小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

小児夜尿症における抗利尿ホルモン製剤(ミニリンメルト®)の適応についての疑問

2018年05月04日 15時44分26秒 | 小児医療
 小児科医生活30年を越えた私にとって、小児夜尿症は治療の手応えのない病気の代表です。
 まず、夜尿症には下記のごとく3つのタイプが存在し、それぞれ対応が異なります。従来行われてきた治療も併記しました;

1.多尿型:薄いオシッコがたくさん出る → (治療薬)抗利尿ホルモン薬
2.膀胱型:膀胱が少ししかオシッコをためられない → (治療薬)抗コリン薬
3.混合型:多尿型と膀胱型の両方の要素がある → (治療薬)上記を合わせたもの

 小学校入学前後の子どもが相談によくみえますが、タイプ別では膀胱型(膀胱が小さくて尿をためられないため朝までに溢れてしまう)が多く、このタイプには薬も効きにくいのです。急に膀胱が大きくなるなんて不可能ですからね。
 通院していてもなかなかよくならないため、いつの間にか通院が途絶え、しかし数年後に困ってまた受診され、また通院が途絶え・・・を繰り返している間に成長とともに治る、という経過をたどりがちです。
 
 多尿型は薄いオシッコであることを検査で確認後、適応と判断されれば抗利尿ホルモン薬を使用すると有効率は高いです。
 しかし近年、専門家の講演会を聞いていると、必ずしも“薄いオシッコ”と言わないことが気になっています。
 フローチャートで「この治療が効かなかったら次はこれ」の流れの中にオシッコの濃い薄いを問わずに組み込まれているのです。
 この疑問に答えてくれる書籍がなかなか見つかりませんでしたが、先日下記啓蒙書に出会いました;

□ 「夜尿症のみかた」(金子一成著)南山堂、2018年。



 早速、治療の抗利尿ホルモン薬の項目を読んでみました。
 すると、以下のようにはっきりと書かれていました;

 夜尿症に対して酢酸デスモプレシン製剤(ミニリンメルト®)は、海外においては尿の濃縮力を考慮されずに使用されているが、わが国における保険適用は「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」とされている。
 したがって、尿浸透圧あるいは尿比重が低下していることを確認するために、酢酸デスモプレシン製剤投与前に観察期間を設けて、起床時第一尿を用いて尿浸透圧あるいは尿比重を3回測定して平均値を算出する。その平均値が800mOsm/L以下あるいは1.022以下であれば、「尿浸透圧あるいは尿比重の低下に伴う夜尿症」であり、酢酸デスモプレシン製剤の適応となる。
 酢酸デスモプレシン製剤の夜尿症に対する効果は約7割の患者で認められる。


 ・・・スッキリしました。私のこだわりは間違っていないことがわかりました。

 さて、治りにくい膀胱型への対処法として、現在はアラーム療法がお勧めです。
 今まで使われてきた抗コリン薬は有効率が数割にとどまりますが、アラーム療法の有効率は7割と高い。
 しかも多尿型・膀胱型のタイプを選ばないのです。

 しかし、ちょっと待てよ・・・日本では従来、「夜尿症の子どもを夜間起こしてトイレに行かせるのはよくない」と指導してきたはず。アラーム療法って、それをやっていることになるけど、いいの?
 という疑問が湧いてきます。

 紹介した本には、「夜尿アラーム療法の作用機序は明確になっていないが」と断り書きの上で以下のように説明されています;

 夜尿症患者の未熟な排尿反射抑制神経回路を、膀胱が充満したときに覚醒させることで強化する、ある種の条件づけ療法と考えられる。
 すなわち夜尿のない子どもでは、膀胱が尿で充満すると膀胱の伸展刺激が脊髄を経て橋の排尿中枢(青斑核)を介して大脳に伝わり、高位蓄尿中枢が睡眠中の排尿を抑制するシグナルを発し、膀胱の収縮波抑制される(夜尿は起こらない)。夜尿アラーム療法はこの神経反射回路を強化するものと思われる。
 実際、夜尿アラーム療法で治癒した患者においては睡眠中の膀胱容量(蓄尿量)の増加がみられる。


 なんだかわかったようなわからないような説明ですねえ。
 「高位蓄尿中枢」っておそらく大脳皮質にあると思われますが、睡眠中にも働いているんだ・・・それを強化する治療?

