小児アレルギー科医の視線

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「夜尿症診療ガイドライン2016」を読んで

2016年07月12日 07時57分38秒 | 小児医療
夜尿症診療ガイドライン2016
編集:日本夜尿症学会
発行:診断と治療社、2016年

夜尿症は小児医療の中で管理が難しい疾患の一つです。
従来の教科書通りの治療を行っても、なかなか手応えがありません。
「治療抵抗例は専門医に紹介」と書いてありますが、群馬県に小児夜尿症専門医は存在しません。

夜尿症は3つの型に分類されてきました。
1.多尿型:尿が多いため朝まで持たずに膀胱から溢れてしまう
2.膀胱型:膀胱が少ししか尿を溜められないため溢れてしまう
3.混合型:多尿型/膀胱型の両方の特徴を満たす

多尿型には抗利尿ホルモン製剤であるデスモプレシン(ミニリンメルト®)が有効ですが、膀胱型は難治です。
膀胱容量を急に大きくするのは無理ですから。

そこで登場したのが「アラーム療法」。
パンツにセンサーをつけ、尿で濡れるとアラームが鳴り(振動が発生する機械もあります)、本人が目覚めるというモノ。これを繰り返すと膀胱に溜められる量が多くなり夜尿症が消えるというのです。

しかし日本で指導されてきた「夜起こさない」方針とは真逆の治療であり、欧米では主流になっているのに関わらず日本への導入は遅れました。
ようやく近年、夜尿症の講演会で「アラーム療法が第一選択」と言われるようになりました。
下記HPは数年前に私なりに整理すべくまとめたものです:

夜尿症

アラーム療法は、器械を患者さんが個人で購入して行うことになります。
ですので、そのノウハウの蓄積が今ひとつ見えてきません。
私も患者さんに勧めて数名トライしていただきましたが、うまく行かずドロップアウト。
本人が起きないので他の家族が目覚めてしまい、みんな寝不足で家庭崩壊しそうになった、とか。

噂では医療機関に行かずにアラーム療法を行い、個人の努力で夜尿症を克服している人も少なからずいるらしい。

そんな折に発表されたガイドライン。
日本夜尿症学会は2004年に診療ガイドラインを作成しており、それを改訂する形で発行された最新情報です。
早速購入して読んでみました。

う〜ん、目から鱗が落ちるという記載は見当たりません。
現在の治療方針をまとめてエビデンスの評価を加えた印象。
私の知りたかった「アラーム療法の具体的なノウハウ」も不十分かなあ・・・残念。

もう一つ、以前から気になっていた事があります。
それは「膀胱型に対するデスモプレシン療法の可否」。
デスモプレシン(ミニリンメルト®)の適応は添付文書によると「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」となっています。
ですから、尿浸透圧/尿比重が正常の患者さんには適応にならず、使用してはいけないはず。
しかし、本ガイドラインにはその辺がハッキリ書かれておらず「夜間多尿型に有効」くらいの表現にとどまっています。治療アルゴリズムによるとアラーム療法抵抗例には「併用」とあっけなく書かれています。
これでいいのかなあ?

<メモ> ・・・目についた箇所を抜粋

■ 年齢と夜尿症
・5歳時に約20%
・5-6歳で約20%
・小学校入学時に10%超
・7歳時に約10%
・小学校低学年で約10%台
・10歳を超えた時点で約5%
・小中学生で約6.4%
・中学校時代には1-3%
・高校入学の段階で約3%

■ 自然治癒
・経年齢的な自然治癒率は毎年約15-17%
・5歳以降、年間10〜15%が自然軽快していく
・治癒のピークは、女性が10-11歳、男性は12-14歳
・毎晩夜尿がある小児では成人まで移行するリスクが高い

■ 治療介入による効果
・治療介入により、自然経過に比べて治癒率を2-3倍高めることができ、治癒までの期間も短縮する。
1年後の治癒率は未介入の場合が10-15%に対し、治療介入例は約50%が治癒する。
治療によりNEからの解放が2年以上短縮できる。

■ 一次性と二次性夜尿症
・一次性:75-90%
・二次性:10-25% ・・・生活上のストレス、精神疾患の併存率が高い。その他、下部尿路感染症、外傷・脂肪腫・脊髄係留症候群などによる神経因性膀胱、糖尿病、尿崩症、尿道狭窄、甲上腺機能亢進症などを考慮する

■ 尿比重
・早朝尿の比重は1.010以下は異常

■ 超音波検査
・夜尿症患者に解剖学的尿路異常を認める割合は1.1-14.5%
・ルーチンのUSは必要ない。治療抵抗性の時のみ行うべきである。

■ 行動療法〜水分摂取制限
・1日水分摂取量の40%を午前中、40%を午後、20%を夜に分配する。

■ 膀胱訓練
・できるだけ排尿を我慢し、徐々に排尿までの間隔を延長する方法
・膀胱訓練は膀胱容量を増大させるが、夜尿症に対する治療効果についての臨床的意義は確立していないが、否定されるものでもない。

