「バイバイ、おねしょ!」朝日新聞出版、2015年発行。
夜尿症関連本の紹介です。
著者はライターで、以下の夜尿症専門医を取材してまとめた内容です。
近年発行される夜尿症関連の本が少ない中、「夜尿症治療の今」を知るよい資料となっています。
・池田裕一先生(昭和大学藤が丘病院小児科准教授)
・榎本信哉先生(えのもとクリニック院長)
・大友義之先生(順天堂大学附属練馬病院小児科先任准教授)
・河内明宏先生(滋賀医科大学泌尿器科教授)
・田村節子先生(東京成徳大学心理学研究科教授)
・西美和先生(広島赤十字・原爆病院小児科)
・服部益冶先生(兵庫医科大学小児科教授)
・吉田茂先生(医療法人葵鐘会副理事長)
「夜尿症ガイドライン2016を読んで」でも書きましたが、夜尿症治療でずっと気になっていたことがあります。
それは「デスモプレシン療法の適応」。
夜尿症専門医の講演を聴いていると、「第一選択はアラーム療法とデスモプレシン療法のどちらか」「アラーム療法とデスモプレシン療法の併用が治療成績がよい」と、対象を選ばずにデスモプレシン療法を行うような言い方が多いのです。
しかし、デスモプレシンは抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの誘導体であり、その適応は添付文書によると「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」となっています。また「重要な基本的注意」の項目に「本剤による治療を 1 週間以上続ける場合には、血漿浸透圧及び血清ナトリウム値の検査を実施すること」「本剤使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、翌朝尿浸透圧の平均値が 800mOsm/L 以下あるいは 尿比重の平均値が 1.022 以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」などと記されています。
つまり、純粋な膀胱型には適応にならないはずなんです。
なぜ、アバウトな表現でお茶を濁しているのだろう・・・?
しかし、この本を読んでその疑問が氷解しました。
日本では治療方針を決定する前に、まず病型分類(多尿型/膀胱型/混合型)ありき、ですが、欧米ではあまり気にせずに患者さんのモチベーションを考慮して決めてきた歴史があるようです。
だから、どちらの治療方針を選択するかは、病型よりも患者さんの希望が優先されそうな雰囲気があることが記されています。
な〜んだ。
でも、そんなんでいいの?
最も近年、日本の病型分類が欧米で評価されつつあるとの記載もありました。
う〜ん、いいのか悪いのか、ハッキリ書いてほしい!
と消化不良を起こすような内容です(^^;)。
今はアラーム療法が普及しつつある過度期なので、おそらく専門家の間でも混乱しているのでしょう。
それから、「抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度」と記載されていました。
私の外来に来る患者さんは、だいたい就学前後になっても毎晩夜尿がある重症例なので、正直言って薬物治療の手応えがありません。半年くらい通院して治らないのでドロップアウトし、それから1年位するとまた相談に見えて治療を再開し、やはり治らないのでドロップアウトし・・・これを繰り返しているうちにいつの間にか治る、というパターンが多い印象です。
つまり、重症例では治療介入した場合と自然経過とどれだけ違うんだろう、という素朴な疑問が、実は治療者側にもあるのです。
なので、私が期待するのはアラーム療法。
でも家族が不眠症に陥り疲弊して長続きしません(T_T)。
<参考>「おねしょ卒業!プロジェクト」(運営:フェリング・ファーマ株式会社)
<メモ> ・・・気になったところを抜粋
■ 睡眠中の尿量と膀胱容量は変わる(吉田茂Dr.)
・成長とともに昼は起きて夜は眠るというリズムができてくる3-4歳になると、抗利尿ホルモンの分泌は日中は少なく、夜眠っている間には多くなるという一定のサイクルが生まれる。
・眠っている間はリラックスしているため膀胱壁がゆるみ、オシッコをたくさんためられるようになる。たとえば4歳くらいになると昼間に比べて1.5-2倍ほど多くのオシッコをためることができるようになる。
・4歳では、昼間と比較して夜間睡眠中の尿量は50-60%へ減り、膀胱容量は1.5-2倍に増える。
■ 夜尿症の原因には3つの要素がある(西美和Dr.)
