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小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際」

2024年06月24日 06時58分23秒 | 新型コロナ
現在は「後遺症」ではなく「罹患後症状」と呼ぶことになりました。
その理由は、コロナ感染後の体調不良は後遺症だけではなく、
別の病気がたまたまそのタイミングで発症した、
“紛れ込み”の可能性も低くないからです。

当院は「コロナ後遺症診療医療機関」です。
研修の一環として以下のレクチャーを視聴しました。

■ 子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の診療の実際
堀越裕歩Dr.(東京都立小児総合医療センター総合診療部)

知識の整理に役立ちました。
また、後遺症外来のチェックポイントもわかりました。

一つ新しい情報として生活指導(Pacing)があります。
簡単に云うと「頑張らない」「無理しない」こと。

ふつう、ケガの後のリハビリテーションは、
失われて機能を取り戻すために一生懸命に励む、
というイメージがありますが、
これをコロナ罹患後症状に当てはめてはいけない、
もし負荷が大きいと、その後の体調不良の増悪が必至で、
寝たきりになってしまうそうです。

これは罹患後症状をたくさん診療している平畑先生も強調していました。

備忘録としてメモ書きを残しておきます。

■ コロナ後遺症/罹患後症状の状況
・急性の新型コロナ感染症から回復した人で、
 だるさや息苦しさが続くことが報告された。
・軽い感染でも、長引く症状(倦怠感、嗅覚障害、疼痛など)が報告された。
・現在200以上の多彩な症状が報告されている。

■ コロナ罹患後症状の定義
・WHOが「Post COVID-19 condition(PCC)」と定義 ・・・日本語訳が「コロナ罹患後症状」
① コロナ罹患後3ヶ月以内に発症
② 2ヶ月以上遷延する
③ 他の疾患が否定されたもの
・日本では、コロナ罹患後に起きた前後関係にある症状を、
 コロナとの因果関係を問わずにひっくるめて、
 “コロナ罹患後症状”と呼んでいる。



■ 小児でよくある症状
・痛み系
 頭痛、四肢の痛み、腹痛、胸痛、背部痛など
・感覚器系 
 味覚異常嗅覚異常など(わからない、違うように感じる)
・その他
 だるい、集中できない(Brain Fog =頭に霧がかかる)、疲れやすい、息苦しい、
 立ちくらみ、力が入らない、朝が弱い、薄毛など

■ 小児の罹患後症状:思春期小児でのリスク因子(イギリス、2022)
・思春期後半>思春期前半
・女子>男子
・もともとの身体的、メンタルの健康が低い

■ 小児の罹患後症状:ノルウェーからの報告(JAMA)
・対象年齢:12〜25歳
・コロナPCR陽性者、陰性者の6ヶ月後のコロナ罹患後症状の有無
・コロナPCR陽性者 vs 陰性者=48.5% vs 47.1%と有意差なし。
・リスク因子:症状が重い、身体的活動性が低い、寂しさがある
→ コロナ罹患後症状は存在するのか?

■ 都立小児総合医療センター・コロナ後遺症外来のデータ(2022)
・対象:24名
・年齢:中央値12.5歳
・男女比:男70.8%、女29.2%
・時期:デルタ株期37.5%、オミクロン株期62.5%
・コロナワクチン2回接種済み:37.5%

コロナ発症から罹患後症状が出るまでの期間
 (7日未満)29.1%
 (7-28日以内)50.0%
 (29-56日以内)12.5%
 (57-84日以内)8.3%
 → 8割が罹患後1ヶ月以内

症状
 倦怠感・易疲労感:16名
 頭痛:12名
 異常味覚:7名
 異常嗅覚:7名
 四肢以外の痛み:6名
 Brain Fog:5名
 味覚消失:4名
 嗅覚消失:4名
 脱毛:3名
 四肢の痛み:3名
 咳嗽:3名
 呼吸苦:2名
 下痢:2名
 力が入らない:1名
 悪心・嘔吐:1名
 不眠:1名
 知覚麻痺:1名
 幻聴・幻覚:1名
・・・統計学的の優位にデルタ株期に多い症状は「異常味覚」
 統計学的に優位にオミクロン株期に多い症状は「Brain Fog」

学校欠席期間
 (なし)37.5%
 (4週未満)20.8%
 (4-8週)16.7%
 (9-12週)12.5%
 (>12週)12.5%
 → 4割が1ヶ月以上欠席していた。

予後(フォロー期間の中央値 4.5ヶ月)
 (寛解/治癒)29.2%
 (改善)54.2%
 (不変)4.1%
 (増悪)0%
 (不明)12.5%
 → 8割以上がよくなっている。

■ コロナ後遺症外来・初診時の確認事項
・コロナ感染既往(検査方法)
・コロナワクチン接種歴
・コロナ急性期症状・重症度
・コロナ罹患後症状のはじまりと経過
 ✓ 罹患してから持続?
 ✓ 罹患後急性期症状は改善して一旦元気になったが、〇週間後から増悪
 ✓ 増悪時期のイベント(新学期開始など)

■ コロナ後遺症外来・問診内容
・身体的疾患、アレルギーの有無
・発達歴、人見知りの有無、対人関係、学校での成績、不登校歴
・前医の投薬歴:鎮痛剤の効果、漢方薬への反応
・生活歴:前にできていて今できなくなったこと、起床や就寝時間、
     睡眠障害の有無、食欲、抑うつ

■ コロナ後遺症外来・器質性疾患の除外
・身体診察
・症状に応じて以下の検査をオーダー:
 ✓ 血液:一般検査の他に甲状腺機能、亜鉛(皮膚症状、脱毛症状があるとき)
 ✓ 検尿
 ✓ 胸部レントゲン
 ✓ 心電図
 ✓ 呼吸機能検査
 ✓ 脳MRI
 ✓ 起立性調節障害(OD)テスト
 → 異常がなければ安心材料として説明できるメリットも

■ コロナ後遺症で紹介された患者の3割が別の病気
(例)
・倦怠感 → 鉄欠乏性貧血
・呼吸苦 → 気管支喘息
・母子分離不安 → 広汎性発達障害
・戸締まり不安 → 強迫神経症

■ コロナ後遺症外来・初診時のアプローチ
・まずは器質性疾患のスクリーニング(除外診断)
・実際の診療は不登校児の対応に近い
 ✓ 学校は無理強いしない
 ✓ 生活リズムで昼夜逆転しないように
 ✓ OD症状で朝が弱いときは、ODに応じたアドバイス
・見通し(だいたい3-6ヶ月でほとんどの子がよくなります)を伝えることが一番大切
・・・本人家族はこの点を一番不安に思っている。
・コロナと関係ない不登校の場合も8割程度が復帰できていることを伝える。

■ コロナ後遺症外来・困っていることへの対応
・痛み系  → 鎮痛剤(なぜか腹痛にもアセトアミノフェンが効く?)
・倦怠感  → 生活の Pacing を指導、できることをする
・起立性調節障害 → 生活指導、投薬
・嗅覚・味覚系 → 違うモノに感じているときはイメージトレーニング、
        耳鼻科に紹介(ステロイド点鼻、亜鉛など)

■ コロナ後遺症外来・本人への接し方
・コロナ罹患後症状で“つらい”ということを理解する。
・つらいことへの共感的な態度を取る。
・・・間違っても「サボっている」などの責めるような言動は避ける
・本人のできる範囲で参加しやすい環境を整える。
(例)オンライン授業など

■ コロナ後遺症外来・生活の Pacing 
・症状に合わせて、日常活動と休養のバランスを取るリハビリの方法で、
 様々な慢性疾患で用いられている。
・できないことは無理せず、できる範囲に生活の強度を合わせる。
・過度の活動は、その後に強い疲労感が来るので避ける。
・現実的な目標を設定するとよい。
(例)午後に調子がよいなら、午後に少し散歩をする。

■ コロナ後遺症外来・Pacing のコツ
1)本当に身体的に動けないタイプ
・倦怠感が強くて、移動が車椅子や松葉杖歩行
・神経学的な診察や検査は異常なし
 → 身体的症状に基づいて目標を設定
2)精神的不調がメインで身体的には大きな制約がないタイプ
・症状の割には、困った感、切迫感がない。
・学校へは行けないけど、習い事の運動はできる。
 → モチベーションが上がる活動を勧める。

