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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

お腹の赤ちゃんの健康に影響するリンゴ病(伝染性紅斑)

2025年02月09日 15時50分53秒 | 感染症
リンゴ病(伝染性紅斑)、小児科医は常にマークしている病気ですが、
ニュースになるほど話題になるのは珍しい。

子どもはほっぺがリンゴのように真っ赤になるで済む軽い感染症と考えられがちです。
問題はその周囲の妊婦さんが感染した場合。
お腹の赤ちゃんに影響が出るのです。

感染すると胎児に影響が出る感染症では風疹が有名ですね。
しかし他にもあり、リンゴ病も無視できません。

胎児に感染して赤血球が壊れる「溶血発作」が生じると重度の貧血になり、
身体全体がむくんでしまう「胎児水腫」という危険な状態に陥ることがあります。

なので小児科医はリンゴ病を診察すると必ず、
「周囲に妊婦さんはいますか?お母さんは大丈夫ですか?」
と確認するクセがついています。

もっとも、「流行」状態ではどこでもらうか分からないので、
常に注意しておく必要があるかもしれません。
やっかいなのは、実際に大人が罹っても半分は典型的な症状(ほっぺが紅くなる)が出ない、無症状のこともある、という事実です。

リンゴ病を扱った記事が目に留まりましたので紹介します。

<ポイント>
・ヒトパルボウイルスB19を原因とする感染症。リンゴ病の原因がパルボウイルスB19であることが提唱されたのは1983年、4~5年周期で流行することが観察されている。
・子どもも大人も基本的には自然に軽快し、胎児以外は重症になりづらいため、残念ながらワクチン開発やそれ以外の予防法、胎児が感染していた際の治療法の確立も進んでいない。
・感染経路は接触感染と飛沫感染(感染した人の唾液、痰、鼻水の中に出て、人から人へとうつる)。家庭内で感染者と接触した人の約50%が感染し、学校の流行では感染者と同じクラスの生徒の10~60%が感染する。
・子どもの症状:10~20日の潜伏期間の後、両頬に赤い発疹(紅斑)、体や手・足に網目状の発疹が見られ、1週間ほどで消える。発疹が現れる7~10日前に微熱や風邪のような症状がみられることがあり、この時期にウイルス排出がもっとも多くなる。頬部発赤が出る頃はすでにウイルス排泄は低下して感染力を失っており、厚生労働省の『保育所における感染症対策ガイドライン』では保育園の出席停止は求められていない。
・感染対策は、感染者の咳やくしゃみを吸い込まないようにマスクをすること、感染者と食器などを共有しないこと、子どもにキスをしないこと、よく手を洗うことやこまめにうがいをすることが感染予防になる。
・子どもがかかっても重症になることは少ないが、妊婦が感染すると胎児の流産・死産の原因になり得る。
・報告によると、妊娠中にリンゴ病にかかり、胎児に感染した女性のうち約7割が流産、死産していた。感染した妊婦のうち約半数には、リンゴ病の症状が出ていなかった。
・感染した妊婦のうち6%で胎児が亡くなったり、4%で胎児の胸や腹に水が溜まったり、全身にむくみが出たりする『胎児水腫』が起きたりする、という報告がある。
・妊娠初期の感染では、特に赤ちゃんへの影響のリスクが大きい。胎児死亡は20週以前の母体感染の10%に発生し、胎児水腫の多くは2~6週に出現するが、妊娠28週以降の母体パルボウイルスB19感染による胎児死亡や胎児水腫の発生率は低い。
・日本人の妊婦の抗体(免疫)保有率は20~50%のため、半分以上の妊婦に感染の危険性がある。
・妊婦の感染は症状だけでは診断が難しい。妊婦がリンゴ病の人と接触した、かかった可能性がある場合は、接触の有無や職業などの問診に加えて、血液中のIgG抗体、IgM抗体を測定すべきであっる。妊婦のIgM抗体が陽性であれば、週1回程度、エコーなどで胎児の状態を調べ、異常があればより専門的な医療機関で、胎児輸血などの高度な治療が考慮される。


