への免疫異常を有する児が骨炎をきっかけに発見されることもあるの で、免疫系の検査は必須です。
BCG の直接接種により、接種時期が 3~6 ヶ月と早くなったことが、BCG 骨関節炎の増加と関連しているのではないかという意見もありましたが、発生頻度が低い副反応であることもあり、今後の動向を観察する必要があり ます。
【全身性感染症】
全身感染症としての BCG 副反応は、血行性に多臓器に播種して胸部 CT で見るとヒト型結核菌による粟粒結核のような様相を呈します。慢性肉芽腫症や重症複合型免疫不全症など、先天性の免疫不全症だけでなく、ステロイド治療による免疫不全症でも同様の症状が見られたという報告があります。抗結核薬による治療が必要で、時に致命的となることもあります。
日本においてBCG 接種を生後3ヶ月以降としているのは、この重篤な副反応を回避するためであり、そのために 2005 年以降の BCG 直接接種によってコッホ現象の診療が必要となっているのです。
以上、BCG 接種による副反応についてお話しました。一般的に経過観察や治療を行う上で、抗酸菌による病巣の変化は数ヶ月から数年にわたる期間を必要とすることが多いので、対処に難渋する場合には専門家に相談するのが良いと思われます。
ですから、副反応も他のワクチンとはちょっと異なります。
とくに、免疫不全症という基礎疾患がある場合は、BCG菌が増殖して「発症」してしまうリスクがあります。
わかりやすく、かつ詳細に解説してくれている記事「小児科診療 UP-to-DATE」から引用・抜粋させていただきます。
※ 下線は私が引きました。
■ BCG 接種による副反応について
(2018年1月17日:ラジオNIKKEI)
東京都立小児総合医療センター 呼吸器科・結核科 医長 宮川 知士
BCG は生きた菌を接種するという点で他のワクチンとは異なっています。接種された BCG 菌は接種部位の皮下において拡散して、リンパを介して腋下やその他のリンパ節を通っていきます。一部は接種した際に針痕の出血があることからも判るように、血管内に入り、血液に混じって全身へと運ばれます。さらには、接種部位に留まっているものもあると思われます。接種された BCG 菌は数年を経てから副反応を認める場合も知られているので、年単位で生存し続けると考えられています。
BCG の副反応は、必ずしも菌を検出することができないので、本当にそれが BCG によるものであったのか、結局判らない場合も結構あります。しかし、これからお話しする副反応は、以前から良く知られているもので、自然に軽快するものから、放置できない重大事象まであります。
代表的な BCG の副反応を頻度が高い順に挙げますと、まず腋下の リンパ節腫脹、以下、接種部位の過剰反応、全身に見られる発疹がこれに続きます。これらは比較的よく見られ、ほとんどが比較的軽症で自然に治癒するため、経過観察で十分なも のが多いとされます。一方、骨関節炎は、外科的介入も含めて長い経過の治療観察を必要とするので、重大な副反応です。更に、免疫不全を有するお子さんにおける全身性の BCG 感染症は、時として命にかかわるものです。
それでは、代表的な副反応について、それぞれ解説します。
【リンパ節腫脹】
接種されたBCG菌は、リンパを経て、まず接種部位の所属リンパ節の腋下リンパ節に到達します。左上腕に接種されるので、左腋下のやや前胸部にかかる位置のリンパ節が腫脹することが多 く、また鎖骨上窩のリンパ節が腫脹することもよくあります。多くは、接種から 4 ヶ月内外で認められるとされますが、それ以降に気付かれる場合もあります。
腫脹したリンパ節の自然経過は、腫れ方の程度によって異なります。
・直径2cm以下の場合:月単位で次第に縮小し、1 年もすると腫れが気にならない位に改善します。
・直径2cmを超える場合:大きさにもよりますが、早くて 1 週間ないし 2 ヶ月位経ってから、内容物が軟らかくなり、表皮が発赤し、更に表皮が赤紫色となる頃には、黄色い乾酪性物質が透けて見え、数日以内に内容物が排出されます。排出された内容を培養すると、約半数の割合で抗酸菌が検出され、更に特殊な PCR 検査を行うことにより、BCG 菌であると同定されます。処置としては、局所の清潔を心がけ、二次感染を防止することで十分です。
【局所の過剰反応】