★ ペーシング(Pacing)の少し詳しい説明

後遺症が疑われる子どもに接する周囲が気をつけるべきこと;
・着替えること、お風呂に入ること、学校に行くことなど、
 今までできていたことが困難になることがあります。
・元の生活に戻れないのは「怠けているから」「甘えているから」ではありません。
・まずは周囲が本人のつらい症状を理解し、受け入れる姿勢を示しましょう。
・頑張りすぎると、症状がぶり返し、動けなくなることもあります。

回復に向けてのリハビリ方法に「ペーシング」があります。
ペーシングとは、症状に合わせて、日常の活動と休養のバランスを取るリハビリの方法です。
①今日、すべきことは?
②今日、やりたいことは?
③他の日に延期できることは?
④周りに頼めることは?
などを考え、無理をせず過ごすことが大切です。

・日々の活動で気をつけること
✓ 無理せずできる範囲のことをする
✓ 頑張りすぎない(余力を残す)
✓ 自分のペースで活動する
✓ 周りに手伝ってもらう
✓ 元の生活に戻るためには時間を要することを理解する

・回復のため心がけたいこと
✓ 十分な睡眠をとる
✓ バランスのよい食事を摂る
✓ できる範囲で少しずつ体を動かす
✓ 周囲とコミュニケーションを取る
✓ リラックスできる習慣を見つける
✓ 日々の活動や趣味の時間を少しずつ増やす

・無理せず回復するための3つのP(イギリスのNHSが推奨)
Plan:1日または1週間の計画を立てよう
・「タスク(やるべきこと・課題)」と「やることが難しいこと」は何かを明らかにする。
・一つのことが終わったら休憩を取る等、無理をしない。
Pace:自分のペースで過ごそう
・コロナ罹患前と同じとは考えず、スローダウンを心がける。
・「やり過ぎる」前に休む。
Priorities:優先順位を立てよう
・「やるべきこと」だけでなく「自分の楽しいと思うこと」
 「好きなこと(音楽を聴いたり、ペットの世話をすることなど)を取り入れる。

■ コロナ後遺症外来・不登校について
・文化省調査(2020年度);
 小学生:1.0%、中学生:4.1%、高校生:1.4%
・コロナ罹患によるストレス、感染対策による制限や
 社会の雰囲気による心理的な影響がトリガー?
・親は心配しているので以下のことを伝える;
 ✓ コロナにかかわらず不登校はよくあること
 ✓ ほとんどが復帰していける
 ✓ 今は一時的に体や心へのケアが必要

■ コロナ後遺症外来・時にはコロナと切り離して考える
・身体や精神疾患、発達障害などがあると、
 コロナ罹患後症状のリスクで、
 コロナと関係なしに症状を呈してくることがある。
・コロナに罹ったことは変えられないので、
 すべてコロナのせいでよくならないと固定的に捉えると前に進めない。
・コロナはキッカケだったかもしれないけど、
 今ある症状とは関係ないでしょうと説明して、
 通常の思春期の問題として診療していく。
 
■ 慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎
(chronic fatigue syndrome, CFS / myalgic encephalomyelitis, ME)
・定義(NICE guideline 2021)
 ✓ 3ヶ月以上の症状の持続
 ✓ 活動によって疲労の増悪、休養で完全に回復しない
 ✓ 睡眠で回復しない、睡眠の障害
 ✓ 認知障害(Brain fog)
・活動が過剰だと、疲れてしまい増悪する
 → 疲れない程度に活動を制限(すると徐々に改善に向かう例が多い)

■ 小児精神科に紹介する目安
・自殺企図、希死念慮、自傷他害など
・精神症状が遷延する
(例)幻覚、など
・強い抑うつ、その他の精神疾患が疑われる
・コロナ罹患後症状が長引き、精神的ケアが必要

■ 患者と家族の不安に寄り添う
・できなくなったことよりも、できることに目を向ける。
ほとんどの小児は快方に向かうことを伝える。
・Positive なメッセージを伝える。

■ コロナ罹患後症状の自然歴
コロナ罹患後・・・
(2ヶ月以内)倦怠感、味覚・嗅覚異常 10-20%
(3ヶ月以内に2ヶ月以上の症状がある) 1-2%
 リスク因子:中学生以上、女子、身体/精神疾患あり
 不登校が問題になる(都立小児では約3割)
(6ヶ月以内)80-90%くらいが改善、あるいは治癒
 改善しない場合:発達障害、OD、不登校

■ コロナ罹患後症状の対応のまとめ
1)器質性疾患の否定
2)痛みの管理、生活のPacing、不登校管理、OD管理
3)ほとんどが時間経過でよくなること、
  できる範囲のことをやること、
  楽しいことを見つけること、等を伝える。
4)長引く場合は、発達の評価などを考慮


<参考>
▢ 新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き
 別冊「罹患後症状のマネジメント」第3版
(厚生労働省、2023年)
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子どものコロナ後遺症の現状と対応「小児のコロナ後遺症の疫学ほか」

2024年06月23日 15時46分41秒 | 新型コロナ
当院は「新型コロナ後遺症相談医療機関」に指定されています。
知識のアップデートとして下記講演を視聴しました;

勝田友博Dr.(聖マリアンナ医科大学)(2023.10.1)

知りたいことを教えてくれる有意義なレクチャーで、
知識の整理に役立ちました。

おや?と感じた点;
(聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来のデータより)
・コロナ後遺症疑い」として紹介される患者の1/4の最終診断は別の疾患であった。
・投薬は対症療法薬のみで、解熱鎮痛剤が一番多かった。
・約1/4に精神科領域(精神科・心理師)の介入が必要だった。

・・・つまり、「小児科医にできることは“傾聴”以外にあまりない」というさみしい結論。

以下は備忘録(メモ書き)です。

■ Long COVID の定義
・COVID-19の急性期から回復した後に新たに出現する症状と、
 急性期から持続する症状がある。
・症状の程度は変動し、症状消失後に再度出現することもある。
・症状持続期間の設定が各国で異なる
(WHO:世界)3ヶ月経過して時点でも確認され、かつ少なくとも2ヶ月以上持続
(NICE:英国)12週以上持続
(CDC:米国)少なくとも4週間以上持続
(厚労省:日本)WHOの定義を引用

■ 小児 Long COVID の定義(「新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き」より)
・以下のような症状(少なくとも一つは身体的な症状)を
 子どもまたは若年者(17歳以下)の小児が有する状態
① COVID-19であることが検査によって確定診断された後に継続して、
 または新たに出現した症状
② 身体的、精神的、又は社会的な健康に影響を与える症状
③ 学校、仕事、家庭、人間関係など小児の日常生活に何らかのかたちで支障をきたす症状
④ COVID-19の診断がついてから最低12週間持続する症状(・・・必ずしもすべてこれで評価されていない?)
(その間、症状の変動があってもよい)

■ Long COVID 想定される病態(諸説あり)
・急性期に生じた臓器障害(特に肺)の遷延
・体内残存微量のウイルスによる持続感染に伴う症状
・ウイルスによる血液凝固機能亢進と血管損傷
・ウイルスによるレニン・アンギオテンシン系の調節障害
・ウイルスに対して賛成された交代による宿主組織に対する交差反応(免疫調節障害)
〜以上の複数の病態が複合的に関与している可能性もある。
★ 小児はもともと機能性身体症状を呈することが多く、
 心理社会的ストレスに伴い心身症となりやすい。

■ 小児 Long COVID のリスク因子
・思春期
・女性(?)
・重症COVID-19罹患
・肥満
・アレルギー疾患合併
・長期療養歴
・身体的精神的健康不安
〜以上の複数の因子が併存している可能性あり。

■ 小児 Long COVID の有病率(メタアナリシス)
・有病率:1.6〜70%
・コントロール群(非罹患群)でも類似症状あり ・・・紛れ込みの可能性も

■ 小児 Long COVID の臨床症状(21 studiesのメタアナリシス)
・有病率:25.2%
・三大症状:気分障害、倦怠感、睡眠障害

■ 小児 Long COVID の臨床症状〜出現時期(UKの報告)
・有病率:4.4%
・三大症状
(倦怠感)急性期からずっと続く
嗅覚障害罹患2週間後くらいから出現し続く
(頭痛)急性期が一番強く漸減傾向

■ 小児における Long COVID 日本国内のデータ(ただし半数は入院患者)
・有病率:4.0%
・主な症状:
(発熱)30%
(咳嗽)30%
(嗅覚障害)17%
(倦怠感)16%
(味覚障害)14%
(腹痛)9%
(頭痛)8%
(下痢)8%
(悪心・嘔吐)5%

