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日記と雑学、それからシトロエンC5について。
Just About C5



基本的にはDS以来変わっていない・・。つまりシトロエンDSがいかに並外れた車であったか。改めて開発陣の鬼気迫る才能と努力には本当に敬意を表したい。しかも現在に至るまで、その素晴らしさを本当に理解した人はそう多くはないだろう。まさに天才のなせる技である。

機構的に理解することは多少の想像力が必要かもしれないし、DSではサスペンション以外も全て油圧回路でコントロールしたことでハードウェアとしては伝説的に複雑になってしまったが(これはこれで別な意味で凄いこと)、サスペンションに限って言えばある意味で非常にシンプルなシステムである。しかも達成した成果は非常に大きく、近年、電子コントロール化されたデバイスによって他社がようやく到達した体感性能のレベルを当時既に一部具現化していた。これは完調のDSに乗ってみるとよくわかる(こちらは何度か経験あります)。

さて、ハイドラクティブだが、これも素晴らしい着想である。CXの後継車を開発する段階で、シトロエン技術陣としては電子制御で何が出来るか、多様な可能性を模索したことは想像に難くない(Acitivaもその成果の1つ)。しかし彼らが次世代技術として選択したのは、フロントに一つ、リアにも一つスフィアを追加することだった。そして、それを油圧回路から条件に応じて断続する。ハードウェアとして基本的にはこれだけの改良である(この他にロール速度を規制するダンパーが左右をつなぐ流路に加わる)。DS以来のサスペンションには機械的信頼性・生産性の向上以外、さしたる原理的改良の余地はない。とそう考えていたかのようだ。これはその通りだとも言えるし、またそういう信念に小気味良いプライドを感じとることもできる。

私が考えるところでは、ハイドラクティブで重要なのは、ソフトウェアとセンサー技術の方である。今回のC5のマイナーチェンジでは、おそらくサスペンションのハードウェアはほとんど変更せずに大幅に乗り味を変えてきた。それは今のところ歓迎されているようだが、これを可能にしているのはシトロエン独特のハイドラクティブのシステムにある。

つまり、追加スフィアが1つだけで済むのは左右関連懸架だからであり、バルブによって制御されるのはガス容量だけではなく、サスペンションの左右の関連自体も断続される。しかも「瞬時に」である。バネ定数だけでなくダンピングの強さ、左右関連と左右独立、全く違う「2台分の」サスペンションシステムが瞬時に、必要に応じて切り替わるのである。たった1つのバルブのコントロールだけで(正確に言うと前後2つ)。まったく、うまいやり方を考えたものである。

従って、問題は「どんな時に」「どのくらいの長さ」それを切り替えるのか、だけである。それを判断するために、車両の各部から色々な情報を入手する。そしてそれを解析し、指令を出す。これはサスペンション技術における、非常に効率的なアナログとデジタルの融合=ハイブリッド・システムである。

ハイドラクティブ1から2への進化はセンサー技術の高速化と精緻化、そして解析ソフトの能力向上である。さらに3においては油圧制御自体電子化され、さらに電子コントロール化が進んだ。つまりソフトの設定一つで乗り心地もある程度自在に変えることが出来るのだろう。私は旧C5→新C5への変化は、主にソフトウェアの変更によって行われたと考えている。ただし、走行性能そのものは旧C5の方があるいは上かもしれない。旧C5の乗り味はハイドラ3によって手に入れた能力を目一杯、性能向上に振った結果だと考える。逆に新C5は「チカラを抜いた」設定にしているのではないか。

このあたりは何の情報もないのでもはや個人的想像に過ぎない。しかしC6の「16通りのサス設定」という断片的な情報を耳にすると、あながち外れではないように思う。C6ではたぶん4輪それぞれのダンピング制御を可変できるとのことなので、さらに進んだセンサー&ソフトウェア技術と相俟って、さぞかし素晴らしい走りをソフトにも、ハードにも堪能できる車に仕上がっていることを期待したい。

・・BOSEのサスペンションシステムも発表されたことだし、そろそろ車もパワーや燃費ではなくサスペンション性能も競う時代に入ってもいいのではないか。逆に、サスペンションのスペックを言い表わす適当な数値が(エンジンにおけるパワー、トルク、出力特性とか)出てくれば分かりやすくなるかもしれない。


