小児アレルギー科医の視線

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OAS(Oral Allergy Syndrome), PFAS(Pollen-Food Allergy Syndrome)

2018年01月03日 08時36分34秒 | アレルギー性鼻炎
 口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome, OAS)のわかりやすい&詳しい解説記事を見つけたので紹介します。
 病名から口の中の症状に限定されると思いがちですが、中には重篤な症状が誘発される患者さん(アレルゲン・コンポーネントのLTPに反応する人)もいるので、甘く見てはいけません。

<ポイント>
OASの概念:即時型食物アレルギーの特殊型で、食物摂取時に口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすものをいい、ショックをきたすことがある。
PFASの概念:OASの中でも、花粉との交差反応性により新鮮な果物や野菜を摂取した際に生じるアレルギー反応は、PFASと提唱されている。PFASでは感作抗原と症状を誘発する抗原が異なる。まず花粉により経気道・粘膜的に感作を受け、その後、果物や野菜を食べて症状が起こる。花粉ごとに特徴があり、交差反応を示しやすい野菜や果物がある。
PFASの疫学的特徴:北欧では、シラカンバ花粉アレルギーの80%にOASを合併するといわれており、わが国でも同様にカバノキ科の花粉感作で生じるバラ科果物などによるOASが多い。PFASは本州の中でも太平洋側で多く、日本海側では少ない。
症状:症状は口腔内に限局することが多く、1人の患者が複数の食物を食べられなくなることが特徴。食物(特に新鮮な果物)を摂取した直後〜1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を自覚する。引き続いて鼻、耳、皮膚に症状が生じたり、また消化器や呼吸器の症状を伴い、抗原によってはアナフィラキシーショックを起こすこともある。口腔症状が発現しない場合もあるため、鼻や耳の症状について聞くことが重要。
・食物には複数の抗原が含まれており、PFASでは同じ食物で症状が発現する患者同士でも、症状を誘発するアレルゲンコンポーネントは異なることもある。また、アレルゲンコンポーネントによって発現する症状も異なる。
交差反応性:広く交差反応を誘発するのは、植物がウイルスや細菌、カビの感染などにより病的状態に陥ったときに、その身を守るために誘導する一連の蛋白質群である"生体防御蛋白質"が原因とされる。進化の過程でその構造が比較的保存されており、IgEに対する共通エピトープ(抗原決定基:抗体が認識する抗原の一部)を与えると非常に幅広い交差反応が出現することになる。
 現在、多くの植物は化学物質、大気汚染、品種改良などさまざまなストレスにさらされている。それによって生体防御蛋白質が増え、幅広い交差反応性が起こり、ヒトに影響を与えていると考えられる。
感染特異的蛋白質(Pathogenesis-related protein;PR蛋白質):生体防御蛋白質の1群で、それらもヒトに対して抗原となることが分かってきている。代表的な生体防御蛋白質としてはPR-10、プロフィリン、脂質輸送蛋白質(LTP)などが挙げられる。
プロフィリン:幅広い野菜や果物が属する(例:シラカンバ花粉症のもう1つの主要抗原Bet v 2)。プロフィリンは、ペプシンで消化されるがヒトの唾液では消化されないという特徴がある。そのため、口腔内では症状を引き起こすが、胃に入った後は症状が起こらないとされる。
LTP:花粉症を併発しないタイプの果物・野菜アレルギーの原因物質としてPR-14ファミリーに分類される。花粉に感作されなくても症状を呈し、熱や消化酵素に強い抗原蛋白質であるため、アナフィラキシー症状など重篤な症状を誘発することがある。
アレルゲンの立体構造:PFASの症状が口腔内に限局することが多いのは、原因となるアレルゲンのエピトープが立体構造(conformation epitope)を取り、加熱や消化酵素で容易に壊れ、加熱・消化の過程で誘発能を失うためと考えられる。立体構造が壊れることは、検査法にも影響する。
生活指導:症状の重篤度によりケースバイケース。重篤な症状を引き起こす可能性がある食材にはGly m 4による豆乳アレルギーの他、セリ科のスパイスアレルギーモモ(LTPなど)があり、その場合は厳格な除去が必要になる。