■  Long COVID はワクチンで予防できるか?
1.2回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.64)。
2.2回接種 vs 1回接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン2回接種群は、1回接種群と比較し Long COVID のリスクが低下する(OR:0.60)
3.1回接種 vs 未接種(ただし成人のデータ)
・ワクチン1回接種群は、未接種群と比較し Long COVID のリスクは変わらない(OR:0.90)

■  Long COVID は発症後のワクチン接種で改善できる?(2023年の報告)
〜さまざまな報告があり、一定の結論は出ていない。
(改善)20.3%
(悪化)20.5%
(不変)54.5%

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の治療内容
投薬なし(傾聴)  ・・・ 45%
アセトアミノフェン ・・・ 35%
イブプロフェン   ・・・ 7%
ロキソプロフェン  ・・・ 7%
プロプラノロール  ・・・ 7%(体位性頻脈症候群に対して)
ミドドリン     ・・・ 3%(起立性調節障害に対して)

■ コロナ後遺症を主訴に紹介された患者(42名)の最終診断
・23.8%(約1/4)は他疾患
(LC)16名
(OD+LC)8名
(POTS+LC)5名
(MIS-C+LC)1名
(OD+POTS+LC)2名
(心身症)8名
(IBS)1名
(ADHD+ASD)1名

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来の通院状況
(終了)74%
(継続)17%
(自己中断)7%
(逆紹介)2%
・・・外来follow終了までの期間はさまざまで一定しないが、半年程度が一番多い。

■ 聖マリアンナ医科大学小児科・コロナ後遺症外来における精神科・臨床心理士による介入割合
(臨床心理士)19%
(精神科)10%
(なし)71%
・・・約1/4は心理系の介入が必要であった。

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学校におけるマスクの効果2023

2023年06月05日 06時42分59秒 | 新型コロナ
2023年5月8日に新型コロナの法律上の扱いが2類相当から5類相当へ変更され、
現場では感染対策が緩みました。
それとともに、季節外れのインフルエンザが日本各地で流行しています。
この現象は、
「いかにマスクが有効であったか」
を如実に表しています。

しかし現実社会では、
マスク着用によるメリットとデメリットをはかりにかけて、
どちらを選択するかを判断することになり、
日本ではマスクをして感染症流行を抑えるよりも、
経済活動やヒトの表情が見えた方が子供の成長にとってベター、
ということになったのでしょう。

新型コロナの厄介なところは、
年齢層や持病により重症化リスクが大きく異なることです。
ですから一律に「マスク着用」あるいは「マスクなし」という指示は、
どちらかからクレームが発生することが想定されます。

医療者から見ると当たり前のことですが、
学校におけるマスク着用が有効であったという最近の報告を紹介します。


学校でのコロナ感染対策、マスクの効果が明らかに
ケアネット:2023/05/31)より一部抜粋; 
…スイスの中学校で実施された研究において、マスク着用の義務化はウイルス感染に重要な役割を果たすとされるエアロゾルの濃度を低下させ、SARS-CoV-2感染リスクを大幅に低減させたことが報告された。本研究結果は、スイス・ベルン大学のNicolas Banholzer氏らによってPLOS Medicine誌2023年5月18日号で報告された。
 研究グループは、2022年1~3月(オミクロン株の流行期)において、スイスの2つの中学校(90人、1教室あたり平均18人)を対象として、マスク着用や空気清浄機の有無によるSARS-CoV-2感染リスクの変化を検討した。
 7週間の期間(マスク着用義務化[学校A:2週間、学校B:4週間]、非介入[それぞれ3週間、1週間]、空気清浄機使用[いずれも2週間])において、疫学データ(新型コロナウイルス感染症の症例)、環境データ(CO2濃度、エアロゾル濃度など)、分子データ(唾液とバイオエアロゾル[ウイルスなどの生物に由来する粒子])が収集された。
【結果】
(SARS-CoV-2が含まれた唾液サンプルの割合)
非介入時11.5%、マスク着用義務化時5.7%、空気清浄機使用時7.7%
(SARS-CoV-2が含まれたバイオエアロゾルサンプルの割合)
非介入時8.1%、マスク着用義務化時7.1%、空気清浄機使用時5.0%
(SARS-CoV-2感染リスク)
非介入時と比べてマスク着用義務化時で低かった(調整オッズ比[aOR]:0.19、95%信用区間[CrI]:0.09~0.38)。空気清浄機使用時は非介入時と同様であった(aOR:1.00、95%CrI:0.15~6.51)。
・試験期間中、マスク着用義務化によりSARS-CoV-2感染が9.98件(95%CrI:2.16~19.00)回避されたと推定された。

<原著論文>

スイスの小学校では一クラス18人という数字にまず、驚きました。
それはさておき、
「マスク着用義務化により感染リスクが81%減少した」
という結果にうなづいた次第です。

私は医療者で日々発熱患者に接触し、
かつ持病もちでハイリスクなので、
診療中のN95マスク着用は続ける予定です。

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オミクロン株以降の新型コロナ、小児患者の特徴

2023年04月01日 06時04分49秒 | 新型コロナ
2023年4月現在、新型コロナの第8派がほぼ終息し、
ニュースのトップを飾る頻度が減りました。
5/8には感染症法上の取り扱いが、
2類相当 → 5類相当に格下げされることも決まっています。

「もう、新型コロナはふつうの風邪になった」
と安心してよいのでしょうか?

今までの経緯を振り返ることにより、
今後、新型コロナとどうつき合っていくべきか、
考えてみたいと思います。

情報・データは主に森内浩幸先生(長崎大学小児科教授)の、
WEBレクチャー視聴時のメモから書き起こしました。

ポイントを列挙すると、
・新型コロナの進化株は感染力が強くなっているが、必ずしも弱毒化していない。
・オミクロン株においても、季節性インフルエンザより致死率が高い。
・mRNAワクチンはCOVID-19の重症者・死亡数を確実に減らした。
・ハイブリッド免疫(ワクチン接種後の自然感染)が最強。
・mRNAワクチンは当初の高い感染予防効果は期待できなくなったが、重症化予防効果は一定期間期待でき、その維持には追加接種が必要。
・重症化しない年代(高齢者以外)に対するワクチン追加接種の必要性は減少した。
・重症化しない年代でも基礎疾患のある人にはワクチンは強く推奨される。
・日本を含むアジアではオミクロン株によるけいれん・急性脳症の頻度が高く要注意。

▢ 新型コロナウイルスの進化をみんな勘違いしている?
〇 感染力が増す
✖️弱毒化する
 ・・・武漢株 → アルファ株 → デルタ株、までは病原性が強くなった
 オミクロン株で初めて弱毒化したが、今後もこの傾向が続くかどうか予測不能。
 歴史上、他のウイルスの進化を見ても弱毒化が進んだものは多くない。

▢ ウイルス感染症の致死率の比較
・エボラウイルス:90%(ザイール)〜50%(スーダン)
・インフルエンザ
(H5N1)60%
(スペイン風邪)2.5%
(2019新型)0.4%
(季節性)0.01-0.09%
・新型コロナウイルス
(デルタ株)1.2-1.6%
(オミクロン株)0.13%
 → オミクロン株が弱毒化したと言っても、
 まだ季節性インフルエンザより致死率は高い

▢ 新型コロナウイルスの致死率:高齢者とそれ以外の比較
          60歳未満  60歳以上   
(オミクロン株)   0.01%   1.99%
(デルタ株:BA1/2)  0.08%   2.5%
(季節性インフル)  0.01%   0.55%

▢ 新型コロナワクチンは役に立ったのか? → YES!
・2020〜2021年の1年間に世界中で約2000万人の命を救ったと推計(Lancet)
・2020〜2022年の2年間に米国で326万人を救命し、約2000万人の入院を減らし、
 かつ1億2000万人の感染を減らした。
・ワクチン接種率が高い国ほど致死率が低い。
(日本)接種率 80% → 致死率 0.01%
(イスラエル)接種率 64% → 致死率 0.04%
(英国)接種率 71% → 致死率 0.06%
・米国ではワクチン接種率が高い州と低い州では致死率が2倍異なっている。
(上位10州)接種率 73% → 死亡率 0.07%
(下位10州)接種率 52% → 死亡率 0.14%