①夜間尿量(多尿)
②膀胱容量(少ない)
③覚醒障害(オシッコがあふれそうになっても目が覚めない)
・小学校低学年では、夜尿症は2:1の比率で男児に多い。
・両親のどちらかが夜尿症だった場合、40%の子どもに夜尿が、両親2人とも夜尿症だった場合は70%の子どもに夜尿症が発症したという報告がある。
■ 自然に治るのを待つ?(吉田茂Dr.)
・夜尿症の自然治癒率は年間10-15%
・小学校入学時に夜尿があれば、約1/2の確率で小学校高学年になっても夜尿が残る。
・治療を受けると治癒率が2-3倍高くなり、1年で50%、2年で70%、3年で80%以上と治癒率が向上する。
■ 他の病気が隠れているかも(大友義之Dr.、池田裕一Dr.)
・昼間にオシッコを漏らしてしまうときは泌尿器科の病気が疑われる。
・就学前後の子どもが日中ウンチを漏らすようだと消化器・脊椎系の病気を考える必要がある。
・睡眠時無呼吸症候群では夜間の尿量が増えるため夜尿の原因になることがある。
・脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症などが原因になることがある。見分けるポイントは、日中にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状があるかどうか。
■ 備えあれば憂いなし(田村節子Dr.)
・学童期におねしょパンツ? ・・・これらを利用することで夜尿が長引くという報告はない。
・寝具の工夫:敷き布団の上に介護用の防水シーツをかぶせるのが一般的、しかし防水シーツは吸収性がないのでその上にバスタオルを敷いて、さらに通常のシーツで全体を包む。防水シーツだけでなく、敷き布団の上に敷く紙製の使い捨てパッドも様々なサイズのものが販売されている。
・ウエストからももの当たりまで防水加工を施した裏布が縫い付けられている防水パジャマズボンも市販されている。夜尿量の多い子どもは、紙パンツやおねしょパンツなどの吸収力のあるものを着けてから、防水パジャマズボンを着用するなど、重ね着で対処を。
■ お泊まり行事対策(榎本信哉Dr.)
・宿泊行事直前に受診しても夜尿症対策は無理、せめて半年前に来てほしい。
・担任の先生に協力を:事前に相談して、寝る前の排尿や薬の服用をサポートしてもらう。みんなが寝静まった後で別室に寝かせ、オムツに履き替えさせてもらい、もし夜尿をしていたら朝方に処理していただくようにお願いするのもあり。
・薬の管理と生活習慣:行事には薬を持って行く(日頃夜尿アラーム療法を行っている場合は、この時だけ薬に変えてもらう)、夕方以降は水分を控え、寝る前にはトイレに行く。
・パジャマ/寝具対策:パジャマのズボンはオシッコの跡がついても目立たないよう黒や紺色など濃い色に。パンツに尿失禁用パッドを着け、さらにもう一枚パンツを重ねるなど、夜尿をしても目立たない衣服を着せ、寝具がぐっしょり濡れないように配慮すべし。
■ おねしょ布団の管理方法(城山ふとん店:宮崎県延岡市)
①お湯をかける:お風呂場でおねしょの部分にだけ、40℃くらいのぬるま湯をゆっくりかけ、これを2-3回、においが消えるまで繰り返す。熱湯はNG。オシッコの成分であるタンパク質は70℃くらいで固まってしまうため、においを取るためにはぬるま湯を使って洗い流し、その後、タオルでたたくようにして水分を取っておく。
②重曹をかける:時間があまり経っていない場合は、重曹をおねしょ布団に振りかけ、尿を吸い取る。完全に吸い取ったら重曹を払い、ビネガースプレーを吹き付けながら乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ ビネガースプレー:ホワイトビネガー(食用酢)と水を1:4で混ぜる
③クエン酸を利用:スプレーボトルに入れたクエン酸水をおねしょで汚れた布団にスプレーし、オシッコのアルカリ性を中和させた後、乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ クエン酸水:クエン酸粉末小さじ2杯と水400mlをスプレーボトルの中で溶かす
④紙おむつを利用:市販のオムツをおねしょで汚れた布団に当て、その上で足踏みをする。
⑤天日干し&丸洗い
■ まずは生活改善(西美和Dr.)
