小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」に対する日本小児科学会の見解が出されました(2024年9月)

2024年09月24日 06時53分13秒 | 予防接種
前項目「フルミスト、効くの?効かないの?」という小児科医の素朴な疑問に答えるように、日本小児科学会が見解を公表しました。

✓ 現行の注射する不活化インフルエンザワクチンと比較して効果は同等であること、
✓ 接種に際しては一般の生ワクチンとしての注意点があること、
✓ 経鼻投与という経路より、副反応として局所の症状が出ること、
✓ 経鼻投与という経路より、喘息・喘鳴既往者は「要注意」であること、

などが記されています。

注射が苦手で今までインフルエンザワクチンを接種しなかった子どもたちには朗報ですが、
注意点をしっかりチェックした上で接種に望みたいと思います。

▢ 日本小児科学会、フルミストの使用に関する考え方を公表 
 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会(以下、委員会)は2024年9月2日、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方(以下、「使用に関する考え方」)を示した(外部サイト:日本小児科学会)。2023年3月に経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(商品名フルミスト点鼻液)が薬事承認され、第一三共(東京都中央区)が製造販売元となり2024/25シーズンから本格的に流通することを受けてのもの。従来の不活化インフルエンザHAワクチンとの使い分けに関する推奨や、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン使用時の注意点をまとめている。
 「使用に関する考え方」の中で、委員会は「不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの間にインフルエンザ罹患・予防効果に対する明確な優位性は確認されていない」と明記。その上で、以下のように推奨をまとめた。

▶ 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会の推奨
■ 接種適応年齢である2歳~19歳未満には、不活化インフルエンザHAワクチンと経鼻弱毒生インフルエンザワクチンを同等に推奨する。
■ 特に喘息患者には不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。
■ 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは飛沫または接触により、ワクチンウイルスの水平伝播の可能性があるため、授乳婦や周囲に免疫不全者がいる患者の場合は不活化インフルエンザHAワクチンの使用を推奨する。
■ そのほか、以下の場合は不活化インフルエンザHAワクチンのみを推奨する。
・生後6カ月~2歳未満
・19歳以上
・免疫不全患者
・無脾症患者
・妊婦
・ミトコンドリア脳筋症患者
・ゼラチンアレルギーを有する患者
・中枢神経系の解剖学的バリアー破綻がある患者

 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの有効性について、委員会は2016/17シーズンに2歳~19歳未満の健康小児を対象として行われた無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験の結果を紹介。全ての株によるインフルエンザ疾患に対する経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの有効性(vaccine efficacy)は28.8%であり、日本人小児でのインフルエンザ罹患予防効果が示された。
 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの国内における薬事承認時の臨床試験では、不活化インフルエンザHAワクチンとの直接比較試験は実施されていないが、国外の市販後調査に基づく報告では、両者の間にインフルエンザ罹患・予防効果に明確な優位性はないとされている。
 なお、「使用に関する考え方」には言及がないが、2024/25シーズンで用いられる経鼻弱毒生インフルエンザワクチンと不活化インフルエンザワクチンではワクチンの製造株が異なる。インフルエンザHAワクチンは2024年4月に公開された国立感染症研究所の推奨(外部サイト:
厚生労働省)に基づいた4価のワクチンである一方、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは世界保健機関(WHO)が2024月2月に公開した推奨(外部サイト:WHO)に基づいたワクチンとして製造されている。
 このため、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、A/H3N2ワクチン製造株が国内の不活化インフルエンザHAワクチン製造株と異なり、またB/Yamagata系統であるB/Phuket/3073/2013を含まないワクチンとなっている。B/Yamagata系統は2020年3月以降、自然界における流行で解析された株はない。WHOは2023年の勧告に引き続き、B/Yamagata系統の抗原をワクチンに含む必要性はないとしつつ、ワクチンを3価にするか4価にするかの判断は各国が行うべきだという見解を示している。

▶ ワクチン由来のウイルス排出は「最長3~4週間」
 「使用に関する考え方」では、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン特有の注意事項についても詳しく解説している。
 喘息については、安全性データが限られていることから、国内のフルミストの添付文書では「重度の喘息を有する者又は喘鳴の症状を呈する者」を接種要注意者に分類している。また米国でも、喘息または喘鳴の既往歴のある2~4歳児への接種を推奨していない。
 水平伝播については、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの接種を受けた小児は、鼻咽頭分泌物中にワクチンウイルスを最長3~4週間排出する可能性があると記載。乳児に接触する授乳婦や、周囲に免疫不全患者がいる人には不活化インフルエンザHAワクチンを推奨している。
 また、抗インフルエンザウイルス薬を併用した場合、ワクチンの効果が減弱する可能性がある点も注意喚起した。米国においては、過去48時間以内にオセルタミビルまたはザナミビル、過去5日以内にペラミビル、または過去17日以内にバロキサビルを投与された場合は、接種を推奨していないとの情報も示した。
 経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは、不活化インフルエンザHAワクチンと比較し、侵襲性が低く、接種回数も1回で済むことから、小児の負担を減らせる接種方法とされている。2023年4月時点で欧米、中国など36の国と地域で承認されており、日本でもこれまで個人輸入し使用する医療機関が一部あったが、2023年の製造販売承認を受け2024/25シーズンから正式に流通することになる。2024年9月2日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会の資料(外部リンク:
厚生労働省)によれば、2024/25シーズンのワクチンの見込み供給量約2734万本のうち、経鼻弱毒生インフルエンザワクチンは130万本、インフルエンザHAワクチンは2604万本とされている。

<参考>
▢ 鼻に1回噴霧でOKの経鼻インフルワクチン粘膜の免疫増強で高い予防効果

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「アレルギー検査希望」のストレス

2024年09月21日 15時00分44秒 | 予防接種
今日もいました、
「アレルギー検査希望」
の小学生の患者さん。

話を聞くと、
1ヶ月以上前から咳が続いていてかかりつけの耳鼻科に通院、
しかしなかなかよくならず、
耳鼻科医が「アレルギーかなあ」とつぶやいたので、
アレルギー科を標榜している当院を受診したとのこと。

さらに詳しく話を聞くと、
ゼーゼー呼吸困難感のある咳ではなく、
家族が心配しているダニアレルギー、ペットアレルギーに関しては、
外出時より家にいるときの方が咳が目立つわけでもなく、
喘息に特有の「朝方咳き込んで目が覚める」エピソードもなく・・・
アレルギー専門医の私から見ると、アレルギー性咳嗽≒喘息らしくありません。

「1ヶ月以上咳が続いています」という訴えを聞くと小児科医は、
・風邪・上気道炎の反復。
・上気道炎が気管支炎・肺炎にこじれたので長引いている。
・副鼻腔炎を起こして後鼻漏(鼻が喉に垂れる)が刺激となり咳が続く。
・結核。
・・・最後に喘息、等々を考えます。

そして喘息の診断をアレルギー血液検査で行っていたのは昭和時代の医療、
平成・令和時代は呼気一酸化窒素濃度や肺機能検査で行います。

以上を説明し、
「咳が長引いている原因をはっきりさせたいのなら、
 すべての検査ができる総合病院小児科に紹介状を書きますよ」
と提案しましたが、
「なぜアレルギー血液検査をやってくれないんですか?」
の一点張りで聞く耳を持ちません。

こういう患者さんが一番疲れます。
思い込みが強く、こちらの説明が耳に入らないのです。

その状態で診療を終えると、
google map に悪い口コミを書かれたことが何回もありました。

もう、やってられない。
アレルギーの検査ならかかりつけの耳鼻科で受けて欲しい。
小学生なんだから採血もできるでしょう。

結局、鼻声も気になることから副鼻腔炎の可能性を考え、
それに対する治療を当院で行い、
反応がないなら病院紹介という段取りになりました。


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フルミスト、効くの?効かないの?