▢ デルタ株では低く抑えられた日本の高齢者死亡が、なぜオミクロン株で増加?
・日本のワクチン接種は開始が遅れたが、
 2回接種は最終的に欧米諸国を抜き去った。
・しかし3回目接種は先進国中絶望的に低い数字にとどまった。
 → このタイミングでオミクロン株が流行した。
 高齢者への直近の接種率の差が大きな違いを生んだ。

▢ 新型コロナのような新興・再興感染症がふつうの風邪になる二つの経路+ONE
・自然感染による集団免疫獲得 → 多くの犠牲者を生む。
・ワクチンによる集団免疫獲得 → 犠牲者は少ない。
・ワクチン接種+自然感染によるハイブリッド免疫 → 犠牲者は少ない。

▢ ワクチンによる入院防止効果は減衰するが追加接種で取り戻せる
・オミクロン株流行期の高齢者の入院防止効果は、
 接種後5ヶ月で30-40%まで落ちた。
・しかし追加接種(ブースター)で70%台まで回復した。
・もともと入院することがまれな若年者では効果が見えてこない・・・。

▢ 新型コロナワクチンの役割の変化
・当初、感染予防効果が90%以上だったため、
 ワクチン接種により集団免疫を確立し、流行を終息させることが期待された。
・しかしオミクロン株登場により、感染防止効果が弱く持続も短くなり、
 流行拡大阻止が期待できなくなった。
 重症化阻止効果は期待できるが持続期間が短くなった
(ハイリスク者には繰り返し接種が必要)。
・重症化リスクのある人には重要なワクチンのままであるが、
 重症化リスクのない人には繰り返し接種の意義が薄れた。
・ワクチン接種により重症化リスクを抑えた後、
 自然感染するハイブリッド免疫が望ましい。

▢ ワクチンを接種すべきか止めるべきか、考えるべき要素
・ワクチンの有効性や安全性。
・予防目的の感染症の(その人にとっての)重症度、罹る可能性の大小。

▢ パンデミック当初子どもの感染が少なかった理由
・受容体(ACE2)やTMPRSS2の発現は大人より約2割低い。
・肺活量が小さいため、ウイルスの排出も吸い込みも少ない。

▢ 今、子どもの感染が増えてきた理由
・未感染・ワクチン未接種で免疫を持たない割合が大きい。
(大人は既感染やワクチン接種済みで免疫を持っている割合が大きい)
・子どもの鼻粘膜上皮細胞では、
 大人のそれと比べて武漢株やデルタ株のウイルスは優位に増えにくかったが、
 オミクロン株では大人同様よく増えるようになった。

▢ 従来の感冒コロナウイルス
・感冒コロナは風邪の原因ウイルス全体の15%を占める。
・4種類:NL63、229E、OC43、HKU1
・4-6歳までに4種類全部に全員感染する。
・COVID-19もほぼすべての子どもが感染するはず。
 → ふつうのかぜウイルスになる条件

▢ COVID-19感染者致死率の年齢別変化
・Jカーブを描く。
・7歳が最もリスクが低い。
・米国の報告(2021-2022年):乳児で死亡数が多く、1-14歳で最も死亡率が少ない。
・2歳頃まで下気道・肺の発達が続き、
 2歳未満では解剖学的・生理学的に呼吸不全に陥りやすい
(2歳未満の下気道感染症は後遺症を残す可能性あり)。

▢ 4歳未満の小児におけるCOVID-19と他の感染症の致死率の比較
(COVID-19)0.00070%
(インフルエンザ)0.0073%
(RSV)0.1%
(ロタ胃腸炎)0.00017-0.0015%
(麻疹)(1歳未満)3.03%、(1-4歳)1.63%
 ・・・怖い順に、麻疹 > RSV > 季節性インフルエンザ > COVID-19 > ロタ

▢ 子どもと大人の免疫の違い
COVID-19の重症度は上気道粘膜における自然免疫力と逆相関する。
(子ども)
・自然免疫が強く新しい病原体への対応可能。
・獲得免疫はナイーブでこれから。
・全身性の過度な免疫応答は起こりにくい。
(大人)
・自然免疫が弱く新しい病原体への対応が不得手。
・獲得免疫は完成している。
・全身性の過度な免疫応答を起こしやすい。

免疫老化(Immunosenescence)
特徴)
・特異的抗原に対する免疫応答の低下
・炎症反応の亢進傾向(Inflamm-aging)
臨床像)
・病原体に対する易感染性
・ワクチン効率の低下
・炎症反応の慢性・遷延化
★ 小児期のBCGや麻疹ウイルスなどに対する免疫記憶は、
 生涯にわたって保持される。
 その一方、老齢期における新規の感染症では、
 病態回復が遅く炎症が遷延し、
 特異的免疫記憶も成立しにくい。

▢ COVID-19の重症化では何が起こっているのか?
・病初期:ウイルスの増殖が活発 → 抗ウイルス療法で対応
・重症化:ウイルスがほとんどいなくなり炎症反応が蓄積したところで起こる
  → 抗炎症療法

▢ 重症化リスクの高い子ども → ワクチン接種を推奨
・先天性心疾患
・肥満
・重度の神経学的障害
・慢性呼吸不全
・Down症候群、その他の染色体異常
・重度の発達障害
・小児がん、その他の免疫不全疾患

▢ 厚労省『新型コロナウイルス感染症 COVID-19 診療の手引き』における【小児の重症度】より
(システマティック・レビュー)
・重症化率は、基礎疾患ありで5.1%、なしで0.2%。
・重症化の相対リスク比は1.79、死亡の相対リスク比は2.81。
・基礎疾患のない患者における重症化因子では、肥満の相対リスク比が2.87。

▢ 子どものCOVID-19の致死率、日米比較
(日本)0.0007%(0-9歳)、0.0004%(10-19歳)
(米国)0.0122%(0-17歳)
・・・理由として考えられることは、米国では、
・肥満の子どもが多い。
・重篤な併発症である小児他系統炎症性症候群(MIS-C)がヒスパニック系・アフリカ系の子どもに多い。
・Minorityの子どもは医療へのアクセスが悪い?

▢ オミクロン株の子どもの臨床像
・オミクロン株になっても子どもの重症化はまれであるが、軽症化もしていない。
・感染者数の激増により重症患児は増加。
・MIS-Cは減ったが急性脳症は増えた。
・アジアの子どもはけいれん・急性脳症に注意。
・現時点では季節性インフルエンザに匹敵する死亡数。

(米国での5歳未満の検討)オミクロン株ではデルタ株と比べて、
・救急外来受診が29%⇩
・ICU収容が68%⇩
・人工呼吸が71%⇩

(イスラエルでの検討)
・オミクロン株では、アルファ株やデルタ株の場合と比べてMIS-Cの発生頻度が低い(1/13-14)。

(米国の報告)
・オミクロン株の流行により、クループ症例が激増した。

(カナダの研究)オミクロン株になり、
・嗅覚・味覚障害は激減。
・熱、全身症状、下気道炎は増加。
・予後に優位差はないが、点滴やステロイド投与が増えた。

(日本の報告:成育医療センター)
・オミクロン株になり、酸素が必要な症例が倍増。
・年長児でもけいれんを起こす例が増えた。

(香港の検討)
・オミクロン株BA.2と季節性インフルエンザを比較したところ、脳炎・脳症がリスク比が1.8倍。

(日本の検討:日本集中治療医学会)
・小児の重症・中等症COVID-19(第7波)の入室理由上位は、けいれん25.0%>急性脳症19.2%>肺炎19.2%。

(米国の報告)20歳未満の死因の第8位にCOVID-19がランクイン、感染症では季節性インフルエンザを抑えて第1位。

(日本における小児の死亡)
・2022年1月時点では、10歳未満0、10歳台4名。
・2023年3月時点では、10歳未満39例、10歳台20名。
★ 2019年の季節性インフルエンザによる小児死亡数は65名、そのうち
 1-4歳:32名(第5位)、5-9歳:14名(第5位)
・・・インフルエンザ並!

