遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

面白古文書『吾妻美屋稀』20.「諸国繁昌御治世萬歳」

2024年04月11日 | 面白古文書

今回も見立て番付けではなく、当時の世相を反映した「諸国繁昌御治世萬歳」です。

諸国繁昌御治世萬歳
(しょこくはんじやうありがたきみよまんざい)

徳は神。ごまんそくと。御代もさかゑ。ましますワンあいきやうあるゆゑ。あらためて。としたてかゑてあらたまる。ミなもわかやぎこめたさげてやすうりけるハ。まことにめつそうににぎわひける、京のつかさハかんみさまのおりいのミかげ。おれハ十ぶん。かれは九ぶん。よろづやす/\ 米やすの。ひのもとにて。正月二日寅の。いつてんに。はんしやうまします店ひらき。あきなひものを。やすうりけるハ。まことにめでたき御治世でそうらいける、やすい/\京の町もやすい。かうたる物ハなに/\ 。大むぎ小むぎ豆のやすうり。さがりたまへや皆うりきれるミなうりきれるミなうり /\ ミなうりやすいと。かうたる物ハ。よろこぶ。そこをよろこぶ。そばのたなミたれバ。きんぎんたんと。今じや御治せい。そうらいしが。わか/\ と。こごしかヾめたばゞたちまで悦ぶ。ありさまハげにも。御代なり。徳なり。諸国ははんじやう。ゆつたり/\/\ /\  、金にハかねますせけんハ銭ますそうちもこうちも。いくへんも御治世と岩井とくといた 引

 

ひらがなが多く、文意がよくわからないので、可能な部分を漢字にかえてみました。


徳は神。御満足と。御代も栄え。ましますワン。愛嬌あるゆゑ。あらためて。歳立て替えて改まる。皆も若やぎこめたさげ安売りけるは。真に滅相に賑わいける、京の司は神様の折居の御影。俺は十分。彼は九分。萬安/\ 米安の。日の本にて。正月二日寅の。いつてんに。繁昌まします店開き。商い物を。安売りけるは。真に目出度き御治世でそうらいける、安い/\京の町も安い。買うたる物は何/\ 。大麦小麦豆の安売り。下がりたまへや皆売り切れる皆売り切れる皆売り /\ 皆売り売りやすいと。買うたる物は。悦ぶ。そこを悦ぶ。そばの棚見たれば。金銀たんと。今じや御治世。そうらいしが。わか/\ と。小腰屈めた婆たちまで悦ぶ。有様はげにも。御代なり。徳なり。諸国は繁昌。ゆつたり/\/\ /\  、金には金増す世間は銭増すそうちもこうちも。幾遍も御治世と祝い徳説いた 

 

意味がとれない部分(赤)もいくつかあります。が、内容は単純なので大意はOK。

この「 諸国繁昌御治世萬歳」は、米や麦、豆などが安く売られ、諸国は繁昌し、それは御代の徳、お上の治世のたまものと讃えています。面白くもなんともない代物です。それをわざわざ、『吾妻美屋稀』に載せたのでしょうか?

当時の世相を少し調べてみました。
江戸時代、飢饉などで米価の高騰はしばしば起こりました。しかし、時代を幕末まで広げて俯瞰してみると、200年間にわたって、比較的安定していたとも言えます。というのも、幕府体制が揺らぎ始めると、それまでの物価高騰とは次元の異なる構造的なインフレが庶民を襲うようになります。その最初の兆候が、『吾妻美屋稀』の出版がなされた嘉永4年頃に現れました。嘉永3-4年にかけて、コメの価格が急激に上昇したのです。原因は、幕府の鋳貨法の変更にありました。金銀の含有量を減らし、さらに銅に代わって鉄を使ったりして、多くの貨幣を発行しました。その結果、急激なインフレが起こり、人々は、米をはじめとする物価の急騰に右往左往せねばなりませんでした。