・抗利尿ホルモンは夜11時くらいの深い睡眠中に出る。
・1日の水分の取り方:体に取り込んだ水分が膀胱に到達するまでには2-3時間かかるため、夕食から練るまでの3時間は水分を取らないようにする。朝起きてから昼食までの間にコップ2杯くらい水を飲み、給食のときも水分をたっぷり摂取し、その後は夕食に駆けて飲む量を控えめにして、夕食後には飲まない、というリズムを心がける。夜の水分制限だけは必須。
・夜、どうしても飲みたいときは、コップ1杯程度に抑えるか、冷蔵庫の氷1-2個を口の中で溶かして喉を潤す。
・秋から冬に悪化するのは冷えが一因。冷えは腎臓でつくられる尿量を増すほか、膀胱の縮小(ふくらみにくくなる)にもつながる。対策として、寝る前にお風呂に入ってから出を暖める、布団をあらかじめ暖めておく、等。
■ 病型分類と治療法の関係(西美和Dr.)
・日本では従来、治療前に厳密に病型分類を行い、多尿型には抗利尿ホルモン薬、膀胱型には夜尿アラームか抗コリン薬で治療してきた。
・日本以外の世界各国では昔からこうした病型分類はせず、最初から抗利尿ホルモン薬価、夜尿アラームのどちらかを患者さんに選んでもらうという方法がとられてきた。
そして、しばらく経って効果が十分でないようなら、今度は医師の判断で抗利尿ホルモン薬を飲んでいた患者さんは夜尿アラーム療法に、夜尿アラーム療法を行っていた患者さんは抗利尿ホルモン薬に切り替えて治療を続けてきた。
・こうした歴史を持つ欧米でも、最近は明らかに尿量が多い子どもには抗利尿ホルモン薬で治療を開始した方がよいという考えも出てきているので、日本の病型分類が見直される動きがある。
■ 治療方針の変化(服部益冶Dr.)
・数年前までは、最初に家庭でのチェックや測定を基にしっかりと夜尿症の病型分類をして、膀胱容量が少ないタイプの子どもには非薬物療法、夜間尿量の多いタイプには薬物療法と、治療方法が決められていたが、最近ではどちらのタイプにどちらの治療を行っても治療成績は大きく変わらないことがわかってきた。そのため、今はかつてほど病型分類に時間を駆けることが少なくなっている。
■ 抗利尿ホルモン製剤(経口)(大友義之Dr.)
・1ヶ月時点では半数以上の子どもに効果が見られなかったが、2ヶ月目には7割以上に効果が現れた。
・有効例では一気に薬をやめるのではなく、段階的に減量した後にやめることで中止後の再発リスクが低くなる。具体的には、服用して2-3ヶ月間夜尿がなくなったら、毎日の服用を2日に1回に減らし、それでさらに2ヶ月以上継続して夜尿がなければ晴れて卒業となる。
・2ヶ月目でも効果が乏しい場合には薬剤を増量し、それでも効果が不十分な場合は、ほかの薬剤もしくは夜尿アラーム療法と併用することになる。
・抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度。
・服用の仕方:舌の下に置くと、ふわっと溶けて口の粘膜からも吸収させるようになっているので、ゴクンと飲み込んでしまうと体内への吸収率が低下してしまう。夜、歯を磨いた後にこの薬を口に入れ、水を使わずに口の中で溶かすようにして飲むのがポイント。服用後はうがいも避けるべし。
■ 夜尿アラーム療法(河内明宏Dr.)
・夜尿アラームにより夜尿症が治っていくプロセス;
①アラームが鳴る→ (子どもが気づかない場合は声をかける)→
②中枢神経が「起きる」と「ガマンする」の2方向に働く→
③子どもは眠りが深いため、ガマンする方向が優位になる。
この①②③を繰り返すうちに、だんだん寝ていても朝まで膀胱にオシッコをためておけるようになる、というわけ。
・治療開始後、1-2ヶ月で膀胱容量は約1.5倍に増加する。治癒率は65-70%で、中止後の再発率は10-20%。
・治療対象は、昼間におもらし症状のない8歳以上の患者で、これを2-3ヶ月続けるうちに膀胱にためられる尿量が増え、夜尿が治る場合が少なくない。
・もともと日本では、睡眠を妨げるのは夜尿症の治療に逆効果という考えから、夜尿アラームはなかなか普及しなかったが、欧米では1960年代から使われてきたポピュラーな方法。
・オシッコが出てアラームがそれを知らせても子どもが気づかない場合は、ご家族が声をかけてあげてください。一晩のうちに何度も夜尿をする場合、そのたびにご家族が起きるのは大変なので、1回だけアラームを使うのでかまいません。
■ 中高生の夜尿(池田Dr.)