 他の本ではこんな風に書いてありましたが、こちらの方がわかりやすいかな;

 尿が出たことをアラームで本人に知らせると、本人は「起きてトイレへ行くか」「トイレに行かないで我慢するか」の二択を迫られる。それを繰り返しているうちに「トイレへ行かないで我慢する」方向へ進み、徐々に膀胱にためられる量が増えて夜尿が治癒する。
 これは、親が寝ている本人を起こして寝ぼけ眼でトイレへ連れて行かれて排尿するのとは、脳に対する刺激が大きく異なる。



<まとめ>
 ようやく、小児夜尿症に対する有効な治療法が以下のように整理される時代になりました;
・多尿型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤:ミニリンメルト®)で70%に有効、再発率40%
・膀胱型 → アラーム療法で有効率70%、再発率15%
・混合型 → 抗利尿ホルモン(酢酸デスモプレシン製剤)+アラーム療法
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子どもの片頭痛にトリプタン製剤は使えるのか?

2018年05月03日 11時50分24秒 | 小児医療
 子どもの片頭痛は悩ましい病気です。
 なぜって、診断できても使用できる薬が限定されているからです。

 えっ、片頭痛の薬ってたくさん発売されてるはずでは?

 という感想を持つ方もたくさんいると思われます。
 しかし、片頭痛の治療薬として有名なトリプタン製剤は、大人には使えても子どもには使えません。
 その理由は、日本では「保険適応がない」からです。
 保険診療で認められているのは、かぜでよく処方されるアセトアミノフェンとイブプロフェンしかありません。
 それらを使っても効きが悪い、何とかして・・・という患者さんにどうしたらよいのでしょうか?
 私はそのような患者さんには漢方薬を勧めてきました。

 さて、最近発売された小児の頭痛関連本を購入して読んでみました。

□ 「小児・思春期の頭痛の診かた〜これならできる!頭痛専門小児科医のアプローチ〜」(藤田光江監修/荒木清・桑原健太郎著、南山堂、2018年)



 もちろん、一番の興味は「薬物治療」の項目。
 そこには「日本では認可されていないけど外国では認可されている、あるいは臨床治験データで安全性が確認されている薬剤は、アセトアミノフェン/イブプロフェンが無効の場合は使用可」と記載されています。
 これが現時点での小児頭痛専門家のスタンスのようですね。
 「日本では認可されていないけど外国では認可されている」というギャップを早くなくして欲しいものです。
 しかし日本の医療行政は慎重で石橋を叩いて渡る傾向があるため、ワクチンでも外国との“ワクチンギャップ”が埋められなくて問題視されてきた経緯もあります(HPVワクチンは逆に“お手つき”して社会問題化しましたが)。

 この本を読んだ結論です;
小児片頭痛患者に対してはアセトアミノフェンあるいはイブプロフェンを第一選択薬とし、無効の場合は「マクサルト®RPD錠を、体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠使用可能(25kg以上40kg未満では1/2錠)


<備忘録>

□ 片頭痛のメカニズム
 硬膜血管周囲の三叉神経の軸索に何らかの刺激が加わり、CGRP(calcitonin gene-related peptide)やサブスタンスP(SP)などの神経ペプチドが放出され、血管が拡張し、血漿タンパクの漏出および肥満細胞からのヒスタミンの遊離などにより神経原性炎症が生じることで発症する。三叉神経終末の刺激が順行性に伝えられると三叉神経核に至り、さらに視床を経由し大脳に至り、痛みとして自覚される。

□ 小児の片頭痛に対する第一選択薬はイブプロフェンとアセトアミノフェンである(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)。
 
□ アセトアミノフェン
 10〜15mg/kg/回を4〜6時間空けて使用する。1回最大投与量は500mgで、1日1500mg以内にとどめる。
 2013年には静注製剤が承認された。
 1日1500mgを超える投与量を長期使用する場合は定期的に肝機能検査を行う。
 アセトアミノフェンの作用機序:代謝物であるAM404が中脳、延髄、脊髄後角のカプサイシン(TRPV1)受容体やカンナビノイド(CB1)受容体を活性化して鎮痛効果を発揮している。

□ NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)
 NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)に阻害的に結合し、プロスタグランディンなどの合成を抑制し、疼痛閾値を上昇させることで鎮痛作用を発揮する。化学構造の違いにより多くの種類に分類される;
・サリチル酸系:アスピリン
・アントラニル酸系:メフェナム酸
・アリール酸系:ジクロフェナク、インドメタシン
・プロピオン酸系:イブプロフェン、ロキソプロフェン、ナプロキセン
 しかし、小児に対するNSAIDsの使用は限定的にすべきである。アスピリン、ジクロフェナク、メフェナム酸は、インフルエンザ流行期において急性脳症発症のリスクを高めると指摘されており、添付文書上においても15歳未満には原則使用不可と記載されている。

□ イブプロフェン
 イブプロフェンは小児に最も使用されている安全性の高いNSAIDsであり、アセトアミノフェン同様に国際的にも小児への使用が推奨されている薬剤である。
 5〜10mg/kg/回を6〜8時間空けて使用する。1日40mg/kg以内にとどめる。最も多い副作用は肝障害であり、長期に使用する場合には肝機能検査が必要である。

□ トリプタン製剤
 作用機序:頭蓋内血管平滑筋に存在する5HT-IB受容体を介し、血管収縮作用を示す。また三叉神経終末に存在する5HT-ID受容体を介して神経ペプチド放出を抑制する。これらの相乗効果により、神経原性炎症を抑制し、頭痛発作改善に効果を示す。
 トリプタンは小児の場合、成人ほどの効果を実感できないことをしばしば経験する。これは小児片頭痛の持続時間が成人より短いためなのか、受容体感受性が小児ゆえ未熟なのか、不明である。
 現時点では小児の片頭痛に対してトリプタンは第一選択薬とはならず、アセトアミノフェンやイブプロフェンが無効な、日常生活への支障度が高い頭痛に対し、小学校高学年以上の体格であれば使用を検討してもよい。
 米国FDAが認可した小児片頭痛に有効なトリプタンは以下の通り;
・アルモトリプタン
・リザトリプタンOD錠
・ゾルミトリプタン点鼻
・スマトリプタン・ナプロキセン複合錠
 上記のうち日本で使用可能なものはスマトリプタン点鼻イミグラン®点鼻液)とリザトリプタン内服マクサルト®RPD錠)であるが、トリプタン製剤は日本ではすべて小児適応がないという困った状況である。

□ トリプタン製剤の使用の実際
 錠剤は体重40kg以上かつ12歳以上であれば1錠を、25kg以上40kg未満であれば1/2錠を使用する。
 1日2回まで使用可能であり、投与間隔は2時間空ける(ナラトリプタンだけは4時間)。
 トリプタンは片頭痛が生じてから時間が経てば経つほど効果は得られにくくなる。とくに中枢感作により生ずるアロディニア(異痛症)を呈した場合には、ほぼすべての鎮痛剤やトリプタンが無効となるため、そこに至る前までに使用しなければならない。

 大学病院頭痛専門外来での調査では、約2割の片頭痛患児がいずれかのトリプタンを処方されており、いずれかのトリプタンが有効であった患児は90%であった。最初に使用したトリプタンが無効であっても、別のトリプタンが有効であった症例もある。

□ トリプタン製剤の副作用と禁忌;
(副作用)胸部圧迫感、悪心・嘔吐、傾眠
(禁忌)
・虚血性心疾患、脳血管障害
・片麻痺性偏頭痛、脳幹性前兆を伴う片頭痛、網膜片頭痛
・エルゴタミン製剤との併用
・リザトリプタンとプロプラノロール

□ スマトリプタン(イミグラン®)
 トリプタン唯一の点鼻液があるため利用価値が高い。小児に対しても複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。
 悪心・嘔吐の随伴症状が多い小児の場合は内服困難例も存在するため、点鼻液はよい適応になる。ただし咽頭、舌後方に感じる強い苦みは点鼻薬独特の副作用であり、事前に十分説明しておく。

□ リザトリプタン(マクサルト®)
 最高血漿中濃度到達時間が最も短く、また血中半減期も短いため、効果発現が早く、持続時間の短い小児の片頭痛に対して有利な製剤である。スマトリプタン同様に小児に対する複数のランダム化比較試験により有効性と安全性が証明されている。口腔内崩壊錠があるため、登下校時や学校での授業中に適切なタイミングで内服しやすいという利点がある。
★ 片頭痛予防薬として使用されるプロプラノロール(インデラル®)との併用は禁忌。

