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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

ヒアリで恐いのは毒ではなくアレルギー

2018年01月06日 11時31分32秒 | 医療問題
 「ヒアリに刺されると死ぬことがある」と恐怖で語られた2017年。
 詳しく見ると、ヒアリで恐いのは毒ではなく、アナフィラキシー。

 これは蜂に刺されるときと似ています。
 蜂に刺されると、その毒で誰でも腫れて痛いですね。
 しかし、重症化してアナフィラキシー・ショックを起こし命に関わるのはほんの一部の人です。
 これは、ハチ毒に対してアレルギーがあるかどうかにより決定すること。

 ヒアリでも、その毒で誰でも痛い思いをするようです。
 しかし、重症化してアナフィラキシー・ショックを起こし命に関わるのはほんの一部。
 蜂と同じく、ヒアリ毒に対するアレルギーの有無で重症化するかどうかが決まります。

 ハチ毒に対するアレルギーは林業に携わる人に多い傾向があります。
 何回も刺されてアレルギーを獲得するのです(感作といいます)。

 という内容の記事を紹介します;

■ ヒアリ、正しく恐れて 救急医のサイト、閲覧20万超
2018年01月03日 朝日新聞デジタル
 毒を持つ南米原産のヒアリが全国各地で見つかるなか、救急医が「正しい知識を持ってほしい」と毒の症状や治療法を紹介したサイトが20万回以上閲覧されている。
 サイト「医療者のための正しく恐れるヒアリ学」は、名古屋掖済会(えきさいかい)病院救命救急センターの安藤裕貴医師(39)が作成した。「ヒアリに刺された時は冷やす」といった対処法や、刺された時に起きうる急激なアレルギー反応で、死に至る可能性もある「アナフィラキシーショック」についての基礎知識にも触れている。
 また、ヒアリ生息域の住人の約5割が年に1回刺されている米国内の現状などを紹介。医療関係者向けだが、専門知識のない人でもわかる内容だ。研究が進んでいる米国の論文約20本を読み込み、最新の情報をまとめた。安藤医師は「ヒアリの毒に致死性があるという誤ったイメージが先行しているが、毒そのもので死ぬことはない。気をつけるのはアナフィラキシーのほう。刺されたらどうなるのかという情報が少なかった」と話す。
 環境省によると、ヒアリは昨年5月に兵庫県尼崎市で国内で初めて確認された。その後、浜松市や広島県呉市でもみつかり、12月25日までに12都府県で26事例が確認された。冬場は動きが鈍るが、暖かい土の中などで越冬し、春先に再び活動が活発になるとみられ、サイトが役に立ちそうだ。
 安藤医師は「必要以上に恐れず、不安を和らげることにつながれば」とサイト作成の理由を語った。


 上記サイトを見てみました。
 ほほう、と頷いた箇所を列記します。

・ヒアリ生息地の住人の51%は1年に1回刺されている。
・ヒアリによるアナフィラキシーの発生頻度は7%(?)。
・「ヒアリに刺される」はお尻から出る針で刺されること。口で噛むのではない。
・一般的な局所症状は、刺された瞬間痛みが走り、1時間以内に腫れてきて、12時間以内に小さな膿疱ができ、大きな紅斑になって(17-56%)24-72時間続く、蕁麻疹が出ることもある。
・アナフィラキシーのほとんどは、刺されて15分以内(遅くとも1時間以内)に発症する。
・ハチ毒と交差反応性がある。


 この中で気になった項目は「ハチ毒と交差反応性あり」。
 ハチアレルギー患者では、初めて刺されたときはまだアレルギー体質になっていないのでアナフィラキシーなど強い反応は起こらないとされています。
 だから、ヒアリも初めて刺された時に重症化することはない、と考えていましたが、ハチ毒と交差反応性があるとなると話は別。
 ハチアレルギー患者さんは、初めてヒアリに刺されたときも同様の症状が出る可能性があるということになります(要注意!)。

湯たんぽによる「低温やけど」に注意!

2018年01月06日 09時38分57秒 | 医療問題
 湯たんぽが恋しい季節になりました。
 湯たんぽは「良眠」に効果的だそうです。
 最近はレンジでチンするお湯を使わない簡易タイプも登場しています。

 しかし、便利グッズにありがちなことですが、万能ではありません。
 糖尿病で感覚が鈍っている方、脳梗塞などで足の麻痺があり熱いと感じても自分で動かせない方には注意が必要です。

■ 「低温やけど」にご用心 エコな湯たんぽも注意
2018年01月04日 朝日新聞デジタル
 冷え込みが厳しい日が続いています。湯たんぽやカイロは手軽で使いやすく、愛用している人も多いのではないでしょうか。湯たんぽは、エコブームもあり、この季節、店頭でもよく見かけます。ただし、使い方を間違えると、低温やけどを招くこともあるようです。どんな注意が必要なのか、専門家に聞きました。
 「低温やけどは、若い人よりも高齢者や糖尿病などの持病がある人に起きてしまうことが多い」。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の磯貝善蔵・皮膚科医長は、こう話します。
 健康ならば、熱いと感じれば体をずらして避けようとすることができます。でも、糖尿病の神経障害で感覚が低下していたり、脳梗塞(こうそく)や骨折などで体を動かしにくい状態だったりすると、熱くてもそこから体をずらすことが難しくなります。このため、長い時間、湯たんぽなどに皮膚が触れた状態になりがちです。
 一般的に皮膚が損傷を受けるのは、
 ・60度であれば5秒ほど
 ・50度で2~3分
 ・44度で3~4時間

ーとされています。
 低温やけどは、温度が低い分、皮膚が接する時間が長くなり、やけどがじわじわ進み、深いところまで達しやすい、という特徴があるそうです。
 最初は皮膚の変化も目立たなかったり、痛みも弱かったりするため、自覚に乏しく、受診まで時間がかかることが多い、とのこと。でも、受診したときには、皮膚の深い部分までやけどしていて、皮下組織が壊れ、手術が必要になることもあるそうです。
 少し古いですが、製品事故の調査をしている独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)の調査データがあります。1996年4月~2009年10月に、湯たんぽなどやカイロ、電気毛布などによる低温やけどの事故は、77件ありました。月別にみると、1月が最多で19件、次いで12月と2月が各10件、3月も9件ありました。
 また、消費者庁の発表によると、湯たんぽによるやけどの事故は、09年9月~今年10月に240件ありました。このうち、低温やけどは少なくとも67件。消費者庁は「心地よく感じる程度の温度でも、皮膚の同じ部分が長時間接触していれば、やけどになることがあります」と注意を呼びかけます。高齢者に加え、幼い子どもも皮膚が薄く重症化しやすいため、気を付けたほうがいいそうです。
 それでは、具体的にはどんなことに注意すればいいのでしょうか。磯貝さんは大きく3点あげます。

