小児アレルギー科医の視線

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「おくすり手帳」の問題点

2017年10月18日 07時57分46秒 | 医療問題
 「○○医院に通院していても症状がよくならないので来ました」という患者さん、昔は治療内容がわからなくて困りました。
 でも現在は「おくすり手帳」を持参していただくとその処方内容がわかるので医師がなにを考えて診療したのかある程度想像できるようになりました。

 もともとは「医薬分業」目的で始まった院外薬局、そこに派生したのが「おくすり手帳」です。
 現在は「医薬分業」の他に、チェック機能を含んだ「医薬連携」も含むようになりました。
 下記記事は「病名が明記されていないので薬剤師は十分な服薬指導ができない、片手落ちではないか」と主張しています。

■「おくすり手帳」には、決定的な不備がある
2017年10月13日:読売新聞
 医療には、不思議に思うことがいくつもあります。その一つが「医薬分業」のあり方。具体的には、医師が発行する処方せんや、患者が持つ「おくすり手帳」の内容です。
 外来の患者は、医療機関で処方せんを受け取り、それを調剤薬局に持っていって薬を受け取る。そういう院外処方が一般的になりました。おくすり手帳に、過去に受け取った薬の記録を貼り付けておけば、今回の薬を使って不都合がないか、薬剤師がチェックしてくれるわけです。
 しかし、ここに大きな問題があります。処方せんにも、おくすり手帳にも、病名や病状が書かれていないことです。それでは、その薬を本当に使ってよいか、十分にチェックできないのです。
進められてきた医薬分業
 かつては病院や診療所を受診すると、そこで薬も受け取るのが一般的でした。法律上は、明治政府による1874年(明治7年)の「医制」以来、医師が処方せんを発行して薬剤師が薬を出すという医薬分業が建前だったのですが、医師が調剤していた漢方医学の習慣、薬局の不足などにより、骨抜きになっていました。
 やがて問題になったのは「薬価差益」です。薬の種類ごとに医療保険で決まっている薬価(公定価格)に比べ、医療機関が卸会社と交渉して仕入れる薬の値段のほうが、かなり安かったのです。そうすると、医療機関は薬で利ざやを稼げるので、もうけるために薬をたくさん出す傾向が生じているという批判が強まりました。
 その問題の解消を大義名分に1990年代から医薬分業が本格的に進められました。処方せんを発行するのは医療機関。薬を売るのは調剤薬局。それぞれの経営を分離すれば、金もうけのために薬をたくさん使うことはなくなるだろう、というわけです。
 政府は分業を進めるため、院外処方にすればそれなりの診療費が医療機関に入るように診療報酬の付け方を変えました。その結果、今では院外処方が主流になり、調剤薬局が大幅に増えました。厚生労働省は、薬の卸値の実勢を調べ、薬価と卸値の差額の大きい薬は薬価を下げてきたので、医療機関が院内で処方しても薬価差益が小さくなったという事情もあります。
薬剤師によるチェックも狙う
 医薬分業のもう一つの大義名分は、薬の処方内容を薬剤師がチェックするという点です。医師が薬の処方を間違えることはあります。薬剤に関する知識不足で間違えたり、似たような名前の薬と間違えたり、用量を間違えたり……。診療所の場合は薬剤師がいることがまれですが、院外処方なら、調剤薬局の薬剤師のチェックが入るわけです。
 「おくすり手帳」はとくに、複数の医療機関にかかっているときに役立ちます。薬の中には、別の薬と一緒に使うと、効き目が妨げられたり、作用が強くなりすぎたり、有害な現象が生じたりするものがあります。そういう「相互作用」や「併用禁忌」を薬剤師が電子データベースを使いながらチェックします。処方内容自体に矛盾点がないかも点検します。
十分な役割を果たせない現状
 ところが処方せんにも、おくすり手帳にも、病名や病状は書かれていません。このため調剤薬局の薬剤師は、病名や病状を正確につかめません。そこで処方された薬の種類から推測して、患者に「○○病と言われたのですか?」「どんな症状があるのですか?」と尋ねたりします。患者にとっても薬剤師にとっても、もどかしいやりとりです。しかも患者が病名を正確に伝えられるとは限りません。
 ということは、病名や病状に合った薬かどうか(薬の適応)という根本的な問題をチェックできていないわけです。薬剤師は、必要なら処方せんを書いた医師に問い合わせる「疑義照会」ができますが、そもそも病名さえ正確につかめない状態では、問い合わせるのに勇気が要るでしょう。
 さらに問題なのは、病気の種類によって、この薬は絶対にダメという「禁忌」や、この薬は要注意というケースがけっこうあるのに、そのチェックがきちんとできないことです。薬による健康被害が起きる可能性が残ってしまいます。
 それでは、せっかく薬剤師がいても、十分な役割を果たせません。なぜ、そんな中途半端なチェック役に長年、甘んじているのか、不思議です。日本薬剤師会に尋ねると「問題意識は持っているが、改善の要望を明確に打ち出してはいない」とのことです。
 処方せんの発行義務は1951年の法改正で医師法・歯科医師法に盛り込まれました。処方せんの記載事項は、医師法・歯科医師法の施行規則が定めています。なぜ記載事項に病名が入っていないのか、厚労省に尋ねても、はっきりしたいきさつはわかりませんが、「当時はまだ、患者に病名を伝えるのが当然という感覚が薄かったからかもしれない」と、医薬・生活衛生局の担当者は話しています。
処方せんに医師が病名・病状を書くことは可能
 改善のためにどうすればよいか。必要なのは、医師が処方せんに病名や主な病状を書くことです。昔と違い、がんや精神病を含めて、病名は患者本人に知らせるのが一般的になりました。もし日本語で病名を書くことに、どうしても抵抗感があるなら、国際疾病分類の記号(ICDコード)で病名を示す方法もあります。
 原則として病名を記載するよう、医師法施行規則を改めることができれば、いちばんです。また現状でも、施行規則が定めているのは最低限の記載事項なので、医療機関の判断で処方せんに病名や病状を書いても問題ありません。京都大病院は2013年10月から検査値、15年4月から病名を必要な場合に記載しています。同様の取り組みをしている医療機関はほかにもあるようです。さしあたり、そういう取り組みを厚労省が推奨してはどうでしょうか。
 電子データとして個人の診療情報を医療機関と薬局が共有する方法もあります。すでに地域医療連携の一環として共有している地域もあります。ただし、病名を含む高度なプライバシー情報をネット利用でやりとりするのは、ミスや不正アクセスで多数の患者の情報が一挙に流出する危険を伴うため、万全の防止策が必要です。
おくすり手帳に自分で書き込んでも
 今でも患者自身がやれるのは、おくすり手帳に病名や病状を自分で書き込み、検査データなども貼っていくことです(他人に絶対に知られたくない病名でなければ)。ただし落とし物や忘れ物をしないよう、十分に注意する必要があります。(原昌平 読売新聞大阪本社編集委員)