▢ 本当は怖いリンゴ病 ワクチンないのに胎児に影響、流産・死産の原因
朽木誠一郎:朝日新聞デジタル企画報道部
2024/10/15:withnews)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 妊婦の感染で流産・死産が増加
 小さい子どもによく見られる、両頬の赤い発疹を特徴とする病気、リンゴ病。医学的には伝染性紅斑と呼ばれます。小さな子どもがかかっても重症になることは少ないとされますが、妊婦が感染すると流産・死産の原因になります。
 元神戸大学医学部産科婦人科学分野教授の医師の山田秀人さんに話を聞きました。山田さんは2013年に発表された厚生労働省のリンゴ病など母子感染の全国調査で主任研究長を務め、現在は手稲渓仁会病院・不育症センター長を務めています。
 リンゴ病は、ヒトパルボウイルスB19を原因とする感染症です。子どもがかかると、10~20日の潜伏期間の後、両頬に赤い発疹(紅斑)、体や手・足に網目状の発疹が見られ、1週間ほどで消えます。発疹が淡く、他の病気との区別が難しいこともあります。
 発疹が現れる7~10日前に微熱や風邪のような症状がみられることがあり、この時期にウイルス排出がもっとも多くなります
 大人がかかった場合、約半数は症状が出ませんが、子どもと同様の発疹や、手や腕、膝の関節の腫れ・痛みが出る場合もあります。
 重症になることの少ない病気ですが、妊娠中にパルボウイルスB19に感染した場合は注意が必要です。
 2013年に発表(2011、2012年に実施)された調査では、妊婦健診を実施する全国1990施設からの回答を分析し、妊娠中にリンゴ病にかかり、胎児に感染した女性が69人確認されました。そのうち約7割の49人が赤ちゃんを流産、死産していたことがわかりました。感染した妊婦のうち約半数には、リンゴ病の症状が出ていなかったこともわかりました。
 山田さんは、感染した妊婦のうち「6%で胎児が亡くなったり、4%で胎児の胸や腹に水が溜まったり、全身にむくみが出たりする『胎児水腫』が起きたりするという報告がある」と話します。
 妊娠初期の感染では、特に赤ちゃんへの影響のリスクが大きいことがわかっています。
 胎児死亡は20週以前の母体感染の10%に発生し、胎児水腫の多くは2~6週に出現すること、妊娠28週以降の母体パルボウイルスB19感染による胎児死亡や胎児水腫の発生率は低いことから、妊娠後の早い時期の母体の感染に注意が必要です。
 山田さんは「リンゴ病は他の病気と比べて、流産・死産の原因になることがあまり知られていない」と指摘します。 

▶ 予防は基本的な感染対策のみ
 子どもの頃にリンゴ病にかかっていて免疫があれば、妊婦も感染しづらいといいます。一方で、山田さんは「日本人の妊婦の抗体(免疫)保有率は20~50%」といいます。つまり、半数以上の妊婦がウイルスに感染する可能性があることになります。
 パルボウイルスB19の感染経路は、感染した人の唾液、痰、鼻水の中に出て、人から人へとうつる、接触感染と飛沫感染です。両頬に赤い発疹が出て、リンゴ病とわかる症状が見られる前から、ウイルスを排出していることがポイントです。
 家庭内で感染者と接触した人の約50%が感染し、学校の流行では感染者と同じクラスの生徒の10~60%が感染するとされます。家庭内にリンゴ病の子どもがいる場合だけでなく、地域でリンゴ病が流行している場合や、子どもと接することが多い職業では、特に注意が必要です。
 一方で、ワクチンは開発されておらず、母体から胎児への感染を防ぐ方法も確立されていません
 山田さんは「感染者の咳やくしゃみを吸い込まないようにマスクをすること、感染者と食器などを共有しないこと、子どもにキスをしないこと、よく手を洗うことやこまめにうがいをすることが感染予防になる」と説明します。
 妊婦がリンゴ病の人と接触した、かかった可能性がある場合は、症状だけでの診断が難しいため、接触の有無や職業などの問診に加えて、血液中のIgG抗体、IgM抗体を測定します。
 一般的に、 ウイルス接触後、数日から1週間でウイルス血症(他人に感染する時期)となり、約10日目よりIgM抗体が検出され始め、数日後にIgG抗体が上昇します。IgM抗体は感染直後には見られず、数週間で消失。IgG抗体はウイルスにもよりますが、長期間、体内に残ります。
 妊婦のパルボウイルスB19感染では、IgG抗体が高ければ母体に免疫がある状態、IgM抗体が陽性なら最近になって初めて感染した可能性があるため、胎児へのリスクがあります。妊婦はIgM抗体の検査は保険適用、IgG抗体の検査やウイルスを調べるPCR検査は自費の扱いになります。
 妊婦のIgM抗体が陽性であれば、週1回程度、エコーなどで胎児の状態を調べ、異常があればより専門的な医療機関で、胎児輸血などの高度な治療が施されることもあります。 

