小児アレルギー科医の視線

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男性にもHPVワクチンを!

2023年08月11日 21時13分10秒 | 予防接種
HPVワクチンは名前から何の病気を予防するのかイメージしにくいため、
従来は「子宮頚がんワクチン」と呼ばれてきました。
ようやく最近、HPVワクチンと言っても通じるようになりました。

さて、HPV(ヒトパピローマウイルス)は性交渉を介して女性に感染します。
つまり、男性が持っているわけですね。

では、男性には病気を引き起こさないのでしょうか?
そんなことはありません。
男性もHPV感染を契機に、中咽頭を中心に種々の癌を発症します;

・子宮頸がん(HPV原因が91%)
・腟(75%)
・大陰唇(69%)
・ペニス(63%)
・肛門(91%)などの肛門性器がん(anogenital cancers)
・口腔咽頭(oropharynx)がん(70%)

ただ、圧倒的に女性の子宮頚がんが多いので、
今まで注目されてきませんでした。

しかし世界を見渡すと、
HPVワクチン接種率を80%以上維持している国々は、
すでに「21世紀のうちに子宮頚がんは撲滅できる」と考え、
次の一手を開始しています。

そう、男性への接種です。

なぜ日本では盛り上がらないのでしょう?
それは“国民が無知だから”です。

女性対象にHPVワクチンを開始する際も、
啓蒙活動が後手に回ったため、
「子宮頚がんを減らす」というありがたい効果は軽んじられ、
副反応ばかりが話題になり、一旦中止に追い込まれました。

男性を対象に「HPVワクチンを接種しましょう」と呼びかけても、
「ん、何それ?」
ですよね。

でも、機は熟しました。
日本でも男性対象にHPVワクチン、接種しましょう!

そんな内容を扱った記事を紹介します。

▢ 中咽頭がん予防、男性にもHPVワクチンを
 ヒトパピローマウイルス(HPV)は、子宮頸がんだけでなく中咽頭がんの原因にもなる。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会神奈川県地方部会、神奈川産科婦人科学会、日本小児科学会神奈川県地方会は、7月13日にHPVワクチンによるがん予防をテーマに関連3学会ジョイントセミナーを開催。その中で、…「HPV関連中咽頭がんの予防には男性へのHPVワクチン接種が重要だ」と訴えた。
◆ 40歳代から増加、60歳代でピークに。男性は女性の4倍
 中咽頭がんの原因としては喫煙・飲酒、HPV感染があり、HPVによって引き起こされる中咽頭がんは全体の約半数を占める男女比は4:1と男性に多い出現部位は、口蓋扁桃と舌根に特異的で、HPV16型が88%と高率である。
 HPV関連中咽頭がんの発症年齢を見ると、40歳代から増え始め、60歳代でピークを迎える。非HPV関連中咽頭がんの発症ピークが70歳代であるのに対し、やや若年で発症する傾向が見られる。
 山下氏は「HPV関連中咽頭がんの発症は、生産年齢人口と重なることが大きな問題だ」と指摘する。
◆ HPV関連中咽頭がんが世界で急増、日本は20年で約3倍
 米国では、子宮頸がんの年齢調整罹患率が1975年と比べ2019年に半減。その一方で、中咽頭がんに関しては、女性ではほぼ横ばいだが、男性では1995年を境に急増し、2019年には1975年の2.2倍となった。
 日本の状況を見ると、中咽頭がんの罹患率は男女ともこの20年で約3倍と急増。
・・・
 各国の中咽頭がん罹患率を示したデータからは、先進国で罹患率が高い傾向がうかがわれる。この点について、山下氏は「今後、HPV関連がんの問題は、子宮頸がんから中咽頭がんに移行していく可能性がある」と危惧する。
◆ 中咽頭がんでは検診が確立していない
 HPV関連がんの予防戦略として、
①教育と啓発
②HPVワクチン接種(一次予防)
③検診(二次予防)
―を三位一体で進めていくことが重要とされている。しかし、中咽頭がんでは、初期変化が陰窩と呼ばれるくぼみ部分の基底細胞で起こるため偽陰性になりやすく、前がん病変の概念が確立されていないといった事情から、子宮頸がんとは異なり検診という手立てを講じることができない。したがって、予防はワクチン接種に頼らざるをえない。
 山下氏は「男性を含めたワクチン接種により、HPV関連中咽頭がんを予防することが非常に重要だ」との考えを示した。
◆ 男性で高い口腔内HPV保有率
 折舘氏は、男性へのHPVワクチン接種の現状と将来展望について講演。男性へのHPVワクチン接種の根拠となる海外データを紹介した。
 米国民保健栄養調査(NHANES)によると、18~69歳の成人における口腔内HPV保有率は、2011~14年には女性の3.3%に対し男性では11.5%と高かった。同様に、HPV高リスク型(16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68型)の保有率も、女性の1.2%に対し男性では6.8%と高かった。
 「口腔内HPV保有率が男性で高いとの結果は、中咽頭がんが女性に少なく、男性に多いことの説明になる」と同氏。
◆ ワクチン接種で、HPV16型の口腔内感染リスクが有意に80%低下
 HPVワクチンの接種により中咽頭がんは予防できるのか。現時点で、頭頸部がんの発症予防または再発予防における4価/9価HPVワクチンの有効性と安全性を評価した臨床研究データはないという。しかし、疫学研究ではHPVワクチン接種と口腔内HPV保有率との間に負の相関が示されている。
 折舘氏は、欧州で行われたHPVワクチン接種とHPV口腔内感染率との関連を検討したシステマチックレビューおよびメタ解析の結果を報告。関連研究6件(8~53歳の男性1万5,250例)の解析では、HPVワクチン接種によりHPVワクチンがカバーする型の口腔内感染リスクが46%有意に低下することが示された〔リスク比(RR)0.54、95%CI 0.32~0.91、P=0.02〕。また、4件(1万3,285例)に絞ったメタ解析では、HPV16型の口腔内感染リスクが有意に80%低下することが示された(同0.20、0.09~0.43、P<0.0001)。
 同氏は「男性へのHPVワクチン接種により、中咽頭がんの発症に関与しうるHPV16型を含むワクチン型の口腔内感染を予防できる」と述べた。
◆ 2100年までに推計で男性約79万例が中咽頭がんを回避
 では、HPVワクチン接種で、中咽頭がんはどの程度予防できるのか。折舘氏は、HPVワクチン接種の長期的影響をシミュレーションした数理モデルを紹介した。
 米国におけるHPVワクチン接種率は、2019年には女性で61.4%、男性で56.0%。この接種率が維持された場合、男性の中咽頭がんは2030年代半ばごろにピークを迎えた後、減少に転じ、2100年には10万例当たり4例にまで減少することが見込まれるという。その間に回避できる男性の中咽頭がんは約79万例に上ると推計される。
・・・
 同氏は「HPV関連中咽頭がんは男性に多いため、HPVワクチン接種は男性においても重要な意味を持つ」と強調し、講演を終えた。


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