2024年09月02日 14時35分13秒 | 予防接種
2024/25シーズンから日本でも弱毒経鼻生インフルエンザワクチン「フルミスト」が使用できるようになりました。

喜ぶべきことですが、
実はフルミストの辿った経緯を知る小児科医は、
ちょっと複雑な気持ちなんです。

それは、鳴り物入りで2003年に登場したフルミストでしたが、
有効率が年々下がってきて、
とうとう2016/17シーズンはアメリカで勧奨停止を受けた歴史があるからです。

当時、
「生ワクチンが効かなくなるってどういうこと?」
とザワついて話題になりました。

当時の記事を読み直してみましょう。

<ポイント>
・2000年代はフルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていった。
・ACIP(米予防接種諮問委員会)報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かった。
・「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。特にH1N1型への効果はほぼゼロだった。
・不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱くなる。この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性がある。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないか。


■ CDCが2016-2017シーズンの勧奨を取り下げインフル用経鼻ワクチンが効かなくなった理由
西村尚子=サイエンスライター
2016/09/15:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 2003年に米国で登場した、経鼻の弱毒生インフルエンザワクチンの「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」。発売当初は15歳以上だった対象年齢が2歳以上に引き下げられたことで乳幼児への接種例が増えてきた。これまで米CDC(米疾病対策センター)は「子どもへの感染予防効果が認められる」と勧奨してきたが、この6月に一転、「2016-2017シーズンは勧奨しない」と発表。・・・
 CDCの発表は、米予防接種諮問委員会(ACIP)の「2〜17歳での効果(全型のインフルエンザを対象)は、2013-2014シーズンがマイナス1%、2014-2015が3%、2015-2016が3%」などとする調査報告を受けたものだ。効果がマイナスとは、後からの集計でワクチン未接種の方が感染しにくいという解析結果だったことを示す。・・・
 ACIP報告では、2012年までの過去3シーズンはフルミストの効果が50%から70%で、一般的な皮下接種の不活化ワクチンとほぼ同程度だった。一方、2013-2014と2015-2016のシーズンは皮下接種の不活化ワクチンの効果が約60%なのに対し、フルミストが有意に低かったとされている。「報告書から、特にH1N1型への効果はほぼゼロだったことがわかる」と、新潟大学小児科学分野教授の齋藤昭彦氏は話す。
 フルミストは、弱毒化させたり低温馴化させるなどの処理を行ったウイルスの遺伝子断片を細胞に組み込み、再集合させてできたウイルスを鶏卵に感染させて作製する弱毒生ワクチンだ。2013-2014シーズン以降は、A型のうちH1N1型、H3N2型とB型の山形系統、ビクトリア系統を対象とした4価のワクチンとなっている。開発したのはMedImmune社だが、現在は、後に同社を買収した英AstraZeneca社の傘下で販売されている。
 欧州でも使われているが(商品名Fluenz Tetra)、英国からもこの数年は効き目が弱いと報告されていた。AstraZeneca社の研究者を筆頭著者とする論文においても、「市販後調査により2013-2014シーズンの米国では効果が弱かったことが明らかになった」と報告されている(Vaccine 2016;34:77-82)。ただし、この6月のCDC発表直後にAstraZeneca社は「2015-2016シーズンでは46%から58%の有効性が認められた。CDCは流行株とワクチンの型が合えば、一般的にワクチンの有効性は50%から60%だとしている。今後、データに基づき、CDCと協議を進めていきたい」とするリリースも出している。

▶ 上気道粘膜でウイルスの侵入を阻止する経鼻ワクチン
 インフルエンザにおいては、一般的な皮下接種の不活化ワクチンは乳幼児への効果が弱い。過去に感染歴があれば接種により抗原特異的な血中抗体(IgG)を速やかに産生できるが、感染歴がなければそのようなブースター効果を期待できないからだ(ただし、乳幼児でも脳炎や心筋炎などの重症化を抑制する効果はあるとされる)。一方、フルミストのような弱毒生ワクチンは体内で感染状態を作りだすため、乳幼児にも有効とされている。
 さらに、鼻に噴霧するフルミストには、体内でのウイルス増殖に対して起こる血中IgG産生だけでなく、上気道粘膜における分泌型抗体(IgA)の産生も誘導するという他にはない特徴がある。粘膜局所から分泌されるIgAには、いち早くウイルスを捉えて侵入そのものを食い止める効果が期待できる。
 2008年までの10年以上にわたって、米California大学San Diego校などで小児感染症の臨床現場を経験した斎藤氏は、「米国で小児感染症専門医として仕事をしていた頃、フルミストの効果は一般的な皮下接種ワクチンの約2倍高いとされ、臨床現場で小児へのフルミスト接種が急速に広がっていったことを覚えている。フルミストが日本でも中心的役割を担うようになるだろうと思っていたので、今回の報告は残念だ」と語る。
 北里大学の中山哲夫氏は「米国でここ数年、H1N1型が流行したことで生ワクチンの特性がマイナスに働いたのではないか」と推測する。

▶ 明確にならない、効かなかった理由
 不活化ワクチンと異なり、生ワクチンの場合は、すでに感染歴があるとワクチンウイルスが体内で排除されてしまうために効果が弱いことが知られている。国内でフルミストの臨床試験に関わる北里大学北里生命科学研究所ウイルス感染制御学特任教授の中山哲夫氏は、この特性がフルミストにマイナスに働いた可能性を指摘する。直近の数年、同じH1N1型が流行しており、気づかないうちに多くの子どもがH1N1ウイルスに曝露されたことで効果が発揮されなかったのではないかというのだ。
 さらに、中山氏とともに、国立感染症研究所感染病理部部長の長谷川秀樹氏も指摘するのが、2013-2014シーズン以降のワクチンが3価から4価に変更された点だ。中山氏は「異なる型の生きたインフルエンザウイルスは互いに干渉し合うことが知られており、体内で増えなかった型のワクチン効果は下がることになる」と話す。ただし、「それでも、なぜH1N1型に対する抗体価が上がらなかったのかなど、謎が多い」と首をかしげる。
 前述のVaccine誌における報告では、特定の生産ラインにおける保存の問題、2〜8℃とされる推奨温度の妥当性、ウイルスのヒト細胞への結合能の変化など、複数の可能性が示唆されているが、齋藤氏は「AstraZeneca社内で検討されたものが多く、科学的な裏付けに乏しい。インフルエンザワクチンの効果判定に影響する因子は多く、原因の究明は本当に難しい」とコメントする。

▶ 国内では経鼻ワクチンの先行き不透明、皮内ワクチンに期待
 フルミストの開発は、2015年にAstraZeneca社と契約した第一三共が行っており、現在、国内製造販売申請中で、上市に向けた最終段階にあるといえる。中山氏は「現在、免疫応答についての再確認試験を行うところだが、今回のACIP報告がどのように影響するのかは不透明」とし、齋藤氏は「これまでのデータを総合的に見ると、現時点で日本の子どもたちに接種を推奨するのは難しい」と話す。
・・・
 未だ残暑が厳しい中、WHO(世界保健機関)はすでに2016-2017シーズンのワクチン推奨株4種を選定済みだ。それを受け、国内でも検討会議が終わり、まもなく生産に入る。AstraZeneca社は、4価のフルミストについて昨年同様に供給する予定だという。国内のみならず、世界の動向を注意深く見守っていく必要がありそうだ。


「生ワクチンを毎年繰り返し接種する」という他のワクチンでは未経験だったことが、
有効率低下の理由のかもしれない、とのこと。
なるほど・・・確かに、あるウイルスに対して免疫があると、
その生ワクチンを接種しても抗体価は高止まりであまり上昇しない、
という事実がありますね。

