小児アレルギー科医の視線

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「第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会」に参加してきました。

2018年07月06日 06時58分41秒 | アトピー性皮膚炎
2018.7.5 第8回群馬小児アトピー性皮膚炎学術講演会
メインの講演は「新しいガイドラインに基づいた小児アトピー性皮膚炎診療」(二村昌樹Dr.、国立病院機構名古屋医療センター)

現在、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン(以下GL)は2種類存在します。
①「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2016年版」(日本皮膚科学会作成)
②「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2015」 (日本アレルギー学会作成)

①は皮膚科専門医用、②は非皮膚科専門医用、とされています。
「皮膚科専門医以外、アトピー性皮膚炎診療はできるはずがない」という日本皮膚科学会のうぬぼれたスタンスが見え隠れしますね。
それなら、小児のアトピー性皮膚炎もみんな診てほしいと思うのですが・・・巷には子どものアトピー性皮膚炎患者があふれ、皮膚科の診療に満足できずドクターショッピングを重ねる患者がたくさんいる現実があります。
なので軽症例は当院(小児科・アレルギー科)でも診療せざるを得ません。

私の中では、アトピー性皮膚炎はコントロールしにくいやっかいな疾患でした。
従来のリアクティブ療法(保湿をベースに、湿疹が出たらステロイド軟膏を塗り、治ったら止めて保湿剤で維持する)ではほんの一部の患者さんしかよくなりません。
近年登場したプロアクティブ療法(ステロイド軟膏を十分量・十分期間使用して皮膚を湿疹のない状態にした後、塗布間隔を開けていき最低限必要な塗布間隔を見極める方法、3日おきまで間隔を広げられると半年〜1年間継続してもステロイド軟膏の副作用を心配しなくてよい)を当院でも数年前に導入してから、これが解決しました。
しっかり指導・治療をすると、ほとんどの患者さんがよくなり、中にはステロイド軟膏を止められる子どもも出てきました。何より、アトピー性皮膚炎 → 食物アレルギーの発症連鎖が実感として減ったのが大きな収穫です。

同じアレルギー疾患の気管支喘息では、吸入ステロイドの定期使用(=予防治療)がもう20年前からスタンダート化しています。
遅ればせながらようやくアトピー性皮膚炎でも、「ステロイド薬による局所予防療法」という同様の治療が標準になってきた感があります。
しかし、まだまだ普及はしていません。

さて、当院でプロアクティブ療法を進めるにあたって、様々な疑問が発生してきました。
それらを解決すべく、アトピー性皮膚炎関連の講演には足繁く出かけるようにしています。

話をGLに戻します。
このたび、この二つのGLが統一されることになりました。
つまり、日本皮膚科学会と日本アレルギー学会が共同でGLを作成し、厚労省が発表することになったのです(画期的!)。
その解説を兼ねた二村(「にむら」ではなく「ふたむら」)Dr.の講演を聴講してきました。
演者の話では、GLもうほとんどできあがっていて、あとは発表を待つのみの状況だそうです。

ます、従来のGLから大きな変更はないとのこと。
でも、混乱しがちな事項が何点か整理されたことはメリット。
スライド内容の配付資料がないので記憶に頼ると・・・

・ステロイド軟膏の強さは、年齢や重症度により決まるのではなく、湿疹の重症度により決まる。
→ これは頷けることで、今までのGLがヘンだと私もずっと思ってきました。

・軟膏塗布は1日1回と1日2回で効果に差がなく、1日1回塗布を標準とした。
→ 今までの私の知識では、ストロングクラス(例:リンデロンV軟膏)以上では1日1回でよいが、マイルドクラス(例:ロコイド軟膏、キンダベート軟膏、アルメタ軟膏など)では1日2回必要、でした。これはアレルギー学会の講演で聞いた内容です。GLで変更になるので、私の方針も修正しようと思います。

・プロアクティブ療法の対象はアトピー性皮膚炎患者全員ではなく、「寛解と増悪を繰り返す患者」である。
→ これも頷けます。

ほかにもいくつかポイントがあったのですが・・・忘れました。
余談として、イギリス留学中に「イギリスでは体を洗うとき soap は使わない」エピソードが笑えました。
日本人は「soap = 石けん」と理解していますが、イギリス人が「soap」と言ったとき、それは香料や添加物を含んだ高級石けんを意味するそうです。
では日本の「石けん」はなんと呼ぶか? → 「クレンザー」とのこと。
また、イギリス人は「保湿剤を体にかけてからシャワーで流し洗いする」という行為もするそうです。
「洗って保湿できるから一石二鳥」と考えているらしいのですが、日本人的には「それって洗えているの?」と突っ込みたくなりますね。

ホント、ところ変われば品(習慣)変わる・・・。

おっと、それよりもプロアクティブ療法を勧める際に生じた疑問点を解消することが私の参加目的。
講演終了後と、懇親会の席で二村先生を質問攻めにしました;

Q. FTUはずっと守るべきか、皮疹消失後の維持期は軟膏塗布量を減量可能か(可能ならそのタイミング)?
A. 維持期に入ったら減量可能、FTUの半分以下でも皮疹がコントロールされていればOK。
FTUはよくなった患者がどれだけ軟膏を塗っていたかという統計から割り出された量であり、実験データによるものではない。

Q. プロアクティブ療法施行中、塗布間隔を開ける以外に、塗布範囲を減らすステップを入れるべきか?
A. ケースバイケースであるが、必須ではないと思う。
全身塗布だとしても、塗布範囲はそのままで間隔を開けてみてよい。あるいは、塗布範囲を減らしてみて湿疹が再燃したら対応するというトライ&エラーでもよいと思う。

Q. 乳児期にプロアクティブ療法を施行していると、経過中にいろいろな皮疹が出現するが、ステロイド軟膏を使用すべき皮疹とそうでない皮疹の鑑別点は?
A. かゆみ・赤みがポイントであるが、難しい。
私(二村Dr.)自身も「乾癬」を見落とした苦い経験がある。小児科医は診断基準に照らし合わせてADを診断するが、皮膚科医は除外診断を重視する。鑑別疾患を見落とさないよう注意が必要。

Q. プロアクティブ療法を安全に行える期間は?
A. 現在までのデータでは最長1年。それ以上の長期の報告はまだ見当たらない。

Q. 「乳児期アトピー性皮膚炎をコントロールするとアレルギーマーチの予防が可能」という文章を見かけるが、以下の感作も減るというデータはあるか?
① 幼児期以降発症の食物アレルギー(ピーナッツ、ソバ、エピ/カニ)
② 吸入抗原(ダニ、ペット、花粉類)
A. プロアクティブ療法の歴史が浅いので、吸入抗原についてはまだ十分なデータがない。
① → データなし。
② → ダニは少し減る(から喘息の予防になり得る)という報告がある。

Q. 保険診療内で、1回処方量の上限は?
① ステロイド軟膏
② 保湿剤
A. ①②ともに県単位で保険審査に差があるのが現状。
専門病院では保湿剤1kgという処方も聞いたことがある。

・・・日頃の疑問がかなり解消し、参加の甲斐がありました。明日からの診療に役立つ情報を教えていただき、二村先生に感謝。
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