▶ 4~5年周期で、5年前に流行
 リンゴ病は4~5年周期で流行することがわかっています。近年は2007年、2011年、2015年、2019年に流行しました。季節としては春から夏にかけて流行する傾向がありますが、2015年、2019年の流行では、前年の秋頃から流行が始まり、翌年に全国的な流行につながったということでした。・・・
 リンゴ病の原因がパルボウイルスB19であることが提唱されたのは1983年と、比較的、最近のこと。さらに、子どもも大人も基本的には自然に軽快し、胎児以外は重症になりづらいことで、ワクチン開発やそれ以外の予防法、胎児が感染していた際の治療法の確立も進んでいない、と問題点を指摘します。・・・
 「本来であれば、妊娠がわかったときや妊娠を希望する時点で、パルボウイルスB19の免疫の有無をIgG抗体の測定で測定するべきですが、保険適用になっているのは感染のおそれがある場合のIgM抗体の測定のみです。・・・

次は、実際に流行した保育園の現場に関わった記者家族のリアルな経験談です。
ワクチンも治療法もない現在、共働き夫婦にとって「流行中は自宅保育を」というのが悩ましい。

<ポイント>
・リンゴ病が流行している保育園からは注意喚起とともに「妊婦さんが家にいる場合、流行中は上の子の自宅保育を」と勧められた。


▢ 終わり見えない「自宅保育」勧められ…妊娠中に保育園でリンゴ病流行
朽木誠一郎:朝日新聞デジタル企画報道部
2024/10/16:withnews)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 保育園でリンゴ病が発生し…
 両頬が赤くなるリンゴ病(伝染性紅斑)。ヒトパルボウイルスB19が原因で、4~5年周期で流行し、最後の全国的な流行は2019年。今年9月には、神奈川県川崎市が6年ぶりとなる流行発生警報を発令し、医師も「手洗い・うがい、感染者との接触をなくす」といった感染対策への注意を呼びかけています。
 そんなリンゴ病が、今夏、2歳の我が子の通う保育園でも局所的に流行していました。リンゴ病は子どもでは自然によくなることが多い病気であり、厚生労働省の『保育所における感染症対策ガイドライン』でも、保育園の出席停止は求められていません
 しかし、我が家にとって深刻な問題だったのは、「妊婦がリンゴ病に感染すると流産・死産の原因になる」ということでした。
 妻は妊娠中で、その頃は安定期(一般的に16週から)に入る前でした。妻が流行を知ったのは、上の子を迎えに保育園を訪れ、掲示板に「【妊婦さんは注意】リンゴ病が発生しています」と書かれているのを見かけたときのことだそうです。
 医療従事者である妻ですが、仕事で担当する分野は産婦人科ではないため、妊婦のリンゴ病感染のリスクは「学生時代に習ったような、習っていないような」というくらい。あらためて調べ直して、母体を経由して胎児が感染した場合のリスクに驚いたと言います。
 妊婦が子どもの頃にリンゴ病に感染して免疫(抗体)があれば、そもそも感染しないので、胎児への感染もありません。しかし、日本の成人の抗体保有率は20~50%といわれています。
 妻にはかかった記憶がなく、すぐに母に連絡。しかし、きょうだいの看病をしたエピソードは覚えていたものの、妻が感染したかどうかは覚えていなかったそう。
 ただでさえ精神的に不安定になりやすい妊娠中のこと。妻は「もしお腹の子に何かあったらどうしよう」「子どものころにかかっておけばよかった」と自分を責める気持ちになったと、後で打ち明けてくれました。
 妻から報告を聞き、まず専門家に話を聞こうと、妊婦検診を受けている、かかりつけの病院の産婦人科に電話。担当の看護師さんが親身に相談に乗ってくれて、妻の抗体を調べることになりました。
 IgM抗体では最近の感染の有無が、IgG抗体では過去の感染の有無(現在の免疫の有無)がわかります。
  
