小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「あなたにあったアトピー治療」

2008年08月26日 20時46分22秒 | アトピー性皮膚炎
アトピー・ネットワーク・リボーン著、2000年、NECクリエイティブ発行

著者名はアトピー性皮膚炎患者と医師の間を取り持つ団体で、記述はメンバーである医師(江部康二、平馬直樹)、管理栄養士(幕内秀夫)が担当し、そして「Reborn」代表の曽我部ゆかりさんがまとめています.

この本のよいところは、医療提供側の一方通行の記述ではなく、患者さんの話に耳を傾けて一緒に苦労してきた医療者の視点があることです.
実際に日々アトピー性皮膚炎の診療を行っている私ですが、他の疾患(たとえば気管支喘息)と比較してもなかなか思うように治療成果が得られません.私自身は一応「日本アレルギー学会認定専門医」の資格を有し、「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」に準じた治療、生活指導を行っているつもりですが、今ひとつなのです.

そんな時に出会ったのが京都の高雄病院の江部先生の著書です.
患者と真摯に向き合い、アトピー性皮膚炎患者のQOLを上げるためにひたすら努力してきたら現在のような診療体系になったと書いてありました.その内容は、「漢方・鍼灸を中心に、食養生・絶食療法、心理療法を取り入れ、医師・鍼灸師・看護師・薬剤師・心理療法士が連携したチーム医療」です.
そして高雄病院の治療方針は「治すのは患者さん自身、医療スタッフは患者さんの治る力を援助する」こと.
なるほど、ここまでやらなければアトピーは解決しないんだな、と頷きながら読みました.

今回も私の疑問に対する答えがたくさん用意されている内容でした.
印象に残る文言を挙げてみます.

「赤ちゃんは治るアトピー、思春期は治ってもいいアトピー、大人は治らなくてもいいアトピー」
よくぞここまで言い切った!
その通りだと思います.「医者がそんな無責任なことを・・・」と思われる方はこの本を読んでください.

「西洋医学は一つの原因をつきつめて特効薬を投与するという考え方.東洋医学は部分より全体を、分析より調和を大切にする考え方.」
アトピーはアレルギー、皮膚のバリア機能低下、心身症的側面、自律神経異常など様々の要素を含む症候群です.
このような病態には、西洋医学的アプローチではカバーし切れない面があります.
アレルギーに対しては抗アレルギー剤、皮膚に対してはスキンケア&ステロイド軟膏まではよいのですが、心身症的要素があればカウンセリング、自律神経異常があればその調整剤・・・とキリがありません.
ガイドラインに沿った一通りの治療をしてもコントロールができない患者さんには、私も漢方薬を使いようになりました.
漢方薬は前述のように体全体の調和を大切にするので、「望ましい体調からこの方向にずれている」病態を調整する薬を使えば一剤でも効果が得られる可能性があるのです.
まだまだ不十分ですが、少しずつ手応えを感じ始めています.

ステロイド軟膏の使い方、副作用についても一般書でありながら医師の私が読んでも参考になるような充実した内容です.
「ステロイド中止後のリバウンド」と「離脱皮膚炎」を分けて記述してある本を初めて読み、目から鱗が落ちました.

管理栄養士の幕内秀夫さんには縁があるというか、私の目指す診療の方向性から避けて通れない人物のようです.
「粗食のすすめ」という食養生の本も読みましたし、民俗学の分野で宮本常一さん関係の本を読んだ時にも幕内さんは登場してきました.
彼の主張は「日本人には伝統的な日本食が合っている」ということに尽きます.
現代の食生活がそれからあまりにもかけ離れてしまったことを憂いています.

パンより米!
皆さん、コンビニで販売しているパンのカロリー表示を見たことがありますか?
ピーナツバターのコッペパン1個が500kcalもあるのです.
なんとおにぎりの3個分のカロリーです.
でも、炭水化物である小麦の量は少ないですよね.
パンを思いっきりつぶして丸めてもせいぜいピンポン球くらいの大きさで、決しておにぎり3個分にはならないでしょう.
ではなぜカロリーが高いのか?
それはバターや砂糖がたくさん使われているからです.
栄養素の面から考えると、日本のパンはお菓子に分類されそうです.

漢方医の平間先生の記述は、「この状態にはこの漢方薬が効く」というハウツーものの書き方ではなく、概念的ですが納得できます.
なぜなら、西洋医学のように「アトピー性皮膚炎には抗アレルギー剤を内服」と単純には行かないのです.
病名で薬が決まるのではなく、患者さんの体質・体調・皮膚の状態により使い分けます.
例えば、ジクジクして赤くなっている状態にはこれ、カサカサ中心にはこれ、混在している場合はこれ、などなど.
一人の患者さんに対しても、その時々で効く薬が異なります.
と言う訳で、薬の選択は西洋医学より漢方の方が複雑であり、習熟するには時間と経験が必要です.
でも、はまった時(証が合った時)の効果には目を見張るものがあり、患者さん自身・お母さん・そして処方した私自身も驚かされることがあります.

でも、「漢方医の腕を見分ける基準」という項目で「煎じ薬で治療しているかどうか」と書かれており、出来合いのエキス剤しか使っていない私にはキツ~いお言葉.
いつかは煎じ薬を使いこなせるようになりたいと努力を続ける所存ですが・・・.


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
   | トップ | 「医者と本音で話がしたい」 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

アトピー性皮膚炎」カテゴリの最新記事