 (1)湯たんぽはあらかじめ布団に入れておき、寝るときは足から遠ざける
 (2)カイロは、寝るときにははずす
 (3)もしやけどになってしまったら、なるべく早く医療機関を受診


 睡眠薬をのんでいたために熟睡し、気付かないうちに低温やけどになった、という報告があるそうです。認知症など要介護の程度が重ければ、自力で動くことも難しい。そんな状況もありえます。こうしたケースでは「周囲や家族が気を付けてあげる必要があります」と磯貝さんは話します。

「もうけすぎ」薬局に逆風

2018年01月05日 15時01分09秒 | 医療問題
 しばらく前にこのブログで「おくすり手帳」の問題点を扱いました。
 薬局で薬剤師が服薬指導をすることになっているものの、病名がわからないので十分な指導ができないというジレンマが存在する、という内容です。

 厚生労働省・日本政府は「医薬分業」を謳って薬局の独立を促してきました。
 その結果、調剤報酬が増加の一途を辿り、医療福祉費の肥大に貢献するほどになりました。一時期は「薬局バブル」などと呼ばれました。
 医療福祉費を減らさなければならないはずの日本経済に逆行する流れです。
 そして今、薬局はハシゴを外されることになりそうです。

■ 「もうけすぎ」薬局に逆風 かかりつけ機能後押し 調剤報酬引き下げ
共同通信社:2018年1月4日

 ほかに医療福祉費肥大に貢献している分野に「接骨院・整骨院・柔道整復師」があります。

□ 柔道整復療養費にメス?厚労省が不正請求への対処に本腰
2012/7/10 日経メディカル

LED照明が人体・自然界に及ぼす影響

2017年12月30日 07時36分38秒 | 医療問題
 便利なものは、必ずと言っていいほどマイナス面を持ち合わせています。
 LED照明は「明るくて長持ちして電気代も節約できる」利点を武器に急速に普及しています。
 それに伴い、人体に及ぼす影響、自然界に及ぼす影響が話題になるようになりました。
 下記記事を読むと「人間の体内時計のみならず、自然界の日内リズムも狂わせてしまう」可能性があるのですね。これは想定外の現象を引き起こすかもしれません。

LED照明による新たな「光害」の発生が地球的規模で懸念される
2017年11月24日:Gigazine
 自動車のヘッドライトや街灯、スマートフォンのカメラに備えられたフラッシュなど、LEDを使った照明器具は身近なところに多く使われるようになりました。小型でありながら明るく、しかも消費電力は低く長寿命という照明器具としては非常に優れた性能を備えているLED照明ですが、ここ近年で爆発的に世界に広まったことで環境に与える影響が懸念され始めています。

Science Journals — AAAS - e1701528.full.pdf
Energy-saving LEDs boost light pollution worldwide
The unfortunate side effect of LED lighting - The Verge

 この影響を明らかにしたのは、ドイツ地球科学研究センター(GFZ)の研究院を中心とする研究チームです。同チームは、人工衛星に搭載された観測装置を用いて地球表面の明るさを計測したデータを用いることで、夜間において人工的に照らされるエリアの増減と光量の増減を調査しました。データは、アメリカ海洋大気庁が運用する極軌道上を周回する気象衛星「スオミNPP」によって計測されたものが用いられています。
 その結果判明したのが、人工的な光によって照らされる地球表面の面積は、2012年から2016年にかけて年2.2%の割合で増加を続けているという事実。



 また、その変化は光の波長の違いとしても観測されているとのこと。その一例を示すのが、イタリア・ミラノの夜景を撮影した可視光のカラー写真の変化。2012年のカラー写真ではオレンジ色のような街灯の明かりによって街全体が照らされているのに対し、2015年のカラー写真では街全体が白っぽい色に変化していること、そして色の変化のない郊外との色の違いが一目瞭然となっています。研究チームによると、これはLED電球への移行によってもたらされた変化とのこと。また、図は同地域で2012年から2016年の間で生じた明るさの変化をポイントごとに色分けしたもの。街の中心部では光量が減少していますが、周辺部では光量が増大していることが示されています。



 研究チームを率いたChris Kyba氏はこの変化について「いくつかの例外を除いて、ライトアップされる地域の変化は南アメリカやアフリカ、アジアで顕著に見られます。公園内の自転車道や、郊外へ延びる高速道路のように、かつては照らされていなかった場所が今は明るく照らされるようになっています」と語っています
 そしてこの変化は、さまざまな環境に対して良くない影響を与えることが懸念されています。報告書では、夜でも明るく照らされるエリアが増えることで昼夜のバランスが崩れ、地球の自然がこれまでしたがってきた1日のサイクルが乱されるという影響が生じる可能性が示唆されています。
 これは人間に対する影響はもちろん、小動物を含む動物全般や、植物の生態系に影響を与えると考えられているとのこと。人間の体に太陽光を受けて周期的に変化する「体内時計」が存在するように、地球の多くの動物や植物にも周囲の明かるさの変化をもとにする体内時計が存在していると考えられています。そのサイクルが、地球規模で広まる人工光の増大によって広く乱されることで、生物の生態系全体にまで影響が及ぶのではないかと懸念されているというわけです。論文の共同著者であるFranz Holker氏は「多くの人が、その影響について良く考えないまま夜間に照明を使っています」と語り、人工光の使いすぎによる悪影響に警鐘を鳴らしています。
 今回明らかにされたのは2012年から2016年のデータであり、より詳細な実態の把握には、それ以前にまでさかのぼったデータを用いることで数十年規模での変化を調査することを期待したいところ。さらにいえば、人間が電力を手に入れて人工光を大規模に使用するようになった時代からの変化を見ることで、実際にどのような影響が生態系に及んでいるのかを把握することにつながるはずです。


 同じサイトから、もう一つLEDの記事を。
 LEDは「目に不快なほどまぶしい、明るすぎる」と私も感じていましたが、これはパソコンモニターでも問題視されているブルーライトを多く含んでいるためだそうです。
 ポイントを抜粋すると、