▶ 終わりの見えない自宅保育
 悩ましかったのは、抗体の検査をして、結果が出るまでの約1週間、リンゴ病が流行している保育園に子どもを通わせるかどうかでした。
 リンゴ病は、頬が赤くなる前がもっとも他の人への感染力が高く、頬が赤くなる=リンゴ病が疑われるころには、感染力を失っていることがわかっています。潜伏期間が10~20日と長いのも特徴的です。
 つまり、保育園でがっつり他の子と接触している上の子は、「すでにリンゴ病に感染していて発症する前の状態」「症状が出ないが感染している状態」「まだ感染していない状態」のいずれかの可能性がありました。
 リンゴ病に特別な予防法や治療法はないので、妻に抗体があるか判明するまで、できることは「感染者と妊婦(妻)の接触を減らすこと」「妻がよく手を洗う、うがいする、マスクをすること」しかありません。
 もちろん、上の子の体調が悪ければ保育園を休ませますが、その時点で大変に元気だったので、どこまで大事を取って休ませるか、というのは微妙な問題でした。上の子の健康が最優先ですが、自宅保育の場合、夫婦のどちらかが急に仕事を休むことになるのは、現実的には頭の痛いことです。
 医学的には、学校の流行では感染者と同じクラスの生徒の10~60%が感染するとされます。感染しても症状が出ない状態は、小さな子どもでは1~2割とされます。こうした数字だけみても、上の子はもうかかっているかもしれないし、かかっていないかもしれないとしか言えません。
 そうなると、「大事を取って……」という方針になりがちです。保育園からも、注意喚起とともに「妊婦さんが家にいる場合、流行中は上の子の自宅保育を」と勧められました
 しかし、その場合はいつまで自宅保育にすればいいのか「終わりが見えない」という問題もあります。もし、検査で妻に免疫がないことがわかれば、保育園で流行している間は、ずっと自宅保育が望ましい、ということになるからです。
 結局、ひとまず抗体検査の結果が出るまで自宅保育にし、結果と上の子がその時点で症状が出ているかどうかを踏まえて、あらためてその後の方針を決定することになりました。
 先行きが不透明なまま、夫婦交代で仕事を休み、いたって元気な上の子を自宅保育するというのは、親側の精神的負担も大きい期間でした。
  