そして2017/18シーズン、CDCは勧奨を再開しました。
当時の記事も紹介します。


<ポイント>
・2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。


■ 2016/17シーズンの推奨取り下げから一転インフル経鼻ワクチン、米国で再度接種推奨へ
古川 湧=日経メディカル
2018/03/03:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 米国疾病管理予防センター(CDC)の予防接種諮問委員会(ACIP)は2月21日、インフルエンザの2018/19シーズンにインフルエンザ経鼻ワクチン「フルミスト(FluMist Quadrivalent)」を米国で再度接種推奨することを決定した。・・・
 フルミストは鼻腔に噴霧するタイプの4価の弱毒生ワクチンで、A(H1N1)pdm2009(AH1pdm09)、A(H3N2)、B(山形系統)、B(ビクトリア系統)を対象としている。2003年の登場以来、米国や欧州で一般的に使用されており、日本では承認されていないものの医師が個人輸入して使用するケースがある。
 フルミストは2013/14シーズンからワクチン効果の低下を指摘されており、CDCは2016/17シーズン以降、同ワクチンを接種推奨リストから取り下げていた。
 ACIPの推奨再開は、販売元の英AstraZeneca社が米国で行った臨床試験の結果を受けたもの。2~4歳未満の小児200例を対象に、2015/16シーズン用フルミストと2017/18シーズン用フルミストの、AH1pdm09に対する抗体価の上昇率を評価した。その結果、1回の接種で抗体価が4倍に上昇した子どもの割合は2015/16シーズン用が5%だったのに対し、2017/18シーズン用では23%だった。接種回数を2回にすると、抗体価が4倍に上昇した割合は12%と45%となった。
 米国において2015/16、2017/18シーズンの流行の主流はAH1pdm09だった。2015/16シーズン用フルミストのワクチン効果は一般的な皮下接種不活化ワクチンと比べて有意に低かったと報告されており、特にAH1pdm09に対してはほとんど効果がなかったとされている。
 AstraZeneca社は臨床試験の結果について「2017/18シーズン用ワクチンのAH1pdm09株は、2015/16シーズン用ワクチンよりも有意に良好に作用することが示された」としている。国内では、AstraZeneca社と契約した第一三共がフルミストの開発を2015年から進めており、現在製造販売申請中となっている。

一つ目の記事の内容が確かだとすれば、
再開以降すでに複数年が経過しており、
また同じ現象が発生してもおかしくありませんが、
今ところ聞こえてきません。

結局、「有効率低下&有効率復活の理由」は迷宮入りなのでしょうか。

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思春期の発現〜学校健診に思う〜

2024年08月12日 15時17分00秒 | 予防接種
群馬県みなかみ町の小学校健診で、
「生徒のパンツの中を覗いた」
学校医が社会問題化しました。

一般市民の反応は“推して知るべし”ですが、
医師の中でも賛否両論があることに驚きました。

私は小児科医なので、
「思春期早発症」患者さんの診療経験があります。
つまり、予定より早く“陰毛発生”があるかどうかを確認することは、
診療範囲であり、私も疑わしい患者さんにはそうしています。

逆に、あの“事件”があってから、
「うちの娘(あるいは息子)に陰毛が生えているようなのですが・・・」
という相談が何件かありました。

さらに小学校の学校健診で思春期早発症をスクリーニングされず低身長に終わった患者さん、
「学校健診であの先生に担当してもらっていたら早期発見され、
 治療に結びついて最終身長がもう少し伸びたはず・・・」
という男子もいます。

確かに予告なしで全員に確認することは、
今のご時世では問題視されるかもしれません。

しかし生徒の人権を守るということは、
はずかしいからといって不十分な診察方法を選択することではなく、
しっかり診察してもらい病気のスクリーニングをすることではないのでしょうか?

そして医師の中でも、
「パンツの中を覗くなんて非常識だ!」
という方は、おそらく思春期早発症を診たことがない、
つまり小児科医以外が多いと思われます。

思春期の発現に関して、以下の論文を紹介します。
興味深い記述を列挙します;

・1900年代に性成熟の低年齢化が進んできたが、
その現象が進めば将来の低身長化につながる。
・・・と予想していること。実際にそうなってますから・・・。

・身長発育には成長ホルモンの他に女性ホルモンへの依存が男女ともに大きく、
女性ホルモンは身長発育に関してアクセルとブレーキの両方の作用を有する、
思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは、
男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く、また速やかに増加するため。
・・・男女の身長差の秘密は、女性ホルモンの量と分泌パターンによることを、
初めて知りました。

・人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要する。女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まった。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長した。
・・・妙に肯ける考察です。


Yamanashi Nursing Journal Vol.3 No.1(2004)より一部抜粋(下線は私が引きました);

I.思春期発現の内分泌学的機序
・思春期前は下垂体性性腺刺激ホルモン(LH,FSH)分 泌は抑制されており,LH-RH負荷にも低反応である。性 ホルモン濃度も測定感度以下と低値である。
・このような下垂体ー性 腺系に対する強い抑制はネガティブフィートバック機構 では説明がつかず,上位中枢からLH-RH非依存性の強い 抑制が働いているためと考えられる。この抑制機構に関 しては GABA 系ニューロンが重要な役割を果しており, GABA系ニューロンの抑制とグルタメイト系ニューロン の活性化が思春期発現に関与していることが明かとなっ てきた。
・思春期年齢に達すると上位中枢からの抑制が 解除されて,視床下部から脈動的に LH-RH が分泌され, 下垂体前葉からの FSH,LH 分泌増加が始まり,性腺の 発育,性ホルモンの増加が起こり,二次性徴が出現する。
・乳児期早期(1-3ヵ月)には, FSH,LHと性ホルモン の思春期に匹敵する分泌増加がおこる。2 歳以降思春期までは 下垂体ー性腺系は沈静化した状態(juvenile pause)が持続する。他の哺乳類に比べて人では思春期前が極端に長く, これは思春期発来以前に大脳皮質の発育,成熟を達成す ることが必要なためと推測している。
・二次性徴が発現する 2 年前から LH-RH の脈動的 分泌の振幅が増大し,その刺激で FSH,LH 分泌が増加 し,性腺が発育し,性ホルモン分泌が増加して思春期が 発現する。
・男性ホルモン(テストステロン)は,男児では思春期前 は 10 ng/dl 未満であるが, FSH,LH 分泌増加が始まっ た後,二次性徴が出現する前に測定可能となる。日中の テストステロン分泌は精巣容量 4 ml 以上になると(平均 11 歳)測定可能な濃度に増加し始め,性成熟度タンナー 分類(表 1)2 度から 3 度にかけて血中テストステロン濃度 は急激に上昇する。男性ホルモンは,筋肉増強,変声,発 毛など,思春期の男性化を促進する。
・女性ホルモン(エストラジオール)は,思春期前女児で は 0.6 pg/ml,男児では 0.08 pg/ml と,女児が有意に高 く,これが女児で思春期発来が約 2 年早い理由の 1 つと 考えられている。思春期に入ると男女児ともエストラジ オールは徐々に上昇するが,女児の方が全体的に高値を 示す。男児では身長のスパートが始まると低下してくる。 男女児とも思春期の身長スパートは,主としてエストラ ジオールが成長ホルモン分泌を促進するためと考えられ ており,また骨端線が閉鎖して身長発育が停止するのも エストラジオールの作用と考えられている。
・成長ホルモンはエストラジオールの刺激で分泌が増加 し,IGF-(I インスリン様成長因子)を増加させて,結果的
に思春期の身長スパートが始まる。・・・一方,成長ホルモン 単独欠損では思春期発来がおくれ,成長ホルモン投与を 行うと思春期発来が正常化することが知られている。・・・成長ホルモンは性腺の発育成熟を促進する 作用があることから,思春期の発来にも関与していると 考えられる。