・節電対策としてLED照明は推奨されるが、人体に及ぼす影響を考慮すると工夫が必要でああり、夜間の屋外照明、特に街灯は色温度を高くても3000K程度に抑えるべきである。
・大きな問題2つ;
①白色LEDはブルーライトを多く含んでいる。白色LEDの色温度(※)は4000〜5000Kと高く、ブルーライト(※)を多く含んでいる。
②サーカディアンリズムへの影響:白色LEDはトンネル内の照明としても有名なナトリウムランプよりも、夜間のメラトニン量を5倍も抑えてしまう。メラトニンの抑制はサーカディアンリズムの崩れにつながり、ここから睡眠障害に発展する恐れもある。LED街灯のまぶしすぎる光が野生動物に悪影響を与えてしまう可能性も示唆されている。


色温度:光源が放つ光の色を定量的な数値で表現する単位で、屋内照明の「電球色」が3000K程度、LEDが普及する前に多くの家庭で使用された白熱電球の色温度は約2400K。ライトが発明される前、人間は木々を燃やして明かりを作り出していましたが、木などを燃やしてできる明かりの色温度は約1800K。色温度からどのような色の光を含んでいるのかは予測可能ですが、色温度ではLEDから発せられる光の色を測定することはできないので、その場合は相関色温度(CCT)を用いる。
ブルーライト:可視光線の中でも最も強いエネルギーを持つ青色光。白色LEDから発せられるブルーライトは、波長が長い黄色・赤色光よりも人間の目の中で多く反射し、網膜にダメージを与えるため、目の瞳孔が過度に縮小する縮瞳を引き起こす原因にもなる。


■ 「LEDの街灯は健康・安全面に問題がある」と米国医師会が発表、一体どんな影響があるのか?2016年06月30日:Gigazine
 電球には白熱灯と白色LEDの2種類がありますが、2つを比べるとLEDは、消費電力が圧倒的に低く、おまけに白熱灯よりもかなり明るいという特長を持っています。より明るく、節電にもなるということで多くの場所で採用されている白色LEDですが、米国医師会(AMA)は、「街灯に使用されている白色LEDには健康・安全面で問題がある」と警告しています。

American Medical Association warns of health and safety problems from 'white' LED streetlights

 AMAは公式の年次報告書の中で、道路照明に使用されているLEDを弱めて暗くすることを明らかにしました。年次報告書の中で明かされたこの決定は、2016年6月14日にシカゴで開催された、AMAの年次総会の中で満場一致で決定した事項だそうです。アメリカでは近年、街灯でのLEDの使用が加速しており、シアトルやニューヨークの街灯にもLEDが使用されています。その中で下された決定ですが、AMAは「街灯に使用されているLEDライトが潜在的に持つ、人間の健康や環境に対する悪影響を最小限にするため」と、LED利用に関するガイドラインまで公開しています。
 アメリカの多くの地方自治体は、既存の街灯をLEDに取り替え、エネルギーの節約と街灯のメンテナンス性の向上を図ってきました。しかし、LED街灯には2つの大きな問題がある、とAMAは指摘しています。
 AMAは年次報告書の中で、夜間の屋外照明、特に街灯は色温度を高くても3000K程度に抑えるべき、としています。色温度というのは、光源が放つ光の色を定量的な数値で表現する単位で、屋内照明の「電球色」が3000K程度とされています。色温度は数値が大きくなれば大きくなるほど青色に近くなっていき、白色LEDの色温度は4000~5000Kです。この白色LEDは見た目は真っ白な光に見えますが、可視光線の中でも最も強いエネルギーを持つ青色光、ブルーライトを多く含んでいます
 対して、LEDが普及する前に多くの家庭で使用された白熱電球の色温度は約2400Kです。これは、LEDライトよりもブルーライトが少なく、ブルーライトよりも波長の長い黄色・赤色光を多く含んでいるということになります。ライトが発明される前、人間は木々を燃やして明かりを作り出していましたが、木などを燃やしてできる明かりの色温度は約1800Kで、白熱電球よりもさらに黄色や赤色の光が多く、これにブルーライトが含まれていません。しかし、LEDが広く普及した現在、屋内から屋外にいたるあらゆる場所で、照明として白色LEDが使用されています。
 その白色LEDが抱える問題点というのは、ひとつが「不快なほどにまぶしい光を発する」という点です。LEDライトはブルーライトが凝縮されており、これにより非常にまぶしい光を発します。しかし、白色LEDから発せられるブルーライトは、波長が長い黄色・赤色光よりも人間の目の中で多く反射し、網膜にダメージを与えるため、目の瞳孔が過度に縮小する縮瞳を引き起こす原因にもなるとのこと。白色LEDをしばらく凝視すると、目が痛んで目を閉じざるを得なくなります。「これはLEDの発する光が強すぎることをよく示している」と、海外ニュースサイトのThe Conversation。
 AMAが指摘する、白色LEDの持つ問題点の2つ目は「サーカディアンリズムへの影響」です。
 色温度からどのような色の光を含んでいるのかは予測可能ですが、色温度ではLEDから発せられる光の色を測定することはできないそうです。そこで用いられるのが相関色温度(CCT)と呼ばれる指標。CCTでは、同じ3000Kの光でもどちらが多くブルーライトを含んでいるか、などがわかるそうです。したがって、AMAは色温度が3000K以下になるようにLEDを選ぶだけでは不十分としています。
 AMAの年次報告書が公開されたのは、世界中で夜間の人工光がいかに発せられているかを示す「The World Atlas of the Artificial Night Sky Brightness」が公開されたタイミングと非常に近く、このマップの中の人工光のにはLED街灯も多く含まれているだろう、とThe Conversation。
 また、夜間のLED街灯による人体への影響についてもAMAは記述しており、白色LEDはトンネル内の照明としても有名なナトリウムランプよりも、夜間のメラトニン量を5倍も抑えてしまうことも判明しています。メラトニンの抑制はサーカディアンリズムの崩れにつながり、ここから睡眠障害に発展する恐れもあります。また、LED街灯のまぶしすぎる光が野生動物に悪影響を与えてしまう可能性も示唆されています。
 なお、AMAはエネルギー効率と人体への影響を鑑みて、白色LEDの使用を推奨しながらも、ブルーライトが最小限になるように照明をコントロールするべき、としています。

宇宙飛行が脳に与える影響

2017年12月10日 21時56分46秒 | 医療問題
 無重力の宇宙空間に滞在することは、人体にいろんな影響を及ぼすと思われます。
 一番わかりやすいのが、筋力低下。
 長期間宇宙に滞在した宇宙飛行士は、地球に降り立つと自分の足では立位が保てない映像をニュースでよく見かけます。
 脳にも変化が出るのでしょうか?
 その変化をMRIで評価した報告を紹介します。
 ただ、所見のみでそれがどういう意味を持つのかの記載がありません。
 症状は出たのかな?