ですから今回の戯れ唄は、単なる安売り賛歌ではなく、米の高騰に音を上げた庶民が、鬱憤を晴らすための浮世萬歳なのです。
タイトル「 諸国繁昌御治世萬歳」には、「しょこくはんじやうありがたきみよまんざい」のルビがふってあります。「 御治世」を「ありがたきみよ」と皮肉っているのですね。
タイトルの下には、当時の萬歳が描かれています。この「 諸国繁昌御治世萬歳」が萬歳師によって実際に演じられたかどうかはわかりませんが、素人でも鼓で囃して面白おかしく唄い舞えそうです。

その後、日米修好通商条約以降は、不平等な交易や金の海外流出により、そして戊辰戦争などによる社会の混乱により、物価は激しく変動し、庶民は時代に翻弄されていきます。今回の「 諸国繁昌御治世萬歳」は、激動の時代を予感させる戯れ唄だったのですね。

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面白古文書『吾妻美屋稀』19.「「浮世風流貝づくし」

2024年04月09日 | 面白古文書

今回の面白古文書も、瓦版仕立ての見立て番付けではなく、物尽くしの戯れ唄です。

主人公は、先回の野菜に代わって、「貝」です。

浮世風流貝づくし

開といぶ文字ハひらくといふ文字にしてひらきハめてたき始まりなりはるははじまる花見とて風にちら/\さくら貝樽をこがして千鳥貝あわびの貝の方思ひおもひは猶もますほ貝ゆうせん染に千草貝これぞ命の花貝とおもかげいつかわすれ貝心のそこをうつせ貝とかくうきよは色貝のあり原中将なり平が三河通の其時に錦貝をハ身にかざり枕貝をバつくされて色貝までもあまさじと片瀬貝にてかきまわり思ひちがゑて赤貝にふみのかず/\おくられじふうふのゆかりもないかしやさてまたちよいとしヾめ貝これにはよもやまさるまじいまだ下こヽろのいたら貝すゞめ貝よりさゑずりてふきたてられしほらの貝三ッのはまにハあこや貝なてしこ貝ハなるまいときやたつ貝をばのミけれバなんなく御代のはまぐり貝口があいたら入ませうちへをかそう/\ /\

 

アッチ方面の貝尽くしなので、貝をピンク(目立たないので燈にしました)色にし、文を適宜漢字に直してみました。


浮世風流貝づくし

開といふ文字は、開くといふ文字にして、開きは目出度き始まりなり。春は始まる花見とて、風にちら/\さくら貝、樽をこがして千鳥貝あわびの貝の片思ひ、思ひは猶ますほ貝。友禅染に千草貝、これぞ命の花貝と、面影いつかわすれ貝、心の底をうつせ貝。とかく浮世は色貝の、在原中将業平が、三河通の其時に、錦貝をば身に飾り、枕貝をばつくされて、色貝までもあまさじと、片瀬貝にて掻きまわり、思ひ違えて赤貝に、文の数々送られじ。夫婦のゆかりもないかしや。さてまたちよいと蜆貝、これにはよもや勝るまじ。いまだ下心の伊多良貝雀貝よりさゑずりて、吹きたてられし法螺の貝、三津の浜にはあこや貝、撫子貝はなるまいと、きやたつ貝をばのみければ、なんなく御代のはまぐり貝、口が開いたら入ませう。知恵をかそう/\ /\。

 

こういう物に私の下手な訳をつけるのは無粋というもの。読者各位で好きなようにお読みください。

「樽をこがして千鳥貝」の樽は酒樽でしょう。「きやたつ貝をばのみければ」は、よくわかりません。きゃたつ貝なる貝がある?「きゃたつ」は、脚の隠語なのでそれらしい貝なのでしょうか。

まあ、七五調の風流戯れ唄ですから、細かい所はアバウトにして、調子をつけて唄ってみてください(^.^)