□ 薬剤使用過多による頭痛(国際頭痛分類第3版)
 3ヶ月以上にわたり使用頻度が増す場合は予防薬使用を検討する。
・アセトアミノフェン:15日/月以上
・NSAIDs:15日/月以上
・トリプタン製剤/複合鎮痛剤:10日/月以上

□ 予防薬
 片頭痛発作の頻度が多く、薬物頓用でも生活に支障が出る場合は予防治療を考慮する。
 成人では月に2回以上あるいは6日以上が目安であるが、小児はケースバイケースで判断する。
・シプロヘプタジン(ペリアクチン®):抗ヒスタミン薬で、かぜの際の鼻水止めとして日常的に処方されている。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。眠気、食欲増進の副作用がある。
・アミトリプチリン(トリプタノール®):三環系抗うつ薬。小児片頭痛の予防薬の泰一選択薬の一つ(慢性頭痛の診療ガイドライン2013)であるが、片頭痛に対する保険適用はない。ボストン小児病院の検討によると、アミトリプチリンは最も多く使用されている予防薬である。副作用として眠気、口渇、便秘に注意が必要。
・その他:バルプロ酸(デパケン®ほか):抗てんかん薬、塩酸ロメリジン(ミグシス®):カルシウム拮抗薬、プロプラノロール(インデラル®)β-遮断薬、トピラマート(トピナ®):新規抗てんかん薬・・・
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吃音の研究・対策はこれから

2018年04月08日 15時28分55秒 | 小児医療
 「吃音」(いわゆる“どもり”)というと、吃音ドクター・菊池良和先生が頭に浮かびます。
 自らが吃音であることを公表し、啓蒙書も書いています。
 NHKラジオの「健康ライフ」で彼のお話を聞いたことがあります。

 しかし以下の記事を読むと、吃音に関する研究はまだまだ進んでおらず、対策も“皆無”とは・・・。

■ わが国の吃音有症率が初めて明らかに
2018年03月28日:メディカル・トリビューン)より
 自治医科大学公衆衛生学部門の須藤大輔氏は、幼児吃音症の大規模調査の結果を第28回日本疫学会(2月1~3日)で発表した。吃音症は発達障害支援法に含まれる障害でありながら国レベルの対策が十分に取られておらず、わが国では発症率や治癒率などの基本的なデータもほとんど存在していないのが実情。調査の結果によると、吃音症の有症率は3歳児健診時点で4.7%であり、ほぼ海外と同程度であることが明らかになった。
 日本医療研究開発機構(AMED)の採択事業として「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」(代表:国立障害者リハビリテーションセンター病院第三診療部長・森浩一氏)が2016年に始まっており、今回の調査もその一環として行われた。  
 須藤氏によると、
・吃音症は幼児の100人のうち5~8人に発症、うち8割は自然回復する。
・回復しないと社交不安障害の引き金ともなり、7~12歳の吃音児では社交不安障害のリスクが6倍、成人吃音の22~60%で発症する
ーと報告されている。  
 しかし、吃音症を熟知した専門家が少なく、詳細に診ることができる小児科医や耳鼻咽喉科医も少ない。回復せずに成人になってもフォローする診療科がはっきりしないなど具体的な対応戦略が乏しい状況にある。国レベルでの対策を立てる上で必要となるわが国の疫学データも存在せず、海外のデータに頼っている。そこで、研究事業では吃音症に関する大規模調査を進めている。

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「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)

2018年04月07日 06時46分37秒 | 小児医療
 「こどもの病気 常識のウソ」(松永正訓著)
 中公新書ラクレ、2017年発行



 この本の内容は、読売新聞のWebサイト「YOMIURI ONLINE」の医療コーナー「ヨミドクター」で連載配信されていたエッセイをまとめたものです。
 私は読者の1人でしたが、小児科の臨床現場で感じることがそのまま記されていて感心しました。
 おそらく、中堅小児科医の本音はこんなもの。
 しかし小児科専門医にとっては当たり前すぎて、敢えて発信する内容に思えないことでも、小児外科医から小児科開業医に転身した著者には目新しい事実となり、客観的に記述できたのでしょう。
 