■ 花粉−食物アレルギー症候群の診療ポイント 〜植物の生体防御蛋白質が病態を形成
2017年03月27日:メディカル・トリビューン
 近年、口腔アレルギー症候群(Oral Allergy Syndrome;OAS)、特に花粉−食物アレルギー症候群(Pollen-Food Allergy Syndrome;PFAS)の患者数が増加している。PFASの発症には、植物の生体防御蛋白質などが関与していると考えられている。PFASの病態と診療上のポイントについて、藤田保健衛生大学総合アレルギー科教授の矢上晶子氏に解説してもらった。〔読み解くためのキーワード:アレルゲンコンポーネント

花粉と野菜・果物の交差反応
 OASの概念は、「特殊型食物アレルギーの診療の手引き2015」では"即時型食物アレルギーの特殊型で、食物摂取時に口腔・咽頭粘膜の過敏症状をきたすものをいい、ショックをきたすことがある"とされている。OASの中でも、花粉との交差反応性により新鮮な果物や野菜を摂取した際に生じるアレルギー反応は、PFASと提唱されている。花粉ごとに特徴があり、交差反応を示しやすい野菜や果物がある(表1)。例えば、ラテックス−フルーツ症候群では、バナナや栗、キウイなどにより交差反応が生じることがある。

〈表1〉 花粉との交差反応を示す野菜や果物の一覧


 PFASは花粉の飛散状況に影響を受けるため、地域性がある。北欧では、シラカンバ花粉アレルギーの80%にOASを合併するといわれており、わが国でも同様にカバノキ科の花粉感作で生じるバラ科果物などによるOASが多い。PFASは本州の中でも太平洋側で多く、日本海側では少ない。また、PFASでは感作抗原と症状を誘発する抗原が異なる。まず花粉により経気道・粘膜的に感作を受け、その後、果物や野菜を食べて症状が起こる。症状は口腔内に限局することが多く、1人の患者が複数の食物を食べられなくなることが特徴。
 矢上氏は「国内のOAS症例は増えている」と強調する。OAS、PFASでは、食物(特に新鮮な果物)を摂取した直後〜1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を自覚する。引き続いて鼻、耳、皮膚に症状が生じたり、また消化器や呼吸器の症状を伴い、抗原によってはアナフィラキシーショックを起こすこともある。
 同氏は「口腔症状が発現しない場合もあるため、鼻や耳の症状について聞くことが重要だ」と述べる。さらに、どこで何に感作を受けたのかを把握するため、問診の際には出生地、転居歴、現在の居住地を必ず聞くようにしているという。

蛋白質の類似性で交差反応が起こる
 食物には複数の抗原が含まれており、PFASでは同じ食物で症状が発現する患者同士でも、症状を誘発するアレルゲンコンポーネントは異なることもある。例えば、シラカンバ花粉とリンゴの交差反応では、シラカンバ花粉中のBet v 1に感作された場合はリンゴのMal d 1に、Bet v 2ではMal d 4に反応する。それぞれのコンポーネントは類似しており、その類似性によりIgEが交差反応を起こす。また、アレルゲンコンポーネントによって発現する症状も異なる。
 広く交差反応を誘発するのは、植物がウイルスや細菌、カビの感染などにより病的状態に陥ったときに、その身を守るために誘導する一連の蛋白質群である"生体防御蛋白質"が原因とされる。進化の過程でその構造が比較的保存されており、IgEに対する共通エピトープ(抗原決定基:抗体が認識する抗原の一部)を与えると非常に幅広い交差反応が出現することになる。
 現在、多くの植物は化学物質、大気汚染、品種改良などさまざまなストレスにさらされている。それによって生体防御蛋白質が増え、幅広い交差反応性が起こり、ヒトに影響を与えていると考えられる。
 感染特異的蛋白質(Pathogenesis-related protein;PR蛋白質)も生体防御蛋白質の1群で、それらもヒトに対して抗原となることが分かってきている。代表的な生体防御蛋白質としてはPR-10、プロフィリン、脂質輸送蛋白質(LTP)などが挙げられる(表2)。PR-10はシラカンバの主要抗原で、シラカンバ花粉症の80%はBet v 1に対するIgE抗体を有しており、ハンノキ花粉の主要抗原(Aln g 1)もPR-10に属する他、多くの野菜や果物が属している。