・中学生の3-5%、高校生の1-3%に、月に数回以上夜尿がある。
・学童期の夜尿が男子に多いのに対して、青年期・成人期の夜尿症患者は女子にも多い。
・20歳を過ぎても夜尿が治りきらない場合を「成人型夜尿症」といい、100-200人に一人存在する。
・二次性夜尿は1割以下。
・夜尿がクセのようになっている子どもにとっては、実は夜尿って気持ちのいいことでもある。
・日常生活の注意点:尿意を感じたら必ずトイレへ行く、排尿後に気づいた場合はパンツやオムツを自分で取り替える、濡れてしまったパンツやシーツはなるべく自分で洗濯する。
■ 専門医の診療が必要な場合(榎本Dr.)
・昼間のおもらしや頻尿、尿意切迫感など「過活動性膀胱」症状がある場合→ 専門医のもとで抗コリン薬 ・・・副作用(便秘と残尿)が出ると夜尿を悪化させる一因になり得る。
・抗利尿ホルモン薬、夜尿アラーム、抗コリン薬で効果不十分例→ 専門医のもとで三環系抗うつ薬 ・・・心臓や肝臓への副作用が出やすい。
■ オシッコは汚くない?(池田Dr.)
・そもそも子どもにはウンチもオシッコも自分の体から出てくるものなので、キタナイものだという感覚がない。それをキタナイと思うのは社会的な価値観である。つまり、子どもは「夜尿は恥ずかしいことだよ」「トイレでしなきゃ馬鹿にされるよ」と周囲の大人たちからすり込まれて初めて、これは恥ずかしいことなんだという感覚になる。
■ 治療の5原則(服部益冶先生)
「怒らない」「起こさない」「焦らない」「ほめる」「比べない」
・夜尿症から卒業する子は、みんな治療に自主的に取り組む子。
・夜尿症の治療は3歩進んで2歩下がるの繰り返し。
夜尿症関連本の紹介です。
著者はライターで、以下の夜尿症専門医を取材してまとめた内容です。
近年発行される夜尿症関連の本が少ない中、「夜尿症治療の今」を知るよい資料となっています。
・池田裕一先生(昭和大学藤が丘病院小児科准教授)
・榎本信哉先生(えのもとクリニック院長)
・大友義之先生(順天堂大学附属練馬病院小児科先任准教授)
・河内明宏先生(滋賀医科大学泌尿器科教授)
・田村節子先生(東京成徳大学心理学研究科教授)
・西美和先生(広島赤十字・原爆病院小児科)
・服部益冶先生(兵庫医科大学小児科教授)
・吉田茂先生(医療法人葵鐘会副理事長)
「夜尿症ガイドライン2016を読んで」でも書きましたが、夜尿症治療でずっと気になっていたことがあります。
それは「デスモプレシン療法の適応」。
夜尿症専門医の講演を聴いていると、「第一選択はアラーム療法とデスモプレシン療法のどちらか」「アラーム療法とデスモプレシン療法の併用が治療成績がよい」と、対象を選ばずにデスモプレシン療法を行うような言い方が多いのです。
しかし、デスモプレシンは抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの誘導体であり、その適応は添付文書によると「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」となっています。また「重要な基本的注意」の項目に「本剤による治療を 1 週間以上続ける場合には、血漿浸透圧及び血清ナトリウム値の検査を実施すること」「本剤使用前に観察期を設け、起床時尿を採取し、翌朝尿浸透圧の平均値が 800mOsm/L 以下あるいは 尿比重の平均値が 1.022 以下を目安とし、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認すること」などと記されています。
つまり、純粋な膀胱型には適応にならないはずなんです。
なぜ、アバウトな表現でお茶を濁しているのだろう・・・?
しかし、この本を読んでその疑問が氷解しました。
日本では治療方針を決定する前に、まず病型分類(多尿型/膀胱型/混合型)ありき、ですが、欧米ではあまり気にせずに患者さんのモチベーションを考慮して決めてきた歴史があるようです。
だから、どちらの治療方針を選択するかは、病型よりも患者さんの希望が優先されそうな雰囲気があることが記されています。
な〜んだ。
でも、そんなんでいいの?