 私も診療で日常的に「おくすり手帳」を見る立場にいますが、時々疑問に思うことがあります。
 それは「ステロイド薬」の扱いです。
 もちろん、ステロイド薬は炎症を強力に抑えてくれるので治療に必要だと判断されたことに異論はありません。
 しかしステロイド薬(商品名はいろいろあるので患者さんにはわかりません)が処方されていても、「この薬はステロイド薬なので・・・の副作用があります」とは書いてありません。
 さらには処方した医師からもステロイド薬である旨の説明がないというのがほとんど。

 これはいったいどういうこと?
 副作用の説明をすると面倒だから、医師も薬剤師もスルーしているのでしょうか?

 実はステロイド薬には、いろいろ有名になった副作用の他に、小児科医にとって無視できない問題も発生します。
 それは免疫力も抑制するため「ワクチンの効果が落ちる」ことです。
 さらに云うと「生ワクチンでは発症の危険がある」「不活化ワクチンではやり損になる」のです。

 以前、こんな事がありました。

 予防接種で来院したお子さんが、問診の際に皮膚疾患で皮膚科通院していることがわかり、お薬手帳を確認させていただきました。
 するとそこには「リンデロンシロップ」という名前がありました。
 これはステロイド薬です。
 予防接種を担当している私にとって、それが説明されていないのは困ります。
 もう1週間飲み続けているとのこと、その時は予防接種を延期して、治療が終了してから再度予約していただくことにしました。
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