■ 積極治療
①アラーム療法
②デスモプレシン治療
が第一選択である。アラーム療法は治療に積極的な家族で治療内容を理解した家族に適しており、デスモプレシン治療はアラーム療法に消極的な家族、最近アラーム療法を適切に行ったにもかかわらず効果が得られなかった家族で選択する。
 ICCS(国際小児尿禁制学会)では、MNE(単一症候性夜尿症)に対して、膀胱容量が正常でかつ夜間多尿の症例ではデスモプレシン療法を推奨し、それ以外の症例ではアラーム療法を推奨している。

■ アラーム療法
・就眠中の排尿を気づかせ、覚醒してトイレに行くか、我慢できるようにすることで、夜尿をしないようにする治療する方法。
・作用機序については不明な点が残されており、なぜ夜尿が治るのか未だ完全には解明されていないが、覚醒反応を促すこと、睡眠中の蓄尿量が増大して治ることが報告されている。
・保険診療として認められておらず、アラームは患者家族が実費で購入することになる。医療側も管理指導料などの診療報酬は認められていない。
・有効率:約2/3
・治癒率:62-78%、中止後の再発率は15%であり、他の治療と比較して治癒率が高い(2009年のコクランレビュー)
・日本の報告では、有効率:40-87%、再発率:0-11%
・夜間多尿の患者より、覚醒困難の患者の方がより有効
・治療により夜間の膀胱の蓄尿量が増える
・有効症例においては、睡眠中の膀胱容量が1-2ヶ月で約1.5倍と急速に増加するため、多くの場合、尿意覚醒をせずに朝までもつようになり夜尿が消失する。一方で反応に時間がかかる例もある。
・夜尿するたびにアラームをリセットすることを推奨しているが、一晩に複数回夜尿がある重症例では、最初の1回のみアラームを使用するようにして、まず一晩に1回の夜尿回数になることを目標にすることが望ましい。
・アラームや家人の呼びかけに全く覚醒しない場合もあるが、完全に目覚めさせることが成功率を上げるというエビデンスはないため、起こすときに完全に目を覚まさせることが不可能なら必ずしもしなくてもよい。
・最低14日間連続で夜尿が消失するまでアラーム療法は続ける。これには5-24(おおむね12-16週間)要する。
・アラーム療法を3ヶ月行い、全く効果が見られないならば別の治療を考慮する。
・7-12ヶ月と長期に使用した結果、1年以内に87%が治癒したという報告がある。
・再発のリスクを減らすためにはオーバーラーニングがよいとされている。これは夜尿が消失した時点で、睡眠1時間前に飲水量を増やしてアラーム療法を続行するというもので、これを1ヶ月行って再発芽ないことを確認してアラーム療法を終了する。
・アラームが鳴ったら患者を起こす作業には家族の協力が必須であるので、十分な治療意欲のある患者とその家族に勧めることが望ましい。
・約30%の患者がドロップアウトする。理由は、装着の違和感、他の家族の反対、覚醒できない等。
・治療脱落防止には開始後2-3週目の電話確認が効果的である。
・アラーム療法に用いる機器の種別によって効果に差異があると結論づける十分な証拠はない。
・有害事象:アラームの作動不良、誤作動、音に怖がる、他の家族を起こしてしまう等。
・再発はデスモプレシン治療に比べると1/10と少ないが、再発時には早めにアラーム療法を再開すべきであるという報告がある。

■ デスモプレシン治療
・デスモプレシン酢酸塩は抗利尿ホルモンであるバゾプレシンの誘導体で、中枢性尿崩症の治療薬とした開発され、1978年に夜尿症に対して効果があることが報告された。
・日本では2003年に点鼻薬が、2012年に経口薬が保険適用となった。
・適応は6歳以上
・口腔内崩壊錠は就寝前30〜60分に服用する。初期量は120μgで開始し、10-14日後に必要であれば最大量である240μgに増量する。
・患者が宿泊行事でデスモプレシンの使用を予定している場合は「事前の試用」が推奨される。すなわち用量調節と、薬が有効だという確証を得るために、行事の少なくとも6週間前からの試用が推奨される。
・効果が不十分の時は、以下のことを再確認する
「正しく服薬遵守ができているか」
「寝る前に排尿をしているか」
「内服後に過剰な飲水をしていないか」
「尿崩症の可能性はないか」
・副作用の水中毒(希釈性低ナトリウム血症)予防のために、服用1時間前から8時間後までの飲水量を240mL以内に制限する。水分を多量に摂取したときはデスモプレシンを使用しないよう説明しておく。
・NEに対してデスモプレシンを使用する場合には、体重、血清電解質、血圧、尿浸透圧をルーチンに測定する必要はない。
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