▢ 小児(20歳未満)のCOVID-19死亡例50例の検討(日本:2022年1-9月)
・来院時心肺停止:22例(44%)
・発症から心肺停止までの日数:中央値1日(70%は2日以内)
・死亡に至る経緯:
 中枢神経系異常(急性脳症など)38%
 循環器系異常(急性心筋炎など)18%
 呼吸器系異常(急性肺炎など) 8%




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ブレークスルー感染を経験して

2022年12月14日 08時12分27秒 | 新型コロナ
2022年8月末に、私は新型コロナに感染しました。
流行状況からして「BA.5」株と思われます。

医療従事者と基礎疾患枠で、
2022年6月末に4回目のワクチン接種を済ませていたにもかかわらず。

まあ、毎日新型コロナの小児患者を対面診察しており、
2歳未満の子どもはマスクを装着しないので、
咳き込むとダイレクトに飛沫を浴び、
マイクロ飛沫(エアロゾル)が飛び散り、
しばらく周囲に浮遊していますから、
換気+サージカルマスク+フェイスシールドでも防げなかった、
というのが現実です。

では「4回接種」の意義は何?
と素朴な疑問が発生します。

それに答えてくれる論文が目に留まりました。
接種後30日の時点では、感染リスクは
3回接種(20%)と比較して4回接種は1/3に減る(7%)という結果です。
まあ、ゼロにはなりませんね。

紹介記事を紹介します;

医療者のブレークスルー感染率、3回vs.4回接種
ケアネット:2022/08/12)より抜粋;
 オミクロン株流行下において、感染予防の観点から医療従事者に対する4回目接種を行うメリットは実際あったのか? 
 イスラエルでのオミクロン株感染ピーク時に、3回目接種済と4回目接種済の医療従事者におけるブレークスルー感染率が比較された。
・・・
 本研究は、イスラエルにおけるオミクロン株感染者が急増し、医療従事者に対する4回目接種が開始された2022年1月に実施された。対象はイスラエルの11病院で働く医療従事者のうち、2021年9月30日までにファイザー社ワクチン3回目を接種し、2022年1月2日時点で新型コロナウイルス感染歴のない者。4回目接種後7日以上が経過した者(4回目接種群)と、4回目未接種者(3回目接種群)を比較し、新型コロナウイルス感染症の感染予防効果を分析した。感染の有無はPCR検査結果で判定され、検査は発症者または曝露者に対して実施された。
・・・
・計2万9,611例のイスラエル人医療従事者(女性:65%、平均[SD]年齢:44[12]歳)が2021年9月30日までに3回目接種を受けていた。
・このうち2022年1月に4回目接種を受け、接種後1週間までに感染のなかった5,331例(18%)が4回目接種群、それ以外の2万4,280例が3回目接種群とされた(4回目接種後1週間以内に感染した188例も3回目接種群に組み入れられた)。
・接種後30日間における全体のブレークスルー感染率は、4回目接種群では7%(368例)、3回目接種群では20%(4,802例)だった(粗リスク比:0.35、95%信頼区間[CI]:0.32~0.39)。
・3回目のワクチン接種日によるマッチング解析の結果(リスク比:0.61、95%CI:0.54~0.71)および時間依存のCox比例ハザード回帰モデルの結果(調整ハザード比:0.56、95%CI:0.50~0.63)において、4回目接種群で同様の減少がみられた。
・両群とも、重篤な疾患や死亡は発生していない。

 著者らは、4回目のワクチン接種は医療従事者のブレークスルー感染予防に有効であり、パンデミック時の医療システムの機能維持に貢献したことが示唆されたとまとめている。

<原著論文>


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ワクチン接種後アナフィラキシーに対して、医師がアドレナリン筋注を躊躇する理由

2022年11月22日 07時23分20秒 | 新型コロナ
新型コロナワクチンの副反応として注目されている「アナフィラキシー」。
今回、アナフィラキシーによる不幸な事例が発生しました。

「命が救えなかったのか?」
という視点からの検証で、
「アドレナリンが投与されていなかった」
ことが問題視されています。

なぜ、投与されなかったのか・・・
ここには、
「アナフィラキシーでは皮膚症状があるはずだ」
という医師の脳に刷り込まれている知識が、
邪魔をしている可能性がありそうです。

例えば、救急外来に意識不明の患者さんが搬送された際、
バイタルサイン(呼吸、脈拍、血圧)が測定され、
その原因を推定することになりますが、
皮膚症状(赤い斑点やじんましん)があると重度のアレルギー、
つまりアナフィラキシーを疑う強い根拠となります。

私も研修医時代に、
「意識がない」
「ぐったりしている」
と運ばれてきた赤ちゃんを診察して、
皮膚のあちこちに赤い斑点があるのを見つけ、
「これはアナフィラキシーではないか」
と考えて家族に食事内容を確認したところ、
「卵を食べて30分後に具合が悪くなった」
ことを聞き出し、診断・治療した経験があります。

しかし、
アナフィラキシーには皮膚症状を伴わない事例があることも昔から知られていて、
ガイドラインにもしっかり記載されています。

最近改定された「アナフィラキシーガイドライン2022」には、
アナフィラキシーを疑うパターンを2つ挙げています。
(以前は3つで覚えにくいのが難点でした)

1.皮膚、粘膜、またはその両方の症状(※1)が急速に発症した場合。
さらに、A~Cのうち少なくとも1つを伴う。
  A. 気道/呼吸:呼吸不全(※3)
  B. 循環器:血圧低下または臓器不全に伴う症状(※4)
  C. その他:重度の消化器症状(※5)

※1)全身性の蕁麻疹、掻痒または紅潮、口唇・下・口蓋垂の腫脹など。
※2)数分~数時間で。
※3)呼吸困難、呼気性喘鳴・気管支攣縮、吸気性喘鳴、PEF低下、低酸素血症など。
※4)筋緊張低下[虚脱]、失神、失禁など。
※5)重度の痙攣性腹痛、反復性嘔吐など[特に食物以外のアレルゲンへの曝露後]。

2.典型的な皮膚症状を伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに曝露された後、血圧低下または気管支攣縮または喉頭症状が急速に(数分~数時間で)発症した場合。
 
まあ、これでもわかりにくいですよね。

1は救急外来で原因不明意識障害患者が搬送されてきた場合がイメージされます。
呼吸困難、血圧低下、激しい嘔吐のどれかがあり、かつ皮膚症状を認めればアナフィラキシーを強く疑う。
やはり皮膚症状が重要です。

2はどうでしょうか。
ここでは「アレルゲンに暴露」されていることが条件で、
その場合は皮膚症状がなくても呼吸困難・血圧低下があればアナフィラキシーを強く疑う、という内容です。

さて、今回のワクチン接種後のアナフィラキシー事例を考えてみましょう。
ワクチン接種はアレルゲン暴露に相当します。
そして皮膚症状がなくても血圧低下・呼吸困難があれば、
アナフィラキシーを疑いアドレナリン筋肉注射が必要となります。

今回の愛知県の事例の記者会見の記事から、愛西市と医師会の見解を抜粋します;

・11月5日、集団接種会場でBA.5に対応したファイザー社製のワクチンを接種し、5分後に容体が急変。息苦しさを訴え、医師は酸素マスクを装着した。
・しかし、90%を切ると呼吸不全と定義される血中酸素飽和度は54%に低下。
・その後、治療薬は投与されないまま、飯岡さんは2度にわたって血の泡を吹くと心肺停止に。
・病院に運ばれたが、約1時間半後に死亡した。死因は急性心不全だった。
・愛西市健康推進課長(11月11日): その場においては、医師はベストを尽くしていただいたと認識しております。 「肺における何かが起きたんじゃないか」と(医師が)お考えになられたと伺っております。アドレナリンの注射を指示し、看護師が血管確保を試みたんですけども、血管を探すことができなかったということで、静脈注射はできなかった。
・愛知県医師会は医療安全対策委員会で、当時対応にあたった医師から話を聞くなどして検証。 愛知県医師会の渡辺嘉郎理事: 今回の事案において、死亡に至った病態は必ずしも明らかにはされませんでした。ただワクチン接種後であったことから、アナフィラキシーの存在は強く疑われました。
・飯岡さんの症状からアナフィラキシーショックだった場合には「最重症型」とみられ、医師が診た時点でアドレナリンを打ったとしても救命できなかった可能性が高いとした。 
・愛知県医師会の渡辺嘉郎理事: 今回の事例では、看護師が女性の体調変化に気づいた時点で、救護室に運ばずその場でアドレナリンの筋肉注射をできなかった体制に問題がありました。

 会見から見えてくる当時の状況は・・・
・呼吸不全は認められ、血の泡を吹いたが、皮膚症状はなかった。
・看護師はアドレナリン静脈注射を行おうとした。
の2点がポイントだと思われます。

「血の泡を吹いた」という呼吸器症状はアナフィラキシーガイドラインにも記載はなく、現場はこのインパクトに「肺の病気ではないか」と振り回された可能性があります。
冷静に考えれば呼吸不全・血圧低下はあったわけですが・・・。