最も近年、日本の病型分類が欧米で評価されつつあるとの記載もありました。
う〜ん、いいのか悪いのか、ハッキリ書いてほしい!
と消化不良を起こすような内容です(^^;)。
今はアラーム療法が普及しつつある過度期なので、おそらく専門家の間でも混乱しているのでしょう。
それから、「抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度」と記載されていました。
私の外来に来る患者さんは、だいたい就学前後になっても毎晩夜尿がある重症例なので、正直言って薬物治療の手応えがありません。半年くらい通院して治らないのでドロップアウトし、それから1年位するとまた相談に見えて治療を再開し、やはり治らないのでドロップアウトし・・・これを繰り返しているうちにいつの間にか治る、というパターンが多い印象です。
つまり、重症例では治療介入した場合と自然経過とどれだけ違うんだろう、という素朴な疑問が、実は治療者側にもあるのです。
なので、私が期待するのはアラーム療法。
でも家族が不眠症に陥り疲弊して長続きしません(T_T)。
<参考>「おねしょ卒業!プロジェクト」(運営:フェリング・ファーマ株式会社)
<メモ> ・・・気になったところを抜粋
■ 睡眠中の尿量と膀胱容量は変わる(吉田茂Dr.)
・成長とともに昼は起きて夜は眠るというリズムができてくる3-4歳になると、抗利尿ホルモンの分泌は日中は少なく、夜眠っている間には多くなるという一定のサイクルが生まれる。
・眠っている間はリラックスしているため膀胱壁がゆるみ、オシッコをたくさんためられるようになる。たとえば4歳くらいになると昼間に比べて1.5-2倍ほど多くのオシッコをためることができるようになる。
・4歳では、昼間と比較して夜間睡眠中の尿量は50-60%へ減り、膀胱容量は1.5-2倍に増える。
■ 夜尿症の原因には3つの要素がある(西美和Dr.)
①夜間尿量(多尿)
②膀胱容量(少ない)
③覚醒障害(オシッコがあふれそうになっても目が覚めない)
・小学校低学年では、夜尿症は2:1の比率で男児に多い。
・両親のどちらかが夜尿症だった場合、40%の子どもに夜尿が、両親2人とも夜尿症だった場合は70%の子どもに夜尿症が発症したという報告がある。
■ 自然に治るのを待つ?(吉田茂Dr.)
・夜尿症の自然治癒率は年間10-15%
・小学校入学時に夜尿があれば、約1/2の確率で小学校高学年になっても夜尿が残る。
・治療を受けると治癒率が2-3倍高くなり、1年で50%、2年で70%、3年で80%以上と治癒率が向上する。
■ 他の病気が隠れているかも(大友義之Dr.、池田裕一Dr.)
・昼間にオシッコを漏らしてしまうときは泌尿器科の病気が疑われる。
・就学前後の子どもが日中ウンチを漏らすようだと消化器・脊椎系の病気を考える必要がある。
・睡眠時無呼吸症候群では夜間の尿量が増えるため夜尿の原因になることがある。
・脳血管障害、脳腫瘍、多発性硬化症などが原因になることがある。見分けるポイントは、日中にも頻尿や尿失禁、排尿困難感などの症状があるかどうか。
■ 備えあれば憂いなし(田村節子Dr.)
・学童期におねしょパンツ? ・・・これらを利用することで夜尿が長引くという報告はない。
・寝具の工夫:敷き布団の上に介護用の防水シーツをかぶせるのが一般的、しかし防水シーツは吸収性がないのでその上にバスタオルを敷いて、さらに通常のシーツで全体を包む。防水シーツだけでなく、敷き布団の上に敷く紙製の使い捨てパッドも様々なサイズのものが販売されている。
・ウエストからももの当たりまで防水加工を施した裏布が縫い付けられている防水パジャマズボンも市販されている。夜尿量の多い子どもは、紙パンツやおねしょパンツなどの吸収力のあるものを着けてから、防水パジャマズボンを着用するなど、重ね着で対処を。
■ お泊まり行事対策(榎本信哉Dr.)