II.思春期の身体変化
・思春期の身体的変化は生殖可 能となるための準備としておこってくる。その特徴的な現象は,性腺の成熟による性ホルモン分泌増加に伴う二次性徴の出現と身長の加速現象(スパート)である。二次性徴は必ず一定の順序に従って出現してくるため,出現時期と出現順序,成熟速度,完成への到達を診ていくことが,思春期の身体的変化を評価する基準となる。
1.性成熟
1-1)二次性徴
・二次性徴の評価には,Tannerの性成熟度分類が広く用いられている(表1)。陰毛,乳房,男性外性器の発育を5 段階に分けて評価するもので,Tanner 2度が思春期発来時期である。
・二次性徴のうち乳房腫大は女性ホルモン作用陰毛,陰茎,髭,変声は男性ホルモン作用である。
女児の二次性徴は乳房発育,陰毛,月経発来の順に出現するが,これらの成熟度の相互関係は個人差が大きい。 日本人では乳房発育 3 - 4 度で陰毛発育が見られるようになり,陰毛 2 - 3 度に達するころに月経発来を認めることが多い。
・乳房発育は左右同時ではなく,数カ月のずれをもって片側性に出現することもある。一見して乳房 腫大がわかり,乳房辺縁と胸部の境界が不明瞭な時期を Tanner 3度としている。乳頭径は1,2度の間は3-4 mm 位で拡大せず,3-5度にかけて4-9mmに拡大する。乳房の大きさは個人差が大きいが,乳頭輪の二次隆起が出現すればTanner 4度となる。
・陰毛は最初大陰唇の内側に 出現するため,足をそろえた仰臥位では見逃され易い。 陰毛 3 度では恥骨結合部に写真に取れる程度の陰毛がみ られ,4 度では陰毛の性状は成人型となり恥骨結合をま たいで縦長(菱型)となる。5 度では大腿内側中央部まで 拡大するが,日本人では4度に留まることも少なくない。
・膣径は白人では思春期前8cmから初経発来時11 cmに拡 大し,初経発来数か月前から透明又は白色の帯下の増加 が見られる。
・男児では睾丸容積の増加が最初の性成熟徴候である。 睾丸容積は Prader の考案した睾丸容積計 orchidometer を用いて測定する。通常,成人では睾丸は 15 - 25ml に 達し,右睾丸が左睾丸より大きく,上方に位置している。
・睾丸容積が 4 ml 以上になると血中男性ホルモン(テスト ステロン)濃度が測定可能となり(>10 ng/dl),次いで陰 嚢皮膚のしわが細かくなり赤みを帯び,陰茎長が増大し てくる。
・陰茎の増大から約 1 年で陰毛発生を認める。陰 毛が 4 度に達すると腋毛が生え始め,やや遅れて髭が生え始める。
・髭は上唇の両端から生え始めて全面にわたり, 頬上部,下唇の下,下顎へと拡大する。
・変声も思春期後半から明かとなる。
・思春期には男児にも乳房に変化が見 られる。乳頭輪径が思春期前(約 1 cm)の 2 倍となり,20 -30 %で乳頭輪下にしこりを触れ,女児のTanner 3度に相当する乳房腫大(gynecomastia女性化乳房)を認めることも稀ではない。思春期初期は相対的に男性ホルモンに比べて女性ホルモン分泌が増加するために起こる現象で,男性ホルモン分泌が増加してくると 1 - 2 年で消失してくる。
・病的な女性化乳房として,性分化異常症などの原発性精巣機能障害から女性化乳房を来す場合がある。クラ インフェルター症候群,男性ホルモン不応症,テストス テロン合成障害などである。
・二次性徴(思春期)が異常に早期に発現する場合を思春 期早発症(性早熟症)という。思春期早発症は,二次性徴 が早期に出現し,その結果身体的,精神的発達に障害を 生じるか,或いは社会生活上問題を生じる状態である。思春期早発症は様々な原因で発症するが,診断基準は二 次性徴の発現時期で決められている(表 2)。
・性成熟徴候 すなわち二次性徴の出現が明らかに遅れている場合,あ るいは出現しても 5 年以内に完成しない場合を性成熟不 全( disorder of sexual maturation, sexual infantilism ) という。
・二次性徴の出現時期は・・・現在日本では,
 男児は14歳,女児は12歳までに96%が思春期発来をみており,
 男児では 15歳,女児では13歳までに99.6%が思春期発来をみてい る。
 そこで,男児では 14 歳,女児では 12 歳になっても 二次性徴が出現しない場合には,思春期遅発と考えて性成熟不全を疑い検査を行う。一般に,二次性徴が出現し て 3 - 5 年で性成熟は完成するため,途中で停止したり, 5 年経過しても完成しない場合も性成熟不全と考える。
1-2)生殖能
・女児では月経発来(初経)と月経周期が重要な指標であ る。日本人の初経年齢は 12.4 歳で,大部分は 10 - 15 歳 の間にはいる。
・初経後1-2年は月経周期は不規則で,無排卵性の場合も多いが,5年を経過しても不規則,過少,過多月経を認める場合は無排卵性月経が疑われる。
・男児では睾丸を直接観察できるため,睾丸容積が生殖能の判定に重要である。・・・睾丸容積の増大と精子形成能は密接な関連がある。・・・睾丸からの男性ホルモン分泌が増加すると, 陰茎が発育し,同時に前立腺,精嚢も発育する。陰茎発育開始後1 年以上経過すると自然射精( 多くは睡眠中の夢精)が認められる。最初の精液は精子数も少なく,運動能 も低いとされている。日本人の自然射精発来(精通)年齢は明かでない。
1-3)成長加速現象(身長スパート)
思春期の身長スパートは男女児とも女性ホルモン(エス トロゲン)に依存している。女性ホルモンは成長ホルモン 分泌を増加させることにより身長発育を促進し,同時に骨成熟を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。女児の方が身長発育が早く,思春期獲得身長が小さいことは,女性ホルモン分泌量の差による部分が大きいと考えられる。
・思春期身長スパート開始後最終身長に達するまでの 獲得身長は,思春期発来年齢が若いほど大きく,年長に なるほど小さくなる。身長スパー ト開始時の身長と最終身長は高い正相関を示す。
・平均的な小児では身長スパート開 始年齢を女児で 9.5 歳,男児で 11 歳とすると,その後の 獲得身長は女児 25 cm,男児 30 cm となる。
・女児では身長増加率と初経とは一定の関係があり,最大身長増加率を示した後の増加率が低下してきた時点で初経が発来する。森岡らによると,初経発来時の身長は151.3±5.5 cm,体重は 42.8 ± 5.9 kg である。
・思春期の骨成長は末梢から中心へ進み,手足の指が最 初にスパートを開始し,四肢,背骨の順になる。そのた め思春期中期では身長の割に手足が大きくなり,足長の体形となるが,背骨(座高)は20歳を過ぎても伸びるため 最終的には普通の体形になる。
1-4)その他の身体的変化
・思春期に性差が 160 明かなのは骨盤と肩である。両腸骨間幅の増加量は男女 で差がないが,身長から見ると女児で腸骨間幅が広くな る。一方,肩幅は男児が明かに大きくなる。
・皮下脂肪の年間増加量は Tanner によると,身長増加率が最大となる時点で最低となり,その後急速に増加する。女児ではどの時点でも皮下脂肪量は増加しているが,男児では身長増加率が最大となる前後 1 年間は皮下脂肪量は減少す
る。

2.思春期発現の男女差
2-1)身体成熟のテンポ
・身体成熟の指標として一般的に用いられている骨年令は,レン トゲン写真上の手骨,手根骨の形態から判定するが,同暦年令の手骨,手根骨は男児に比べ女児の方が成熟している。
・様々な成熟度の指標を用いて評価しても,女児の成熟のテンポは男児より約 20%速いと考えられる(成熟 の速度 男児 / 女児:1/1.2)。
・女児の成熟のテンポを速め ている主な因子は女性ホルモン(エストラジオール)である。思春期前の血清エストラジオール濃度は男女とも極めて低値であるが,女児の方が 8 倍高値である(女児:0.6 pg/ml,男児:0.08 pg/ml,成人女性基礎値:20 - 60 pg/ ml)。人は思春期前の期間が他の哺乳類と比べて特別長いため,低値ではあってもこの濃度差は成熟のテンポに大きく影響していると推測される。女児の成熟のテンポが速いため,思春期前の男女の身長発育は一致しているが, 結果的に女児は男児より約 2 年早く思春期を迎えることになる。そのため 9 歳 10 ヶ月から 12 歳 6 ヶ月までは女児の平均身長が男児を上回ることになる。
2-2)身体成熟の年次変化
日本人の初経発来年令は 1900 - 1930 年の間は 15 - 16 歳で推移しており(早い報告でも 14 歳以上),1930 - 1950 年の 20 年 間に初経年令は13歳まで早期化し,1960年に12.5歳とな り,その後はほぼ一定で現在は 12.4 歳である。
1900年代における日本人の早熟化は思春期前の身長発育の増加として現れており,今後さらに早熟化が進むことになれば最終身長は低下してくると予想される。
3-3)女性ホルモンと男性ホルモン
・思春期の体型の性差は性ホルモンの分泌量が男女で異 なるためである。
・身長発育に関しては男女とも女性ホルモンへの依存が大きいことが明らかになってきた。 女性ホルモンは成長ホルモンの分泌を促進し,インスリ ン様成長因子を増加させることによって身長発育を促進 させるが(身長スパート),同時に長管骨に直接作用してインスリン様成長因子(IGF-I)の合成を抑制し,成長軟骨 の骨化を促進することにより骨端線を閉鎖し,身長発育を停止させる。このように女性ホルモンは身長発育に関 してアクセルとブレーキの両方の作用を有している。思春期の獲得身長が女性の方が小さいのは,男性に比べて女性ホルモンの分泌量が多く,また速やかに増加するためである。

