小児科医生活30年を越えた私にとって、小児夜尿症は治療の手応えのない病気の代表です。
まず、夜尿症には下記のごとく3つのタイプが存在し、それぞれ対応が異なります。従来行われてきた治療も併記しました;
1.多尿型:薄いオシッコがたくさん出る → (治療薬)抗利尿ホルモン薬
2.膀胱型:膀胱が少ししかオシッコをためられない → (治療薬)抗コリン薬
3.混合型:多尿型と膀胱型の両方の要素がある → (治療薬)上記を合わせたもの
小学校入学前後の子どもが相談によくみえますが、タイプ別では膀胱型(膀胱が小さくて尿をためられないため朝までに溢れてしまう)が多く、このタイプには薬も効きにくいのです。急に膀胱が大きくなるなんて不可能ですからね。
通院していてもなかなかよくならないため、いつの間にか通院が途絶え、しかし数年後に困ってまた受診され、また通院が途絶え・・・を繰り返している間に成長とともに治る、という経過をたどりがちです。
多尿型は薄いオシッコであることを検査で確認後、適応と判断されれば抗利尿ホルモン薬を使用すると有効率は高いです。
しかし近年、専門家の講演会を聞いていると、必ずしも“薄いオシッコ”と言わないことが気になっています。
フローチャートで「この治療が効かなかったら次はこれ」の流れの中にオシッコの濃い薄いを問わずに組み込まれているのです。
この疑問に答えてくれる書籍がなかなか見つかりませんでしたが、先日下記啓蒙書に出会いました;
□ 「夜尿症のみかた」(金子一成著)南山堂、2018年。
早速、治療の抗利尿ホルモン薬の項目を読んでみました。
すると、以下のようにはっきりと書かれていました;
夜尿症に対して酢酸デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)は、海外においては尿の濃縮力を考慮されずに使用されているが、わが国における保険適用は「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」とされている。
したがって、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認するために、酢酸デスモプレシン製剤投与前に観察期間を設けて、起床時第一尿を用いて尿浸透圧あるいは尿比重を3回測定して平均値を算出する。その平均値が800mOsm/L以下あるいは1.022以下であれば、「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」であり、酢酸デスモプレシン製剤の適応となる。
酢酸デスモプレシン製剤の夜尿症に対する効果は約7割の患者で認められる。
・・・スッキリしました。私のこだわりは間違っていないことがわかりました。
さて、治りにくい膀胱型への対処法として、現在はアラーム療法がお勧めです。
今まで使われてきた抗コリン薬は有効率が数割にとどまりますが、アラーム療法の有効率は7割と高い。
しかも多尿型・膀胱型のタイプを選ばないのです。
しかし、ちょっと待てよ・・・日本では従来、「夜尿症の子どもを夜間起こしてトイレに行かせるのはよくない」と指導してきたはず。アラーム療法って、それをやっていることになるけど、いいの?
という疑問が湧いてきます。
紹介した本には、「夜尿アラーム療法の作用機序は明確になっていないが」と断り書きの上で以下のように説明されています;
夜尿症患者の未熟な排尿反射抑制神経回路を、膀胱が充満したときに覚醒させることで強化する、ある種の条件づけ療法と考えられる。
すなわち夜尿のない子どもでは、膀胱が尿で充満すると膀胱の伸展刺激が脊髄を経て橋の排尿中枢(青斑核)を介して大脳に伝わり、高位蓄尿中枢が睡眠中の排尿を抑制するシグナルを発し、膀胱の収縮波抑制される(夜尿は起こらない)。夜尿アラーム療法はこの神経反射回路を強化するものと思われる。
実際、夜尿アラーム療法で治癒した患者においては睡眠中の膀胱容量(蓄尿量)の増加がみられる。
なんだかわかったようなわからないような説明ですねえ。
「高位蓄尿中枢」っておそらく大脳皮質にあると思われますが、睡眠中にも働いているんだ・・・それを強化する治療?