 患者さん向けというスタンスですが、私は「小児科標榜医」にぜひ読んでいただきたいと思います。
 「小児科標榜医」とは、元々の専門は小児科以外(内科、外科、耳鼻科、等々)の専門医が、開業の際に「子どもの患者さんも診ますよ」と小児科も標榜する医師のことです。ぶっちゃけて言えば「小児科は専門外」なので、その医療レベルはピンキリです。
 そのような医師にとってこの本は「小児科医の本音」を知るために格好の教材となると思われます。

 内容について。
 小児外科医しか書けない項目である「胆道閉鎖症」「GER」「盲腸と虫垂炎」「包茎」「重症便秘」「小児がん」「異物誤飲」は大変勉強になりました。
 一方、小児内科関係では大変よく勉強されていることはわかりますが、「?」と思う箇所も無きにしも非ず。

(例1)RSウイルス感染症で、一番やっていけない処方は鼻水止め(抗ヒスタミン薬)である。鼻水止めを飲むと痰が硬くなって呼吸困難が悪化します。咳止めも痰が出せなくなるのでNG。喘息のお子さんのように、気管支拡張剤を吸入してもらったり、内服薬で気管支拡張剤を飲んでもらう

 前半の鼻水止め、咳止めが無効であることは小児科専門医の常識ですが、下線部の「気管支拡張剤で治療する」には疑問があります。気管支拡張剤は気管支平滑筋が収縮して気管支内腔が狭くなった状態を解除する薬です。しかしRSウイルス感染症が重症化しやすい早期乳児では、この気管支平滑筋がまだ発達していません。つまり作用するターゲットがないので、残念ながら効果は期待できません。

(例2)スギ花粉は2月頃から飛び始めて、5月の大型連休を過ぎる頃まで続きます。そこで花粉症が治まるかと思うと、今度はヒノキの花粉の飛散がピークになります。

 一般的に、スギ花粉の飛散は3月がピーク、ヒノキ花粉の飛散ピークは4月とされています。5月のGW以降も症状が続いたり、再燃したりする場合にはイネ科花粉症を疑います。


<備忘録>

・腕のいい外科医とは「失敗しない」医師ではなく「合併症に対して正しい処置が取れる」医師を言う。
・第二世代の抗ヒスタミン薬(ザジテン、アレジオン、アレロック、アレグラ、ザイザル、ジルテック、セルテクトなど)はアレルギーの薬であり、かぜに対して保険適応はない。

・肺炎球菌とインフルエンザ桿菌は鼻の奥に住み着いている常在菌である。そこに存在しているだけなら何の悪さもしない。しかしウイルス感染で鼻の粘膜の炎症が続くと、耳管というトンネルを伝わって中耳(鼓膜の奥のスペース)で繁殖をすることがある。これが化膿性中耳炎である。・・・医学書に膿性鼻汁(黄色や緑色の鼻汁)には抗生物質を使うべきだと書いてあったりするが、この記載は明らかな誤りである。

・抗生物質を使用する場合は「どこの場所に、どんな細菌が感染しているか」を診断する必要がある。

・救急車を呼ぶ際、携帯電話より固定電話が有利である。

・風邪を引いて熱が出たときは、平熱になってその状態を24時間キープできて、はじめて登園させるべきである。

・風邪から肺炎に進行してしまう可能性を考慮して、保護者を納得させるために抗生物質が処方されているが、「かぜの段階で抗生物質を使えば肺炎を予防できる」という考え方は、完全に間違っている。そんなことをしても体内の細菌をゼロにすることはできない。

・寒さの強い日に風邪を引くのは、寒いから引くのではなく、寒いとウイルスが活性化するためである。

・ノロウイルスの検査は3歳未満にしか保険が利かない。

・ロタウイルス胃腸炎患者の下痢便の中には、1gあたり約100億個のウイルスが含まれている。そして、このうちのわずか10個くらいのウイルス粒子だけで感染が成立する。

・白色便はロタウイルスに限らない。どのウイルスでも白くなる。「食物が十二指腸を通過するときに、胆嚢が収縮して胆汁と混じって色が付く」という共調運動がうまくいかなくなるからであり、病気の重症度とは関係ない。