2点目に関しては、アドレナリンは基本的に“筋肉注射”であり、静脈注射にこだわるのは医療者として不思議な印象。ただし、これは正確に情報が伝わっていない可能性があります。

シンプルに、
ワクチン接種後に呼吸困難・血圧低下を認めたら、
 皮膚症状がなくてもアドレナリン筋注
を徹底すべきでしょう。

<参考>
▢ アナフィラキシーによる悲劇をなくそう―アナフィラキシーガイドライン改訂
▢ 医師会が見解…接種後の40代女性死亡は「アドレナリン注射すべきで体制に問題」【愛知発】




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敵を知る〜新型コロナウイルスを見つめ直す〜

2022年03月19日 08時05分23秒 | 新型コロナ
新型コロナウイルスが登場して2年が経ちました。
その間、この新しいウイルスに世界中が翻弄され続けています。

今までにわかった特徴として、

・感染力が強い
・変異を続ける
・症状に特徴がある(嗅覚・味覚障害、ブレインフォグ等)
・高齢者が重症化しやすい

などが判明しています。

私は、人類の発達、文明社会構築の源泉となった、
“コミュニケーションを介しての感染”
が排除できないでいる最大の理由だと感じています。

「コミュニケーションをやめろ」
と指示することは、
「人間活動をやめろ」
と同じことですから、なかなか守れませんよね。

最近は、医療逼迫や毎日の陽性者数、ワクチン接種率などの
“数字”で判断する傾向がありますが、

これまでに解明されたこと、今も専門家を悩ませる謎

という記事を参考に、ここで今一度、
ウイルスそのものを見つめてみたいと思います。

■ 新型コロナウイルスは人畜共通感染症である。
・・・野生動物がすむ範囲にまで人間が活動範囲を広げれば、新たな病原体が動物から人間に飛び移り、致命的な人獣共通感染症が発生する可能性が高くなる。・・・野生動物に由来する新規感染症は、1940年から2004年の間に著しく増加してきたという。

■ コロナウイルスによるパンデミックは3回目
・・・専門家の多くがずっと懸念してきた対象はインフルエンザウイルスであり、コロナウイルスがこれほどの惨事を引き起こすとは、必ずしも予想していなかった。
 潮目が変わったのが、2002年から2004年にかけて発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)のアウトブレイク(集団感染)だった。これにより29カ国で8000人以上が感染し、774人が死亡した。その後、2012年に発生した中東呼吸器症候群(MERS)のアウトブレイクでは、37カ国で2000人以上が感染した。このウイルスによる死者は、これまでに900人近くに達している。

■ 新型コロナウイルスの特徴〜変異(成長?)し続けるウイルス〜
・・・新型コロナウイルスはそれまでのコロナウイルスよりも感染スピードが速い。・・・新型コロナウイルスは封じ込めるのが難しい。無症状患者が多いため、人は自分でもそうと知らないうちにウイルスを広めてしまうからだ。
 そのうえ、新型コロナウイルスは予想以上にすばやく遺伝子の変異を獲得し、進化を遂げた。・・・アルファ株(2020年9月に英国で検出された最初の「懸念される変異株(VOC)」)の出現だ。アルファ株では、従来の新型コロナウイルス株からの遺伝子変異が少なくとも23カ所あり、人間の細胞と結合するスパイクタンパク質のアミノ酸が8カ所も置き換わっており、科学者たちをひどく驚かせた。・・・これだけの変異を備えたアルファ株は、従来株よりも50%感染を広げやすくなった。
 次の変異株であるベータは、そのおよそ1カ月後に南アフリカで最初に確認され、同じくVOCとされた。この株のスパイクタンパク質には8カ所の変異があり、そのうちのいくつかは、ウイルスが体の免疫防御を逃れるのに役立つものだった。
 2021年1月に現れたガンマ株では、特徴となった21カ所の変異のうち、10カ所がスパイクタンパク質で起きていた。その一部は、ガンマ株の感染を広げやすくし、すでに新型コロナウイルス感染症にかかった人に再び感染することができた。
・・・
 次にやってきたのが、特に危険で感染力の高いデルタ株だ。これはまずインドで確認された後、2021年5月にVOCに指定された。2021年末には、ほぼすべての国でデルタ株が支配的となった。その独特の変異の組み合わせ(計13カ所、うちスパイクに7カ所)のおかげで、デルタ株はオリジナルの株に比べて感染力が2倍で、感染期間は長くなり、感染者の体内で1000倍もの量のウイルスを産生するようになった。
・・・
 ところがその後、デルタ株の2倍から4倍の感染力を持つオミクロン株が、世界の多くの地域でまたたく間に取って代わった。2021年11月に初めて確認されたオミクロンは、異常なほど多くの変異を持ち(計50カ所、うち少なくとも30カ所がスパイクタンパク質)、その一部のおかげで、これまでに登場したどの変異株よりもすぐれた抗体回避能力を備えている。

■ 免疫不全者の体内で生き続けて変異する新型コロナウイルス
・・・突然変異の数が飛躍的に増えた理由としてとくに有力なものに、新型コロナウイルスは、免疫系がそこなわれた人々の体内で長期間進化できたという説がある。
 過去1年の間に、科学者たちは、新型コロナウイルスへの感染が数カ月から1年近くにわたって続いた、がん患者およびHIVの患者を確認している。こうした患者は免疫系が抑制されているため、ウイルスは長期間そこにとどまり、複製と変異を繰り返せた。
 グプタ氏は、101日間感染が続いたがん患者のサンプルから、そうした変異のひとつ(アルファ株にも見られるもの)を同定し、2021年2月に学術誌「ネイチャー」に発表した。6カ月間感染していた、南アフリカのHIV進行期の患者からは、ウイルスが体の免疫防御を逃れるのを助ける多数の変異が見つかり、2022年になって「Cell Host & Microbe」に報告された。

■ “呼吸器感染症”でくくれない新型コロナウイルスの多彩な症状
・・・新型コロナウイルスは体のさまざまな部分に感染できることが証明されており、科学者たちがさらに頭をひねる不可解な謎を生み出している。
 パンデミックの初期、医療関係者たちが気づいたのは、このウイルスが単に肺炎のような症状を引き起こすだけではないということだった。一部の入院患者には、心臓障害、血栓、神経学的合併症、腎臓や肝臓の障害などが見られた。最初の数カ月間で蓄積された研究は、ひとつの理由を示唆していた。
 新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する部位のACE2受容体と呼ばれるタンパク質が、いくつもの臓器や組織に存在するため、呼吸器以外にも感染していたのだ。また、血管の細胞や腎臓の細胞にもウイルスやその一部が、さらには脳の細胞にも少量のウイルスが見られたとの報告もあった。
・・・おそらくはウイルスが引き金となって、体の免疫系がサイトカインストームと呼ばれる過度に活発な状態となり、それがさまざまな臓器や組織に炎症と損傷を引き起こすものと思われる。異常な免疫反応が感染後も収まらずに、慢性疲労、動悸、霧がかかったように頭がぼんやりとする「ブレインフォグ」などの症状が長く続く場合もある。
・・・スーザン・レバイン氏はニューヨークの感染症専門医で、コロナ後遺症と重なるところもある慢性疲労症候群の治療と診断を専門としていた。レバイン氏は現在、毎週200人を診察しているが、その数はパンデミック前には60人だった。それまでの慢性疲労症候群とは異なり、コロナ後遺症は「猛烈な勢いで襲いかかる」と氏は述べている。「まるで体の中で竜巻が起きているようなものです。週に60時間働いていた人が、感染から1週間で1日中ベッドにいるようになるのですから」。

■ 人畜共通感染症は“終わらない”
・・・科学者たちは今、新型コロナウイルスが人間以外の動物に広がった後、再び人に移ってパンデミックを拡大させる可能性を懸念している。
・・・2020年8月に学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された研究により、一部の霊長類、シカ、クジラ、イルカを含む哺乳類が、新型コロナウイルス感染症に対して特に弱いことがわかった。ヒトと似たACE2受容体をもつ動物たちだった。
・・・新型コロナウイルスを拡散するリスクが最も高い動物は、家畜やペットなど、人と一緒に生活する動物であることが明らかになった。
 これまでのところ、新型コロナウイルスはペットのネコ、イヌ、フェレットに感染し、ミンクの農場を荒らし、動物園のトラ、ハイエナなどの動物にも広がっている。そのうえ新型コロナウイルスは、人間から飼育下にあるミンクに感染し、その後再びミンクから人間に感染することに成功している。
 またカナダでは、おそらくはオジロジカから人間に新型コロナウイルスが感染した可能性がある。

