小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

吸血して感染症を媒介する「マダニ」のお話

2023年07月29日 14時14分20秒 | 予防接種
「マダニが感染症を媒介する」と、
TVで時々紹介されるようになりました。

私もこれから夏休み旅行に出かける予定があり、
知識を整理しておきたいと思います。

マダニはアレルギーで悪さをするコナダニと違って大きく、
動物の血液を吸う(吸血)ことで生きています。
その際に、マダニの体内にいる病原体を人の体内に残し、
それが感染症を引き起こします。

えっ?
その病原体はマダニに病気を起こさないかって?

・・・そうなんです。
病原体マダニはWin-Winの関係にあり、
病気を起こさずに寄生しています。

このような例はいくらでもあります。

季節性インフルエンザウイルスは渡り鳥が運んできますが、
渡り鳥には病気を起こしません。
しかし人に感染すると病気を起こします。
ただ近年、渡り鳥にも病原性を発揮する変異株が出現をくり返し、
これを“強毒性インフルエンザウイルス”として別格扱いしています。

マダニについては夏秋先生の解説がわかりやすいので紹介します。
まずは通読してポイントを感じた箇所を抜粋;

<ポイント>
・アレルギーで悪さするダニと感染症を媒介するマダニは違う。
・マダニは人にくっついて吸血し、その際に病原体を感染させる。
・すべてのマダニが病気を媒介するわけではなく、ほんの一部。
・マダニ対策は、
 ①肌を出さない(長袖長ズボン)こと、
 ②防虫剤(イカリジン入り)を皮膚だけではなく、
  マダニの侵入経路である足元にズボンや靴下の上から散布する。
・マダニにさされた時はあまり痛くない。
・マダニは一度くっついて吸血をはじめると、
 引っ張ったり入浴しても簡単には離れない、
 腹一杯になるまで1週間くらい離れない。
・マダニが皮膚にくっついているのに気づいたら、むやみに取らず、
 皮膚科を受診して取ってもらう(食い付いた部分を局所麻酔して皮膚ごと切除)。
・皮膚科では、病気を媒介するタイプかどうかわかることがある。
・病気を発症したら治療が必要(薬が効かないタイプあり)。

媒介する感染症は、以下の三つが有名:

重症熱性血小板減少症候群SFTS
ウイルス感染症
・西日本で多い。
・感染すると1~2週間で高熱、下痢などを生じて、血液中の白血球や血小板が減少する。
・現時点では有効な治療法がなく、自然回復を待つしかない。
・最悪の場合、死に至ることもある。
・SFTSはマダニに刺されたネコにも感染することがあるので、
 野良ネコにはむやみに近づかない。

日本紅斑熱
リケッチア感染症
・西日本で多い。
・マダニに刺されて2~8日で高熱と全身の発疹などが出る。
・テトラサイクリンという抗菌薬で治療可能。
・治療が遅れると重症化することがあり、早期の診断が重要。

ライム病
・ボレリア(Borrelia)という細菌感染症
・北海道で多い。
・マダニに刺された皮膚に大きな赤みが出て、発熱や 倦怠感、関節痛などがみられる。
・テトラサイクリンやペニシリンなどで治療可能。
・欧米では被害が多く、ハリウッド俳優のリチャード・ギアや、
 カナダ出身の人気歌手、アヴリル・ラヴィーン、ジャスティン・ビーバー
 なども、ライム病に苦しんだと報じられている。


<上記感染症を媒介するマダニの写真>
SFTS日本紅斑熱を媒介するフタトゲチマダニ(メス)

ライム病を引き起こす細菌・ポレリアを媒介するシュルツェマダニ(メス)

では、メモも残しておきます;