・赤ちゃんは基本的に包茎であり、剥けている場合は尿道下裂(500人にひとりの頻度)の有無を確認する必要がある。

・便秘の治療として、食事療法は大して有効ではない。水分をたくさん取っても「焼け石に水」である。食物線維をたくさんとると有効な例もあり試す価値はあるかもしれないが、高度な便秘は野菜だけでは解決できない。乳酸菌製剤も試す価値はあるかもしれないが、決定的な効果を示すことはない。プルーンや果汁も試してもかまわないが、それで解決するほど慢性便秘は甘くない。

・浣腸や下剤が「クセになる」ことはない。マルツエキス、酸化マグネシウム、ラキソベロンなどを使用してもうまくいかないときはグリセリン浣腸やテレミンソフト座薬を使って便を出す。「薬に頼るのではなく、薬を使いこなす」という発想転換が必要である。便秘治療の極意は「便をすべて出し切って、常に直腸が空っぽな状態をキープする」ことである。

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「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018年02月13日 07時19分17秒 | 小児医療
 「小児科は儲からない」で有名です。
 知り合いのお子さんが医学部を卒業して小児科医になりました。
 その親は「形成外科のような儲かる科を勧めたのに、よりによって小児科を選ぶなんて・・・」と小児科医の私を前にして宣う・・・。

 小児科は子どもの風邪診療が中心で、検査もあまり必要なく、さらに近年の少子化がそれに拍車をかけて収入が減り続けているのは事実。
 おそらく今後は小児科単科の開業は難しくなるのではないか、と懸念する声さえあります。

 さて、2018年春に行われる診療報酬改定の概要が見えてきました。
 小児科に縁があるのは「小児抗菌薬適正使用加算」くらいでしょうか。

■ シリーズ◎2018診療・介護報酬同時改定【感染症】抗菌薬の適正使用への取り組みを新たに評価
「小児抗菌薬適正使用支援加算」80点が新設

2018/2/9 :日経メディカル

 う〜ん、この記事を読んでも、当院で算定できるのかどうか、よくわかりません。
 私はもう20年も前から、
「風邪の9割はウイルス感染症だから抗生物質は効かない、だから処方しません」
「風邪症状の患者さんに抗生物質が必要な場合は溶連菌感染症と中耳炎くらい」
 と説明してきました。
 だから、かかりつけ患者さんにたまに抗生物質を処方すると、
「先生、抗生物質がホントに必要なんでしょうか?」
 なんて逆に聞かれたりします。

 もう一つ、この件を扱った記事を見つけました。


■ 「小児抗菌薬適正使用支援加算」、80点の高評価 〜「抗微生物薬適正使用の手引き」に則した治療が原則
2018年2月7日:m3.com

 「感染症の研修会等に定期的に参加していること」ってアバウトな基準ですねえ。
 この時代、ネット配信の「e-ラーニング」で研修するシステムを作って欲しいものです。
 歳を取って持病を抱えると、なかなか遠くの研究会・研修会に参加できなくなりますので。

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成長期のアスリートに多い“スポーツ貧血”

2018年01月18日 07時30分50秒 | 小児医療
 思春期貧血は昔から有名で、「成長著しい時期であり需要に供給が追いつかない」とか女子の場合は「月経で失われるから」と説明されてきました。
 しかし近年、運動系部活動を熱心にしている選手の中で、足底を強く踏み込む動作があるとその衝撃で赤血球を壊してしまい貧血の原因になることが指摘されるようになりました。
 私が研修医の頃までは「行軍症候群」(軍隊の長時間の行軍で兵士の尿に赤血球の中身のヘモグロビンが出る)として知られた病態ですね。

■ 成長期のアスリートに多いスポーツ貧血って?
2018/1/16:日経メディカル
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「あなたの子供は肥満児、医師受診を」

2018年01月16日 06時31分45秒 | 小児医療
 群馬県は肥満児が多いらしい、そしてその理由は車保有率が高いため歩かないから?、という記事を紹介します。

 健診で「肥満」を指摘された子どもに医療機関受診を促す通知を出すことになったという内容ですが、素朴な疑問として「今まではどうしていたの?」ということ。
 健診で「肥満」を指摘されても、医療機関を受診するかどうかは保護者に委ねられていた、ということになりますよね。
 では何のために税金を使って健康診断をしてきたのでしょうか?
 問題を検出してもアフター・フォローがないなら、欠陥施策だと思います。