▶ 感染妊婦の6%に胎児死亡
 検査結果は、幸いなことに、IgM陰性、IgG陽性。過去にパルボウイルスB19に感染しており、現在は感染していないであろうことがわかりました。症状が出なかった上の子の登園も再開させ、安心して仕事に復帰できました。妻とは「とにかくホッとしたね」と言い合いました。
 感染が疑われる妊婦に対しては、IgM抗体の検査のみ保険適用で、IgG抗体の検査は自費になります。かかった金額は3000~4000円でした。
 妻は「こういう思いをしないように、妊娠時の検査にリンゴ病の免疫の有無がわかるものを入れておいてほしかった」「片方が保険適用で、片方が自費というのもわかりにくい」とぼやいていました。
 妊婦のリンゴ病感染に詳しい元神戸大学医学部産科婦人科学分野教授で医師の山田秀人さんに話を聞きました。・・・
 大人になってからかかると重症化することが多い病気は、「小さいころにかかっておいた方がいい」と言われることがあります。リンゴ病について、山田さんは子どももまれに重症化することもあるため、「かかっておいた方がいい」とは言えないとします。・・・
 「感染者の咳やくしゃみを吸い込まないようにマスクをすること、感染者と食器などを共有しないこと、子どもにキスをしないこと、よく手を洗うことやこまめにうがいをすることが感染予防になります
 山田さんによると、リンゴ病は「初感染妊婦のうち6%が胎児死亡になり、4%に胎児水腫(胎児の胸や腹に水が溜まったり、全身に浮腫を来たす重い病気)が起きるという報告」があるとのこと。「リンゴ病は他の病気と比べて、流産・死産の原因になることがあまり知られていない」と警戒を呼びかけます。・・・
 リンゴ病という病名自体は、聞いたことがある人も多いであろう、ありふれたものです。しかし、立場が変わるとそのリスクも大きく変わるというのは、社会の中で違う立場の人を思いやる上でも、ハッとする経験でした。

同じ記事シリーズの最後は、リンゴ病に感染した妊婦・胎児の調査を担当した医師のインタビューです。
胎内感染で胎児に障害が発生する感染症はTORCH症候群として医療者には有名ですが、
そこにリンゴ病は入っていませんので、今後は変化する可能性が示唆されています。

<ポイント>
・お母さんから胎児が感染することで、奇形や重篤な障害などを引き起こす感染症の総称であるTORCH(トーチ)症候群(T:トキソプラズマ、O:その他、R:風疹、C:サイトメガロウイルス、H:単純ヘルペス)がある。
・TORCHの「O(その他)」としてはB型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、梅毒などが挙がるが、ヒトパルボウイルスB19が挙がることはまれ。
・日本で1年間に出生する先天性感染のうち、パルボウイルスB19は通常10、流行年なら100で、後者の場合はTのトキソプラズマ(100~200)、Hの単純ヘルペス(100)と同等で、Rの風疹(0~5)、梅毒(20~50)よりも多い。
・“リンゴ病”という名前のイメージとは裏腹に、初めて感染した妊婦のうち6%に胎児死亡が、4%に胎児水腫が起きるだから、甘く見てはいけない病気。日本人の妊婦の抗体(免疫)保有率は20~50%とされ、半数以上の妊婦がウイルスに感染する可能性がある。
・パルボウイルスB19は、予防のためのワクチンがなく、スクリーニング検査もできず、自然に症状が軽快するのを待つしかないため母体治療を施すことや帝王切開分娩などで感染経路を避けることもできず、胎児の治療も難しい。
・リンゴ病は、おなかの中の赤ちゃん以外は重症になりづらい、という特徴がある。これが予防対策が進まない一因でもある。
・妊娠前に女性が免疫(抗体)の有無を把握しておくことが大事。抗体があれば、流行したとしても、ある程度は安心してお母さん自身や、上の子がいる場合はそのお子さんが生活することができる。抗体がなければ、地域や上の子を通わせる保育施設でリンゴ病が発生したときに、自宅保育をするといった対策を自ら取ることもできる。中長期的な免疫の有無がわかるのはIgG抗体の検査ですが、これは保険適用外、自費の検査。

ここにこの感染症対策の肝が示されています。
「妊婦のパルボウイルスB19の抗体価(IgGとIgM)をスクリーニング検査し、その結果を以下のように評価;
 IgG陰性+IgM陰性 → 未感染であり、今後感染の危険あり
 IgG陰性+IgM陽性 → 今まさに感染中
 IgG陽性+IgM陰性 → 既感染あり、今後の危険なし
 IgG陽性+IgM陽性 → 最近感染あり、胎児感染の可能性あり
上記結果に応じて感染対策を練ることが必要。
なお、こちらによるとウイルス接触後数日から1週でウイルス血症(他人に感染する時期) となり、約10日目よりIgM抗体が検出され、数日遅れてIgGが上昇します。