・宿泊行事直前に受診しても夜尿症対策は無理、せめて半年前に来てほしい。
・担任の先生に協力を:事前に相談して、寝る前の排尿や薬の服用をサポートしてもらう。みんなが寝静まった後で別室に寝かせ、オムツに履き替えさせてもらい、もし夜尿をしていたら朝方に処理していただくようにお願いするのもあり。
・薬の管理と生活習慣:行事には薬を持って行く(日頃夜尿アラーム療法を行っている場合は、この時だけ薬に変えてもらう)、夕方以降は水分を控え、寝る前にはトイレに行く。
・パジャマ/寝具対策:パジャマのズボンはオシッコの跡がついても目立たないよう黒や紺色など濃い色に。パンツに尿失禁用パッドを着け、さらにもう一枚パンツを重ねるなど、夜尿をしても目立たない衣服を着せ、寝具がぐっしょり濡れないように配慮すべし。
■ おねしょ布団の管理方法(城山ふとん店:宮崎県延岡市)
①お湯をかける:お風呂場でおねしょの部分にだけ、40℃くらいのぬるま湯をゆっくりかけ、これを2-3回、においが消えるまで繰り返す。熱湯はNG。オシッコの成分であるタンパク質は70℃くらいで固まってしまうため、においを取るためにはぬるま湯を使って洗い流し、その後、タオルでたたくようにして水分を取っておく。
②重曹をかける:時間があまり経っていない場合は、重曹をおねしょ布団に振りかけ、尿を吸い取る。完全に吸い取ったら重曹を払い、ビネガースプレーを吹き付けながら乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ ビネガースプレー:ホワイトビネガー(食用酢)と水を1:4で混ぜる
③クエン酸を利用:スプレーボトルに入れたクエン酸水をおねしょで汚れた布団にスプレーし、オシッコのアルカリ性を中和させた後、乾いたタオルでたたくようにして水分を取る。
※ クエン酸水:クエン酸粉末小さじ2杯と水400mlをスプレーボトルの中で溶かす
④紙おむつを利用:市販のオムツをおねしょで汚れた布団に当て、その上で足踏みをする。
⑤天日干し&丸洗い
■ まずは生活改善(西美和Dr.)
・抗利尿ホルモンは夜11時くらいの深い睡眠中に出る。
・1日の水分の取り方:体に取り込んだ水分が膀胱に到達するまでには2-3時間かかるため、夕食から練るまでの3時間は水分を取らないようにする。朝起きてから昼食までの間にコップ2杯くらい水を飲み、給食のときも水分をたっぷり摂取し、その後は夕食に駆けて飲む量を控えめにして、夕食後には飲まない、というリズムを心がける。夜の水分制限だけは必須。
・夜、どうしても飲みたいときは、コップ1杯程度に抑えるか、冷蔵庫の氷1-2個を口の中で溶かして喉を潤す。
・秋から冬に悪化するのは冷えが一因。冷えは腎臓でつくられる尿量を増すほか、膀胱の縮小(ふくらみにくくなる)にもつながる。対策として、寝る前にお風呂に入ってから出を暖める、布団をあらかじめ暖めておく、等。
■ 病型分類と治療法の関係(西美和Dr.)
・日本では従来、治療前に厳密に病型分類を行い、多尿型には抗利尿ホルモン薬、膀胱型には夜尿アラームか抗コリン薬で治療してきた。
・日本以外の世界各国では昔からこうした病型分類はせず、最初から抗利尿ホルモン薬価、夜尿アラームのどちらかを患者さんに選んでもらうという方法がとられてきた。
そして、しばらく経って効果が十分でないようなら、今度は医師の判断で抗利尿ホルモン薬を飲んでいた患者さんは夜尿アラーム療法に、夜尿アラーム療法を行っていた患者さんは抗利尿ホルモン薬に切り替えて治療を続けてきた。
・こうした歴史を持つ欧米でも、最近は明らかに尿量が多い子どもには抗利尿ホルモン薬で治療を開始した方がよいという考えも出てきているので、日本の病型分類が見直される動きがある。
■ 治療方針の変化(服部益冶Dr.)
・数年前までは、最初に家庭でのチェックや測定を基にしっかりと夜尿症の病型分類をして、膀胱容量が少ないタイプの子どもには非薬物療法、夜間尿量の多いタイプには薬物療法と、治療方法が決められていたが、最近ではどちらのタイプにどちらの治療を行っても治療成績は大きく変わらないことがわかってきた。そのため、今はかつてほど病型分類に時間を駆けることが少なくなっている。
■ 抗利尿ホルモン製剤(経口)(大友義之Dr.)