他の本ではこんな風に書いてありましたが、こちらの方がわかりやすいかな;
尿が出たことをアラームで本人に知らせると、本人は「起きてトイレへ行くか」「トイレに行かないで我慢するか」の二択を迫られる。それを繰り返しているうちに「トイレへ行かないで我慢する」方向へ進み、徐々に膀胱にためられる量が増えて夜尿が治癒する。
これは、親が寝ている本人を起こして寝ぼけ眼でトイレへ連れて行かれて排尿するのとは、脳に対する刺激が大きく異なる。
<まとめ>
ようやく、小児夜尿症に対する有効な治療法が以下のように整理される時代になりました;
・多尿型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤:ミニリンメルト®)で70%に有効、再発率40%
・膀胱型 → アラーム療法で有効率70%、再発率15%
・混合型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤)+アラーム療法
まず、夜尿症には下記のごとく3つのタイプが存在し、それぞれ対応が異なります。従来行われてきた治療も併記しました;
1.多尿型:薄いオシッコがたくさん出る → (治療薬)抗利尿ホルモン薬
2.膀胱型:膀胱が少ししかオシッコをためられない → (治療薬)抗コリン薬
3.混合型:多尿型と膀胱型の両方の要素がある → (治療薬)上記を合わせたもの
小学校入学前後の子どもが相談によくみえますが、タイプ別では膀胱型(膀胱が小さくて尿をためられないため朝までに溢れてしまう)が多く、このタイプには薬も効きにくいのです。急に膀胱が大きくなるなんて不可能ですからね。
通院していてもなかなかよくならないため、いつの間にか通院が途絶え、しかし数年後に困ってまた受診され、また通院が途絶え・・・を繰り返している間に成長とともに治る、という経過をたどりがちです。
多尿型は薄いオシッコであることを検査で確認後、適応と判断されれば抗利尿ホルモン薬を使用すると有効率は高いです。
しかし近年、専門家の講演会を聞いていると、必ずしも“薄いオシッコ”と言わないことが気になっています。
フローチャートで「この治療が効かなかったら次はこれ」の流れの中にオシッコの濃い薄いを問わずに組み込まれているのです。
この疑問に答えてくれる書籍がなかなか見つかりませんでしたが、先日下記啓蒙書に出会いました;
□ 「夜尿症のみかた」(金子一成著)南山堂、2018年。
早速、治療の抗利尿ホルモン薬の項目を読んでみました。
すると、以下のようにはっきりと書かれていました;
夜尿症に対して酢酸デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)は、海外においては尿の濃縮力を考慮されずに使用されているが、わが国における保険適用は「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」とされている。
したがって、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認するために、酢酸デスモプレシン製剤投与前に観察期間を設けて、起床時第一尿を用いて尿浸透圧あるいは尿比重を3回測定して平均値を算出する。その平均値が800mOsm/L以下あるいは1.022以下であれば、「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」であり、酢酸デスモプレシン製剤の適応となる。
酢酸デスモプレシン製剤の夜尿症に対する効果は約7割の患者で認められる。
・・・スッキリしました。私のこだわりは間違っていないことがわかりました。
さて、治りにくい膀胱型への対処法として、現在はアラーム療法がお勧めです。
今まで使われてきた抗コリン薬は有効率が数割にとどまりますが、アラーム療法の有効率は7割と高い。
しかも多尿型・膀胱型のタイプを選ばないのです。
しかし、ちょっと待てよ・・・日本では従来、「夜尿症の子どもを夜間起こしてトイレに行かせるのはよくない」と指導してきたはず。アラーム療法って、それをやっていることになるけど、いいの?
という疑問が湧いてきます。
紹介した本には、「夜尿アラーム療法の作用機序は明確になっていないが」と断り書きの上で以下のように説明されています;
夜尿症患者の未熟な排尿反射抑制神経回路を、膀胱が充満したときに覚醒させることで強化する、ある種の条件づけ療法と考えられる。
すなわち夜尿のない子どもでは、膀胱が尿で充満すると膀胱の伸展刺激が脊髄を経て橋の排尿中枢(青斑核)を介して大脳に伝わり、高位蓄尿中枢が睡眠中の排尿を抑制するシグナルを発し、膀胱の収縮波抑制される(夜尿は起こらない)。夜尿アラーム療法はこの神経反射回路を強化するものと思われる。
実際、夜尿アラーム療法で治癒した患者においては睡眠中の膀胱容量(蓄尿量)の増加がみられる。
なんだかわかったようなわからないような説明ですねえ。
「高位蓄尿中枢」っておそらく大脳皮質にあると思われますが、睡眠中にも働いているんだ・・・それを強化する治療?
他の本ではこんな風に書いてありましたが、こちらの方がわかりやすいかな;
尿が出たことをアラームで本人に知らせると、本人は「起きてトイレへ行くか」「トイレに行かないで我慢するか」の二択を迫られる。それを繰り返しているうちに「トイレへ行かないで我慢する」方向へ進み、徐々に膀胱にためられる量が増えて夜尿が治癒する。
これは、親が寝ている本人を起こして寝ぼけ眼でトイレへ連れて行かれて排尿するのとは、脳に対する刺激が大きく異なる。
<まとめ>
ようやく、小児夜尿症に対する有効な治療法が以下のように整理される時代になりました;
・多尿型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤:ミニリンメルト®)で70%に有効、再発率40%
・膀胱型 → アラーム療法で有効率70%、再発率15%
・混合型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤)+アラーム療法