■ 宇宙飛行が脳に与える影響は?/NEJM
ケアネット:2017/11/13
 宇宙飛行が、脳の解剖学的構造および髄液腔へ与える影響を、MRIを用いて調べる検討が、米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らにより行われた。同影響に関する情報が限られている中で、研究グループは宇宙飛行士の長・短期ミッション前後の脳を調査した。その結果、主に長期飛行後の宇宙飛行士で、脳の中心溝の狭小化および上方偏位と、頭頂部髄液腔の狭小化が、高頻度に認められたという。所見を踏まえて著者は、「地球帰還後の飛行後画像診断を繰り返し行うなど、さらなる調査を行い、これらの変化がどれくらいにわたるものなのか、また臨床的意味について確認する必要がある」と述べている。NEJM誌2017年11月2日号掲載の報告。

長・短期飛行を担った宇宙飛行士の、飛行前後に撮影した脳MRIを比較
 検討はMRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在し長期間のミッションをこなした宇宙飛行士(長期飛行群)18例、スペースシャトルプログラムに関与し短期間のミッションをこなした宇宙飛行士(短期飛行群)16例、それぞれの脳画像をミッション前後に撮影し比較を行った。画像読影者に、飛行期間は知らされなかった。
 また、長期飛行群12例と短期飛行群6例の高解像度3次元画像を基に、飛行前後をペアとするシネMRIを作製し、髄液腔の狭小化と脳構造の偏位を評価した。
 さらに、T1強調MRI画像の自動解析を用いて、飛行前後の脳室容積の比較も行った。
 事前規定の主要解析の注視点は、中心溝の容積の変化、頭頂部髄液腔の容積の変化、脳の垂直偏位であった。

長期飛行群で脳の狭小化、上方偏位、頭頂部髄液腔の狭小化が顕著に確認
 平均飛行期間は、長期飛行群164.8日、短期飛行群13.6日であった。
 脳の狭小化は、長期飛行群17/18例、短期飛行群3/16例で認められた(p<0.001)。
 シネMRIを用いた評価では、脳の上方偏位が長期飛行群(12例)は全例に認められ、一方短期飛行群(6例)は全例で認められなかった。また頭頂部髄液腔の狭小化は、長期飛行群では全例(12例)に認められ、短期飛行群で認められたのは1/6例であった。
 長期飛行群の3例が視神経乳頭浮腫中心溝の狭小化を有していた。このうち入手できた1例のシネMRI評価では、脳の上方偏位が確認された。


<原著論文>
・Roberts DR, et al. N Engl J Med. 2017;377:1746-1753.


 この報告の解説・コメントです。
 上記所見は「無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する」「特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似」と説明しています。
 やはり病的変化のリスクもあるということでしょうか。

■ MRIに示された宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響(中川原譲二氏)
 米国・サウスカロライナ医科大学のDonna R Roberts氏らの研究者は、MRIを用いて宇宙飛行士の脳構造に対する宇宙飛行の影響について検討し、長時間飛行後の宇宙飛行士においては、中心溝の狭小化脳の上方へのシフト頭頂での脳脊髄液(CSF)スペースの狭小化が、頻繁に生じることを報告した。これらの所見は、無重力下で生じる視力障害や頭蓋内圧症候群(visual impairment and intracranial pressure(VIIP)syndrome)に関連する脳構造の変化として注目される。

背景:宇宙飛行が脳の解剖学的構造およびCSFスペースに与える影響に関する情報は限られている。
方法:著者らは、MRIを用いて、国際宇宙ステーションに滞在することを含む長期間の任務の前後で撮像された18人の宇宙飛行士の脳の画像と、スペースシャトルプログラムへの参加を含む短期間の任務の前後に撮像された16人の宇宙飛行士の脳の画像を比較した。画像は、飛行期間を知らなかった読影者によって解読された。また、CSFスペースの狭小化の程度と脳構造の変位を評価するために、長期間飛行後の12人と短期間飛行後の6人の高分解能3次元イメージングから得られた飛行前後のMRIシネクリップを作成した。著者らはT1強調MRIの自動解析により、飛行前の脳室容積と飛行後の脳室容積とを比較した。予め定められた主要分析では、中心溝の容積の変化、頭頂におけるCSFスペースの容積変化、および脳の垂直方向への変位に焦点を当てた。

長期間飛行で中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト
結果:中心溝の狭小化は、長期間飛行群(平均飛行期間:164.8日)では18人中17人、短期間飛行群(平均飛行期間:13.6日)では、16人中3人に見られた(P<0.001)。サブグループのシネクリップでは、脳の上方へのシフトが、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られたが、短期間飛行群(6人の宇宙飛行士)では見られなかった。また、頭頂におけるCSFスペースの狭小化は、長期間飛行群のすべて(12人の宇宙飛行士)に見られ、短期間飛行群では、6人中1人に見られた。長期間飛行群の3人の宇宙飛行士は視神経乳頭浮腫を呈し、3人全員に中心溝の狭窄化が見られた。これらの3人のうちの1人では、シネクリップが入手でき、シネクリップは脳の上方へのシフトを示した。
結論:中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、長期間飛行後の宇宙飛行士に頻繁に、そして優勢に起こった。これらの変化の持続時間および臨床的意義を決定するためには、地球上でしばらくしてから実施される反復するフライト後の画像を含むさらなる調査が必要である。

脳構造の変化は特発性正常圧水頭症(iNPH)のMRI所見に近似
 長期間飛行後の宇宙飛行士に見られる中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、時にVIIP syndromeを伴うことから、ある種の髄液吸収能の障害が生じることを示唆するものである。無重力状態では、髄液よりもやや比重の軽い脳組織が上方へシフトすることにより、矢状静脈洞近傍の静脈構造の圧迫やarachnoid (pacchionian)granulationの閉塞を来たし、CSFや静脈の流出が障害され、頭蓋内圧が亢進するのかもしれない。宇宙飛行が人類にもたらす新たな医学的な問題点として、引き続き研究が必要である。大変興味深いのは、中心溝の狭小化、脳の上方へのシフト、頭頂でのCSFスペースの狭小化は、高齢者の特発性正常圧水頭症(iNPH)に特徴的なMRI所見としても知られていることである。両者に同様の機序が生じているとは考えにくいが、特発性正常圧水頭症では、地球上の重力下で脳組織が上方へシフトするとすれば、脳比重が髄液よりも減少することが、その病態として考えられなくもない。無重力下の脳構造の変化は、重力下の特発性正常圧水頭症の病態診断に対して、新たな視点を提供するものとして注目される。

砂糖の有害性、業界団体が50年隠す?