・1ヶ月時点では半数以上の子どもに効果が見られなかったが、2ヶ月目には7割以上に効果が現れた。
・有効例では一気に薬をやめるのではなく、段階的に減量した後にやめることで中止後の再発リスクが低くなる。具体的には、服用して2-3ヶ月間夜尿がなくなったら、毎日の服用を2日に1回に減らし、それでさらに2ヶ月以上継続して夜尿がなければ晴れて卒業となる。
・2ヶ月目でも効果が乏しい場合には薬剤を増量し、それでも効果が不十分な場合は、ほかの薬剤もしくは夜尿アラーム療法と併用することになる。
・抗利尿ホルモン製剤による治療で治癒までにかかる期間は、軽症なら3-6ヶ月、重症なら数年程度。
・服用の仕方:舌の下に置くと、ふわっと溶けて口の粘膜からも吸収させるようになっているので、ゴクンと飲み込んでしまうと体内への吸収率が低下してしまう。夜、歯を磨いた後にこの薬を口に入れ、水を使わずに口の中で溶かすようにして飲むのがポイント。服用後はうがいも避けるべし。
■ 夜尿アラーム療法(河内明宏Dr.)
・夜尿アラームにより夜尿症が治っていくプロセス;
①アラームが鳴る→ (子どもが気づかない場合は声をかける)→
②中枢神経が「起きる」と「ガマンする」の2方向に働く→
③子どもは眠りが深いため、ガマンする方向が優位になる。
この①②③を繰り返すうちに、だんだん寝ていても朝まで膀胱にオシッコをためておけるようになる、というわけ。
・治療開始後、1-2ヶ月で膀胱容量は約1.5倍に増加する。治癒率は65-70%で、中止後の再発率は10-20%。
・治療対象は、昼間におもらし症状のない8歳以上の患者で、これを2-3ヶ月続けるうちに膀胱にためられる尿量が増え、夜尿が治る場合が少なくない。
・もともと日本では、睡眠を妨げるのは夜尿症の治療に逆効果という考えから、夜尿アラームはなかなか普及しなかったが、欧米では1960年代から使われてきたポピュラーな方法。
・オシッコが出てアラームがそれを知らせても子どもが気づかない場合は、ご家族が声をかけてあげてください。一晩のうちに何度も夜尿をする場合、そのたびにご家族が起きるのは大変なので、1回だけアラームを使うのでかまいません。
■ 中高生の夜尿(池田Dr.)
・中学生の3-5%、高校生の1-3%に、月に数回以上夜尿がある。
・学童期の夜尿が男子に多いのに対して、青年期・成人期の夜尿症患者は女子にも多い。
・20歳を過ぎても夜尿が治りきらない場合を「成人型夜尿症」といい、100-200人に一人存在する。
・二次性夜尿は1割以下。
・夜尿がクセのようになっている子どもにとっては、実は夜尿って気持ちのいいことでもある。
・日常生活の注意点:尿意を感じたら必ずトイレへ行く、排尿後に気づいた場合はパンツやオムツを自分で取り替える、濡れてしまったパンツやシーツはなるべく自分で洗濯する。
■ 専門医の診療が必要な場合(榎本Dr.)
・昼間のおもらしや頻尿、尿意切迫感など「過活動性膀胱」症状がある場合→ 専門医のもとで抗コリン薬 ・・・副作用(便秘と残尿)が出ると夜尿を悪化させる一因になり得る。
・抗利尿ホルモン薬、夜尿アラーム、抗コリン薬で効果不十分例→ 専門医のもとで三環系抗うつ薬 ・・・心臓や肝臓への副作用が出やすい。
■ オシッコは汚くない?(池田Dr.)
・そもそも子どもにはウンチもオシッコも自分の体から出てくるものなので、キタナイものだという感覚がない。それをキタナイと思うのは社会的な価値観である。つまり、子どもは「夜尿は恥ずかしいことだよ」「トイレでしなきゃ馬鹿にされるよ」と周囲の大人たちからすり込まれて初めて、これは恥ずかしいことなんだという感覚になる。
■ 治療の5原則(服部益冶先生)
「怒らない」「起こさない」「焦らない」「ほめる」「比べない」
・夜尿症から卒業する子は、みんな治療に自主的に取り組む子。
・夜尿症の治療は3歩進んで2歩下がるの繰り返し。