<後記>

姿勢変化の少なさを言い表わす数値や評価指標は、もしかすると軍事用語(船や戦車、飛行機などは動きながら相手を正確に狙い打つ必要がある)では既に存在している可能性がある。余談だが、ハイドロサス採用の国産車として74式戦車がある。これは電子制御ではないが、地形に応じて被弾リスクを最小限にするために車高および車両姿勢を前後左右どちらにも傾けられるようだ。さらに余談だが、90式戦車では姿勢制御は前後傾のみとなる一方で電子制御化された。もちろん、乗り心地を良くするのが主目的ではなく、これは「行進間射撃」を可能にするため、つまり被弾しないよう頻繁に動きながら弾を撃ち敵に命中させる(!)目的である。電子制御化された油気圧サスと独自に開発した射撃管制装置の組み合わせで可能になった技術で、これが建て前でなく「本当に」できるのはこの90式くらいのようで、合同演習でその能力を目の当たりにした西側将校を戦慄させた(らしい)。



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実はハイドロ・シトロエンも関連懸架である。ただし前後ではなく左右前輪、および左右後輪をそれぞれ油圧を通じて関連させている。これはダンピングにおいてのみならず、バネに至っては事実上、左右で共有している。(実際、ハイドラクティブではバネ定数を変えるための追加スフィアは1つしかない。ちなみにハイドロシトロエンでは前後は関連しない。)

このところ改めてハイドロ探究を続ける一方、前述のREASシステムの詳細を読み返し、実際はこの「左右の関連懸架」が、ハイドロ・シトロエンの「個性の源」となるキーワードのひとつではないかと考えるに至った。ちなみに左右関連懸架は調べる限り採用車種がなく、現状はハイドロ・シトロエンのみである。

路面の不規則なうねりに対して車体を水平に保つためには、この左右の関連懸架は極めて有効である。片側の足が縮んだ分、油圧に押されて反対側の足が伸びようとするからである。しかもシトロエンのシステムだとこの動きに関してはダンピングはさほどかからない。結果、「湖水に浮いたような(ある意味本当に浮いていると言える)」ローリングの少ないフラットな乗り味が得られる。

スフィア内蔵のオリフィスによるダンピングがかかるのは、加速/減速時のほか左右同時にプラス/マイナスの荷重が生じるときである。カーブはこのシステムの弱点で、このままだとロールに対して何の抵抗力も持たない。そこで、強靭なスタビライザーバーを備えている。これらの特徴から、鋭い段差を乗り越えるときには、通常時に比べ意外な程のショックを感じることになる。XantiaSX,XMのハイドロモデルまではスフィアの仕様やサス形式の違いを除くと、仕組みとしてはDS以来基本的には変わっていない。

つづく

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97年にヤマハはREASと呼ばれるシステムを発表した。なぜヤマハ、と思われるかも知れないが、ここには、車体剛性も含め、車のサスペンション技術、及びシトロエンのハイドロサス/ハイドラクティブを理解する上で、改めて参考になる情報が含まれている。

以下、関連情報をまとめておく。

開発者の弁
ヤマハ発動機のプレスリリース ※発表当時(97年)
技術発表論文 ※REAS及び発展形のXーREASについて
→「自動車シャシー技術の開発 X-REAS/パフォーマンスダンパー … 沢井誠二/坂井浩二 (印刷用:1100KB)」をダウンロードしてご覧下さい。

このシステムはコンベンショナルなバネサス車に特殊なダンピング機構を付加することで、車両姿勢を安定させ、走行安定性、操縦性、乗り心地などにおいて、必ずしも数値に現れない走行の「質」の向上を狙ったものである。実際にはトヨタ車(スープラやハイラックス・サーフ)において一部に採用されている。

この技術のポイントは、ダンピングにおける左右の相互作用であり、それを極めてシンプルに実現していることである。実際の作動図と解説を見てみると、ダンピング機能に的を絞ってはいるものの、構成としてはシトロエンのハイドラクティブサスに驚くほど似ている。

以前もC6の走りについて考察したことがあるが、その後も結局、ハイドロ・シトロエン独特のフラットなフィールは、何によって実現されているのか?という疑問が頭から離れなかった。そこで改めてDSやCXのハイドロや、XM以降のハイドラクティブに遡って調べてみた。すると、他の油気圧サスペンションシステムやアクティブサスにはないシトロエン独特の機構上の特徴をひとつ見つけることができた。それは、「関連懸架」である。

「関連懸架」というと2CVが有名である。2CVでは前後のサスが関連していて、小さな軽い車体でもピッチングを抑えることで極めてフラットな乗り心地を得ている。(乗ったことがないので受け売りですが)

つづく

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