2017年12月10日 09時14分37秒 | 医療問題
 臭いものには蓋をする・・・いつの時代も権力を握る一部の人がとる常套手段です。
 内容によると「でんぷんの炭水化物に比べ、砂糖は心臓に有害だとする研究発表が1960年代に出始めた。懸念した財団幹部が68年、英バーミンガム大の研究者に資金提供して、ラットで影響を調べたところ、砂糖の主成分のショ糖を与えると、動脈硬化と膀胱(ぼうこう)がんにかかわる酵素が多く作られる」そうです。

 糖尿病ではなく“がん”ですか・・・。

■ 砂糖の有害性、業界団体が50年隠す? 米研究者が調査
2017年11月22日:朝日新聞
 砂糖の取りすぎの有害性について指摘しようとした研究を、米国の砂糖業界が50年前に打ち切り、結果を公表しなかった――。こんな経緯を明かした論文が21日付の米科学誌「プロス・バイオロジー」(電子版)に掲載された。業界が利益を守るために否定的な研究を隠すことで、長期間にわたり消費者をだましてきたとしている。
 米カリフォルニア大サンフランシスコ校の研究者が、米イリノイ大などに保管されていた業界団体「糖類研究財団」(現・砂糖協会)の内部文書を調べ、明らかにした。
 論文によると、でんぷんの炭水化物に比べ、砂糖は心臓に有害だとする研究発表が1960年代に出始めた。懸念した財団幹部が68年、英バーミンガム大の研究者に資金提供して、ラットで影響を調べたところ、砂糖の主成分のショ糖を与えると、動脈硬化と膀胱(ぼうこう)がんにかかわる酵素が多く作られることが分かった。腸内細菌の代謝により、コレステロールや中性脂肪ができることも確認できそうだった。
 研究者は確証を得るため、研究の延長を求めたが、財団は資金を打ち切り、成果は公表されなかったという。70年の内部報告で、当時の幹部は「研究は業界にとって有益で意義のある情報を引き出すべきだ」と述べ、有害性を示唆した研究の価値は「無」だとしている。
 今回の論文について砂糖協会は「50年前の出来事について、推測と仮定をまとめたものだ」と批判。研究の存在は認めつつ、予算や期限が超過したため打ち切られたとしている。(ワシントン=香取啓介)


 もう一つ砂糖関係の記事を紹介します。
 「糖尿病」はわかりやすいですが、「高血圧」のリスクにもなるのですね。
 缶コーヒーマニアの私には、耳が痛い・・・。
 リンゴそのものを食べることと、リンゴジュースを飲むことの比較が興味深い。
 「1日の終わりに飲む水分は糖分が含まれない水にするのが良い」は座右の銘にもなりそうです。

■ 加糖飲料で2型糖尿病や高血圧リスクが上昇
2017/11/23:ケアネット
 近年では生活習慣病対策の一環として、糖類を多く含んだ加糖飲料に課税する国も増えている。「Journal of the Endocrine Society」11月2日オンライン版に掲載されたレビュー論文によると、加糖飲料はやはり肥満の原因となるだけでなく、2型糖尿病や高血圧のリスクを高める可能性のあることが明らかにされた。
 研究を率いたステレンボッシュ大学(南アフリカ)のFaadiel Essop氏は「複数の研究で、加糖飲料を週に2杯飲むだけでもメタボリック症候群や糖尿病、心臓病、脳卒中のリスクを上昇させることが示されているほか、ある研究では加糖飲料を1日1杯飲むと高血圧リスクが高まることが示されていた」と述べている。同氏は、特に加糖飲料により10代の若者の血圧が上昇することに懸念を示している。
 この研究では、加糖飲料の摂取頻度がメタボリック症候群や糖尿病前症、2型糖尿病、高血圧の発症リスクに及ぼす影響を調べた、過去10年間に発表された36件の研究をレビューした。
 その結果、解析対象とされた研究の結果にはばらつきがみられたものの、ほとんどの研究で加糖飲料の定期的な摂取とメタボリック症候群や2型糖尿病リスクとの関連が示されていた。また、加糖飲料の摂取頻度は高血圧リスクとも関連していた。なお、こうした研究の多くは、加糖飲料を週に5杯以上飲む人を対象としていた。
 Essop氏は、メタボリック症候群のリスクが上昇する原因が加糖飲料にあるのかどうかは明らかではないとしつつも、「加糖飲料の摂り過ぎはウエスト周囲長の増大や肥満のほか、インスリン抵抗性や慢性炎症、脂質異常症、高血圧とも関連していた」と述べている。また、同氏によると、摂取カロリーが同じでも加糖飲料では固形物を食べた時のような満腹感が得られにくいことも、食べ過ぎや飲み過ぎにつながる可能性があるという。
 米モンテフィオーレ医療センター臨床糖尿病センター長を務めるJoel Zonszein氏は、果物を例に挙げて、「リンゴには糖分も多く含まれるが、食物繊維が多いため満腹感が得られやすい。一方で、1杯のリンゴジュースにはリンゴ3~4個分の糖分が含まれており摂取すると血糖値が跳ね上がるが、食物繊維は含まれていないため満腹感は得られない」と説明している。
 米国糖尿病学会(ADA)のWilliam Cefalu氏は専門家の立場から、「今回のレビューで対象とされた研究は観察研究であるため因果関係が証明されたわけではないが、糖尿病の有無にかかわらず、1日の終わりに飲む水分は糖分が含まれない水にするのが良いだろう」とアドバイスしている。

米国人が受ける医療、5割が「救急外来」

2017年12月10日 08時29分43秒 | 医療問題
 アメリカの医療事情の一端がうかがえる報告を紹介します。
 同じ統計を取ると、日本ではどうなのでしょう。

 おそらく、アメリカでは医療費が高いので「我慢していたけどもう限界」というレベルまで待って初めて医療機関へ向かうという構図と思われます。
 予防接種も保険診療であり、アメリカはご存じの通り国民皆保険ではないので、任意保険に入っていない人は受けにくいという事情もあります。