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面白古文書『吾妻美屋稀』18.「青物盡奉公人請證文 」

2024年04月05日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の18回目です。

今回は、これまでのものとは大きく異なり、見立番付ではなく、野菜尽くしの年期奉公證文(パロディ)です。

 

青物盡奉公人請證文

   青物年季證文之事 
一 此せりと申女、出生ハみかん之國ちんびごほりゆうかうじ村、心松茸せう路成者ゆへ、かうたけきうり様へごぼうかう/\にさんせう仕候所実正也。然る上ハ、うどの三月より芋の三月迄、中年九ねんぽうとあい定め、請取ところてんじつしやうがなり。御取次としてくさつたきんかんたつた五つぼ。だんなめうとにして、二股大根三ッ葉/\に候へ共、ちよつ共そつ共、いも頭様へけし程もごまふりかけ申間鋪候。依而宗旨ハ代ゝ南無妙法れんそう浅草苔三枚くハへ山れんこん寺ぎんなん和尚ニ紛無御座候。青物一札、仍而如件。
  桃栗三年柿八月    奉公人 せり
      茄子ノ吉日  請人 竹の幸右衛門

    大根屋瓜右衛門様

心松茸せう路成者ゆへ<=>心まったく正路なるゆえ
ごほうかう・・ゴボウと御奉公を掛けた
さんせう・・山椒と参上を掛けた 
実正:まちがいないこと、正しいこと 
中年:江戸時代の年季奉公の数え方、正味の年数。
中年九年奉・・・正味9年間の奉公

 

一部に掛け言葉が使われています。意味不明の部分は、単なる言葉遊びでしょう。なんとなく、文意は取れると思います。

野菜(他の食べ物も)を漢字、カタカナに変えてみました。

一 此セリと申女、出生ハ蜜柑之國陳皮(珍美?)郡遊小路村、心松茸松露成者ゆへ香茸胡瓜様へ牛蒡かう/\に山椒仕候所実正也。然る上ハ、ウドの三月よりの三月迄、中年九年奉と相定め、請取トコロテンじつ生姜なり。御取次として腐った金柑たつた五つぼ。旦那夫婦にして、二股大根三ッ葉/\に候へ共、ちよつ共そつ共、芋頭様へ芥子程も胡麻ふりかけ申間鋪候(申すまじくそうろう)。依而(依って)宗旨ハ代ゝ南無妙法蓮草浅草苔三枚加え、山蓮根銀杏和尚ニ紛無御座候(紛れ無く御座そうろう)。青物一札、仍て如件(よってくだんのごとし)。
  桃栗三年八月    奉公人 せり
      茄子ノ吉日  請人 の幸右衛門

    大根右衛門様

野菜などが25,6種類出てきます。

まるで、野菜曼荼羅證文です。

野菜が主人公になったものといえば、伊藤若冲のあの絵が想い起こされます(極最近、若冲の野菜を描いた絵巻『果蔬図巻』が新たに発見され、大きな話題になりました)。

伊藤若冲『果蔬涅槃図』

この絵は、釈迦涅槃図のパロディではありますが、京都錦で野菜を扱う大棚の家督を早々に弟に譲り、絵の道一筋に生きてきた若冲にしてみれば、野菜たちに対して、特別の思い入れがあったことは想像に難くないでしょう。釈迦の代わりに横たわる二股大根を、多くの野菜たちが取り囲んでいます。その数は、80種以上にものぼると言われています。注目されるのは、それぞれの野菜が、存在感をもって描かれ、扱い方に軽重があまり感じられないことです。まさに、野菜曼荼羅の世界と言っていいでしょう。