▢ 胎児の命にかかわるリンゴ病 対策がこの10年〝停滞〟していた理由
朽木誠一郎:朝日新聞デジタル企画報道部
2024/10/17:withnews)より一部抜粋(下線は私が引きました);

▶ 感染数は多いのに知られていない
――厚生労働省研究班の主任研究長として、国内で初となる妊婦を対象にしたリンゴ病(ヒトパルボウイルスB19感染症・伝染性紅斑<こうはん>)など母子感染についての大規模調査を実施し、2013年に発表しました。どんな調査でしたか?

山田さん:リンゴ病の流行があった2011年を対象とした全国調査を、2011~12年にかけて実施しました。全国2714の妊婦健診施設をアンケート方式で調査し、1990施設より回答が得られました(回収率74%)。回答施設での分娩数は合計78万8673で、2011年の総分娩数の75%を占めました。
 先天性感染数(母体内で胎児に感染すること)は、パルボウイルスB19感染がもっとも多く、69人。サイトメガロウイルス34人、新生児ヘルペス8人、梅毒5人、風疹4人、トキソプラズマ1人でした。ただし、この結果では、風疹以外はそれぞれ予想される先天性感染数より診断症例が少なくなっています。
 理由として、予防のための対策や検査・診断法がまだ普及していないため出生時に見逃されている、それぞれの病気とカウントされていない流産・死産も多かったと推察しています。
 パルボウイルスB19については、69人のうち35人が流産、14人が死産、3人が中絶で、残り17人が出産(正常分娩)でした。そのため、約7割の49人が流産・死産を経験していることになります。
 34人(49%)が母体にリンゴ病の症状がない不顕性感染で、37人(54%)は家族(うち94%は子ども)に症状がありました。また、58人(84%)に上の子どもがいたこともわかりました。

――お母さんから胎児が感染することで、奇形や重篤な障害などを引き起こす感染症の総称であるTORCH(トーチ)症候群(T:トキソプラズマ、O:その他、R:風疹、C:サイトメガロウイルス、H:単純ヘルペス)がありますが、山田さんはここに、パルボウイルスB19を含めることを提唱されていますね。

 調査結果からもわかるように、他の病気と比較しても、パルボウイルスB19の先天性感染は少なくありません。ですが、TORCHの「O(その他)」としてはB型肝炎ウイルス、コクサッキーウイルス、EBウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、梅毒などが挙がることがほとんどで、ヒトパルボウイルスB19が挙がることはまれです。
 日本で1年間に出生する先天性感染のうち、パルボウイルスB19は通常10、流行年なら100で、後者の場合はTのトキソプラズマ(100~200)、Hの単純ヘルペス(100)と同等で、Rの風疹(0~5)、梅毒(20~50)よりも多くなっています。
 リンゴ病の原因ウイルスであるパルボウイルスB19が流産・死産の原因になることが妊婦に広く知られていないだけでなく、医療者でもそのリスクをしっかり認識していない場合があるため、私は必ずTORCHとしてヒトパルボウイルスB19を紹介することにしています。 

▶ リンゴ病の対策が後手になる理由
――山田さんがパルボウイルスB19感染症についての啓発・教育に長らく携わっているのは、どうしてですか?

 私はもともと、胎児のウイルス感染で引き起こされる胎児水腫(胎児の胸や腹に水が溜まったり、全身に浮腫を来たす重い病気)の治療を専門分野の一つにしていました。
 このうち、特にパルボウイルスB19は、予防のためのワクチンがなく、スクリーニング検査もできず、自然に症状が軽快するのを待つしかないため母体治療を施すことや帝王切開分娩などで感染経路を避けることもできず、胎児の治療も難しい、という特徴があります。
 2021年に発表された妊婦の先天性母子感染の知識調査※1では、パルボウイルスB19について「妊娠中の感染が胎児に影響を及ぼす感染症として知っていた」という割合は約3割。過半数を占めた風疹やトキソプラズマよりも大幅に低く、これは2014年の同様の調査※2から大きな変化がありませんでした。