▢ Dr.夏秋の毒虫クリニック(yomi Dr.)
1.マダニ<対策基礎編>皮膚に食い付き1週間 生き血を吸って巨大化する(2022年6月3日)
2.マダニ<対策実践編>血で満腹になるまでは、ライターであぶっても離れない! 最終手段は「皮膚ごと切除」(2022年6月6日)
以上より一部抜粋;
・・・
・マダニはイエダニやチリダニ類のように家屋内に生息する小さなダニではなく、
野山や河川敷など野外に生息する大型のダニです。
・幼虫、若虫、成虫のすべてのステージで動物から吸血します。
・日本ではヤマトマダニ、シュルツェマダニやフタトゲチマダニなど、46種類ほどのマダニが知られています。
・体長は幼虫で0.5~1mm、若虫で1~2mm、成虫は2~8mmで、種類によって大きさがかなり異なります。
・日本で最大級のタカサゴキララマダニは、オスで6~7mm、メスで7~8mmもあり、迫力があります。
・また、吸血すると腹部が膨大し、10~20mmの大きさに達することもあります。
・・・
・マダニは、林内の下草やササなどの葉先にじっと潜んでいます。
・動物やヒトが通ると、素早くその体や衣服にとりつくのです。
・そして吸血する場所を探して体表面をはい回り、「ここぞ」と位置を定めて口器を皮膚に刺して血を吸い始めます。
・幼虫で約3日間、若虫で約1週間、成虫では1~2週間、口器を皮膚に刺し込んだままで吸血を続けるのです。
・十分に血を吸って満腹になる(これを「飽血」と表現します)と、皮膚から脱落して落ち葉の下などでじっとしています。
・吸った血を養分として、幼虫であれば若虫へ、若虫であれば成虫へと脱皮して成長します。
・雌の場合は土の中で産卵して一生を終えます。
・・・
・マダニはいったいどのくらいの期間、空腹に耐えられるのでしょう。
・私が飼育しているマダニの中には、適度な湿度さえ維持していれば、1年以上、吸血せずに生きている強者がいます。
・おそらく野外でも、来る日も来る日もひたすら動物(餌をくれるご主人さま)が通るのを待っている、
「忠犬ダニ公」のようなマダニがたくさんいるのでしょう。
・・・
・体長数mmもある大きなマダニが皮膚に食い付くと、さぞ痛いだろうと思われるかもしれませんが、実はほとんど痛みを感じません。
・これは、マダニが口器を皮膚に刺し込むときに、皮膚感覚をまひさせる物質を注入するためだと考えられています。
・血をかすめ取るために麻酔を使うなんて、実に巧妙だとは思いませんか?
・ですから、野外活動をした後、マダニに刺されたことに気づかずに何日も過ごすことが、珍しくありません。
・皮膚の上の小さなかたまりにふと気づいて、あれ? こんなところにできものが……
などと思ってよく見ると、そのできものには脚が付いていてビックリ!なんてことも。
・・・
皮膚に口器を刺し込んで吸血しているマダニは、十分に血を吸って満腹(飽血状態)になるまで離れません
・少々、引っ張っても取れませんし、入浴しても落ちません
たばこやライターの火を近づけるといった方法を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうが、
マダニが取れる前に皮膚をヤケドするので、避けてください
・無理に引っ張るとマダニの口器の部分がちぎれて、皮膚の中にそのかけらが残り、違和感やしこりが長く残ることがあります。
・一つの方法として、先の細いピンセットでマダニの頭部をつまんでゆっくり引っ張ると、うまく取れる場合があります。
・マダニ除去用の器具を用いる方法もありますが、本来はペット用に販売されているものなので、
それを了解した上で使用してください。これは、コツをつかめば、かなり有効なツールであることは確かです。
・上記の方法は、いずれも口器がちぎれて皮膚に残る可能性があります。
・最も確実なのは、マダニが食い付いた部分を局所麻酔して、皮膚ごと切除する方法です。
・自分で除去するのが難しい場合は、早めに皮膚科を受診して除去してもらいましょう。
・ワセリンなどの油脂成分をマダニにたっぷり塗って20~30分間放置し、
マダニを窒息させた後にピンセットで引っ張る方法(ワセリン法、夏秋法とも呼ばれる)は、
以前はお勧めしていましたが、成功率は必ずしも高くありません。
・しかし、麻酔処置などのしにくい乳幼児の場合は、まず試す価値があると思われます。
・除去したマダニは捨てずに皮膚科などに持参すれば、専門機関で口器の状態を確認して、
皮膚内にちぎれた口器の一部が残っているかどうかが分かる可能性があります。
・また、マダニの種類を同定することで、感染症を媒介する種類かどうか判定できる場合もあります。
・・・

・マダニが皮膚に付くのを予防するためには、野外活動の際に肌の露出を避けることが大切。長そで、長ズボンの着用が原則です。
・そして、マダニが寄りつかなくなる虫よけ(忌避剤)のスプレーを活用しましょう。
・忌避剤には主に、ディートとイカリジンという成分があります。
・効果はどちらもほぼ同様ですが、ディートは小児への使用回数が制限されており、
イカリジンには年齢や使用回数の制限はありません。
・使用方法のコツは、肌にムラなく塗り伸ばすこと。2~3時間おきに塗り直しましょう。
・さらに、マダニが付着しやすい足元(靴、靴下、ズボンの裾など)には、衣類の上からも虫よけ剤を噴霧しておくと、
かなりの予防効果が期待できます
・・・
・マダニに刺された場合、赤みやかゆみなど、何も症状が出ない場合も多いですが、時には大きく腫れることもあります。
・これは通常の虫刺されと同様で、個人差がありますので、皮膚症状が出た場合は皮膚科で相談してください。
マダニで怖いのは、体内に様々な病原体を持っている場合があることです。
一般に、マダニが何らかの病原体を持っている可能性(病原体保有率)はとても低いのですが、
マダニの種類や刺された地域によっては、まれながら、感染症を引き起こす場合があります。
・したがって、刺されたマダニの種類を知ることで、感染症の発症リスクをある程度、予想することができるのです。
・・・

・西日本では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というウイルス感染症が知られており、
感染すると1~2週間で高熱、下痢などを生じて、血液中の白血球や血小板が減ります。
・現時点では有効な治療法がなく、自然回復を待つしかありません。
・最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい感染症です。
・SFTSはマダニに刺されたネコにも感染することがあり、
2017年には、SFTSに感染して弱った野良ネコにかまれた50歳代の女性が、感染して亡くなりました。
・野良ネコにはむやみに近づかないようにしましょう。
・西日本では日本紅斑熱というリケッチア感染症も知られています。
・これはマダニに刺されて2~8日で高熱と全身の発疹などが出る感染症で、テトラサイクリンという抗菌薬で治療できます。
・しかし、治療が遅れると重症化することがありますので、早期の診断が重要です。
・・・
・北海道などではライム病が知られています。
・マダニに刺された皮膚に大きな赤みが出て、発熱や 倦怠感、関節痛などがみられるのが特徴です。
・これはボレリアという細菌による感染症で、テトラサイクリンやペニシリンなどで治療できます。
欧米では被害が多く、ハリウッド俳優のリチャード・ギアさんや、カナダ出身の人気歌手、アヴリル・ラヴィーンさん、
ジャスティン・ビーバーさんなども、ライム病に苦しんだと報じられています。
・日本では、マダニに刺されても過剰な心配は不要で、慌てる必要もありません。まずは皮膚科で除去してもらってください。
・マダニに刺されたあとに熱が出た場合は必ず医療機関に相談してください。
・・・
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