今回の『吾妻美屋稀』「青物盡奉公人請證文」は、若冲の『果蔬涅槃図』から、ほぼ100年後に出された面白瓦版です。「奉公人請證文」の形をとった言葉の野菜曼荼羅と言えます。この瓦版が出された幕末期は、若冲の頃より、いろいろな野菜が一般の人々にずっと馴染み深くなっていたはずです。若冲の『果蔬涅槃図』では、野菜の描き方に軽重はあまりありません。今回の「青物盡奉公人請證文」では、「せり」が中心の文面ではありますが、青物たちはほぼ同格。それらが「奉公人請證文」のなかに散りばめられています。それは、一種のリズムを生み出すのではないでしょうか。他愛もない言葉遊びに過ぎない「請證文」文を、多くの人が面白がって声にだして読んだことでしょう。ひょっとしたら、抑揚や節をつけて調子よく唄い、さらに、手足も動かして、楽しんだのかも知れません。幕末のヒップホップですね。

 

 

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面白古文書『吾妻美屋稀』17.「しんはん 生類せり合問答見立て 三編」

2024年04月03日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の17回目、「しんはん 生類せり合問答見立て 三編」です。

生き物をめぐって、競り合います。横に二つずつが対になっています。

4分割して載せます。

頓智、ユーモア、洒落をきかせてあり、現代の我々には謎解きが難しいです。

この面白本が出された幕末期の人々にとっても、すぐに解けるものではなかったと思います。中国の故事や逸話に由来するものなど、当時の人々の知識や関心の有り様がうかがえて興味深いです。

  しんはん生類せり合問答見立 三編

 

・つよい事馬ハくらをバ持てゆく(強い事、馬は鞍(蔵)を持ちて行く)
・御所車うしでなけれバ寄つけぬ(御所車、牛でなければ寄り付けぬ)


・手習ひもまだせぬものをいろは鳥(手習いも、まだせぬものをいろは鳥) 【いろはうた】手習いのはじめに仮名を覚えるため,異なった音の仮名を集めて歌としたもの。
・のたくつてミヽずのもじハミとむない(のたくって、ミミズの文字はみっともない)


・けじ/\が髪をなめてはげにする(ゲジゲジが、髪をなめて禿にする)・・・「ゲジゲジに頭を舐められると禿る」という言い伝えがある。
・こうもりの黒焼つけたらはへるなり(コウモリの、黒焼き付けたら生えるなり) ・・コウモリの黒焼は、婦人病や育毛に効果があると言われてきた。


・がハたらのすがたをたれもミづにすむ(ガワタラの姿を誰も見ずに済む)【ガワタラ】<=かわたろう、河童 
・くちなハの足見た人ハ福になる(くちなわの足見た人は福になる) 【くちなわ】蛇

・片ことのやぶ鶯ハいなかもの(片言の、藪鶯は田舎者)
【藪鶯】藪で鳴く鶯。転じて、都会風の言葉が使えない田舎者。
・はなにこへかヽるあひるハ奥州もの(鼻に声、かかるアヒルは奥州者)【奥州者】東北出身の人間を見下した言い方。


・くちなハのはかゆできめをよく直し(くちなわの、糜で肌理をよく直し 【くちなわ】蛇、【糜(はかゆ)】うすい粥。
・鶯のふんで〇〇の手をあらへ(鶯の糞で〇〇の手を洗え)・・・鶯の糞で手や顔を洗うと、美肌になると言われていた。


・夏の日にからすの行水手はしろい(夏の日に烏の行水手は白い) 【カラスの行水】短時間の入浴
・庭とりのさかるに長床なかりけり(鶏のさかるに長床なかりけり・・・鶏の交尾は数秒で終わる。


・うぐろもち地中ばかりで外を見ず 【うぐろもち】もぐら
・首にくハん入たるさるハふ自由なり(首に環、入れたる猿は不自由なり)


・のどに骨たちたら象牙の粉を呑せ(喉に骨、たちたら象牙の粉呑ませ)・・喉に魚の骨が刺さった時は、象牙の箸で喉を擦るか、象牙の粉を呑ますと良いとされた。
・うの咽にほねの立たるためしなし(鵜の喉に、骨のたちたるためし無し)


