今回は、李朝白磁の瓶に、珍しい装飾が施された品です。
最大径 22.6㎝、口径 4.7㎝、高台径 12.7㎝、高 36.3㎝。重 2.8㎏。李朝後期。
貼花で菊が表されています。花の部分が、暗赤紫色の辰砂になっています。
縦に大きなニュウが走り、多数のジカンとつながっています。
もう一つ、蘭と思われる植物が染付で描かれています。
釉薬は、薄い青磁釉に見えますが、単なる濁りのある上釉かも知れません。拡大して見ると、気泡以外に、白い結晶上の単片が数多くみられます。
菊の左上方には、昆虫が二匹飛んでいます。
一面にジカンが現れた所もあります。
反対側にも、似た蘭菊模様が表されています。
この面の菊には、汚れのようなものが付いています。
拡大して見ると、これは汚れではなく、鉄釉のようです。
あちこちに、シミ、汚れのように見える茶色の部分がありますが、菊の茎を鉄釉で塗っていたのですね。
茶色くない部分でも拡大して見ると、黒茶色の点々が見えます。
鉄釉の中に含まれていた鉄分(金属鉄)が析出したものでしょう。
最初の写真にあるもう一つの菊紋や虫紋には、肉眼で茶色の部分がみえませんが、拡大すると、所々に、鉄分が観察できます。
どうやら、正面、背面の菊の両方、そして虫紋には、薄い鉄釉が施されて焼成がなされたようです。
今回の器の最大の特徴は、辰砂と鉄釉の併用です。辰砂は、銅の還元による赤系統の色(酸化第一銅)です。銅の酸化色は緑(酸化第二銅)です。一方、鉄釉の茶色は、鉄の酸化(酸化第二鉄)によってもたらされます。還元色は青(酸化第一鉄、青磁)、さらに還元が進めば、金属鉄が析出します。一般の焼成では、還元よりも酸化が容易にすすみます。還元色を得るには、特別な焼成法によらねばなりません。
今回の品は、菊花の辰砂はきれいに発色していますが、鉄釉はほとんど発色していません。強い還元的雰囲気で焼成されたためでしょう。還元と酸化は相反する条件ですから、鉄釉と辰砂を同時に発色させるのは困難なのですね。
ところが・・・
白磁陽刻青花辰砂鉄絵草虫瓶『世界美術全集 東洋編11.朝鮮王朝』小学館、1999年。李朝後期。
美術全集に、似た品がありました。蘭菊模様に、虫が飛んでいます。
「またか!」と思われる方も多い事でしょう(^^;
こちらの品は、染付、辰砂、鉄釉の3色がみごとです。タイトルには、白磁陽刻・・・・とありますが、写真で見る限り、やはり薄い粘土の型を貼り付けて凸模様をあらわした貼花だと思います。染付部分も、貼花になっているようにも見えます。
これは、比較的近年、民家で使われていたものが骨董屋の目にとまり、世に知られるようになった品です。現在、韓国の国宝になっています。
この品のように、染付、辰砂、鉄釉を同時に施すのは困難で、類例が非常に少ないのです。
私の品は、図録の品とは、上釉、染付のタッチ、貼花の仕方などが微妙に異なりますが、カンニュウの入り方などはよく似ています。時代も、李朝後期はありそうです。真赤な偽物とするには、カワイソウ(^.^)