私がこの記事を読んで初めて知ったことは、
「ヒトから動物に感染して変異を経た後にまたヒトに戻ってくる可能性」
です。
ウイルス変異とワクチン開発競争は永遠に続きそうで、
めまいを覚えました。

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アメリカでの新型コロナ軽症患者に対する外来治療(2022年2月)

2022年02月26日 07時35分16秒 | 新型コロナ
新型コロナワクチン接種が進む中、
ようやく軽症者を外来治療可能な新薬が登場してきました。

しかし現時点では日本ではまだ自由に処方できず、
インフルエンザに対するタミフルのように使うことはできません。

アメリカではどうなのでしょう。
事情を知るアメリカ在住の薬剤師さんの書いた記事が目にとまりました。

新型コロナへの治療薬が続々登場!ただし…
緒方さやか(2022/02/16:日経メディカルより抜粋;

アメリカのニューヨーク州では2/10から屋内のマスク着用義務が撤廃されたそうです(ただし、学校内、医療機関、公共交通機関ではマスク着用義務あり)。カリフォルニア州でも2月15日には同様に規制が緩和。

市民もマスクなしで散歩・会食し、ハグも可能・・・日本では考えられないことですね。

ただ、前提として日本と大きな違いがあります。
それは「大半の市民が新型コロナに感染済み」という事実。
たくさんの人が亡くなりましたから、
日本では許容できない犠牲の上に成り立つ“制限解除”です。

第6波中とはいうものの、まだ日本人はその1割も罹っていませんので、
アメリカと同じ制限解除は自殺行為になることは目に見えています。

アメリカ市民の感覚は、
「これで終わりとは思っていない」
「次の流行まで、つかの間の自由を満喫したい」
というものらしいです。

さて本題です。

入院していない(外来)COVID-19患者に対しては、主に電話診察でのフォローアップがなされているが、息切れなどの症状がひどい場合には、対面診療に切り替えられいるフロー。これらの外来患者の中で、

(1)症状があり、
(2)重症化するリスクが高く、
(3)現在は軽症~中等症(SpO2が94%以上)

──である患者には、2月9日時点で、以下に示す4つの薬剤が米国で使用可能となっている(無症状の患者は除外される)。
薬の効果とスタッフへの負担を鑑みて、日本でも承認されたばかりの経口薬パキロビッド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル)か、モノクローナル抗体医薬のゼビュディ(ソトロビマブ)が処方されることが多い。

やはりパキロビッドが期待の新薬として主役になってきていることがわかります。
ただ、効果増強目的で含まれているリトナビルが注意すべき併用薬の数を膨大にしているという難点があります。

また、アメリカでは風邪を引くとまず市販薬を使い、治りが悪いとその時点で初めて医療機関を受診する習慣であり、日本のような“早期投与”が難しい文化があります。
これは、インフルエンザの際のタミフルでも指摘され、アメリカで重傷者が多かったのはタミフルを早期に使用できなかったためという意見がありました。

<米国で使用されているCOVID-19治療薬>

◆ パキロビッド®(ニルマトレルビル・リトナビル)
・剤形:経口薬
・投与回数・期間:1日2回・5日間
・用量:ニルマトレルビル300mg(150mg錠2個)+リトナビル100mg(100mg錠1個)

 発症から5日以内に投与開始する必要があり、早ければ早いほどいい(ただ、この期間限定が結構キツい)。臨床試験ではプラセボ群と比較して、COVID-19による28日以内の死亡または入院のリスクを88%低下させた。
 薬物代謝酵素CYP3Aを阻害する「魔の薬物相互作用」の薬であり、スタチン、アムロジピンなど頻繁に処方される薬とも相互作用があることに注意を要する。上にリンクを挙げたパキロビッドのファクトシートでも、薬物相互作用に関する記述が7ページにも上る。
 処方時には、感染していない家族や友人が指定薬局まで取りに行く必要がある。eGFR(推算糸球体濾過量)が30~60/mL/分/1.73m3の患者さんには、ニルマトレルビル150mg+リトナビル100mgに減量して処方する。eGFRが30/mL/分/1.73m3未満の場合は使用できない。入院患者への使用は認可されていない。データはないものの、妊婦にも使用できる。

◆ 
ゼビュディ®(ソトロビマブ)
・剤形:静注薬
・投与回数・期間:1回(30分)
・用量:500mg

 静脈注射を行うためのスタッフ(看護師)が必要。発症から10日間以内に投与開始。早ければ早いほどいい。入院患者への使用は認可されていない。
 臨床試験ではプラセボと比較して、全ての原因による死亡または入院のリスクを79%低下させた(外部リンク:FACT SHEET FOR HEALTHCARE PROVIDERS EMERGENCY USE AUTHORIZATION (EUA) OF SOTROVIMAB)。アレルギー反応が出る場合があるため、注射後1時間は看護師が経過観察する必要がある。妊婦にも使用できる。

◆ 
ベクルリー®(レムデシビル)
・剤形:静注薬
・投与回数・期間:1日1回・3日間、5日間、10日間のいずれか
・用量:100mg

 連続して静脈注射を行うためのスタッフ(看護師)の負担が大きいため、外来での使用は難しい。

◆ 
ラゲブリオ®(モルヌピラビル)
・剤形:経口薬
・投与回数・期間:1日2回・5日間
・用量:200mg

 オミクロン株への効果は低いとされている。また、妊婦や18歳未満の患者には使用できないといった点から、上記3剤を使用できない場合のみ処方を考慮する。また、ウイルスの遺伝子変異を促して破壊させるという機序のため、新型コロナウイルスの新たな変異を助長してしまうのではないかという仮説もあるようだ。
 ちなみに、昨年12月後半までは頼みの綱だった抗体カクテル療法薬のREGEN-COV(日本での商品名ロナプリーブ[カシリビマブ・イムデビマブ]、静注もしくは皮下注)は、非常に残念なことにオミクロン株への効果が限定的とされ、既にもう使用されていない。
 そこで、モノクローナル抗体医薬の中で唯一、オミクロン株への効果が期待されているゼビュディへの注目が集まっているが、数週間前には全国的に供給量が不足していた。例えば、私が勤める医療機関に配布されたのは、週に数人分ほどだった。その上、静注での投与のため看護師の人員が必要になる。そんな看護スタッフも、欠員が出たERや病棟へのヘルプで忙しい。今は薬の供給も増えつつあるし、パキロビッドという経口薬のオプションもできた(そちらも数は絶対的に不足しているものの、今は増えつつある)。


・・・ラゲブリオ®は思ったほど重宝されていない様子。
第1選択薬に躍り出たパロキシバット®もその流通とか適応患者の選択とかで作業が多くて現場は大変なようです。

日本でパロキシバット®を有効活用するためには、
現在の“検査キット不足”を解消する必要があります。

当院ではPCRの器械はあるものの試薬が手に入らず、
宝の持ち腐れ状態が続いています。

外注、あるいは市が設置したPCRセンターでの検査では、
結果が出るまで数日かかってしまいます。

今後、国産の新薬(シオノギ製薬が申請中)の登場が待たれるところです。

■ 塩野義製薬、コロナ飲み薬で承認申請…100万人分の提供体制目指す
 塩野義製薬は25日、新型コロナウイルス感染症の経口治療薬(飲み薬)について、厚生労働省に対し、製造販売の承認を申請した。承認されれば、飲み薬としては米メルク、米ファイザーに続き3種類目、国内の製薬会社では初めてになる。最終段階の臨床試験(治験)終了前に、薬の使用を認める「条件付き早期承認制度」の適用を求めている。
 既に製造を始めており、3月末までに100万人分を提供できる体制の構築を目指している。
 この薬は、細胞内に入ったウイルスが増殖するのに必要な酵素の働きを妨げ、重症化を防ぐ仕組みだ。発症早期に使用する必要があり、軽症者が1日1回、5日間服用することを想定している。
 塩野義は、変異株「オミクロン株」に対しても有効性が期待できるとしている。

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COVID-19における、医師の「軽症」と患者から見た「軽症」のイメージのギャップについて

2022年01月23日 08時19分36秒 | 新型コロナ
当院でも新型コロナウイルスのPCR検査に対応しています。
基本的に保健所から指定された“濃厚接触者”に対して検査を行っています。
感染対策として、一般診療と別の時間に、時間・空間隔離状態で行っています。