・ぶちなくて馬ハたいこを打はやし(鞭なくて、馬は太鼓を打ちはやし)・・・太鼓には馬皮を張る。 【ぶち】むち
・はらつヾミうちてたんしむ狸見よ(腹鼓、打ちて楽しむ狸見よ)

・きぬふとん敷て寝おきハちんの徳(絹布団、敷いて寝起きは狆の徳)・・狆は上流家庭で飼われていた。
・殿さまの手にすへらるヽ鷹のとく(殿様の手に据えらるる鷹の徳(得))


・狼ハ人をおくれど◎とらず(狼は、人を送れど銭取らず) 【◎(内側は▢)】銭の記号。・・・その昔、森の中を旅人が通るとき、狼は人を送るように後をついてきた、という話がある。
・ことづけた鳫の玉づさ駄ちんなし(託けた、鳫の玉章(づさ)駄賃無し 【鳫の玉章】鳫の使い、雁書。匈奴に捕らえられた前漢の蘇武が、手紙を雁の足に結びつけて放ったという故事(蘇武伝)により、「便り」を表す。


・とまる蚊ハ手でたヽかれて即死する(とまる蚊は、手で叩かれて即死する)
・かげろふハゆふべ生れてあしたしす(蜻蛉は、夕べ生れて明日死す)


・おさへてものミハ中 /\手に合ハぬ(押さえても、蚤は中々手に合わぬ) 
・ひやうたんで鯰おさへりやぬけあるく(瓢箪で、鯰押さえりゃ抜け歩く)

・ぶさいくなふぐの横とび見にくいぞ(ブサイクな、河豚の横飛び醜いぞ) 【横飛び】立泳ぎ
・いのころハ屋根に上られたざまを見よ(犬児は、屋根に上られた様を見よ)


・白いきバ出しておこる猿のくせ(白い牙、出して怒る猿のクセ)
・まつ黒になつてぞいかハはら立る(真っ黒に、なってぞイカは腹立てる) 


・虎なくバ鬼がこまるぞふんどしに(虎なくば、鬼が困るぞ褌に)
・さぞむかでたびはく事にこまるべし(さぞムカデ、足袋はく事に困るべし)


・むこ足のミじかひ兎ちんばなり(向足の短い兎ちんばなり)【手前脚、向こう脚】最初に地を蹴る手前足に対して、着地する足が向こう脚。 ・・・ウサギは前足(手前脚)が長く、後ろ足(向こう脚)は短い。
・こやの池の鮒ハふびんよかんち也(昆陽の池の鮒は不憫よがんち也) 【がんち】片目が不自由なこと、【昆陽池の鮒】兵庫県の昆陽池には、片目の鮒がすんでいるという言い伝えがある。


・くり虫のやうなと人にほめらるヽ(栗虫の様なと人に褒めらるる) 【栗虫】クリシギゾウムシの幼虫。体長1㎝。栗の実を食べ、乳白色でぷっくりしているので、色白で丸々とした幼児にたとえられる。
・うつくしさひかりかヽやく玉むしよ(美しさ光輝く玉虫よ)


・うぐろもちの手ハ銭がさの薬なり(うぐらもちの手は、銭がさの薬なり)  【うぐろもち】モグラ 【銭がさ】銭瘡。形が銭のように丸いタムシ。
・ほれ薬いもりの黒やきかけて見よ(惚れ薬、イモリの黒焼きかけてみよ) 【イモリの黒焼き】媚薬の一種。イモリの黒焼きを女の子に降りかけると自分に惚れてくれると言い伝えられている。

 

 

 

 

 

 

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面白古文書『吾妻美屋稀』16.「しんはん 生類せり合問答見立て ニ編」(改訂版)

