生後数ヶ月の赤ちゃんの顔がカサカサして赤くなり、抱いていると服に顔をこすりつけてくる・・・皮膚科・小児科に行くと「乳児湿疹」と言われて軟膏を処方され、塗るとよくなるけどやめるとまた悪化する・・・これってアトピー性皮膚炎かも?
と不安になっている保護者の方へ。
乳児湿疹とアトピー性皮膚炎の関係について説明してみます。
乳児湿疹とは、文字通り「乳児」の「湿疹」で、乳児期にできる皮疹をひとくくりにした呼び方で、病気の診断名ではありません。
乳児湿疹の中にはあせも(汗疹)や「かぶれ(接触皮膚炎)、そしてアトピー性皮膚炎も含まれます。
では、どんな「乳児湿疹」がアトピー性皮膚炎の疑いがあるのか?
ちょっとお堅いですが、アトピー性皮膚炎の診断基準をみてみましょう。
まずは日本の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018」から。
1.掻痒(かゆみ)
2.特徴的皮疹と分布
①皮疹は湿疹病変:紅斑(赤い斑点)、丘疹(盛り上がり)、痂皮(かさぶた)、苔癬化(ゴワゴワ)など
②分布:左右対称性、顔面・耳介・首・手足の関節・体
★ 乳児期は、頭、顔に始まりしばしば体・手足に広がる
★ 乳児期は、頭、顔に始まりしばしば体・手足に広がる
3.慢性・反復性の経過:乳児では2ヶ月以上、それ以外では6ヶ月以上続く
→ 上記1、2、3の項目を満たすものをアトピー性皮膚炎と診断する。
顔をこすりつけるしぐさ=お母さんの服を使って掻いていることになるので、はじめに書いた症状の赤ちゃんはアトピー性皮膚炎が疑わしい。
ただ、ここで「2ヶ月以上続く」という縛りがありますので、2ヶ月未満の場合は診断できないことになります。
では2ヶ月間、かゆがっているのに治療開始を待たなくてはならないの?
という疑問が湧いてきます。
世界的に使用されている診断基準を見てみましょう。
英国NICEガイドラインの「The U.K.Working Partys diagnostic criteria」によると、乳児期アトピー性皮膚炎の診断基準は、
必須項目:皮膚のかゆみ
さらに、以下の3つ以上を満たす者をアトピー性皮膚炎と定義;
・現在、肘窩や膝窩などの屈曲部、頬部、手足外側のどこかに湿疹がある
・屈曲部、頬部、手足外側のどこかに湿疹ができたことがある
・皮膚乾燥の既往がある
・一親等以内にアレルギー疾患の既往がある
あれ、こちらには「期間」の設定がありませんね。
つまり、「カサカサ肌でかゆい湿疹」が所定の場所にあればアトピー性皮膚炎と診断できることになります。
私は2番目の「The U.K.Working Party's diagnostic criteria」を採用して、最初に例示した赤ちゃんにはアトピー性皮膚炎に準じた治療を速やかに開始しています。
そして1週間でつるつる・すべすべの肌にしてあげます。
その後は保湿剤に切り替えて様子観察しますが、治療をした赤ちゃんの3人に一人は、また湿疹が顔を出してきます。
そのような例には、再度治療をしてつるつるすべすべにしたのち、すぐに治療をやめないでゆっくり減らしていく方法(これを“プロアクティブ療法”といいます)を導入します。
そのうち8〜9割の赤ちゃんが3〜6ヶ月で治療を終了し、保湿剤によるスキンケアだけできれいな肌を維持できるようになります。
湿疹のないつるつるすべすべの肌を保つことにより、食物アレルギーや喘息を予防できることが最近わかってきました。
逆に言うと、不十分な治療でよくなったり悪くなったりを繰り返すと、食物アレルギーや喘息のリスクが高くなるということ。
乳児アトピー性皮膚炎のコントロールが悪いと約3倍喘息になりやすい、
乳児アトピー性皮膚炎をしっかり治療すると食物アレルギー発症が半分になる、
などの研究報告が次々と発表されています。
赤ちゃんに湿疹が出てかゆがるときは、かかりつけの小児科・皮膚科にご相談ください。
できればアレルギー学会認定専門医がベターです。