そこで“陽性”との結果が出ると、オンライン報告することになります。
HER-SYSというシステムで、入力項目が詳細で多く、一手間かかります。

そこで使用される単語の定義を確認しておきます。
まあ、自分へのメモですので、興味のない方はスルーしてください。

<参考>

症例定義

これは、陽性の場合に報告するので「患者(確定例)」ですね。

濃厚接触者の定義

これは繰り返し出てくるものなので、頭に刻み込まれていますね。
ただ、4番目の「15分以上の接触」はオミクロン株に対しては甘すぎるかもしれません。

検査方法の定義

当院では「ID NIOW」という検査機器を導入しています。これは「等温核酸増幅法」に分類される「拡散検出検査」に入ります。
また、「ID NOW」の検査方法は「鼻咽腔ぬぐい液」「鼻腔ぬぐい液」のみで、「唾液」は適応外です。小学生以上では「鼻腔ぬぐい液」法で行っています。ただ、「鼻腔ぬぐい液」法はどの検査方法でも無症状者には許可されていません。

入院対象

②の「呼吸器疾患」には喘息児も含まれるのか?疑問です。
⑥の「当該症状が重度または中等度であるもの」は次項で。

 HER-SYSについて
手書きで報告書を保健所にFAXする方法も残されていますが、
私は「保健所の負担軽減」目的でオンライン報告しています。


患者さんが日々の健康状態を報告する「My HER-SYS」というソフト・システムもありますが、
担当保険福祉事務所は使用していません。

重症度分類

重症度は酸素飽和度(SpO2)の数値により分類され、HER-SYSにも酸素飽和度の記入欄があります。
今のところ、酸素飽和度<96%の患者さんはいません。

テレビでよく「医師の考える“軽症”と、患者が考える“軽症”にはギャップがある」と報道されています。
実はその通りで、
「咳がつらくて夜眠れない状態」
なら一般の人は“中等症”と感じると思われますが、
つらさにかかわらず酸素飽和度が96%以上なら、
上記分類に従い医師は“軽症”と判断します。

こちら(アメリカの内科医、安川康介Dr.のツイッターより)に分かり易いラストがありましたので引用されていただきます;
なので、「患者の気持ちがわからないヤブ医者」と言わないでください。

軽症患者のマネジメント

当院は開業医院ですので「軽症」しか担当しません。
前項の「中等症」以上は入院が必要になるため病院へ紹介します。
ただ、診断後の軽症患者のフォローの方法が現時点ではあやふやです。
基本的に、保険福祉事務所が対応することになっており、
我々開業医が介入することはありません。

しかし今後、患者数が増えてくると対応を要請される可能性が大です。
その際、当院では電話診療を予定していますが、
直接患者さんに対面しないため、酸素飽和度が測定できません。
酸素飽和度計をすべての患者さんに配布するほど数を用意できるのか疑問ですし、
乳幼児はじっとしていないのでふつうの酸素飽和度計では測定できず、
乳幼児専用のプローブが必要になります。

今後の動きを注視していきたいと思います。

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“軽症新型コロナ患者”の治療薬、開発の現状(2021年12月)

2022年01月23日 07時52分18秒 | 新型コロナ
新型コロナウイルスに対する薬の開発が進み、
次々に新しい薬剤が登場してきました。

しかし今までは、点滴が必要な薬がメイン、
2021年末になり、ようやく内服薬・経口薬が使えるようになりました。

一方で、過去に開発された薬の中には、
変異株に対応できず消えている薬も存在します。

ですから、治療薬に関しては、常に情報をアップデートする姿勢が必要です。
これはワクチンについても同様ですね。

このブログでも、経口抗ウイルス薬である「モルヌピラビル(ラゲブリオ®)」「パクスロビド」を紹介してきました。
2021年末に倉原優Dr.が抗新型コロナ薬全般を分かり易く説明している記事を紹介します。

オミクロン株によって新型コロナ軽症者の治療はどう変わった? 新型コロナ治療薬まとめ
倉原優:呼吸器内科医(2021/12/26)より一部抜粋;

◇ オミクロン株と新型コロナ治療薬

・・・現在の新型コロナ治療薬は図1のようになります。数が多くなってきたため、詳しい使い分けなどは割愛しますが、大事なのは「いろいろな治療薬がある」ということです。


 表1. 新型コロナ治療薬のメカニズム


 図1. 2021年12月26日時点の新型コロナ治療薬まとめ

 それぞれ作用メカニズムや役割が異なることから、患者さんの病態に応じて使い分けています(表1)。
 有効性が確認された治療・確認されなかった治療が吟味・淘汰され、国内外のガイドラインが改訂されています(3-5)。その中でも、エビデンスが日々動いている、軽症例に対する治療薬をみてみましょう。 

◇ オミクロン株に抗体カクテル療法の使用は推奨されない

 抗体療法は、外来や入院軽症例で用いる注射剤です。
 図1および図2にあるように、オミクロン株の治療で重要なポイントは、抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブ(ロナプリーブ®)の効果が激減するということです。厚労省の通達においても「患者の感染しているウイルス株がオミクロン株であることが明らかである場合、ロナプリーブを投与することは推奨されない」と記載されています(6)。
 反面、もう1つの抗体療法であるソトロビマブ(ゼビュディ®)は有効と考えられます。これはスパイクタンパクの基礎的な部分に作用し、効果の減弱が起こりにくいためです。アメリカ国立衛生研究所(NIH)のガイドラインにおいても、オミクロン株に対するソトロビマブが積極的に推奨されています(4)。
 さて、抗体カクテル療法カシリビマブ/イムデビマブは、往診だけでなく濃厚接触者や無症状感染者に対しての予防投与も可能となっていました。しかし、今後オミクロン株が優勢株となった場合、抗体カクテル療法を使う頻度が激減します。ソトロビマブは予防投与が認められていないため、濃厚接触者や無症状感染者に対して予防投与を行う戦略自体は一旦白紙になるかもしれません(※)。

※アストラゼネカ社のチキサゲビマブ/シルガビマブ(エブシェルド®、日本未承認)の予防投与はオミクロン株に対しても有効とされています(7)。

◇ オミクロン株に軽症者向け経口抗ウイルス薬は有効

 2021年12月24日、経口抗ウイルス薬であるモルヌピラビル(ラゲブリオ®)が特例承認されました。また、ファイザー社のニルマトレルビル/リトナビル(パクスロビド®)の効果も期待されており、国内でもいずれ承認申請される見込みです。
 新型コロナウイルスのスパイクタンパクの変異とは関係のない作用機序であり、いずれの薬剤もオミクロン株に有効と考えられます(表2)。


 表2. 新型コロナ軽症者向けの経口抗ウイルス薬(筆者作成)

 アメリカ感染症学会(IDSA)のガイドラインでは、オミクロン株の軽症者に対してニルマトレルビル/リトナビルの使用が推奨されています(4)。
 いずれの経口抗ウイルス薬も、高齢、肥満、基礎疾患があるといった重症化リスクのある人が対象となっています。発症から5日以内に内服する必要があります。自宅療養者では、診断した医療機関が特定の薬局へ処方箋を送付し、薬局から患者さんの自宅などへ配送する計画になっています。

◇ 使い慣れた点滴抗ウイルス薬が軽症例に有効

 レムデシビル(ベクルリー®)は、中等症以上の患者さんに点滴で用います。コロナ病棟ではかれこれ1年以上活躍している、馴染みの抗ウイルス薬です。もともと海外で作られたもので、発売当初オシャンティーな英語のパッケージで病棟にやってきました。
 最近、重症化リスクがある外来患者さんに、発症7日以内にレムデシビルを3日間点滴すると、入院あるいは死亡のリスクがプラセボより87%減少したという研究結果が報告されました(8)。
 上述の経口抗ウイルス薬が潤沢ならば敢えてレムデシビルを外来や軽症例で用いる必要はないかもしれませんが、使い慣れた薬剤であることはメリットと言えます。いずれ、軽症例に対するレムデシビルも適応になるかもしれません。

<参考>
(1) Sheikh A, et al. (査読前論文) 
(2) Wolter N, et al. medRxiv preprint doi: 10.1101/2021.12.21.21268116(査読前論文)
(8) Gottlieb RL, et al. N Engl J Med. 2021 Dec 22. doi: 10.1056/NEJMoa2116846

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