III.性成熟と身体像(ボディーイメージ)
・・・

IV.おわりに
人は他の哺乳類に比べて思春期前の期間が圧倒的に長い。人が生殖能を獲得し,集団生活をおくれる身体的・ 精神的発達段階に達するための脳の発育にそれだけの期間を要するということが,思春期前の期間の長さに現れ ていると考えられる。
・この思春期前の期間の長さ が個人差を拡大し,思春期に発生する様々な問題の一因 ともなっている。100 年前には 15 歳初経発来が今では 12 歳である。このことは女児の二次性徴の出現が13歳から 10 歳に 3 年早まったことを意味している。昔は 13 年間で達成していた思春期前の精神発達を,今では10年間で達成しなければならなくなったということである。20%の 早熟化は個人差を拡大し,思春期における未熟性を助長したと考えられる。

・・・この示唆に富む文章を書いた人物こそ、
みなかみ町の“パンツ覗き学校医”として話題になった大山健司医師です。
純粋に医学的理由で診察した行為だと私は信じています。

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プラスチックかが進む人体〜心臓・精巣・ペニス

2024年08月07日 12時31分47秒 | 予防接種
前項で人体に侵入しているナノプラスチックの記事を紹介しました。
引き続き局所のナノプラスチック存在に関して・・・
なんとペニスからも検出されたというショッキングな記事を紹介します。

対策としては「体にプラスチックを入れないこと」が基本、
さらに具体的には、
・プラスチック容器を使わない、生活環境から排除する
・プラスチック容器を電子レンジでチンしない
・プラスチック容器を食器洗浄機にかけない
を提案しています。

<ポイント>
・人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかった。
・人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出された。
・マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性がある。
・マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのか、現時点では不明。
・プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある。
・われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ。
・人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かった。
・対策その1:可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らす。
・対策その2:乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめる。
・対策その3:熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにする。

■ 人間のペニスから初めてマイクロプラスチックを検出
HealthDay News:2024/07/15)より一部抜粋(下線は私が引きました);  
 人間のペニスから7種類のマイクロプラスチックが初めて検出されたことを、米マイアミ大学ミラー医学部のRanjith Ramasamy氏らが、「IJIR: Your Sexual Medicine Journal」に6月19日発表した。この研究では、5点のペニスの組織サンプルのうちの4点でマイクロプラスチックが検出されたという。研究グループは本年5月に人間の精巣から驚くべきレベルのマイクロプラスチックが検出されたことを報告したばかりであった。研究グループは、マイクロプラスチックは主要臓器の細胞や組織に浸潤する可能性があると話している。
 Ramasamy氏はCNNの取材に対し、「今回の研究は、人間の心臓の中からマイクロプラスチックが見つかったことを明らかにした先行研究を土台にしている」と述べ、「ペニスは心臓と同様、非常に血管の多い臓器であるため、ペニスからマイクロプラスチックが見つかったことに驚きはなかった」と語っている。
 Ramasamy氏らは今回、勃起不全(ED)と診断され、2023年8月から9月の間に陰茎インプラント手術を受けるためにマイアミ大学の病院に入院していた6人の患者から採取したペニスの組織サンプルを用いて、赤外イメージングシステムによる分析を行った。組織サンプルは陰茎体部から採取され、うち5点のサンプルは洗浄済みのガラス器具に保存された。残る1点は、プラスチック容器に保存して対照サンプルとした。
 その結果、ガラス器具に保存した5点のサンプルのうちの4点と対照サンプルから7種類のマイクロプラスチックが見つかった。最も多く検出されたのはポリエチレンテレフタレートPET、47.8%)、次いで多かったのはポリプロピレンPP、34.7%)であった。また、マイクロプラスチックのサイズは20〜500µmであった。
 このような結果を踏まえた上でRamasamy氏は、「今後は、マイクロプラスチックがEDに関係しているのか、病理学的症状を引き起こすレベルはどの程度のものなのか、どのような種類のマイクロプラスチックが病理学的症状を引き起こすのかを明らかにする必要がある」と述べている。
 Ramasamy氏は、この研究が「人間の臓器内に異物が存在することについての認識を深め、このテーマをめぐる研究の促進につながる」ことを願っていると付け加えている。同氏はさらに、「われわれは、ペットボトルやプラスチック製の容器から水や食品を摂取することに留意し、今後の研究で病理学的症状を起こし得るレベルが特定されるまでは、そうしたものの使用を制限するよう努めるべきだ」と述べている。

 米ニューメキシコ大学薬学部教授のMatthew Campen氏はCNNの取材に対し、「プラスチックが体内の至る所に入り込んでいることを裏付ける興味深い研究だ」と話す。同氏は、「プラスチックは一般的に、人間の体の細胞や化学物質と反応はしないが、勃起や精子の生成に関与する機能を含め、体が正常に機能するためのプロセスに対して物理的に破壊的である可能性はある」と指摘する。
 Campen氏は、共著者として参加した人間の精巣に関する研究において、人間の精巣中で検出されたマイクロプラスチックのレベルが、犬の精巣や人間の胎盤で検出されたレベルより3倍高かったことに言及。「われわれは、体内のマイクロプラスチックがもたらし得る脅威にようやく気付き始めたところだ。マイクロプラスチックが不妊症や精巣がん、その他のがんに関与しているのかどうかを明確にするためにも、このテーマに関する研究の急増が必要だ」と述べている。
 一方、米国小児科学会(AAP)の食品添加物と子どもの健康に関する政策声明の筆頭著者である、米ニューヨーク大学ランゴンヘルスのLeonardo Trasande氏は、マイクロプラスチックがもたらす脅威が明らかになるまでの間にわれわれがやるべきこととして、「まず、可能な限りステンレスやガラスの容器を使い、プラスチックの使用量を減らすこと。また、乳幼児用の粉ミルクや搾乳した母乳を含め、プラスチック製の容器に入った食品や飲料を電子レンジで温めるのはやめること。さらに、熱により化学物質が溶出する可能性があるので、プラスチックを食器洗浄機に入れないようにすること」とCNNに対して語っている。

<原著論文>
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糖質制限ダイエットは危険?

2024年07月26日 06時29分33秒 | 予防接種
私自身、もう5年以上糖質制限をしています。

といってもゆる〜い糖質制限で、主食(穀物)を食べないだけ。
言い方を変えると、「おかずだけ食べる」食生活です。

ストイックな糖質制限食者は、
天ぷらや揚げ物の衣も食べないそうですが、
私は食べる喜びを捨てるつもりはないので、
みんな一緒に食べています。

するといくつかのことに気づきました。
まず、和食のおかずは「しょっぱい」こと。
ご飯がはかどるための味付けになっているのです。

これは、日本人が米を主食に選んだ弥生時代に、
高血圧という国民病を抱えることになったと読んだことがありますが、
その通りだと思います。

それから、炭水化物を主食に選んだ時点で、
糖尿病という国民病も抱えることになりました。

炭水化物は消化吸収される際、ブドウ糖に分解されます。
つまり、甘いスイーツや菓子類を食べなくても、
米やパンやパスタでしっかり糖負荷がかかっているのです。
例えば、「うどんひと玉は角砂糖14個分」という題名の本がありましたね。

ですから、糖質制限は少なくとも「高血圧」「糖尿病」を回避する有効な方法と言えます。

そして過剰な糖質は脂肪となって蓄積されます。
油っぽいモノを食べると脂肪になるとイメージされやすいですが、
実は脂肪の元凶は糖質です。

実際にゆる〜い糖質制限を続けている私は、
標準体重を維持し続けています。

これは栄養学的のみならず、精神衛生上とてもよいこと。
ユニクロの衣服をきつさを感じることなく着用可能なのです。
メタボの中年はユニクロをスマートに着こなせませんよね。

…前置きが長くなりました。
私にとって糖質制限はよいことですが、
中には反対意見もあります。
これから数回、それらの記事を拾ってみます。

以下の記事で驚いたのは、
「油っぽいものを食べると太る」というイメージは、
砂糖業界が商業的に作り出したものである、という事実!