■ 米国人が受ける医療、5割が「救急外来」
2017/11/24:ケアネット
 全米の診療データベースを用いた研究から、2010年に米国で提供されている医療の約5割を救急医療が占めていたことが明らかになった。研究を実施した米メリーランド大学医学部救急医学准教授のDavid Marcozzi 氏は「現在の米国の医療システムにおいて、救急科が重要な役割を担っていることが浮き彫りになった」としている。詳細は「International Journal of Health Services」10月17日オンライン版に掲載された。
 Marcozzi 氏らは今回、全米を網羅した複数の病院診療データベースを用い、1996~2010年のデータを分析した。その結果、14年間の一般外来、入院、救急科を合わせた受診件数は35億件超で、この間に救急科の受診件数が約44%増加していたことが分かった。また、2010年の受診件数は一般外来が1億100万件、入院が3,900万件であったのに対し、救急科は約1億3,000件と全体の約5割を占めていた。
 さらに、救急科を受診する患者を人種別にみると、黒人の割合が最も高かった。2010年には黒人が利用した医療サービスの54%を救急医療が占めていた。この割合は都市部の黒人では59%とより高かった。
 このほか、メディケア(高齢者向け公的保険)およびメディケイド(低所得者向け公的保険)の加入者も、救急科の受診率が高かった。また全体の医療に占める救急医療の割合は北東部(39%)に比べて南部で54%、西部で56%と高く、地域差も認められた。
 Marcozzi 氏は「この研究結果には愕然としたが、米国医療の現状について理解する手掛かりが得られた」と話し、特に黒人や公的保険の加入者で救急科の受診率が高いことについて「こうした社会的弱者で救急医療を利用する人が多いのは、医療アクセスの格差に起因しているのではないか」との考えを示している。


<原著論文は>
・Marcozzi D, et al. Int J Health Serv. 2017 Jan 1.

130/80以上は高血圧(米国のガイドライン)

2017年12月08日 17時26分48秒 | 医療問題
 血圧に関する議論が活発化しています。
 日本では高血圧の定義は「140/90」以上でした。
 今回、米国のガイドラインは「130/80」に下げました。
 すると、高齢者の多くは治療対象となります・・・と思いきや、併存疾患がなければ非薬物療法(体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少)を推奨するとの内容ですね。
 早期から高血圧予備軍として自覚を促し、生活習慣を見直すという目的が垣間見えました。

■ 高血圧の定義を130/80に厳格化 〜AHA/ACC高血圧GL改訂
2017年11月16日:メディカル・トリビューン
 米国心臓協会(AHA)と米国心臓病学会(ACC)は、2003年に公表された米国高血圧合同委員会第7次報告(JNC-7)の改訂版となる高血圧の予防、検出、評価、管理のためのガイドライン(以下、新GL)を米国心臓協会学術集会(AHA 2017、11月11~15日)で発表した。これまでJNC-7では140/90mmHg以上を高血圧と定義※していたが、新GLでは130/80mmHg以上に引き下げられた。これにより、米国で高血圧と診断される成人が14%増加するが、そのうち降圧治療が必要な患者は約5分の1であるという。ガイドライン全文はHypertension(2017年11月13日オンライン版)に掲載された。

"Prehypertension"の分類を"Elevated"に変更
 新GLでは、従来の定義による高血圧(140/90mmHg以上)はステージ2の高血圧に分類される。前高血圧(Prehypertension)の分類はなくなり、収縮期血圧(SBP)120~129mmHgかつ拡張期血圧(DBP)80mmHg未満の血圧分類に"Elevated"の用語が採用された(表)。

表.新GLの血圧分類

(Hypertension 2017年11月13日オンライン版)

 新GLでは、診断には正確な血圧測定が不可欠であるとして、2機会2回以上の測定の平均値を使用するよう推奨している。また、白衣高血圧や仮面高血圧を検出するための補助手段として、24時間自由行動下血圧測定(ABPM)と家庭血圧測定(HBPM)にも言及している。

ライフスタイルの変更による早期管理を重視
 新たな高血圧の定義に従うと、米国における高血圧の有病率は従来の32%から46%に上昇するが、大部分には非薬物療法が推奨されるという。新GLでは、ライフスタイルの変更などの非薬物療法による、より早期からの管理の重要性を強調しており、「体重の減少、健康的な食事(DASH食、食塩摂取量の減少、カリウム摂取量の増加など)、身体活動の増加、飲酒量の減少が最も重要である」としている
 ステージ1の高血圧に対しては、「血圧に加えて、今後10年間の動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを"ASCVD Risk Calculator"で算出し、リスクが10%を超える場合または併存疾患(心血管疾患、糖尿病、慢性腎臓病)がある場合のみ降圧薬を処方する。リスクが10%未満の場合は、まずライフスタイルの変更を推奨し3~6カ月後に再評価する」としている。

GL改訂の基礎にSPRINT試験
 薬物療法に関しては、第一選択薬としてサイアザイド系利尿薬、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)を推奨し、「高血圧患者の大部分では複数の降圧薬を併用する必要があり、特定の組み合わせの有効性が示されている」としている。
 また、「1つ以上の併存疾患を有する患者、妊婦を含む女性、高齢者、小児では高血圧管理の内容を調節するよう配慮すべきであり、人種/民族による差も考慮すべきである」との見解を示している。
 米国立心肺血液研究所(NHLBI)などの支援を受けて実施された大規模臨床試験Systolic Blood Pressure Intervention Trial(SPRINT)では、全米約100カ所の医療施設で心疾患リスクが高い50歳以上の高血圧患者9,300例超を対象に、従来よりも厳格な降圧目標値についての検証が行われた。SBP120mmHg未満を目指した厳格降圧群が140mmHg未満を目指した標準降圧群に比べて,心血管イベントリスク、全死亡リスクともに有意に低下させた。新GLの重要項目は、同試験の結果に裏付けられている。


※ 2013年に発表されたJNC-8でも140/90mmHgを高血圧以上と定義、年齢とリスク別に降圧目標を設定
(関連記事:「JNC-8ついに発表,"60歳以上の降圧目標は150/90未満」など9つの勧告"」)