■ 群馬県教委「あなたの子供は肥満児、医師受診を」通知へ
毎日新聞2018年1月15日
18年度から定期健康診断で「肥満度50%以上」対象に
 群馬県教育委員会は15日、来年度から、定期健康診断で肥満度が高いとされた県内の小中学生に対し、病院で受診するよう通知すると発表した。群馬県は全国平均に比べ子どもの肥満傾向が高く、食生活や運動習慣を見直すきっかけにして将来的な生活習慣病のリスクを軽減するのが狙い。文部科学省の担当者は「全国的な調査はないが、個別の通知は珍しいのではないか」としている。
 対象は定期健康診断の結果、日本小児内分泌学会の基準で肥満度50%以上と判定された児童・生徒。男女とも身長に応じて定められている「標準体重」の1.5倍以上の体重になると肥満度50%以上の「高度肥満」とされ、通知の対象となる。
 対象者には、歯科、眼科健診と同様に通知を出し、医師の診断を受けた上で学校に結果を提出してもらう。
 文科省の学校保健統計調査によると、群馬県は肥満度20%以上の肥満傾向の子どもの出現率が高く、12歳男子で15.81%と全国平均の9.89%を大きく上回っている。県教委は、車の保有率が全国一という「車社会」が影響しているとみている。
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通勤通学時の騒音で難聴に?

2018年01月05日 08時13分09秒 | 小児医療
 先日、テレビで加齢性難聴の解説番組(NHK がってん 認知症を防ぐカギ!あなたの「聴力」総チェック!)を見ました。
 加齢とともに内耳にある蝸牛の有毛細胞が抜け落ちていき、高音から聞こえなくなり、それに反応する脳が働かなくなるのでその部分が廃用性萎縮に陥り、結果として認知症リスクになる・・・という驚くべき論法。
 そして有毛細胞は強い音刺激でダメージを受けるのだそうです。
 ロックのコンサートなどはもってのほかで、専門家の目には「難聴希望者の集会」見えるのでしょう。
 紹介する記事は、避けようがない通勤通学時の騒音が難聴の原因になり得るというカナダからの報告;

■ 通勤通学時の騒音で難聴に?
HealthDay News:2018/01/04:medy
 トロント大学(カナダ)などの研究グループがトロント市街地で実施した騒音調査から、通勤や通学で地下鉄やバスなどの公共交通機関や自転車などを利用する人は、日常的に基準値を超えるレベルの騒音にさらされていることが明らかになった。同グループは「騒音が原因で難聴になる可能性がある」として、対策を呼び掛けている。詳細は「Journal of Otolaryngology -- Head & Neck Surgery」11月23日オンライン版に掲載された。
 騒音調査は2016年4月から8月にかけて平日の午前7時から午後7時までトロント市街地で実施した。装着型の騒音計を用いて地下鉄や路面電車、バスの車内およびプラットホームのほか、自動車や自転車の利用時の騒音レベルを測定した。測定回数は計210回だった。
 その結果、騒音レベルは路面電車(車内とプラットホームでの測定値の平均)の71.5デシベルに対して地下鉄(同)で79.8デシベル、バス(同)で78.1デシベルと高いことが分かった。また、自動車の車内と比べて地下鉄のプラットホームの方が騒音レベルの平均値が高いことも明らかになった(76.8デシベル対80.9デシベル)。
 さらに、測定ごとの最も大きな騒音を「ピーク騒音」とした場合、地下鉄で測定されたピーク騒音の19.9%が114デシベルを、路面電車で測定されたピーク騒音の20%が120デシベルを超えていた。バスのプラットホームではピーク騒音の85%が114デシベルを超え、54%が120デシベルを超えていた。このほか、自転車利用者がさらされているピーク騒音は全て117デシベルを超え、このうち85%が120デシベル超の騒音だった。
 なお、米国環境保護庁(EPA)は難聴リスクをもたらす騒音レベルの基準を114デシベルで4秒以上、117デシベルで2秒以上、120デシベルで1秒以上としている。今回の研究を実施した同大学耳鼻咽喉科頭頸部外科のVincent Lin氏らは「われわれの研究は騒音にさらされると難聴になるという因果関係を明らかにしたものではないが、トロントの交通機関で測定されたピーク騒音はEPAの基準値を超えていた」と指摘する。
 Lin氏によると、短時間であっても大きな騒音にさらされることで、それよりも小さな騒音に長期的にさらされる場合と同程度の有害な影響がもたらされることが分かっている。また、慢性的な過度の騒音への曝露は抑うつや不安、慢性疾患などのリスクを上昇させるなど、全身に影響することも明らかになりつつあるという。こうしたことから、同氏は「今後、公共スペースや公共交通機関を設計する際には騒音による健康リスクについても考慮すべきだ」と強調している。


