小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

たくさん登場した新型コロナの検査を、どう捉えるか。

2020年11月22日 08時05分23秒 | 予防接種
現在、新型コロナウイルス検査の中心はPCRです。

これは、ウイルスの遺伝子のかけらを検査室で増殖して判定するため、専門技術と時間が必要です。
結果が出るまでに要する時間は、ふつう翌日、自動化した機械では6時間まで短縮されました。

そして、検査の感度(感染している人が陽性に出る確率)は、高く見積もって70%。
以前は50〜70%と言われていました。
「感度70%」ということは、実際に感染していても10人に3人は陰性に出てしまうということ。
ずいぶん頼りない数字ですね。

もう一つ、PCR検査は大きな問題をはらんでいます。
「PCR陽性=感染力がある」ではなく「PCR陽性≠感染力がある」なのです。
ウイルスのかけらでは、感染力・増殖力がありません。

感染力があるかどうかを判定するには「ウイルス培養」が必要であり、この検査がウイルス活性を評価するゴールド・スタンダードであることは医療関係者には常識です。
今回、ウイルス培養がまったく話題にならないのは不思議です。
おそらく、ウイルス培養検査の結果が出るまで待てない、国民も政府も前のめりになっている姿勢がありありと感じられます。

PCR陽性者でも、症状が出てから10日経つと感染力が無くなると報告されています。
PCR陽性=ウイルスのかけらは残存していても、完全体はほぼ消失しているため、感染・増殖能力は無くなっているということですね。

便の中に新型コロナウイルスが検出された、トイレ周囲は要注意!
という情報も流れました。
しかし、ウイルス学では「外膜(=エンベロープ)を有するウイルスは便中ではエンベロープが壊れているので感染性がない」ことが常識らしい。
「エンベロープが壊れている」と言われてもピンとこないと思いますが、身近な例では、アルコール消毒がわかりやすい。
アルコール消毒とは、高濃度のアルコールでウイルスのエンベロープを破壊することに他なりません。
つまり、便中のウイルスはすべてアルコール消毒で失活された状態にあるので、感染力は無い、ということになります。

しかし現在、日本、いや全世界はこのPCR検査に頼り切っています。

さらに、迅速診断キットを含めた抗原検査が登場しました。
この「抗原」とは「ウイルス」を指します。
迅速診断キットの登場で「インフルエンザと同レベルの外来診療ができるようになった!」と私も一度は喜んだのですが、感度の低さを知りがっかりしました。
感度は30〜70%程度、ざっくり見積もって約50%。
つまり、検査をしても実際の感染者の半分しか陽性に出ないのです。
残りの半分は見逃してしまう・・・これでは使い物になりません。

知り合いの小児科医達と情報交換すると、「まだ迅速診断キットは実用レベルではないから採用しない」という意見が多く聞かれます。

それから血液中の抗体検査。
抗体は人体がウイルス感染を受けると、それを除去するため発動する免疫反応の結果として産生される武器です。
一般に、抗体が作られるまでに感染してから1〜2週間かかりますので、現在症状のある患者さんの検査としては役立ちません。
症状が治まった後の感染確認としては有用です。
あるいは、「この地域でどのくらい感染者がいるのか」を調査する目的でも有用ですね。

ただ、問題はこの抗体の動態・推移です。
感染後に抗体値が上昇することは確認されていますが、その量には個人差があることと、産生された抗体がどのくらい持つのか、まだ不明瞭です。

ウイルス感染症の中には、
① 一旦抗体が産生されると一生有効なタイプと、
② 数ヶ月〜数年単位で消えてしまうタイプ
があることがわかっています。

例えば、麻しんや風しんは前者の一生ものタイプ。
例えば、RSウイルスやノロウイスルは一過性のタイプ。

この分かれ目は「全身感染か表面感染か」「ウイルス血症を生じるかどうか」にかかっているとされています。

例えば、麻しんや風しんは潜伏期が長くウイルス血症をきたす。
例えば、RSウイルスは呼吸器系のみ、ノロウイスルは消化器系のみに感染する。

さて、新型コロナウイルスはどちらなのでしょうか?
一部「ウイルス血症をきたす」という考え方もあるようですが、平均5日間という潜伏期からすると、呼吸器系の表面感染の可能性の方が高いのではないかと私は感じています。
すると、感染後抗体ができても長続きしない、という結論になるかもしれません。
この点は、まだ議論中で不明瞭な領域ですね。

以上、新型コロナに対して現在行われている検査はすべて不完全なものです。
検査して陰性だったから安心、抗体があったからもう一生縁が無い、とはとてもいえない代物です。
検査のゴールド・スタンダードは「ウイルス培養」ですが手間暇・費用がかかるので実施されにくいのが現状です。

さて、PCR検査、抗原検査、抗体検査という手持ちの駒をどう使いこなすかが、これからの医療に問われています。
その点については、次の書き込みで取り上げます。

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