それから、
「糖が足りないときは脂肪やたんぱく質がそれを補う」
と説明しておきながら、
「糖が足りないと脂肪やたんぱく質が分解されて危険」
と否定的な説明もしており、
 (どっちなの?)
と、どう理解してよいのかわからない…。

それからそれから、
脂肪が分解されると生成されるケトン体を悪者にしていますが、
近年、脳はケトン体を栄養分として利用できることが判明したという、
科学的事実を付け加えておきます。

<ポイント>
・生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです。
・脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
・脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります。砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。
・脂質と糖、タンパク質は互いに変換できます。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます。
・糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です。
・脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます。肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます。使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です。血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。
・脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります。


■ 最悪の場合は死に至る…ラクに体重が減る「糖質制限ダイエット」に潜む危険すぎるリスク過度な減量は飢餓状態とほとんど変わらない
2022.6.8:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);

 ラクに体重を減らせるとして「糖質制限ダイエット」が注目を集めている。コンビニなどでも「糖質」を表記する商品が目立つ。サイエンスライターの佐藤成美さんは「たしかに糖質制限をすれば体重を減らせるが、筋肉量の減少や脱水症状を引き起こすリスクがある。長期にわたって過度な糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もある」という――。
※ 本稿は、佐藤成美『本当に役立つ栄養学 肥満、病気、老化予防のカギとなる食べものの科学』(ブルーバックス)の一部を再編集したものです。

▶ 油っぽい食べものはダイエットの敵なのか
 さて、三大栄養素の糖質、脂質、タンパク質について、複合的に考えてみたいと思います。エネルギー源となるこれらの栄養素の熱量は、タンパク質や糖質では1gあたり4kcalなのですが、脂質は9kcalと倍以上にもなります。
 脂質のこの性質は生体内にエネルギーを蓄えるためには重要です。ただ、油といえば、連鎖的に太るとイメージされます。油や油を多く含む食べものはもっぱらダイエットの敵とされてきました。このようなイメージが染みついているのは、脂質のエネルギーが高いからなのでしょうか。
 生物には、飢餓に備えて余ったエネルギーを脂肪の形でためておいて、飢餓の状態になったときそれを使って生き延びるしくみがあります。エネルギー源になるのなら、ためておくのはタンパク質だって、糖質だっていいのですが、脂質は、同じ重さあたりのエネルギーが倍以上なのでとても効率がいいのです。そのため糖質やタンパク質も余れば脂質に変換され蓄えることができます。このしくみがあるために、脂質ばかりでなく、何を食べても食べすぎれば太るということになるのです
 さて、脂質は皮下組織や内臓のまわりにある脂肪組織に蓄えられます。脂肪組織は体温の保持や体の保護にも重要です。脂肪組織には脂肪細胞という脂肪をためておくための特殊な細胞があり、細胞質に脂肪滴という脂肪のかたまりをもっているのが特徴です。

▶ 肥満によって脂肪細胞はどんどん増えていく
 脂肪細胞には、大きな脂肪滴がひとつある白色脂肪細胞と複数の脂肪滴がある褐色脂肪細胞やベージュ脂肪細胞があり、役割が異なります。
 皮下組織にあって、脂肪をためる役割をしているのは白色脂肪細胞です。褐色脂肪細胞は首や肩の周りなどに多くあり、脂肪を代謝させエネルギーを産生します。ベージュ脂肪細胞は動物が長期間、寒冷にさらされると出現するという特徴があり、やはりエネルギー産生機能をもっています。
 白色脂肪細胞(以下、脂肪細胞)は、脂肪をためると直径70〜90µmほどの大きさになります(1µmは10-3mm)。赤血球の直径が8µmほどですから、脂肪細胞はかなり大きい細胞です。人類は、飢餓に備えて、このような細胞を獲得したものの、食べものが豊富になり、便利な時代となった今、栄養過剰摂取と運動不足でエネルギーは余るばかり。それでも、生体はエネルギーをためることはやめません。
 その結果、脂肪細胞は脂肪をどんどん取り込むことになりました。風船がふくらむように大きくなり、最大では直径100µmをこえるほどの大きさになります。太るとき、脂肪細胞は、「数は変わらずにどんどん大きくなる」という説と「数が増える」という説がありました。最近は、肥満によって脂肪細胞の数が増えることが明らかになってきました。

▶ 太る原因は糖質なのか、脂質なのか
 脂肪細胞の数は成人で約300億個、肥満者で400億から600億個といわれます。そしてこれらの脂肪細胞は体内最大の内分泌器官でもあります。脂肪細胞からはたくさんの種類の、アディポサイトカインという脂肪の代謝に関わる生理活性物質が分泌され、エネルギー代謝を調節しています。内臓脂肪が蓄積されるとアディポサイトカインの分泌異常が起こり、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます
 ここでまた本稿の冒頭の疑問点に戻ります。生物は余ったエネルギーを脂肪として蓄えるしくみがあり、それは脂質を含む食べものを食べたときばかりではありません。それなのに、脂質=太るというイメージが強いのはなぜでしょう。
 脂質を摂りすぎると、太るとか健康によくないといわれるようになったのは1950年代のことのようです。アメリカ合衆国第34代大統領だったアイゼンハワーが心筋梗塞で倒れたときにその原因が脂肪の摂りすぎという情報が流されたからという説、あるいは砂糖業界が研究機関のデータを都合よく書き換えた陰謀説などがあります
 砂糖の消費を減らしたくない砂糖業界は、肥満や心臓病のリスクを減らすには低脂肪ダイエットが効果的であるという方向にもっていったのです。アメリカでは健康に悪いのは脂肪か砂糖かという論争がありましたが、糖質と脂質の代謝は相互に関連しているのでどちらでも食べすぎれば太ります。
・・・

▶ 糖質はどうやって代謝されているのか
 糖代謝について少し説明しておきましょう。デンプンはブドウ糖が長くつながってできた分子で、アミラーゼなどの消化酵素の働きでブドウ糖に加水分解され、小腸で吸収されます。肝臓では、一部グリコーゲンとして蓄えられたのち、血液で必要な組織や細胞に運ばれエネルギー源として使われます。
 細胞に取り込まれたブドウ糖は、クエン酸回路、電子伝達系を経て、ATP(アデノシン三リン酸)が合成されます。ブドウ糖が二酸化炭素と水になるだけの反応ですが、何段階もの複雑な過程を経ることで、非常に効率よくエネルギーを引き出しています。糖代謝はさまざまな代謝の中心で、代謝の途中でできる中間代謝産物が脂質やタンパク質などほかの代謝経路とも相互に関わりあっています。
たとえば、ブドウ糖は解糖系の第1段階として、グリコーゲンに変化しやすい状態に変わり、ここでグリコーゲンといったりきたりします。過剰なブドウ糖はすぐにグリコーゲンに変えられるし、ブドウ糖が足りなければすぐにグリコーゲンを分解して、解糖系で代謝させることができます。

▶ なぜビタミン剤は疲労に効果があるのか
 脂質とタンパク質の代謝についても見てみましょう。
 中性脂肪はグリセロールと脂肪酸から構成されていますが、グリセロールは解糖系と関わっており、脂肪酸はアセチルCoAという物質でクエン酸回路と関わっています。タンパク質はアミノ酸に分解されると、アセト酢酸やピルビン酸を経てアセチルCoAになります。これらの中間代謝産物を介して、タンパク質の代謝と糖代謝も関わっています。
このことは、脂質と糖、タンパク質が互いに変換できることを意味します。つまり、糖やタンパク質から脂質が作れるということ。また、脂質やアミノ酸から糖も作れます。特に糖と脂質の代謝は密接ですから、糖を摂りすぎれば脂肪となって蓄えられ、足りなくなれば使われます
 生体内の代謝は化学反応の連続で、さまざまな代謝経路が相互に関わりながら非常に複雑なネットワークをつくっています。ネットワークを示した代謝マップは、東京など大都市の路線マップよりも複雑です。そして、このネットワークが間違えずにスムーズに機能することが「体調が良い」ことになるのです。
 三大栄養素の代謝にはビタミンが必要で、不足すると代謝が機能しにくくなります。ビタミン剤やビタミン入りのドリンクが疲労に効果があるといわれるのは、必要なビタミンを補い、代謝を促すからなのでしょう。