<原著論文>
Yao CMKL, et al. J Otolaryngol Head Neck Surg. 2017 Nov 23;46: 62.
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5歳以降の熱性けいれんとその後のてんかんリスク

2017年12月18日 07時09分15秒 | 小児医療
 一般に熱性けいれんは年齢依存性けいれんとされ、脳の髄鞘化が完成する5歳以降は起こらないと説明されてきました。
 しかし、例外的にインフルエンザ罹患時は小学生でも起こる例を経験します。
 今後の検討が待たれますが、現時点では、てんかん発症リスクが一般健常群よりは高いと報告されています。

■ 5歳以降の熱性けいれんとその後のてんかんリスク
ケアネット:2017/12/15
 熱性けいれん(FS:febrile seizure)は、乳幼児期に起こる発熱に伴う発作と定義されているが、ほぼすべての年齢において観察される。FS後の非誘発性のけいれん発作リスクは、明確に定義されている。しかし、5歳以降でのFSの発症または持続に関するデータは、限られている。トルコ・Izmir Katip Celebi UniversityのPinar Gencpinar氏らは、5歳以降でFSを発症した患者の評価を行った。Seizure誌オンライン版2017年11月6日号の報告。
 2010~14年にFS患者すべてをプロスペクティブに登録した。患者背景、臨床的特徴、放射線画像、脳波(EEG)、精神運動発達テストの結果、患者の治療データを収集した。患者は、5歳以降で初めてFSを発症した患者と、5歳以降もFSが持続した患者の2群に分類した。データの分析には、フィッシャーの正確確率検定とピアソンのカイ二乗検定を用いた。
 主な結果は以下のとおり。

・64例が登録され、そのうち12例(18.8%)で無熱性けいれんが認められた。
・9例(14%)は、フォローアップ期間中にてんかんと診断された。
・その後のてんかん発症は、性別、平均年齢、病歴、てんかんの家族歴、非熱性けいれんの有無、発作タイプ、FSタイプ、発作の持続期間、発作症候学、ピークの発熱、脳波、MRI所見とは無関係であった。
・その後の無熱性けいれんまたはてんかん発症に関して、群間に統計学的な差は認められなかった(p>0.5)。

 著者らは「5歳以降のFS患者では、フォローアップが重要である。これらの発作は、一般的に良性であるが、再発しやすく、てんかん発症リスクを高める傾向がある。このような患者におけるリスク因子やてんかん発症率を明らかにするために、より大きなコホートを用いた研究が必要である」としている。


<原著論文>
・Gencpinar P, et al. Seizure. 2017 Nov 6.
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2016年、エイズで子ども12万人死亡

2017年12月10日 18時35分57秒 | 小児医療
 2016年はメディアを賑わせたアフリカのHIV感染症のアウトブレイク。
 最近、話題に上ることが少なくなりましたが、2017年の状況はどうなのでしょう。

■ エイズで子ども12万人死亡 昨年、ユニセフが警鐘
共同通信社:2017年12月1日
【ナイロビ共同】国連児童基金(ユニセフ)は1日、2016年にエイズ関連で死亡した14歳未満の子どもは世界中で約12万人に上り、1時間に18人のペースで新たにエイズウイルス(HIV)に感染していたと発表した。
 1日は「世界エイズデー」。ユニセフは「エイズの流行は終わっていない。今も子どもたちの命を脅かしている」と警鐘を鳴らしている。
 ユニセフによると、母子感染の予防で進展がみられ、00年以降、約200万人の新規感染を防ぐことができた。一方、HIVに感染した可能性がある新生児のうち、生後2カ月以内に検査を受けたのは約43%にとどまるなど、子どもへの検査や治療が遅れている。
 10~19歳の若者の状況も深刻で、16年だけで約5万5千人が死亡し、サハラ砂漠以南のアフリカ出身者が約91%を占めたという。
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