※1. Changes in awareness and knowledge concerning mother-to-child infections among Japanese pregnant women between 2012 and 2018
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7787470/
※2. Awareness of and knowledge about mother-to-child infections in Japanese pregnant women
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/24588778/

 手を洗う、うがいをする、感染者との接触を減らすなどの感染対策をするという教育と啓発でしか、パルボウイルスB19の先天性感染を防げないため、その前提とするための日本での調査を、2011、12年で実施した、という経緯です。

――2013年に結果が発表された大規模調査以降、アップデートはあるのでしょうか。

 あまりないのが実情です。妊婦のパルボウイルスB19感染については、今もこの調査のデータが引用されることがほとんどでしょう。

――実際に妊婦が感染すると、胎児に深刻な影響を与えうるウイルスです。それにも関わらず、アップデートされていないのは、なぜなのでしょうか。

 “リンゴ病”という名前のイメージとは裏腹に、初めて感染した妊婦のうち6%に胎児死亡が、4%に胎児水腫が起きるのですから、甘く見てはいけない病気です。日本人の妊婦の抗体(免疫)保有率は20~50%とされ、半数以上の妊婦がウイルスに感染する可能性があります
 リンゴ病の原因がパルボウイルスB19であることが提唱されたのは1983年と、比較的、最近のことです。例えば風疹のように、長年の医学研究の積み重ねがある他のTORCHよりも、わかっていないことが多いのは事実でしょう。
 リンゴ病は、おなかの中の赤ちゃん以外は重症になりづらい、という特徴があります。自然に軽快するため、特異的な治療法はありません。直接的に命にかかわる感染症と異なり、ワクチンのような予防法を開発するためのインセンティブも、働きづらいと言えます。
 流行が4~5年ごと、というのも、後手に回る対応に拍車をかけています。大流行が起きても、次が何年も後だと、喉元を過ぎて熱さを忘れてしまうということはあるでしょう。 

▶ 他の病気は保険適用、なぜ自費?
――今後、どのような点を改善していくべきだと考えますか。

 ワクチンが開発されておらず、母体から胎児への感染を防ぐ方法も確立されていない以上、妊娠前に女性が免疫(抗体)の有無を把握しておくことが大事になります。抗体があれば、流行したとしても、ある程度は安心してお母さん自身や、上の子がいる場合はそのお子さんが生活することができるからです。
 抗体がなければ、地域や上の子を通わせる保育施設でリンゴ病が発生したときに、自宅保育をするといった対策を自ら取ることもできます
 しかし現在、保険適用になる抗体検査は、妊婦に感染のおそれがある場合の、パルボウイルスB19のIgM抗体の検査だけです。IgMは直近の感染の有無がわかりますが、感染した直後や、感染して時間が経ったときには検出されません。
 中長期的な免疫の有無がわかるのはIgG抗体の検査ですが、これは保険適用外、自費の検査になります。他のTORCHの病気など、感染症は一般的にIgG抗体の保険適用があるのに、パルボウイルスB19は対象ではないのです。・・・

――「妊婦が感染すると流産・死産の原因になる」ということが未だに知られていない現場については、どう変えていきますか。

 2015年から神戸大学医学部産科婦人科学教室で、パルボウイルスB19についてのパンフレットを作成し、配布しています。


 身近に妊婦さんがいる方や、妊娠を希望する方やそのパートナーの方に、ぜひ読んでいただきたいものです。
 基本的にすべての妊婦さんが受ける妊婦健診の場で、パルボウイルスB19についての説明が不十分であることも、問題の一つです。他のTORCHの危険性が知られているのは、やはりこの妊婦健診で情報に接するから、という理由も大きいと思われます。
 妊婦健診で保健指導に当たる医療者には、ぜひ、パルボウイルスB19についても啓発・教育をしていただき、医療全体として一丸となり、パルボウイルスB19の先天性感染を減らしたい、と願っています。


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