▶ 過剰な糖質制限ダイエットは低血糖を招く
 ここからは、低糖質ダイエットや糖質制限ダイエットについて詳しく考えてみたいと思います。
糖質とは炭水化物のうち、エネルギー源になるデンプンやその構成要素でもあるブドウ糖などをいいます。糖質制限ダイエットのブームで、糖質という言葉の意味が広く知られるようになったものの、太る原因や健康に悪いというイメージが強まりすっかり悪者になってしまいました。
 糖質制限ダイエットは、食事から主食であるコメなどの穀物を減らし糖質の摂取を控える食事法です。もとは2型糖尿病の食事療法としてあみ出されました。血糖値が上がりにくくなり、脂肪もつきにくくなるとも言われているようです。さらに、このダイエットでは、糖質の摂取量は制限するものの、脂質やタンパク質は好きなだけたべてよいのが特徴です
 糖質を控えるだけなら比較的簡単そうだし、おまけにカロリー制限はなく肉も満腹になるまで食べてもいい、ということで飛びつきたくなる気持ちもわかります。ただ、主要なエネルギー源である糖質を控えたら、どうやってエネルギーを得ることになるか、考える必要があります。
 脂質やタンパク質は糖質とともにエネルギーになります。糖代謝はエネルギー代謝の中心にあり、脂質やタンパク質の代謝と密接に結びついており、糖質が不足してもエネルギーをつくるしくみがあります。それなら糖質制限しても問題はなさそうと思ってしまいます。ところが、困ったことに、脳は脂質をエネルギー源として利用できないので、糖質を摂取していないと、血糖値を維持することができなくなってしまいます
 もし、低血糖になれば脳はその影響を強く受け、昏睡こんすい状態になる危険もあり、時には死を招きます。

▶ 意識障害や脱水症、動脈硬化のリスクが高まる
 低血糖を避けるために体内では、まずは肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解して、ブドウ糖を補います。グリコーゲンはデンプンと同様ブドウ糖がつながった分子なので、分解すればブドウ糖になります。とはいえ、肝臓に蓄えられたグリコーゲンは、食事などで糖質を摂取しなければ、約半日で使い果たされます
使い果たされると次に、糖新生という経路が働き、ブドウ糖をつくり、血糖値を維持します。糖新生の材料になるのは、筋肉を分解して生じるアミノ酸や脂肪細胞の分解で生じるグリセロール、酸素が要らない解糖系で生じる乳酸です
 血糖値の低下は生体にとって非常に大きなリスクですから、糖と脂質、アミノ酸の代謝がタッグを組んでなんとか乗り越えようとするのです。このような体を守るしくみを知ったうえで糖質制限ダイエットについて考えてみる必要があります。
 糖質制限をすると脂肪細胞の分解ということは起こるので、やせることはかなり期待できます。ただ、やせたといってもぬか喜びになるかもしれません。極端な糖質制限を続ければ筋肉まで分解され、生体にとって危険な状態になるからです。
 脂肪が分解されると、ケトン体や脂肪酸が生じます。ケトン体とは、糖質が不足し脂質をエネルギーにするときにできる代謝産物です。極端な糖質制限をして、脂質をエネルギーとして利用し続けると、ケトン体が過剰になります。すると血液が酸性に傾き、意識障害や脱水症を引き起こします。また、脂肪酸が多量に放出され、コレステロールの合成にも使われるので動脈硬化のリスクが高まります

▶ 長期の糖質制限ダイエットはで死亡リスクが高まる可能性も
 実は飢餓や糖尿病でも、これと同じ状態が起こります。糖尿病は、糖代謝が制御できず、高血糖状態が続く病気です。糖尿病になると、体内にブドウ糖があってもブドウ糖を利用できなくなり、エネルギー不足に陥ります。
 糖質制限をしたときに起こるメカニズムはまだ十分には解明されていません。糖質制限をしてやせる理由のひとつに、ケトン体が栄養シグナル分子として、絶食などブドウ糖を利用できないときのエネルギー利用の調節にはたらいているためではないかと示唆されています。
 一方、長期にわたって糖質制限を続ければ、死亡リスクが高まるとの報告もあります。糖質制限の効果には賛否両論があります。良い面も報告されていると同時に弊害も報告されています。健康になるのかどうかは今のところは疑問です。糖質をとりすぎている人は減らす必要はありますが、ブドウ糖は筋肉や脳を動かすエネルギー源として欠かせないものなので、適度に摂取することは必要です。
・・・


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積極的勧奨を再開したHPVワクチン(子宮頚がんワクチン)、接種率は?

2024年07月23日 06時10分18秒 | 予防接種
世界のワクチン接種率と比較すると、
周回遅れ以上に遅れている日本の状況、
昨年ようやく積極的勧奨が再開されましたが、
接種率は伸び悩んでいるという噂を耳にします。

さて、実際の数字はどうでしょうか?
以下の記事が目に留まりました。

<ポイント>
・WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値は「接種率90%」であるが日本はその半分にも満たない。
・日本における接種率は、
 個別案内世代(2004~09年度): 16.16%
 積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)・ 2.83%。
・2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定すると、
 個別案内世代(2004~09年度):28.83%
 積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16%


■ HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大
2024/07/22:ケアネット)より一部抜粋(下線は私が引きました); 
 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。・・・
 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。
 主な結果は以下のとおり。

・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。
 接種世代(1994~99年度):71.96%
 停止世代(2000~03年度):4.62%
 個別案内世代(2004~09年度):16.16%
 積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%

・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。
 接種世代(1994~99年度):71.96%
 停止世代(2000~03年度):4.62%
 個別案内世代(2004~09年度):28.83%
 積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16%

 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

<原著論文>
・Yagi A, et al. JAMA Netw Open. 2024;7:e2422513.
<参考文献・参考サイト>
・大阪大学. このままではWHO目標値の半分以下に…積極的勧奨再開も効果薄? 伸び悩むHPVワクチン接種率
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赤ちゃんの熱中症対策

2024年07月22日 13時34分15秒 | 予防接種
梅雨が明け、猛暑日が続き、熱中症が心配な季節になりました。
高齢者の重症例が社会問題化していますが、
野外活動・スポーツをする子どもたちも稀ではありません。

つらさが訴えられない赤ちゃんのリスク因子を確認しておきましょう。
よく指摘されるのは、
大人が感じる気温とベビーカーに乗っている赤ちゃんの感じる気温には差があること。
地面やアスファルトからの照り返しで、3〜4℃高い温度にさらされているのです。
それを考慮した対策を立てる必要があります。

以下の記事を参考にポイントをまとめてみました;

<ポイント>
・一般的注意:
 ✓ 暑い時間帯の外出を避ける
 ✓ こまめに水分補給をする
 ✓ 風通しがいい服装にする
 ✓ エアコンで室温を24~28度くらいに保つ
 ✓ 外出時はこまめに休憩を取る
・とくに注意したいのは、車内に子どもだけ置き去りにすること。エンジンをかけてエアコンを入れていても、車内は熱中症を引き起こしやすい状態に。日中だけでなく、夜間も同じ。
・日中に屋外で長時間ベビーカーに乗せることも熱中症の危険が。ベビーカーの赤ちゃんは地面から近いため照り返しの熱を受けやすくなる。

■ まさか…こんなところで熱中症に?!赤ちゃんの熱中症対策Q&A
2024/7/16:たまひよONLINE)より一部抜粋(下線は私が引きました);

・・・体温調節がうまくできない赤ちゃんが熱中症にならないためには、大人が注意してあげることが大事です。赤ちゃんの熱中症についてママやパパたちが気になることを、帝京大学医学部附属溝口病院の小児科医、黒澤照喜先生に聞きました。 