局所の過剰反応は、BCG 接種の 1 ヶ月頃に見られる正常針痕反応に続発して、接種部位に分厚い黄色い「かさぶた」ができたり、接種部位の周囲に粟粒大の発疹が集簇して発生するものです。 また、接種部位における皮下の硬結や、接種部位周囲にリンパ節様のしこりが見られることもあります。多くは、経過観察によって、数ヶ月の経過で消退しますが、局所の反応が極めて強いと考えられる場合に、最長 2 ヶ月をめどにイソニアジド内服を行うこともありますが、 必ずしも著効しないので、生きた菌による副反応ではないものも含まれると考えられます。
これらの過剰反応や先に述べたリンパ節腫脹は、BCG 接種後、半年以上経過してから気付かれることもあり、ウイルス感染症による発熱や予防接種など、免疫状態を変化させる要因が引き金になっている可能性も考えられます。リンパ節が自壊して採取された検体の培養結果で、 抗酸菌がピラジナミドのみ耐性である場合には、わが国で用いられている東京株の BCG 菌ではないかと疑うことが診断上有効です。
【発疹】
発疹は BCG 接種後 1 ヶ月から 3 ヶ月位の間にみられることが多いようです。BCG によるものでないかと紹介されてくるお子さんが、本当に BCG による発疹かどうかを鑑別するのは結構難しいと思います。第1に、その発疹が BCG 菌そのものによるものなのか、それとも BCG の死菌の成分や、また BCG ワクチンに含まれる菌以外の成分によるものなのかというのも判らない上、乳児においては発疹を伴うウイルス感染症が多いことや、あせもをはじめとする発疹も多いからです。
しかし、発疹が全身性、つまり体幹に加えて四肢にも分布していて、これに加えて接種部位やその周囲の過剰反応が伴っていれば、まずBCGによる発疹を疑います。皮膚症状だけであれば、 まず 1 週間経過観察して、発疹が消退傾向にあれば、そのまま無治療で観察とします。2 か月程度で、ごく軽度の色素沈着を残して消退することが多いようです。
これに対して、発疹が結節性の丘疹として認められる場合には、菌そのものが組織反応の原因であるとして、イソニアジドによる治療を開始します。治療開始後、1~2 週間で明らかな縮小・ 痂皮化が認められることが多いです。なお、顔面特に眼瞼周囲に小丘疹が多発する場合にも初期から治療を開始しています。
【骨炎・関節炎】
骨炎・関節炎は BCG 菌の副反応のうちで最近問題となっているものです。接種後 1 年位してから発生することが多いようです。主に長管骨の骨端に発生することが多く、膝関節や肩関節な どの関節炎を伴いますが、長管骨以外の骨にも発生することがあります。乳幼児が急に歩かなく なったり、関節が腫れているなどの症状を見た場合に、以前は結核性の骨関節炎として外科的掻爬を受けたりすることもあったようですが、BCG 菌が同定可能な PCR 法が可能になって以来、 2000 年頃から BCG 骨関節炎の報告例が増加しました。
発生頻度は、全国調査で年間 10 例未満ですが、抗結核薬による化学療法のほかに掻爬など外科的介入を必要とすることも多いので、見逃してはならない副反応です。関節液や骨の生検で抗酸菌が検出された場合、先に述べたピラジナミド耐性の特性や、最近はインターフェロンγ遊離試験が行えるので、それが陰性であることが判ればBCG菌であるという診断に近づけます。免疫異常がない発症例も多く見られますが、慢性肉芽腫症やインターフェロンγレセプター1 異常症による抗酸菌への免疫異常を有する児が骨炎をきっかけに発見されることもあるの で、免疫系の検査は必須です。
BCG の直接接種により、接種時期が 3~6 ヶ月と早くなったことが、BCG 骨関節炎の増加と関連しているのではないかという意見もありましたが、発生頻度が低い副反応であることもあり、今後の動向を観察する必要があり ます。
【全身性感染症】
全身感染症としての BCG 副反応は、血行性に多臓器に播種して胸部 CT で見るとヒト型結核菌による粟粒結核のような様相を呈します。慢性肉芽腫症や重症複合型免疫不全症など、先天性の免疫不全症だけでなく、ステロイド治療による免疫不全症でも同様の症状が見られたという報告があります。抗結核薬による治療が必要で、時に致命的となることもあります。
日本においてBCG 接種を生後3ヶ月以降としているのは、この重篤な副反応を回避するためであり、そのために 2005 年以降の BCG 直接接種によってコッホ現象の診療が必要となっているのです。
以上、BCG 接種による副反応についてお話しました。一般的に経過観察や治療を行う上で、抗酸菌による病巣の変化は数ヶ月から数年にわたる期間を必要とすることが多いので、対処に難渋する場合には専門家に相談するのが良いと思われます。