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日記と雑学、それからシトロエンC5について。
Just About C5



多少、哲学的になるが普段から思っていることを書く。
(ご多忙な方は申し訳ないのでどうぞ読み飛ばして下さい。)

長い低迷の時代を経て、シトロエンはここのところ元気だ。日本で今後どのようになっていくかはまだ定かではないが、少なくとも欧州においては魅力的な製品を次々に投入している。その原動力の一つが品質管理や顧客志向を心得たチーフ・デザイナー(彼は狭義の「外観デザイン」だけに責任を持っているわけではない)Jean Pierre Ploue氏の存在によるところが大きいが、それだけではない。私は、シトロエンのDNAもしくは伝統が、ここにきて偶然、世の中の流れとマッチしたということがその底流にあるのではないかと思う。

例えば、乗り心地。クルマをはかるあらゆる基準の中で、これほど曖昧なまま語り尽くされて来たものはない。エンジン性能、旋回性能、静粛性、燃費、スピード・・こうしたものは全て絶対的にも相対的にも測定/比較が可能であり、しかも比較的容易でもある。しかし乗り心地はその定義からして曖昧であり、デザインと同じく主観に依存する部分が大きいが、デザインよりも客観的分析が難しく、表現しがたい特徴がある。乗り心地を言い表すのは難しく、相対比較となるとなおさらだ。

ある意味で、日常域でのクルマのサスペンション性能というのは、売る=顧客に対しアピールする立場からすると、料理がしにくい厄介なパラメーターだと言える。しかし、考えてみると我々はクルマに乗った瞬間からクルマを降りる瞬間まで路面とコンタクトしつづけているのであり、一方でエンジン性能やブレーキ性能、旋回性能など客観データ化しやすいものほど実際にはそれを発揮する状況が得にくいというジレンマがある。

ここまでクルマの性能が向上すると、結果的にそうした向上分の性能がすべてマージンとしての役回り、つまり期せずして「付加価値化」してしまう。かつて大衆車と呼ばれたクラスにおいてさえ近年それが顕著である。もはや、使いこなせる性能ではないのだ。いや、性能を発揮できる場が与えられていないといった方が適切か。

そうなると、シトロエンの志向してきた価値、「移動そのものを快適にすること」「限界性能ではなく感覚性能」、人によって言葉の解釈にずれはあるかもしれないが、おおよそこうしたクルマづくりの価値観が逆に新鮮なものとしてアピールできる時代になってきている、といえるのではないか。

もっと分かりやすく表現すると、「路面とのコンタクトを快感に変えること」それによって「移動から苦痛を取り除く」。これがハイドロシトロエンの現代的価値であるということである。私は、これは本来自由を拡張するはずだった自動車という発明品が皮肉にも、爆発的な普及と改善によって獲得した性能に反比例してどんどん不自由な乗り物になって来ている中で、個人の所有物としてクルマが人に提供できる価値の核心を射抜いていると思う。

だから、新C5がディテールにおいてもスキのない商品となり、乗り心地を麻薬的な方向へ振ったことは見識であると考える。そのときはデザイナー云々の話までは知らなかったのだが、プロダクトに接して、これは「深い商品理解の伴った軌道修正が行われている」と感じたのだ。旧C5も決して悪いクルマではなかった。だが、ハイドロ・シトロエンとしては乗り心地に差別化が不十分だったことが決定的に販売を低迷させたと思う。ただ「乗り心地の良いクルマ」ではなく、「路面とのコンタクトが快感になるクルマ」でなければならなかったのだ。「デザイン」云々はそれに比べれば、極論すれば2の次だろう。

加えて言うと、ハイドロ・シトロエン第1期(DS)では、シトロエンはこうしたことを自覚していなかっただろう。彼らは単に「これがクルマとして最善のメカニズムであり、今後クルマはこうなっていくべきである」ぐらいに強気に考えていたに違いない。しかしそのメカニズムが真の意味で普及しスタンダードとなることはなかった。歴史がハイドロに与えたのは、「普遍」ではなく「個性」であった。しかし現代のシトロエンはプジョー傘下にあって「影」のような存在となり、その「個性」を十分にアピールするチャンスを長い間掴むことができなかった。なぜなら、ハイドロは普遍となり得なかったばかりではなく、経営を圧迫する要因になっていたからだ。

それが今日、コンピューターなど制御技術革新、生産技術の向上など諸々の変化によって、ハイドロを電子化/最適化しコストを削減することで、新たなチャンスが生まれてきた。シトロエンはハイドロを捨てなかった。それは技術という背景だけではない。おそらく、シトロエンがこの先を少しでも長く生き残るために必要な個性、武器として新たな位置付けと投資が行われて可能になったことだと思う。C6にハイドロが採用されていることは、しばらくはその戦略を継続する意志を表している。C4=25万台、C5=12万台。これはPSAの05年度販売目標数字だが、C6はおそらく初年度3か月で千台に達しないだろう。しかしそれは607でも全く歯が立たなかったエグゼクティブ市場への、シトロエンとしての小さな挑戦だ。




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ようやくC6のまとまった画像が公開されました。
CITROENETで見ることができます。

エクステリア、インテリアともディテールはとても奇麗なクルマだと思います。走りもダブルウィッシュボーンのフロントサス(ついに復活!)、リアはマルチリンクで、可変ダンピングシステムと相俟ってどのような洗練された走りを生み出すのか、興味あるところです。時間はかかるかも知れませんが、このクルマのよさはやがて一定の理解を得られるようになると思います。



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