 上記記事の解説です。

【解説】わが国でこそ徹底した降圧を 〜AHA/ACC高血圧ガイドライン改訂のわが国への影響
自治医科大学循環器内科主任教授 苅尾七臣
2017年11月24日:メディカル・トリビューン
〔編集部から〕米国心臓協会(AHA)/米国心臓病学会(ACC)の高血圧ガイドラインが改訂され、高血圧の定義が従来の140/90mmHg以上から130/80mmHg以上に厳格化された(関連記事「高血圧の定義を130/80に厳格化」)。定義の厳格化により、米国では高血圧患者および降圧治療が必要な患者の数が増加することが想定される。米国での改訂が、現在わが国で改訂中の高血圧ガイドラインに及ぼす影響はあるのだろうか。自治医科大学循環器内科主任教授の苅尾七臣氏に解説してもらった。

より早期の認定・診断でイベントを抑制
 今回のAHA/ACCガイドライン改訂で示された明確な方向性は、より早期から、24時間にわたり、血圧レベルを低い状態に保つことの徹底的な加速である。したがって、できるだけ早期から、血圧の上昇を高血圧と認定・診断し、将来のイベント発生に抑制をかけようとするものである。 

高齢者も例外とせず130/80mmHgに
 今回の改訂では、高血圧の診断と治療目標となる血圧レベルを全て130/80mmHgに引き下げた。降圧目標のレベルは、高齢者においても例外とせず、130/80mmHg未満へのより低い血圧へのコントロールを推奨している。
 SPRINT試験の成績(N Engl J Med 2015; 373: 2103-2116)と、ランダム比較試験のメタ解析の成績(Lancet 2016; 387: 957-967)が発表されて、今回、高血圧の管理目標が一変するであろうことは予測できた(Nat Rev Cardiol 2016; 13: 125-126)。循環器イベントの発生は一日にしてならず、しかし、発症は非連続である。病的な著しい血圧上昇(血圧サージ)のあるところに循環器疾患のリスクがある。血圧は循環器疾患の進展と発症の全過程に強く関わることから、血圧をより低いレベルに保つことで、血管障害の進展が抑制され、血圧サージによるイベントのトリガーが回避される。

パーフェクト24時間降圧を重要視
 これまで、わが国の高血圧治療ガイドライン(JSH2014)では、家庭血圧に基づく個別診療を強く推奨し、さらに必要に応じて、24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring: ABPM)の活用を推奨してきた。今回のACC/AHAガイドラインでは、家庭血圧およびABPMの高血圧診断と降圧治療における位置付けを、さらに明瞭化し、白衣高血圧、仮面高血圧、持続性高血圧の血圧閾値を画一化的に130/80mmHgへ引き下げた。また、夜間血圧の治療目標レベルも明記され、110/65 mmHgへ引き下げられている。つまり、24時間にわたる厳格な降圧の達成が、より低い基準値をもって推奨されたことになる。 

アジア諸国へのインパクト
 近年、われわれはWorld Hypertension Leagueの支持を得て、アジアにおける循環器イベント・ゼロおよび高血圧管理・臓器保護の改善を目指して、①これまでのエビデンスをまとめ②コンセンサスを形成し③臨床研究を行うグループHOPE Asia Network (Hypertension, Brain, Cardiovascular and Renal Outcome Prevention and Evidence in Asia) 学術活動―を始めている(Kario K. The HOPE Asia Network for 'zero' cardiovascular events in Asia. J Clin Hypertens 2017, in press)。
 アジア諸国の最も重要な特徴は、①高血圧とより関連の強い脳卒中や非虚血性心不全が多く、さらに②循環器リスクとしての血圧のインパクトが、欧米諸国よりもより強いことが挙げられる(前掲論文)。したがって、ACC/AHAガイドラインの方向性はアジア人においてこそ有用と考えられる。

新規ガイドラインを明日から実地臨床へどう生かすか
 実地診療における最初の一歩は、早朝家庭血圧の自己測定と厳格なコントロールの徹底である。
 次のステップとして、さらにハイリスクの高血圧患者、すなわち夜間高血圧が疑われる慢性腎臓病、糖尿病、睡眠時無呼吸合併例、心血管イベントの既往患者や、血圧変動が著しい患者では、ABPMや夜間家庭血圧計を活用し、全ての時間帯で血圧コントロールを目指すことが、循環器イベント・ゼロへの正しい方向性である(Prog Cardiovasc Dis 2016; 59: 262-281Prog Cardiovasc Dis 2017年11月3日オンライン版)。
 今回のAHA/ACCガイドラインの改訂により、高血圧患者と血圧コントロール不良患者の該当者は増加するが、必ずしも降圧薬による治療強化を推奨するものではない。まずは、生活習慣の徹底した自己修正を指導することが肝要である。 

日本高血圧学会・高血圧治療ガイドラインへの期待
 現在、わが国でも日本高血圧学会が中心となり高血圧治療ガイドラインを改訂中である。ACC/AHAガイドラインが示す徹底した降圧は、わが国においてこそ重要である。システマチックレビューにより最新エビデンスを総括し、専門家のコンセンサスを加えた、わが国独自のより的確な総括的リスク管理ガイドラインが期待される。

糖質制限の是非

2017年12月08日 16時32分46秒 | 医療問題
 ブームとも言える「糖質制限」。
 反対派の意見も聞きましょう。
 と思って下記記事を読んでみたら、「腎機能が低下している人は要注意」だそうで、まあ当たり前と言えば当たり前ですね。
 糖質制限をすると必然的にタンパク質摂取量が増え、タンパク質代謝物の排泄は尿からなので腎臓に負荷がかかるというカラクリです。

 「糖質制限によるダイエット効果は長期には認められない」という報告には根拠が示されていませんので、今ひとつ納得できかねます。
 「糖質制限では死亡率が高くなる」という報告では、「植物性たんぱく質を多く摂取することで解消される」とあり、動物性たんぱく質だけを食べるのはよくないことがわかります。
 植物性たんぱく質とは・・・身近では大豆ですね。

■ 糖質制限は短期効果あるも長期不良か
2016年06月24日:メディカル・トリビューン
 京都府立医科大学大学院内分泌代謝内科学教授の福井道明氏は、第59回日本糖尿病学会年次学術集会(5月19~21日、会長=京都大学大学院糖尿病・内分泌・栄養内科学教授・稲垣暢也氏)のシンポジウム「食事療法の新たなエビデンスを求めて」において低炭水化物食のエビデンスとその功罪を中心に述べ、短期的には減量効果などが認められるが、長期的には生命予後が悪化する可能性もあるとした。