〈表2〉 代表的な生体防御蛋白質

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(表1、2とも矢上晶子氏提供)

 プロフィリンはシラカンバ花粉症のもう1つの主要抗原Bet v 2で、こちらも幅広い野菜や果物が属する。プロフィリンは、ペプシンで消化されるがヒトの唾液では消化されないという特徴がある。そのため、口腔内では症状を引き起こすが、胃に入った後は症状が起こらないとされる。
 LTPは花粉症を併発しないタイプの果物・野菜アレルギーの原因物質としてPR-14ファミリーに分類される。花粉に感作されなくても症状を呈し、熱や消化酵素に強い抗原蛋白質であるため、アナフィラキシー症状など重篤な症状を誘発することがある。

プリックテストは市販試薬よりも新鮮な野菜や果物で
 同大学では、OASなど即時型アレルギーの検査として、粗抗原による特異IgE抗体測定やプリックテスト、ELISAなどを実施している。矢上氏は「単回では偽陰性も見られるが、検査を重ねて"陽性"または"真の陰性"と患者に伝えられることが重要」と述べる。
 PFASの症状が口腔内に限局することが多いのは、原因となるアレルゲンのエピトープが立体構造(conformation epitope)を取り、加熱や消化酵素で容易に壊れ、加熱・消化の過程で誘発能を失うためと考えられる。そのため、生のトマトは食べられないがトマトケチャップは食べられるという患者もいる。
 立体構造が壊れることは、検査法にも影響する。新鮮な果物や野菜(リンゴ、ニンジン、セロリなど)を用いたプリックテストは感度が高いが(82〜100%)、ピーナツやエンドウ豆などの豆類では低い傾向がある(12〜62%)。さらに、市販のプリックテスト溶液ではリンゴ、オレンジ、トマトなど野菜や果物の感度が低くなるが(2〜80%)、製造の過程で立体構造が壊れたためと考えられる。

原因食物の除去を指導すべきか
 PFASには確立した診療ガイドライン(GL)は存在せず、臨床医によって対応が異なるのが現状である。米国のアレルギー専門医226人(有効回答122人)に対するPFASへの対応のアンケートでは、53%が完全除去を指導していたが、9%は除去を指導していないという結果であった。矢上氏は「今後はGLが必要となるのではないか」と考察している。
 同氏は、PFAS患者に対して
①症状を起こす食材の摂取は避ける
②加熱調理して少しずつ摂取してみる(多くの食物は60〜100℃の加熱で完全にIgE結合能が失活する)
③加工食品や調理品は、プリックテストを行い摂取が可能かどうかを確認する
④カバノキ花粉感作による豆乳アレルギー(Gly m 4)は重篤な症状を引き起こす場合もあるため注意が必要だが、味噌や醤油は摂取可能で豆腐も種類によっては摂取可能
−などの指導を行っているという。
 重篤な症状を引き起こす可能性がある食材にはGly m 4による豆乳アレルギーの他、セリ科のスパイスアレルギー、モモ(LTPなど)があり、その場合は厳格な除去が必要になるが、同氏は「患者には厳格な除去と同時に摂取可能な食物も示すべき」とし、また重篤な即時型アレルギーおよびアナフィラキシー症状への対策として、アドレナリン注射の処方が必要となることも強調している。
 PFASの根治療法について、英国免疫アレルギー学会のGLは"PFAS患者に対する現在のエビデンスでは花粉の抗原特異的免疫療法は推奨も否定もしない"としているが、将来はコンポーネントの解析により効果的な治療が望めるかもしれないとの報告もある(Clin Exp Allergy 2011; 41: 1177-1200)。今後は日本でもPFASに対する舌下免疫療法などが導入されるかもしれない。
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