2024年04月01日 | 面白古文書

面白古文書『吾妻美屋稀』の16回目、「しんはん 生類せり合問答見立て ニ編」です。

生き物をめぐって、競り合います。横に二つずつが対になっています。

4分割して載せます。

頓智、ユーモア、洒落をきかせてあるはずですが、現代の我々には謎解きが難しいです。

今回は、(うーん、意味がわからん)があります。読者諸氏のサジェスチョンをお願いします。

「しんはん 生類せり合問答見立 ニ編」

 

・神主にあらで鮭とハ是いかに・・・鮭<=>社家
・鳥の名に仏法僧といふごとし


・ぬすミするゆだんのならぬひる鳶(盗みする油断のならぬ昼鳶)【昼鳶】人家に忍び込むこそどろ。
・釜でにるかいこのむしハ五右衛門よ(釜で煮る蚕の虫は五右衛門よ)


・たわけやらうなぎハ人のあなつるぞ(たわけ野郎ウナギは人の穴釣るぞ)   ・・・ウナギは生殖器を想起させるので、夫婦和合,子授けの信仰と結びつき、ウナギが交尾している絵馬も奉納された。
・できものヽ名もいやらしきねぶとざこ(できものの名も嫌らしき根太雑魚)  【根太】もも・尻など、脂肪の多い部分に多くできる腫れもの。【根太雑魚】天竺鯛  


・手習ひのはじめハいの字かながしら(手習いの始めはいの字仮名頭)・・仮名頭とカナガシラ(ホウボウ科の海産魚)とを掛けた。
・道風ののう書にしたハかいるなり(道風の能書にしたは蛙なり)

・おし鳥のつるぎ羽あれどきれもせず(鴛鴦の剣羽あれど切れもせず)   【剣羽】鴛鴦などの尾の両わきに立つ、銀杏の葉の形をした小羽。
・おかしさよさびてきたない赤いわし(おかしさよ錆びて汚い赤鰯) 【赤鰯】干したイワシ。赤くさびたなまくら刀の代名詞


・女子ならおにも十八じやもはたち(女子なら鬼も十八蛇も二十)
・人ならば男ざかりや四十がら(人ならば男盛りや四十雀) ・・・「四十才から」と鳥の「シジュウカラ(四十雀)」を掛けた。


・でん〝/\虫家もちありく力あり(デンデン虫家持ち歩く力有り)
・ぶどうをバこのむりすとててニ合ず(葡萄をば好むリスとて手に合わず) 【手に合わず】もて余す


・とり貝にはしらがふとく立てあり(鳥貝に柱が太く立ててあり)
・どじやうにハ閂(かんぬき)あるを知らざるか
    閂: 鰌(どじょう)を丸のままに煮たもの。


・くハほうをバふかハよく寝て待てゐる(果報をば鱶はよく寝て待っている) 【鱶(フカ)】いびきをかいてよく眠る人。 ・・・魚のフカとふか(寝る人)を掛けた
・待ずとももつて生れた小判魚    【コバンザメ】サメ類などの大型動物の体に吸着して、食べ残しや寄生虫を食す肴。力の強い者の近くにいて、そのおこぼれにあずかる者のたとえ。


・くらがりでふました犬のくそたれめ(暗がりで踏ました犬の糞垂れめ) 
・くさいのをへとも思うハぬいたちづら(臭いのを屁とも思わぬイタチ面)

・おそろしき夢なら獏がくふてやろ(恐ろしき夢なら獏ば喰ふてやろ)
・くまのゐではらのいたいハ直るなり(熊の胃で腹の痛いは直るなり)


・かつたいにひとしき鮭の生ぐさり
【かったい】やまとことばで、乞食のこと。
・このしろもやけバ死人と同じかざ(コノシロも焼けば死人と同じかざ) 【かざ】匂い ・・・大衆魚、コノシロを焼くと、死人を焼く臭いがするとされた。また、「この城を焼く」に通じるので、武士からは嫌われた。