▶ 赤ちゃんの熱中症予防のために知っておきたいこと

 熱中症とは、体内に熱がこもり、体温が急激に上昇して引き起こされる症状のことです。赤ちゃんの場合、主な症状は機嫌が悪くなる、顔色が悪くなる、脱水症状や意識障害、ショック状態などで、最悪の場合、命を落とすことも。赤ちゃんは体の不調を言葉で伝えられないため、ママやパパが気をつけてあげることが必要です。 「熱中症を予防するには、まず暑い時間帯の外出を避ける、こまめに水分補給をする、風通しがいい服装にする、エアコンで室温を24~28度くらいに保つ、外出時はこまめに休憩を取る、などに気をつけましょう」(黒澤先生) また、熱中症が起こりやすい状況を知り、避けることも大切です。 
 「とくに注意したいのは、車内に子どもだけ置き去りにすること。エンジンをかけてエアコンを入れていても、車内は熱中症を引き起こしやすい状態に。日中だけでなく、夜間も同じです。 そして、日中に屋外で長時間ベビーカーに乗せることも熱中症の危険が。ベビーカーの赤ちゃんは地面から近いため照り返しの熱を受けやすくなります。こまめに赤ちゃんの様子に気を配りましょう」(黒澤先生)

▶ 教えて!熱中症対策の気になるあれこれQ&A

黒澤先生に、ママたちが気になる熱中症についての質問に答えてもらいました。

Q.室内でも熱中症になるの?

【黒澤先生より】 急激に気温や湿度が上がる時期には、体が暑さに慣れていないと室内でも熱中症になるケースがあります。以下のことに気をつけましょう。
・赤ちゃんを日当たりのいい窓際に寝かせっぱなしにしない
・エアコンを活用して、室温を24~28度くらいに保つ
・ときどき換気を行い空気を循環させて、気温・湿度を下げる
・赤ちゃんの服の枚数は大人より少なく

Q.ベビーカーや抱っこひもにつける携帯扇風機は熱中症対策になるの?
【黒澤先生より】 空気の流れができるので悪くないと思います。ただ、赤ちゃんがけがをしないようにきちんと安全対策がとられたものを選ぶことが大切です。赤ちゃんが扇風機を触ろうとしてベビーカーが転倒しないよう、使用時は目を離さないようにしましょう。

Q.ベランダなどのプール遊びで気をつけることは?
【黒澤先生より】 プールの水遊びでは、気づかないうちに脱水症状になってしまうことも。日ざしが強く気温が高い真昼の時間帯は避け、本人の体調に注意しながら、水分補給をする、短い時間で切り上げるなどの工夫をしましょう。

Q.赤ちゃんにも日焼け止めを塗ったり、UVカットの上着を着せたりしたほうがいいの?
【黒澤先生より】 日焼け止めやUVカットの衣類は紫外線を防いで日焼けを予防するためのもので、熱中症対策にはなりません。スキンケアとしては大切なので、外出時は日焼け対策をするといいでしょう。

Q.お出かけの時ベビーカーに取り付ける保冷マットは使ったほうがいいの?
【黒澤先生より】 保冷剤やベビーカーに敷くタイプの保冷マットなどは、熱を取ってくれるため、熱中症対策には有効です。ただし、だからといって暑い日にベビーカーに長時間乗せっぱなしにするのはNG。また、冷えすぎることもあるので、顔色や体の震えがないか気をつけましょう。
 このほか、おでこに貼るような冷却ジェルシートはメントールでスッとした感覚じがするだけで実際に熱は奪われないため、熱中症対策にはなりません
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新型コロナの「罹患後症状」〜その3.循環器症状

2024年06月23日 11時12分42秒 | 予防接種
前項目で新型コロナ罹患後症状の呼吸器症状について記しました。
この項目では循環器症状に対する医療側のアプローチについて、
診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント
を参考にポイントを列挙します。

循環器合併症で注意すべきは心筋炎ですね。
ワクチン副反応でも有名になりましたが、
実際にCOVID-19に罹患した場合の方が、
頻度も重症度も高いのが事実です。

それを疑った場合は速やかに専門医あるいは高次病院へ紹介することが、
開業医の役割でしょう。


<循環器症状へのアプローチ>

■ 概要
・COVID-19罹患に伴い、急性冠症候群(急性心筋梗塞や不安定狭心症)、
 心不全、不整脈、脳梗塞、血栓塞栓症などの循環器病が、
 感染急性期に合併するだけでなく、急性期以降においても発症したとの報告があり、
 急性期以降も循環器病が合併する可能性に常に留意する必要がある。

■ 科学的知見
・(海外からの報告)COVID-19罹患5〜7ヶ月後までに43〜89%
(胸痛5〜76%、動悸5〜68%、呼吸困難感18〜88%、湿疹10〜20%)に認められる。
・日本国内ではその頻度は少ないかもしれない。
・中等症以上のCOVID-19罹患者で、心筋傷害マーカーが陽性になった例においては、
 心筋炎などによる心筋傷害の可能性も考慮して経過観察する。

■ 循環器症状の診療フローチャート

■ プライマリ・ケアにおけるマネジメント
・COVID-19罹患に伴う心筋傷害の報告もあり、とくに心筋炎については、
 急激な心機能低下や致死性不整脈が生じる場合も少なくないため、
 緊急対応が必要となる可能性も考慮する。

■ 専門医・拠点病院への紹介の目安・タイミング
・胸部X-ray、心電図で異常所見を認める場合
BNP 100pg/mL以上、あるいはNT-proBNP 400pg/mL以上



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新型コロナの「罹患後症状」〜その2.呼吸器症状

2024年06月23日 10時46分42秒 | 予防接種
前項目で新型コロナ罹患後症状の概要を記しました。
これからは各症状に対する医療側のアプローチについて、
診療ガイドライン「罹患後症状のマネジメント
を参考にポイントを列挙します。

ガイドラインの「呼吸器症状」の項目を読んでみての感想ですが・・・
当たり前のことしか書いてありません。
・原因はわからない。
・治療薬もない。
・・・という悲しい現実が浮かび上がりました。


■ 呼吸器系の罹患後症状
・呼吸困難感・息苦しさ、咳嗽、喀痰、咽頭痛などが多い(⇩)。
・酸素飽和度(SpO2)低下を伴う場合も、伴わない場合もある。
・問診・診察で鑑別診断が絞り込む(除外診断)
・必要に応じて検査を行う;
(例)胸部X-ray、心電図、血液検査(CBC、BNP、CPK、Dダイマーを含む)、酸素飽和度測定など
・以上を行っても原因がわからない場合や、3〜6ヶ月症状が持続する場合は専門医に紹介する。


■ 呼吸器症状の推定されるメカニズム
・呼吸困難感の機序は多様であり、肺実質障害や心血管障害、筋力低下、基礎疾患の悪化などが含まれる。しかし、心肺機能に異常を認めない例も多い。
・咳嗽も遷延することがあるが頻度は低い。迷走神経を介した、あるいは脳内の神経炎症による可能性が指摘されている。気管支喘息や咳喘息の鑑別が必要であり、過換気症候群の報告もあり、心理的なトラウマの関与が指摘されている。
・肺機能検査異常の頻度は急性期の重症度に依存し、特に肺拡散能が障害されやすい。
・中等症以上のCOVID-19患者では、罹患12〜24ヶ月後であっても、およそ1/3の例でCT画像の異常が認められる。
・肺病変が生じる機序は明確ではないが、SARS-CoV-2特異的なメモリーT細胞とB細胞が血液よりも肺の局所に多く、CD8陽性T細胞が高齢者の遷延する肺機能異常と関連しているとの報告がある。また、肺血管の微小血栓や炎症性の微小血管障害が生じる。

■ 呼吸器症状へのアプローチ

■ フォローアップ
・呼吸器系の罹患後症状は、呼吸困難感・息苦しさ、咳嗽などが主である。
・これらが遷延することが多い一方、明らかな呼吸器・循環器疾患が認められない場合も少なくない。
・基礎疾患(特発性肺線維症など)のある患者では、既存疾患が増悪し重症化することがあるので要注意。
・遷延する労作性の呼吸困難感で,通常のCT検査や肺機能検査で異常がない場合、肺血栓塞栓症を念頭に検査を行う。
・対症療法を行っても3〜6ヶ月異常症状が持続する場合は、呼吸器専門医への紹介を検討する。

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