希少糖プシコースに耐糖能改善作用
 福井氏はまず、希少糖の一種でノンカロリーかつ甘味度が砂糖の7割程度の「D-プシコース」が血糖値の上昇を抑え、脂肪蓄積抑制作用やインスリン抵抗性改善作用があることを示した。1〜2年後には大量生産の道が開け、既存の人工甘味料に取って代わる可能性を示唆した。一方、フルクトースは肝臓の脂肪化を亢進させてインスリンの抵抗性を高め、炎症を引き起こすともいわれ、過剰摂取は避けるべきと指摘した。人工甘味料については、マウスに摂取させると腸内細菌叢の変化により耐糖能が悪化するとのデータを示し、今後このようなエビデンスが続けば摂取の推奨を検討する必要があるとした。

糖質制限は腎機能低下例には不向き
 次に、低炭水化物食のエビデンスとその功罪について述べた。
 低炭水化物食群と低脂肪食群で体重に与える影響を比較した研究(Arch Intern Med 2006)を示し、開始後半年間は低炭水化物食群で有意に体重が減少していたが、1年後では両群に有意差はなかったことから、低炭水化物食は減量のため短期的に実施するのが望ましいとした。
 低炭水化物食にすると蛋白質や脂質の摂取は増えるが、高蛋白質摂取が腎機能に与える影響を検討した研究(Ann Intern Med 2003)を紹介。軽度腎機能障害例では、蛋白質摂取の増加により推算糸球体濾過量(eGFR)の有意な低下が見られた(表)。このことから、福井氏は「糖尿病腎症3期例には低炭水化物食を勧めてはならない」と強調した。
 低炭水化物食の長期の安全性を検討した研究(Ann Intern Med 2010)を示し、低炭水化物食を導入すると死亡率が増えたことを明らかにした。炭水化物摂取割合を10段階でスコア化して検討すると、男女とも炭水化物摂取量が少なくなるほど死亡率は有意に高まった。しかし、植物性蛋白質を多く摂取した場合は逆に死亡率が低下した。「低炭水化物食を指導する場合は蛋白質や脂肪の質を考慮して行うべき」とした。
 以上から、同氏は「低炭水化物食の適応は腎機能正常の肥満者が好ましく、食物繊維・ビタミン・ミネラルが不足しないよう野菜を十分摂取し、脂質や蛋白質の質も考慮した食事指導が望ましい」と述べた。


「糞便移植」は確立した治療法と言えるだろうか?

2017年12月01日 10時19分32秒 | 医療問題
 健康な他人のウンチを病人の腸に入れる「糞便移植」。
 効果が報告される一方で、テレビで放送されそのインパクトが先走っている印象がなきにしもあらず。
 ちょっと立ち止まって、冷静に判断しましょう・・・という報告を紹介します。

■ 腸内細菌は本当に効いた? 〜糞便移植の研究で報告されていなかったこと
執筆者:大脇 幸志郎
2017.05.29:Annals of internal medicineから:MEDLEY
 ほかの人の便ごと腸内細菌を移植することが、病気の治療として研究されつつあります。しかし、研究結果を理解するために必要な要素の欠けた報告が多いことが、研究報告の調査によってわかりました。
◇ 糞便移植の研究報告の実態を調査
 フランスなどの研究班が、糞便移植の研究がどのように報告されているかを調査し、結果を医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
 研究班は、文献データベースを検索して、糞便移植の効果や安全性を調べた研究の報告を集めました。
◇ 糞便移植とは?
 腸内細菌は体の免疫のしくみに関わっています。いくつかの病気にともなって腸内細菌も変化することが知られています。糞便移植は、ほかの人(ドナー)の便を患者の腸の中に移植することで腸内細菌を移植し、病気を治療しようとする方法です。

★ 関連記事「抗生物質が効かなかった人が9割治った!腸内細菌を活用する糞便移植の効果

◇ 細菌の中身がわからない報告が58%
 調査により次の結果が得られました。

見つかった85件の出版された報告の大部分(84%)が、糞便微生物叢移植をクロストリジウム・ディフィシル感染症または炎症性腸疾患に対して位置付けており、大部分(87%)が非ランダム化対照試験だった。

 論文として出版された研究報告が85件見つかりました。そのうち84%で、糞便移植はクロストリジウム・ディフィシル感染症(偽膜性腸炎など)または炎症性腸疾患(クローン病・潰瘍性大腸炎)の治療として試されていました。
 通常、治療の効果を調べる研究では、対象者をランダムに振り分け、試したい治療をするか、比較のため別の治療をする(有効成分のない偽薬を使うなど)かのどちらかとします。この方法をランダム化対照試験と言います。ここで見つかった研究報告のうち87%は、ランダム化対照試験ではない方法によるものでした。
 報告の内容について次の結果がありました。

出版された研究の中で報告されていなかった、重要な方法論上の構成要素には次のものがあった。ドナーの適格基準(47%)、糞便を採取するための材料と採取時期(96%)、糞便を保存するための方法(76%)、使用した糞便の量と種類(たとえば、新鮮なのか冷凍なのか)および保存期間(67%)。多くのもの(58%)が微生物叢の構成の分析を報告していなかった。

 報告のうち47%が、便のドナーを選んだ基準を報告していませんでした。
 便を採取するのにどんな道具を使ってどの時期に採取したかは96%が報告していませんでした。
 便を保存する方法は76%が報告していませんでした。
 移植した便の量・種類、保存した期間は67%が報告していませんでした。
 腸内細菌にはどんな細菌が含まれていたかを分析した結果は、報告していないものが58%でした。
 この研究の限界として、研究班は「糞便微生物叢移植にとって最も重要な方法論上の構成要素は何かについて統一的な合意がないこと、また研究が実際にどのように行われたか、出版のプロセスが報告の完全性に影響したかどうかを評価できないこと」を挙げています。

本当に「確かめられている」のか?
 糞便移植の研究報告についての調査を紹介しました。
 研究の方法が適切に報告されていることは、結果を理解するために必要です。
 同じ糞便移植という言葉を使っていても、報告によってやり方が違っていれば、実は別のものを一緒に考えていたということにもなりかねません。また、腸内細菌を変化させることが理論的な前提になっているのに、糞便移植によって実際に腸内細菌が変化したかどうかを確かめられなければ、理論を検証することもできません。
 これまでに報告されている糞便移植の研究については、報告によって正確に何が確かめられるのかに注意して理解する必要があるかもしれません。


<参考文献>
Methods and Reporting Studies Assessing Fecal Microbiota Transplantation: A Systematic Review.
Ann Intern Med. 2017 May 23
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