・すつぽんハきんかん店を出すがよい

  ⇊ クリンちゃんのコメントを参考にして改訂

・すっぽんハきんかん店を出すがよい(スッポンはきんかん店を出すが良い)
・・・・・すっぽんの卵は、10円玉ほどの大きさ、黄色く丸いので「きんかん」と呼ばれている(金柑に似ているから)。鶏(廃鶏)の卵巣や卵管内にある未熟な卵も、同様に、「きんかん」と呼ばれ、食される。すっぽんのきんかんは稀少だが、鶏のきんかんはかなり一般的なので、当時、これらを扱う店(きんかん店)があったのかもしれない。
なお、幕末の面白瓦版『酒肴むりもんだふ』には、「やり過ごすと出すを八百屋店(みせ)とはいかに、すっぽんは果物(なりもの)ならねどきんかんといふがごとし」とあります。この場合、八百屋店(みせ)を出すとは、八百屋を出店するのではなく、反吐を出すの俗語なので、今回の、「きんかん店(みせ)を出す」も、何かの隠語かも知れない。
・猫あしのぜんでお客をするがよい(猫脚の膳でお客をするがよい)


・きり〝/\す何がふそくで舌つヾミ(蟋蟀、何が不足で舌鼓)  【蟋蟀】古くはキリギリス、現在ではコオロギを指す。この面白古文書が書かれた幕末には、鳴く虫全般を指していたと思われる。【舌鼓】舌打ち。 ・・・・馬飼が馬を追う時に舌打ちをする音、スイスイッチョから、虫の鳴き声を舌打ちと表現した。元々、いまいましい時の舌打ちとは関係ないが、ここでは、キリギリス<=>舌打ち<=>腹立ちと繋げている。
・こハいかに何はらだちや平家がに(こは如何に、何腹立ちや平家蟹) ・・・ヘイケガニの甲の模様は人間の怒りや苦悶に満ちたの表情に似ている。

〇これより十二支もんどう(これより十二支問答)
・まめねずミ千べんまひのげいもする(豆鼠千遍舞の芸もする)
・田がへしハ牛でなけれバ出来ぬもの(田返しは、牛でなければ出来ぬもの)


・大将のたちのさやこそとらの皮(大将の太刀の鞘こそ虎の皮)
・ちさけれどうさぎハ付きの外にすむ(小さけれど、兎は月の外に住む)


・天上する龍のいきほひ雲をよぶ(天上する龍の勢い雲をよぶ)
・御神事ハ白口なハにかぎるべし(御神事は、白口縄にかぎるべし) 【くちなわ】蛇、【白口縄】楮(こうぞ)の皮で作った綱。 ・・・「しろくちなわ」で、白蛇と白口縄を掛けている。


・馬の皮たいこはるのハ日本一チ(馬の皮、太鼓張るのは日本一)
・たひよりも羊のはまやきからで一チ(鯛よりも、羊の浜焼き唐で一) ・・・海洋国である日本人は鯛を尊ぶが、牧畜国家、中国では鯛は好まれない。代わりに、羊を焼いてよく食べる。


・人のまね自由にするハさるの徳(人の真似、自由にするは猿の徳)
・にハ鳥ハときをたげへずつくるなり(鶏は、時を違えず作るなり) 【時を作る】鶏が鳴いて夜明けを知らせる。


・三かんで王のくらゐをもった犬(三韓で王の位をもった犬)・・・・日本書紀、神功皇后の三韓(高句麗、新羅、百済)征伐神話は、中世以降、人々の間に神功伝説として甦り、朝鮮蔑視(劣等感の裏返し)の風潮が蔓延した。その中の一つに、三韓征伐の際、「(新羅王、高句麗王は)日本ノ犬也」と岩に刻んだという言い伝えがある。
・はらいたのくすりとなるハ猪のきも(腹痛の薬となるは猪の肝)

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